間章 生徒会長 神楽坂刹那④　作：はにわ

ーー透矢に背を向け、校舎へ戻ろうとする刹那の正面には、未だに膝を付いたままの凌斗の姿。
よほど敗北したのがショックだったのだろうか。

しかしそんな凌斗の前で止まった刹那は、蔑むような目で見下ろした。

「炎魅子の声が聞こえなかったの？
いつまでそうしているつもりかしら」

「か、会長・・・」

「邪魔よ・・・」

自らの道を塞ぐものに対して不愉快を露にし、眉を寄せ細目で睨み付ける刹那。
凌斗たちの取り巻きたちは、怯えるように道を空け、その内の一人は凌斗の身体を抱えて、何とか彼も移動させる。

すると刹那は息を一つ吐き、澄ました顔でその道を通り抜けた。

「か、神楽坂会長！
次期、『生徒会戦』であなたに挑むのは俺だ。
今回のようなデュエルは二度としない！」

せっかく身体を抱えてくれていた取り巻きを振り払い、刹那の背後に立った凌斗は、去り行く背中にそんな言葉を浴びせる。
だが刹那の足は止まらない。
代わりに足を止めたのは刹那の横を歩く炎魅子だった。

「ーー流石、あまり調子に乗るんじゃないよ。
ブルートップとか、刹那に挑むとか自分の実力ってもんを過信してるんじゃないのかい？」

「お、俺は、ブルートップの成績だっ！
将来、このアカデミアを背負っていくデュエリストは俺しかーー」

「それはどうかねぇ・・・あたしはあっちの少年の方が見込みありそうと睨んだけど？」

炎魅子がふと凌斗の向こう側にいる透矢に視線を移す。
振り向かずとも誰を見ているかわかった凌斗は更に口調を荒げていった。

「ば、ばかな！
あんな転入生の、それもたまたまカードの引きで勝っただけのレッドの奴がーー」

「あっはっはっはっ！」

凌斗が声を飛ばすさなか、突然笑いだす炎魅子。

「笑わせんじゃないよ。
たまたま、とか、引き運で負けた、とかそんなこと言ってる内は刹那は当然、あたしたち『生徒会四天王』にですら一勝も出来ないね」

「く・・・っ、なんだと！」

「なんなら今、やってみるかい？
会長・刹那に挑むんなら、まずは副会長のあたしを倒さなくっちゃね」

「ぐ・・・っ」

絶対的な自信からくる炎魅子の存在感に押される凌斗。
普段の彼なら、こんなことを言われれば意地にかけても即座にデュエルに応じただろう。

だがそれが出来ない。
会長・刹那は元より、その側近である紅月炎魅子の実力もこのアカデミアでは知らない者はいない。

だがここでデュエルに行けなかった時点で、既に凌斗は気合いの面で負けていた。

「ーー炎魅子、下らない挑発はよしなさい。
行きましょう？」

「あいよ。
ったく、何だよ・・・意外とつまらない奴だったんだね、流石」

デュエルにはならなかったが、勝ち誇るように踵を返した炎魅子。
もはや凌斗に彼女たちの足を止めるような声を発することは出来なかった。
だが抑えられない怒りはある。
その怒りを凌斗は透矢に向けた。

「おい、お前！
このままで済むと思うなよ！
次は必ず俺がお前を叩き潰してやる！」

自らの悔しさをぶつけられた透矢だったが、特に気圧される様子はない。

「ああ、いいぜ！
お前みたいな強い奴だったら大歓迎だ！」

「ちっ、調子に乗りやがって・・・。
行くぞ！」

怒り・悔しさをぶつけた凌斗に対して、明るい調子で言葉を返した透矢。
友好的とも言える意志を、素直に受け止められるはずもない凌斗は、取り巻きを率いて、校舎へと向かうのだった。

「ーーさて、私たちも行きましょう。
あなたは早く教室へ行って授業の支度をなさい」

「あ、はい・・・」

地影が透矢に促しながら、更に千鶴にも声をかける。
千鶴は素直に返しつつも、透矢を見る。

「あ、あの透矢お兄ちゃん。
ごめんなさい、私のせいでお兄ちゃんに迷惑かけちゃって」

「何だよ、迷惑だなんて思ってないぜ？
むしろそのお陰で初日から色んな人と話が出来たしな」

「でも、あの流石って人に目を付けられたら・・・」

「心配すんなって。
それよりもまた何かあったらすぐに俺に言えよな。
たとえ授業中だろうがなんだろうが、すぐに駆けつけてやるからさ」

肩をぽんぽんと叩いてくる透矢に、千鶴はややあって小さく笑った。

「お兄ちゃん・・・変わってないね」

「へ？そうか？」

「うん・・・なんか安心した」

千鶴こと鳴瀬 千鶴（なるせ ちづる）。
お兄ちゃんと慕う透矢と数年来の再会を果たし、そんな彼が昔のままであるということに、嬉しそうに微笑んだ。

「それじゃお兄ちゃん、また・・・」

「おう、またな」

ややおぼつかない足取りで駆けていく千鶴を、透矢は本当の妹を見遣るような温かい目で見送るのだった。

「それじゃ、書記さん！
職員室までよろしくお願いしまっす」

「あの、せっかく自己紹介したのですから名前で呼んでください。
同学年ですから『さん』もいりませんよ」

「そうか？
んじゃ、朝霧！
そういや、朝霧も生徒会なんだよな
？」

「ええ」

「てことは、デュエルも強いってことか？」

「なぜそう思うんですか？」

「ほら、会長さんも副会長さんも強い、って話じゃん？
てことは、生徒会のメンバーって全員強いのかな、って！」

「推理としては安易ですが・・・一応、生徒会のメンバーは、刹那さんを始め、一目置かれているのは確かなようです」

「やっぱりそうじゃん！
なぁなぁ、朝霧も今度、俺とデュエらないか？」

そこまで話して地影は呆れたように頭を抱える。

「・・・あなたは、まさか会う人会う人にデュエルをふっかけるんですか？」

「え？そんなことないけど・・・でもほら、少なくとも俺も朝霧もさ、同じゲームを愛する人なわけじゃん？」

「愛す・・・ま、まぁ確かにそうですが。
出会ったばかりの異性に対して、いきなりデュエル、というのはーー」

「悪いかな？」

「・・・いえ、私の頭が固いだけでしょう」

何かを諦めたかのような地影。
透矢は不思議そうにそんな地影を見ている。

「と、とにかく、早く職員室に行きましょう。
もうすぐ予鈴が鳴ります」

「オッケー。
そういえば、朝霧？」

「なんですか？」

「何で敬語なの？
俺たち、同学年だろ？」

「これは私の性分なので。
お気になさらず」

「そうなのか？
まぁ、別にいいけど・・・」

先に歩き出した地影を追って、透矢も校舎の中へと入っていくのだった。