１sｔデュエル トライ・フォース！⑦　作：はにわ

　
「え、ええい！
何度同じ事を言わせれば気がすむ！
そんな雑魚モンスターを何枚並べても、俺のポイズン・リザードは倒せんぞ！」

凌斗が吠える。
まるで内に膨れ上がる不安を消そうとするかのように。

「は、はぁん、そ、そうか！
雑魚モンスターを並べて壁にするつもりか！
む、無駄だ！
そんなん壁ごときでは、次のターン俺の攻撃を防ぐことはーー」

「だからさぁ、慌てんなって。
俺のコンボはまだ終わってないぜ？」

透矢が少し呆れたように肩をすくめる。
そう、透矢は特にターン終了の宣言などしていないから、まだ透矢のターンは続く。

「俺の三騎士モンスターはな、ある歴戦の勇者の力を３つに分けた姿なんだ。
つまり普段は力を抑えてるから、単体じゃ力を発揮できない」

「な、何を言ってる・・・？」

「だがこうして３人が揃った時、その力を１つに束ねて、真の力を発揮する！
歴戦の勇者と言われたその力を！」

「３人の力を１つにーーだと？」

「さぁ、轟炎の剣！
その力を・・・心を１つに束ねるんだ！」

遂にその時はきた。
揃った３人の力を束ねるその時が。

透矢の掛け声を合図に、同じ名を持つ戦士３人がそれに応えるように同時に頷いた。

そしてそれぞれが持つ剣を空高く掲げると、その切っ先を一点に交差させる。

それに合わせるように透矢もまた、右手を空に向けて大きく伸ばした。

「トライ・フォース・ユニオン、フォーメーション・“ドライ”！」

それが何かの発動を告げるための言葉なのか、天に向かって透矢が叫ぶと、
剣を合わせた３人の剣士を、地面から噴き出すマグマのような赤い光の柱が呑み込んだ。

ソリッド・ビジョンによる演出とはいえ、とてつもないことか起ころうとしているのはその場にいた誰もが察し、そしてただ茫然と見守るしかない。

場の支配者は透矢。
地面から天空に伸びる赤い光に手をかざすと、彼は『それ』を呼び覚ました。

「ーー赤き炎！それは消えることなき勇気の心！
その心を無双の剣として呼び覚ませ！」

透矢の言葉が終わるのと同時、赤い光の柱が中心で裂ける。
するとそこに立つは、透矢の言う力を身に纏う、覚醒を遂げた女戦士。

「Ｔ・Ｆ召喚！
『轟剣の女傑』、『ヴァルバレア』！」

透矢がその名を叫びながら、エクストラ・デッキから選び出した、縁が赤いカードを取り、デュエルディスクにセットする。
透矢の声に呼応した女戦士が、手に持つ大剣を横に振り払うと、
両側に裂けていた赤い光がその刀身に吸い込まれる。

より巨大になったその大剣は、彫り込まれた『Ⅲ』の文字が、斜めに重なるようにしている。
そしてその大剣を振るうは、以前より更に厳しい眼差しを持った女戦士。
鎧などに目立った変化はないが、身体の至るところに赤い紋様。
その紋様は形からして、炎をイメージしているようだ。

「へへ、よぉく目に焼き付けてくれよな？
俺のデッキ、最強戦士の姿をな！」

轟剣の女傑、ヴァルバレア。
それは３人の女戦士が一つに融合した姿。

凌斗の身体を震わすのは進化を遂げた女戦士の睨みだけではない。
大剣の周りから腕を通して、身体全体を覆う帯状の炎。
その全てを焼き尽くしてしまいそうな炎が、見る者を震わすのだ。

ギャラリーでさえ腰が引けているものもいるぐらいだから、目の前に立つ凌斗のプレッシャーも相当なものだろう。

そんなヴァルバレアだが、ややあって表示された攻撃力は１７００ーー？

「わ、わはははっ！
な、なんだなんだ！
仰々しい召喚の割には、パラメーターは何も変わってないぞ！
何の冗談だ、わはははっ！」

高笑いをする凌斗。

確かに見た目がいくら変わっても、攻撃力が１７００のままでは、やはり凌斗のモンスターに太刀打ち出来ないのではないか。

「確かにパラメーター的には何にも変わっちゃいない。
変わったのは・・・その効果さ！」

「効果、だと？」

「ヴァルバレアは不屈の勇気を備えた戦士！
例えどんなに強い相手を前にしても決して退かず、更にその炎を燃やして力を高めるんだ！」

「力を・・・高める？」

「ヴァルバレアのモンスター効果！
ヴァルバレアの元々の攻撃力より高い相手モンスター１体につき、攻撃力が７００ポイントアップする！」

「高い相手モンスター・・・１体につき・・・？」

「お前の場にはヴァルバレアより攻撃力の高いポイズン・リザードがいる！
つまりヴァルバレアの攻撃力が７００上がるぜ！」

透矢の言うように、ヴァルバレアの攻撃力が１７００から２４００に上がった。
これで凌斗のモンスター、ポイズン・リザードの攻撃力を３００上回ったことになる。

「ちっ・・・雑魚モンスターのくせに生意気なーー」

「へへ・・・驚くのはまだ早いって。
ヴァルバレアの２つ目の効果発動！」

ヴァルバレアの更なる効果が目覚める。
透矢がそう宣言しつつ、墓地に眠る３枚の「轟剣の剣」の内、１枚をデッキに戻した。
するとヴァルバレアがつぶらな瞳を一気に見開くと、唸るような声と共に身体全体から発せられる炎の闘気が、辺りの空間を揺らす。

そしてヴァルバレアの攻撃力が２４００から更に３４００へと上昇する。
一気に１０００ポイントも跳ね上がったのだ。

「攻撃力３４００だと！？」

「ヴァルバレアの２つ目の効果！
墓地の轟炎の剣をデッキに戻すことで攻撃力が１０００ポイント上がる！」

「バカな！」

「んで、この効果を使ったターン、戦闘で相手モンスターを破壊したら、破壊したモンスターの攻撃力分だけダメージを与えるぜ！」

ヴァルバレアの驚天動地の力。
それはまさに圧倒的パワーである。
最上級モンスターの攻撃力すら軽く凌ぐその力。
ここまで来れば透矢がこのモンスターに期待を寄せるのがよく分かるというものだ。

「よし、バトルフェイズだ！
パワーアップしたヴァルバレアの力を見せてやるぜ！」

ヴァルバレアの攻撃力は、今や凌斗のポイズン・リザードのそれを遥かに引き離している。
透矢は気合い十二分にバトルフェイズを迎えた。

（く、くく・・・。
攻撃してくる気だな。
また俺のリバース・カードを無視して・・・な）

だが凌斗は意外や、ここではまた余裕の笑みを見せていた。
確かにヴァルバレアの恐るべき能力には驚かされた。
だが、凌斗とて攻撃力の高いモンスターに対する策は練ってある。
それが前のターンに伏せたカードーー。

（さあ、攻撃してこい！
その瞬間、お前は終わりだ！）

凌斗は心で透矢の逸る気持ちを誘った。
そう、罠に誘い込むために。

「ヴァルバレアでポイズン・リザードＬV５を攻撃！
『プロミネンス・ジ・エンド』！」

かくして攻撃宣言は行われた。
同時に、凌斗のリバース・カードが発動条件を満たした。