１sｔデュエル トライ・フォース！⑤ 　作：はにわ

　
「ーー透矢お兄ちゃん・・・」

「心配すんな、千鶴。
俺は負けないぜ」

「でも・・・」

「まぁ、見てろって。
俺のデッキのカードたちは勝利に向かって、ひとつに集まりつつあるんだからな」

「・・・お兄ちゃん」

兄と慕う透矢の言葉を、千鶴はどう思ったか。
ライフの差は歴然。
凌斗の場には強力なモンスターが存在するため、このターン何らかの手を打たなければ、早ければ次の凌斗のターンで終わってしまうだろう。

そして透矢が負けた時、彼はどうなるのか。
約束通りに、学園を追い出されるのか。
いや、そこまではないにしても、自分のせいで迷惑をかけてしまうのは間違いない。

千鶴は不安を募らせるばかりであった。

「さて、俺のターン、ドローっ！」

そんな千鶴の不安を知ってか、透矢はある決意に満ちた瞳で、デッキからカードを引き抜いた。
すなわち千鶴を安心させるには、行動で示すよりないと。

かくして引いたカードは『三騎士 轟炎の剣（ごうえんのつるぎ）』。
先ほど白銀の盾の効果によりデッキのトップに置いた故、必然のドローカードである。

「よし、俺はこのカードを召喚！
来い、『轟炎の剣』！」

攻撃表示でセットされた新たなモンスターカード。
デュエルディスクを通して姿を現したのは赤い女騎士。

赤い軽装の鎧を身に纏い、赤紫色の髪を持つ彼女。
ただ鎧とは言っても胸下から腹部までは惜しげもなく褐色の肌を晒し、両手足に至っても無駄に守ろうと装備を付けたりはしない。
代わりに両手に握られた大剣。
その形状は炎の揺らぎを形容しているかのように、奇妙に湾曲していて、またその中心には『Ⅲ』という文字が彫り込まれている。
重い大剣を扱うから、最低限の装備で動きやすさを重視しているということか。

だがその赤い瞳から放たれる、見る者を震わすような眼光は、白銀の盾の比ではない。
真っ直ぐ敵である凌斗を睨み据えたその視線が、既に彼女が臨戦態勢であることを教えてくれる。

そんな轟炎の剣の攻撃力は１７００。
白銀の盾よりは高いが、凌斗のポイズン・リザードには及ばない。

「はっはっはっ！また雑魚モンスターを出したか！
そんなモンスターを何体並べても攻撃力は増えんぞ！」

「だから雑魚って言うな、って言ってんだろ。
それに轟炎の剣を今出したのは攻撃するためじゃない。
効果を使うためさ！」

「モンスター効果か！」

「戻れ、轟炎の剣！」

透矢が指示をするように１度セットした轟炎の剣を手札に戻すと、赤い女騎士もデュエルディスクに吸い込まれるようにして姿を消した。

「なんだ？戻っちまったぞ？」

「轟炎の剣の効果。
場にいるこいつを手札に戻すことで、デッキから同じカードを加えられるのさ」

「同じカードだと？」

「そ。
つまり２枚目の轟炎の剣をなっ！へへ・・・」

効果を説明しながらデッキの中から同じ『轟炎の剣』カードを探し当てた透矢。
それを手札に加え、都合２枚の轟炎の剣が手札にあることになる。

「更に魔法カード！
『同胞の援軍』！
このカードはこのターン、効果でデッキから手札に加えたモンスターと同じカードを、更にデッキから手札に加える魔法カード！」

「な、なに・・・？
ってことはまたーー」

「そうだ！
３枚目の轟炎の剣を手札に加える！」

魔法カードをセットし、その効果を言いながら再びデッキから轟炎の剣を探し当て、それを手札に加えた透矢。
デュエルモンスターズのルールでは同じ名前のカードは３枚まで。
つまり透矢は轟炎の剣３枚を全て手札に揃えたのだ。

（こ、こいつ、雑魚モンスターを・・・それも同じ名前のモンスターを３体もだと？
な、何を企んでやがる・・・？）

さすがの凌斗も嫌な空気を感じずにはいられなかった。
思い抱いたその疑問を口に出来なかったのが、その片鱗でもある。

「よっしゃあっ！これで手札に３枚の轟炎の剣が揃った！
これで轟炎の剣の２つ目の効果が使えるぜ！」

「ふ、２つ目だと・・・？」

「轟炎の剣はな、手札に３枚揃ってる時、その内の１枚を墓地に送って、残りの２枚を特殊召喚出来るんだ！」

透矢は３枚の轟炎の剣を凌斗に見せたあとで、真ん中のカードを墓地ゾーンに入れる。
そして残りの２枚をモンスターカードゾーンにセットすると、再びデュエルディスクから赤い鎧の女騎士が姿を見せた。
しかし今度は二人である。

一人はさっきと同じ姿の騎士。
もう一人は装備は同じだが、やや背が小さく、髪も短い。
無論同じモンスターではあるが、若干姿が異なるのは区別しやすいようにとの配慮であろうか。

「まだまだ行くぜ！
リバースカード・オープン！
『トリニティ』！」

そして透矢は更に『カードを繋げる』。
前のターンに伏せたカード。
罠カード・『トリニティ』。

「このカードは、自分の場に同じ名前のモンスターが２体存在するときに発動出来る！
デッキ・手札・墓地から同名のモンスターを特殊召喚出来る！」

「ど、同名・・・ということは」

「へへへ、その通り。
今、墓地に行った轟炎の剣！
来い、俺のフィールドに！」

罠カード・トリニティがその効力を発揮し、さっき墓地に送ったばかりの轟炎の剣を掴み、それを力強くセットする透矢。
それにより３体目の轟炎の剣がフィールドに姿を現した。

３人の中で最も背が高く、顔も大人びた印象。
顔が３人そっくりなところからか、あるいは三姉妹か。

「へっへっへー！
これで轟炎の剣が３枚、フィールドに揃ったぜ！
どうだ、カッコいいだろ！」

「な・・・な・・・」

凌斗は３人の赤い女騎士に気圧されたように、背中を後ろに仰け反らせながら声を漏らした。
最初、白銀の盾しかいなかった透矢のフィールドに、轟炎の剣なるモンスターが突然３体も姿を現した。
鮮やかなコンボに、初めてギャラリーも透矢側に湧いた。