１sｔデュエル トライ・フォース！④ 　作：はにわ

ポイズンリザードの毒液に飲み込まれた白銀の盾。
バトルを行った両雄の攻撃力の差は７００。
よって透矢のライフは２４００から１７００に減少。

「ふはは、これで邪魔な雑魚は消えたな！
続けてポイズン・ビーストのこうげ・・・！」

「だから慌てんなよ。
言っとくけど、それ以上言ったら待ったは許さないからな」

「なに？
わけの分からないことをほざきやがって」

「俺の場をよく見てみるんだな」

自信に満ちたような透矢の声を受けて、凌斗は彼のフィールドを見る。
そこには未だ消えない毒液の固まりが徐々に士気を周りに広がる光景。

だがそこから突然細身の剣が飛び出したかと思えば、その毒液を切り裂くように真下に振りかぶられ、その斬撃の威力によって毒液は四散、霧散した。

そしてそこに立つは倒されたはずの白銀の女騎士ーー。

「ど、どういうことだ。
なぜ破壊されていない？！」

「白銀の盾の２つ目の効果さ。
こいつは１ターンに１度だけ戦闘で破壊されないんだよ」

「な、なに・・・」

「へへ・・・だから言っただろ。
雑魚、雑魚と頭からなめてかかると痛い目を見る、ってな」

白銀の盾はその自らの効果でポイズン・リザードの攻撃を耐え抜いた。
ダメージこそ受けたものの、白銀の盾は未だその立ち続け、透矢を護ろうとしている。

もし凌斗があのまま攻撃力の低いポイズン・ビーストで攻撃宣言をしていたら、返り討ちにあっていたところだ。

「ちぃっ、しぶとい雑魚モンスターめっ！
バトル終了っ！
カードを１枚セットしてターンエンドだ」

本当ならこのターンで終わらせる予定だったからか、白銀の盾の意外な防御力に憮然とした表情。
だがすぐにまた余裕の面持ちに戻る。

（・・・まぁいいさ。
次のターンになればポイズンリザードはＬV７に進化する。
ＬV７はレベルアップ時に１２００ポイントのダメージだ。
そうなりゃあいつのライフは風前の灯火、ってやつだ）

凌斗は既に次の自分のターンに頭を回していた。

（仮に奴が次のターンに、あの雑魚モンスターを生け贄にするなりして、上級モンスターを召喚出来たとしても・・・。
奴が攻撃を宣言した瞬間に俺の伏せカードがズドン！
それでジ・エンドだ）

もはや相手に手段のないことを読み切り、凌斗は自らの勝利への確信を深めていた。

ーー慢心。
デュエルとは１ターンを争うゲームでもある。
敵を侮り、軽薄にターンを渡すということが如何に危険な行為であるか、彼はまだ身に染みていない。

「・・・ありがとな、白銀の盾。
お前がくれたこのチャンス、無駄にはしないさ」

透矢が白銀の盾を労うと、女騎士は横目で小さく笑いながら頷いた。
自分のターンを迎えるためにそれを繋ぐためのカードの駆け引き、それはこのデュエル・モンスターの大事な要素の１つかもしれない。

「行くぜ、俺のターンだ！」


ーー木陰。

「ーー刹那さん、こんなところにいたんですか」

「あら地影（ちかげ）。
それに炎魅子（えみこ）に水花（みずか）も揃ってどうしたの？」

透矢と凌斗のデュエルを他の者に紛れず、１人で見守っていた女子生徒。
その背後から更に姿を見せた３人の女子生徒。
そのいずれもがエリートクラスである、オベリスク・ブルーの制服に身を包んでいる。
刹那という女子生徒もオベリスク・ブルーの制服だが、違うところはその上に赤い厚手の生地に金の装飾を施した上着を羽織っているというところだ。

「どうしたの、はこちらのセリフです。
刹那さんこそこんなところで何をなされていたのですか？」

横並びに佇む３人の内、右に位置する短く髪を揃え、前髪を大きく分けた女子生徒。
度の強い眼鏡に隠された双眸が、刹那を真っ直ぐ睨み据える。

「ちょっと面白そうなデュエルが始まったから見ていたのよ。地影たちも一緒に見ましょう？」

きらびやかな金髪をわざとらしく手でなびかせる刹那。
そんな彼女の言葉を聞いて呆れたように息を吐く地影。

「・・・立場を考えてください。 こんなキャンバスの真ん中でデュエルなど非常識・・・っと、ちょっと失礼」

眉をつり上げながら嗜めるように話す地影だったが、突然懐から携帯端末を取り出し、操作を始める。

「どうしたの？」

「今学期の予算について先生と協議中だったもので。
・・・お気になさらずどうぞ、ちゃんと聞いてますから」

「あらそう。あなたのお陰で私はいつも楽出来るわ」

端末でメールのやり取りをする地影。
内容から察するに、生徒でありながら学校運営にも携わっているようだ。
大事なメールだろうことは予測に難くないが、端末を操作しながらもちゃんと聞いているという地影に、刹那は頼もしそうに目を細めた。

「・・・刹那」

「あら、なぁに？水花」

次に口を開いたのは女子生徒・・・というにはあまりに小さな『女の子』。
身長は刹那の半分ほどしかなく、そのせいで刹那も目の高さを合わせるべく身を屈ませている。

「あのデュエル・・・面白いの？」

黄色いリボンを用いて左右両側で髪の毛を束ねた水花。
表情の変化に乏しく、さっきから無表情な顔からまるで変化しない。

「ええ、きっと面白いわよ、水花。
だからここで一緒に見ましょう」

刹那は小さい子を相手するように、優しく笑顔で語りかけている。
実際その身長差が示すように、年齢も倍近い差があるのではないか。

そんな少女が他の生徒に紛れていたら、一際目を引くはずだろう。

「ーーあの片っ方の奴、確か一年生の中じゃあ一際目立った奴だったよね？」

「そうね。
ーー流石凌斗。
オベリスク・ブルー１年の中で最も成績の優れた逸材よ」

最後の１人、炎魅子がデュエルをしている片方を見据えながら刹那に聞いた。
顔に覆い被さるような髪の毛は意図的なのか気に留めてないのか、乱雑にはねている。
制服を着崩し、腕を組んだ大股の姿勢は豪快な印象を与える。

「てっことは、面白いデュエルを見たいなんて言いつつ、あんたの本当の目的はその逸材の偵察、ってところかい？」

刹那の考えをいかにも言い当てた、 という炎魅子の歯を見せながらの笑い。
言葉遣いといい、男勝りのような一面すら感じさせる。

「さて・・・どうかしらね？
それよりも『風』はどうしたの？
一緒じゃないのかしら？」

刹那が惚けた様子で炎魅子の質問を濁しながら、ふと３人に尋ねた。
刹那の言う『風』。
誰かを指す通称だろうか？

「ーー『風』でしたらいません。
気まぐれな彼女の事ですから、どこかで暇をもて余しているのではないでしょうか？」

「そう。
・・・ひょっとしたら、私たちとは別の場所でこのデュエルを見ているのかもしれないわね」

「ーーいずれにしても、です。
刹那さんも『風』も自覚が足りません。
さっきも言いましたが、立場を考えてください」

「あはは、地影は手厳しいわね」

相変わらず端末を操作しながら刹那に厳しい箴言をする地影。
刹那は困ったように愛想笑いを浮かべている。

「ま、そう固いこと言うなよ、地影。
これだけ大勢の注目を集めてるんだ。最後までやらせてやろうじゃないか」

「水花も・・・見る」

炎魅子がフォローするように地影に言い、水花も無表情なまま態度の如何を口にする。

謎の四人の女子生徒。
彼女たちが見守るなか、デュエルは最終局面を迎えようとしていた。