光と闇 会長・刹那の混沌を操る力！③　作：はにわ

　
ーー大歓声の中、始められる刹那のターン。
自分に向けられた歓声にも関わらず、まるで悟ったかのように落ち着き払った佇まいの刹那。
６枚の手札の中の１枚にその指を伸ばし、刹那のカードがいよいよ始動する。

「ーー手札からモンスター召喚！
チューナー・モンスター、『混沌天使（カオス・エンゼル） リニア』！」

「『チューナー・モンスター』？」

握られたカードがデュエル・ディスクにセット。
刹那が操るモンスターがその姿を見せる。
白い羽を重ねた天使の翼と、蝙蝠のような黒々とした悪魔の翼を背中に持つ小柄な裸足の女性。
地に付かず常に宙に浮いているようであり、足元から白い光と黒い光が渦を巻きながら身体にまとわりつくようにしている。

レベルは２、攻撃力は８００だ。

「ーー混沌（カオス）、天使（エンゼル）？」

「・・・そう。
光と闇、等しい二つの力が混じり合い、そしてその二つの力を自在に操る種族。
それが混沌天使よ」

「二つの力を・・・操る？」

「つまり、混沌天使はみんな元々の属性は『光』だけどーー『闇』属性としても扱うの」

「てことは・・・つまり」

「うん。
混沌天使は光属性と闇属性、両方のサポートカードの恩恵を得られるの」

デュエル・モンスターズには様々な特定の属性をサポートするカードが存在するが、混沌天使はその内、光と闇両方のサポートが受けられる。
通常、属性サポート・カードを入れる場合はその属性にカードを統一するのが自然だが、
混沌天使の場合はある意味光と闇属性の両方の属性がデッキに混在することになる。
果たしてそれがどれ程の力を発揮することになるのか。

「私は更に手札から魔法カード、『混沌の波動』を発動！」

「何だ？！」

「場に『混沌天使』モンスターがいる時に発動出来るカードよ。
デッキの上からカードを３枚墓地に送る・・・」

手札から発動された魔法カードにより、刹那はデッキの上のカードを１枚ずつめくり、合計３枚のカードを透矢に見せた上で墓地へと送った。

「ふふ・・・この時、光属性モンスターと闇属性モンスターが一種類ずつ墓地へ送られている場合、私はデッキからカードを１枚引く」

『混沌の波動』の追加効果。
確かに透矢は今、墓地に送られたカードが３枚とも混沌天使の名を持つモンスターであったのを確認している。
混沌天使は光であり闇でもあるため、条件は満たされ、刹那はデッキからカードを１枚引いた。

すると刹那は突然、堪えきれなくなったように一人で笑い出す。

「ど、どうした？刹那」

「ふふ・・・ごめんなさい」

「そんなにいいカードをドローしたのか？」

「ううん、そうじゃないの。
ただね、私、このデッキを使うの久しぶりなのにーー私の気持ちとデッキがリンクしてるの」

「リンク？」

「今の『混沌の波動』ーー、まさか本当に混沌天使が３枚墓地に行くなんて思わなかった。
だって、これで準備が整ってしまったんだもの」

「準備・・・」

「きっと久しぶりに解放されてーーそして最強の挑戦者を前にして、
私以上にデッキが張り切っているみたいね」

笑った理由をそう語って見せた刹那。
それを聞いた透矢は最初意味を測りかねているようだったが、すぐに刹那に合わせるように表情を崩した。

「へへ、最強の挑戦者ってのはどうかと思うけど、
刹那もデッキの事を、そんな風に感じたりするんだな」

「あら、当然よ。
だって自分が試行錯誤を重ねて、組み上げた大事な私だけのデッキよ。
デッキの、いいえカードたちが抱く感情ぐらい感じられるわ」

「分かるぜ！
負けそうな時に、たった１枚しかない逆転のカードを引いた時は、
自分が引いたんじゃなくて、デッキが引かせてくれたんだ、って俺も感じるし」

「組み上げたデッキを絶対に信じるーー当たり前のようで、大切な事よね」

意気が投合する二人。
性格や人間性は違くとも、デュエル・モンスターズに対する思い入れは、二人は全く同じようだ。
そんな二人がこうして頂上を争う戦いをするのも、何かの宿命かもしれない。

「ーーねぇ、透矢くん。
こんな時にこんな事、だけど・・・昨日は楽しかった」

「・・・ああ、俺も楽しかったよ。
刹那の色んな事が知れたしな」

「でもね？
私たちの本当のデートは、これからだと思わない？」

「本当のデート？」

「こうして二人で向き合って、互いに自分が信じるカードをぶつけ合う・・・。
今、この瞬間、この空間は私たちだけのものなの」

「はは、なるほどな。
でもほら、こんなに大勢の観客が見てる中で、デートか？」

「関係ないわよ。
今、言った通り、この空間は私たちだけのもの。
誰もそれを侵食したりすることは出来ないんだからーー」

「そう・・・だな、そうかもな」

刹那の見せた表情。
まさに今、この瞬間を心から楽しむかのような表情。
それは昨日のデートの最中に見せた刹那の笑顔とは違う。

その表情を見た時、透矢も内からふつふつとわき上がるものを感じた。

「ーー楽しみましょ。
私たちだけのこの空間、その一時をーー」

「ーーああ、もちろんさ」

見つめ合い、そして睨み合うような二人の視線。
ここは二人だけで、カードを武器に戦い、そして語り、最後に雌雄を決するフィールド。
永遠に続くような長い時でもあり、刹那とも言える僅かな時の間。

その決着の時に向かって、時はその針を刻むーー。