透矢と刹那の賭け　作：はにわ

　
ーー刹那の部屋。

刹那が取り出した箱に、４枚のカードを納めた透矢。
すると１年間閉ざされていた封印が解かれ、その箱が開かれた。
そうして中を覗くと、紐で縦横に封が為されたカードの束が一組。
その厚さからして、間違いなく誰かのデッキであるということが分かる。

「こ、これが・・・刹那の？」

「そう、私のデッキ」

刹那が小さく微笑みながら頷く。

ーーまじまじと見つめる透矢。
このデッキがーーアカデミア最強の神楽坂刹那が組み上げたデッキ。
そして明日、自分はこのデッキと戦うことになる。
一体、どんなコンセプトで、どんな構築に仕上がっているのか。
透矢ならずとも、気になるところだろう。

「見ないの？」

「え・・・？」

「その紐は普通に解けるから、好きに見てもらっていいのよ」

「い、いいのか？」

「ふふ、言ったでしょ。
このデッキの封印を解いたのは透矢くんなんだから。
好きなようにしてくれていいの」

「ちょ、距離が近いって・・・」

「くすくす・・・」

身体全体を寄せながらの刹那の言葉が、意味が違って聞こえてしまう。
また動く度に薄着の上着が乱れ、刺激の強いものが見え隠れするする状況に、透矢は不自然に顔を背けるしかない。
刹那はからかっているのだろうか、面白そうに笑みを浮かべている。

そして透矢は箱の中のデッキを慎重に手に取り、そのまま片手で縦横の紐を解いていく。
そうやって完全に封を解かれた刹那のデッキ。
あとは１枚１枚捲っていけば、その知られざる中身が明らかになる。
透矢はゆっくりと一番上のカードに手を伸ばすが、触れる寸前でその指が止まる。

そのまま何かを考えているように動かない透矢。

「ーーどうしたの、透矢くん？」

首を傾げながら刹那が訊く。
すると透矢はデッキをそのまま箱の中へと戻した。

「やっぱり止めとく。
明日の楽しみに取っとく事にするよ」

「あら、いいの？」

「いや、本当はすっげぇ気になるけどさ。
明日、デュエルの時に見た方が感動も大きいかなって。
だから今は見ない」

「ーーそう。
透矢くんらしいわね」

刹那は笑って応えると、再びデッキの紐を結んで封をした後、箱を閉めて、４枚のキー・カードを取り外す。
そして４枚のカードを透矢に差し出した。

「はい、明日忘れないようにね」

「え、でもそれじゃ明日まで開けられないんじゃん」

「本当はね、この封印は生徒会大戦当日に開ける決まりなの。
だからこうやって持ち出したりしちゃいけないのよね」

口許の前に人差し指を立てて、ナイショね、と釘を刺す。

「でもそれじゃ、刹那がデッキの調整とか出来ないんじゃないのか」

「大丈夫。
私のこれまでのデュエル・モンスターズの集大成がここに詰まってるから」

「そ、そうかーー」

「むしろ私より透矢くんよ？
私は透矢くんのデッキをずっと見てきたけど、透矢くんだけ私のデッキを知らないなんて・・・本当にいいの？」

「いや、大丈夫。
刹那と戦うために俺のデッキも調整してきてるからさ」

「そう。
そういえば、地影たちとのデュエルでも、デッキの内容を知らないまま、透矢くんは充分に対抗してたもんね」

１度は解いた封印を、結局何もしないまま再び封印を施した刹那のデッキ。
そもそも何故、こんな手の込んだ封印なんてする必要があるのか、と透矢が聞けば、
これはあのアカデミアの伝統であり、生徒会長とはアカデミア最強のデュエリスト、それすなわち、最強のデッキを持つということである。
そのデッキで無闇にデュエルを重ねて不覚を喫し、伝統を傷付ける事がないように封印が為されるのだという。
もっとも刹那からすればそんなことで不覚を喫するようなデッキは組んでない、と語る。

ともあれ、デッキのない刹那はデュエルは出来ず、金曜日のデュエル試験免除というのもこんな理由によるものだ。

「私はね、ひょっとしたら卒業まで私のデッキを解放してくれる人は現れないんじゃないか、って思ってた。
地影たちの力は私がよく知ってるからね」

刹那と戦うには、これもまた伝統である生徒会長に次ぐ力を持つ四人、四天王を倒さなくてはならない。
挑戦者側からすれば１度も負けられない、４連続のデュエルを強いられるわけで、確かに辛い条件である。

「でも透矢くんは見事、ここまで辿り着いてくれた。
私のデッキを解放してくれた、言うなれば王子さま、ってところかしら」

「そ、それは言い過ぎだよ。
それに元々俺は、流石を助けるためにーー」

「そんな過程はどうでもいいの。
君のデュエルを初めて見たあの時からーー私は期待してた。
私のデッキを解放してくれるのは、あなただ、って事に・・・ね」

「せ、刹那・・・」

これ以上なく、身体を寄せてくる刹那。
透矢はその真剣な眼差しに逆らい切れず、自分の胸で妖しく蠢く刹那の指を振りほどけない。

「・・・ねぇ、透矢くん。
賭けをしない？」

「賭け？」

「明日のデュエルの勝敗に・・・勝った方に賞品を付けるの」

「しょ、賞品って・・・たとえばどんな？」

「私は決まってるの。
もし私が勝ったらーー」

刹那が切り出した賭け。
生徒会長を決める戦いとは別に、刹那はどんな賞品を付けたいというのか。

水花が眠る側で、限りなく密着した二人の身体。
表で決死のデュエルに臨む真希は、その間に踏み込めるのかーー。