真希vs蓮華 蓮華の武装待女デッキ！②　作：はにわ

　
「ーー先攻、頂きます」

神楽坂邸の玄関先で始まった真希と蓮華のデュエル。
常識外れであるのは言うまでもなく、何故蓮華がこんなデュエルに応じたのかが、二人の待女には分からずにいた。
もしこの状況を刹那の両親に見られでもすれば、ただでは済まされない。

そんな待女の心配をよそに、５枚の手札を手にしながら先攻の権利を得た蓮華。
一目でその内容を確認し、すぐにその中から１枚を手に取った。

「私は手札から永続魔法『待女の務め』を発動致します」

第一手となるそれは、まず永続魔法の発動。

「このカードは１ターンに１度、『待女（メイド・アームズ）』の名を持ちますモンスターカードを特殊召喚出来るカードでございます」

「レベルに制限なく・・・ですか？」

「はい。
ですが代償として、通常召喚の権利を放棄しなくてはいけません」

永続魔法『待女の務め』。
通常召喚権は放棄するものの、代わりに『待女（メイド・アームズ）』と名のつくモンスターならば、レベルに縛られる事なく召喚出来るのだ。
こういったカードが発動された場合は、大抵高レベルモンスターの召喚を狙ってくる。
今回もその例に漏れなかった。

「私はこの効果を用いましてーー手札から『守護待女（ロイヤル・メイド・アームズ） オーレリア』を特殊召喚いたします」

デュエル・ディスクにセットされたモンスターカード。
すると姿を現したのは金色に輝くエプロンドレスを身に纏った金髪の女性。
手足に銀色のプロテクターを装備し、両手で巨大な大剣を手にした『守護待女（ロイヤル・メイド・アームズ） オーレリア』。
視線から放つ気迫と合わせて、強烈な存在感は見る者を圧倒する。

レベルは８、攻撃力は３０００に至る。
１ターン目に召喚されたモンスターにしては、ハイスペックなカードである。

「そしてオーレリアの、効果を使用いたします」

「効果・・・っ？！」

「次の私のスタンバイフェイズまで、相手は魔法・罠・モンスターの効果の発動、及びモンスターの特殊召喚を１ターンに各１回ずつしか発動できません」

「１ターンに１回・・・っ！？」

「ただしこの効果を使用する場合、私はバトルフェイズを行うことは出来ません」

オーレリアが大剣を地に突き刺すと、そこから薄く白い衝撃が全体を突き抜ける。
それはオーレリアの力の『波動』。
その波動が場にもたらす強制力のある力場。
これにより、真希は魔法・罠・モンスター効果の発動、更に特殊召喚を各１回ずつしか行えない、という制限を負わされた。
代償としてバトルフェイズを放棄しなくてはならないが、少なくとも今は先攻１ターン目。
元よりバトルフェイズ自体行えない。

「カードを２枚セットし、ターンを終了いたします」

そして２枚のリバースカード。
これで蓮華のターンは終了された。

替わって真希のターン。
いきなり初ターンから現れた攻撃力３０００を誇るオーレリア。
だがその攻撃力以上に、オーレリア自体が放つ強烈な威圧。

「やっぱり簡単に勝てる相手じゃない・・・か」

オーレリアを倒さなければ、蓮華は倒せない。
だがそのオーレリアを倒すのもきっと一筋縄ではいかない。
真希には確信に似た予感が、己が心を渦巻いていた。



ーーその頃、刹那の部屋。
玄関先で自分の友人が、自分が信頼を寄せる蓮華がデュエルしてるなどと、露ほどにも気付いていない刹那。

自分の大きなベッドに水花を寝かせ、更にその傍らに透矢を座らせる。
透矢の部屋の倍はありそうな刹那の広い部屋は、綺麗に整理整頓されていて、見苦しさというものが全く感じられない。
全体的に明るく淡い色を用いた部屋の雰囲気に、ほのかに漂う刹那の香りがマッチしている。

居心地は悪くないはずなのだが、真希や千鶴とはまた違った雰囲気の部屋、更に父以外では男性をこの部屋に入れたのはあなたが初めてだ、と言われて、透矢は妙に意識してしまった。

「ーーお待たせ、透矢くん」

そこへ刹那がアカデミアに通うときに使う鞄から何かを取りだし、透矢の方へ持ってくると、その隣に座る。
上着を脱いで薄着になった刹那。
元々大人っぽい肢体で、肌を露出させたその姿はとても艶かしい。
更に言えば、時折薄いピンクの下着が覗ける事もあり、透矢はもはや刹那を正視できないのだった。

「・・・どこ向いてるの？透矢くん。
ほら、これ見てみて」

「あ、ああ・・・」

訝しむ刹那に、透矢はなるべく刹那の上半身を見ないように気を配りながら、太ももの上に乗せられた『箱』を見た。

「そ、それは・・・？」

「この中にね、入ってるの」

「な、何が？」

そこまで話して不意に刹那の手が伸び、透矢の両の頬を軽く押さえつけると、
そのまま下に傾いていた透矢の顔を、真っ直ぐに直して、自分の顔と向き合わせた。

「私の・・・デッキ」

「せ、刹那の・・・デッキ？」

顔の高さを合わせて、目と目が合う。
刹那は満足したように微笑むと、そう言い放った。

刹那が用意した黒い鉄製の頑丈な箱。
ただ大きさは小さく、恐らく中には本が１、２冊入る程度だろう。
そして箱の上面には、薄い窪みが４つ升目状に並んでいる。
その窪み１つの形状と大きさ。
デュエリストならば、ピンとくるはずだ。

「これ・・・どうやって開けるんだ？」

透矢はまた刹那から目をそらしつつ、箱をまじまじと見る。
決して重くはないが、鉄製だけあり、その重みは感じられる。
右側から左側に向けて、蝶番で開く仕組みのようだが、開口部はしっかりと固定されている。
透矢は開けようと力を入れてみるがびくともしない。
見たところ鍵があるわけでもなく、どうすれば開くのか？

「箱の上、見てみて。
少し凹んでるの分かる？」

「え？
ああ・・・確かに、うすーく凹んでるけどーー」

「その四角い形に見覚えない？」

「見覚え？うーん・・・」

４つ並んだ、長方形の窪みをまじまじと見つめる透矢。
すぐには分からなかったが、いつも目にしている『あるもの』がその窪みの形状とぴったり合致した。

「ーーカードか！」

「正解ー！
で、それが４つあるということは・・・」

「そうか・・・『キー・カード』だな？」

「うん！
つまり４枚のカードをこの窪みに納めると、箱が開く仕組みなの」

見た目はただの鉄製の箱だが、実は内部は機械仕掛けとなっており、４つの窪みに決められた４枚のカードを納めると、そのカードの情報を読み取り、照合。
照合されれば電子ロックが解除される仕組みなのだ。

「で、この中に刹那のデッキが・・・？」

「うん。
・・・見たい？」

「ああ、もちろん！
見てみたいよ！」

「ふふ、じゃ、カードを納めてみて」

透矢はポシェットからカードホルダーを取りだし、中に入っている４枚のカードを取り出す。

『封印されし災厄龍 エニグマン』

『凍獄龍 ゼロ・プリズナー』

『煉華龍 クリムレイズ・シード』

『閃絶龍 ゼルフィム・ハザード』

地影・水花・炎魅子・真希の四人から為る生徒会四天王。
彼女たちに勝った事で手に入ったカードである。

そして透矢はいよいよ、カードを１枚１枚窪みにはめていく。

刹那のデッキが、約１年の月日を経て、日の目を見ようとしていた。