ＶＳ神楽坂刹那 地影の場合②　作：はにわ

　
ーー外では日が傾き、夕日が街を赤く染め始めた頃。

透矢たちが訪れたテーマパークでは、イベントが始まろうとしていた。
広いイベント会場に駆け付けた客は数百人。
むしろ彼らは今日のこのイベントを見る、あるいは参加するために集まったと言っても過言ではない。

それは二ヶ月に一度、このテーマパークの親会社が主催するクイズ大会。
優勝すれば豪華な賞品が貰えるというこのクイズ大会では、その時々によって様々なジャンルから出題されるわけだが、今回のジャンルはデュエル・モンスターズ。
世界的に有名なゲームとして名高い彼の題材ということで、今日集まった者たちもその大半が、何らかの形でデュエル・モンスターズに触れている者たちである。

そんなイベントに居合わせた透矢は、刹那の参加意欲に押されるように自らも参加することに決めた。
もちろん客としてではなく、解答者としてである。

ーーが、クイズ大会の解答者に参加を希望したのは透矢たちを含めたおよそ百数十余名。
さすがに人数が多すぎる、ということで、先ずはくじ引きで数を数十人まで絞ることが決定。
当選率３分の１から４分の１というところだったが、透矢はあえなく落選。
運がなかったーーと、残念そうな透矢だったが、代わりに刹那が引き当てる。

そうして数十人に絞られた中から更にミニクイズ１問による、最速解答者上位４名が最終的なクイズに参加。
ここまでにおよそ一時間要したが、ともかく最終的なメンバーが決定。
その中には刹那もいる。

ーーかくして舞台上に築かれた解答席に着いた刹那。
透矢は水花を肩車し、立ち見で観客席から健闘を応援することとなった。

「ーーレディース、エェンド、ジェントルメェン！
長らくお待たせしました！
これより今日のビィッッグ・イヴェント、
クイズ大会を始めるぜ！」

派手な装飾を付けたピンクの上着に蝶ネクタイ、異様な長さを蓄えたリーゼントを持つ長身の司会者が、マイクを片手に会場の観客に威勢よく語りかけ、会場が湧く。

「水花、大丈夫か？
辛くなったら言えよ？」

「・・・うん」

透矢が大音響で湧く会場の中で、水花を気遣う。
９歳になる子を肩車するのは通常辛いだろうが、水花は小柄であり、体重も軽い。
透矢は男親の気分で水花を肩に乗せていた。

「それでは先ずは参加者の簡単な自己紹介から始めるぜぃ！」

司会が場を進める。
先ずは自己紹介。
まず右側の解答席に座る二十代の男性が始まり、次に左隣のやはり二十代くらいの男性。
そしてその隣がーー。

「ーー神楽坂刹那です」

『かいちょーっ！！』

刹那が名乗った瞬間、会場の至るところで『会長』という声が上がる。
どうやら透矢たち以外にも同じアカデミアの生徒たちがここに来ていたらしく、その者たちが声を上げたのだ。
刹那が少し照れたように笑いながら、会場に向かって小さく手を振る。

当然司会がそこを突っ込むと、刹那は特に緊張した様子もなく、淡々といつもの済ました自然スマイルで丁寧に受け答えしていた。

「ーーでは、最後はミニクイズぶっちぎりの最速解答を見せた、こちらの何とも怪しさプンプンの挑戦者だぁあ！」

司会がそう紹介した最後の四人目の解答者。
確かに言うとおり、見た目が怪しさに満ちている。
まだ暖かい季節、しかも会場は熱気に満ちているというのに、コートを羽織り、
顔はサングラスと大きなマスク、そしてテーマパーク内で売っている妙な帽子をかぶったその人物。

怪しい、というより不審者である。

「お名前はぁ？」

「・・・しゃ、『シャドー・ミスト』」

「ひょお、こりゃまた変わった名前だぜぃ！
ミニクイズではグゥゥレェイトな早さを見せ付けてくれた、実力者だぁあ！」

「ど、どーも・・・」

「ところで・・・ボーイ、オアガールは、何で顔を隠してるんだい？」

「そ、それは、幼い頃の火事で、二目と見られない顔に・・・」

「ｕｕｕｕＵｕＯＨーーっ！
どうやらやむを得ない事情がお有りのようだぁ！
みんな、顔隠してても、この俺の熱い猛りに免じて、許してやってくれぇええい！」

『シャドー・ミスト』と名乗った男か女かも分かりにくい四人目。
会場では首を傾げる者もいれば、何かの冗談かと笑う者さえいる。

そんな中、隣に座る刹那は、ちらりとその者の方を向いた。
すると見られてると知ったその者は思わず顔を反らす。
それを見て何故か小さく笑った刹那。

謎の人物『シャドー・ミスト』。
一体、何者なのだろうか。



「ーーよしよし、あれなら絶対分かりゃしないよ」

ーー会場。
テーマパーク内で販売されているキャラクターのお面を付けた炎魅子が、お面の下で満足そうに笑う。

「い、いや・・・『シャドー・ミスト』って、そのまんまじゃん！」

「『朝“霧”』・『地“影”』さん・・・だから『シャドー・ミスト』・・・」

同じくお面を付けた真希・千鶴がそう口にする。
お面を付けているのは、壇上から見下ろせる刹那に顔を見られないようにするためだ。
そして件の『シャドー・ミスト』の正体は地影である。
壇上に刹那と並んで参加した地影が、正体を隠すために付けているサングラスやコートは、今まで真希が身につけていたものだ。

「あっはっはっ、ま、例えバレてもこうなっちまえばこっちのもんさ。
後は地影が優勝さえすれば、賞品はあたしらのもんだし、刹那に一杯喰わせられるってもんさ」

「そ、そううまくいくかな・・・？」

「予選のクイズ見ただろ？
地影のやつ、ダントツトップだったじゃないか。
刹那なんか、それに比べりゃめっちゃタイム遅れてたよ？」

「ま、まぁ、確かにね・・・」

炎魅子は地影に全幅の信頼を寄せているためか、既に勝った気でいるようだが、真希はどこか不安そうだ。
ちなみに選抜のクジは誰か一人でも当たればそれを地影が当てた事にする取り決めとなっていた。
案の定、地影を含めた３人は外したものの、期待通り炎魅子が引き当てて、そこは難なく切り抜けた。

「ーーそういやさ、賞品ってなんなんだろうね」

「えっと・・・このテーマパークの特別優待券みたい。
うわ、来月のイベントのナイト・ミュージカルのペア無料招待券込み、か・・・」

「わわ、確か、このナイト・ミュージカルのチケット、予約販売限定で、もう売り切れちゃってるんだよね」

「へー。
ま、連れていく野郎なんていないあたしにゃ、縁のない話だね」

携帯端末で今回のイベントの優勝賞品を調べて、ペア招待という項目に見入る真希。

「あたしもなんとか参加出来てたらなぁ・・・」

誘う相手なんかいやしない、と肩を竦めながら嘯く炎魅子の傍らで、自分で掴み取るチャンスを得られなかったことに、今になって惜しむ真希の姿があった。