刹那とのデート それを追う者③　作：はにわ

　
ーー刹那に引っ張られるようにして、映画館へとやって来た透矢、そして水花。
刹那が用意した券のお陰で無料で入館出来た３人は、薄暗い館内のいくらか余裕のある空席に並んで腰を落としていた。
透矢としては見たかった映画、初めは自分を押さえていたものの、物語が佳境に差し掛かるにつれて、自然と興奮が強くなっていく。
水花もいつもより気持ちを表しながら映画に見入っており、刹那はそんな二人を横目で、時折見遣っていた。

ーーその背後には真希たち四人。
真希は透矢たちの様子を窺っていたが、千鶴は映画に集中し、楽しそうに心奮わせている。
炎魅子・地影は元々、今日この映画を見るつもりだったので、結果的には出掛けの目的を果たしていたのであった。

ーーそれから一時間と少し。
映画に集中していた者にはあっという間の時間が過ぎ、一行は外へと出て来ていた。

「いやー、熱いデュエルだったぜ！
な、水花！」

「・・・社長、ずっと笑ってた」

「ちょ、おい！
今の映画を見て、第一声がそれかよ？」

「んー・・・、あと面白いデュエル・・・だった？」

「だよな！
ああ、俺もいつかああいう大舞台で、最高に熱いデュエルしてみてぇなー！」

興奮が冷めやらぬ透矢。
水花を引き連れながら、声を大きく出して感動を身体全面に表していた。

「ーーふふ、そんなに喜んでもらえるなんて、誘った甲斐があったな」

「ああ！
・・・って悪いな。
なんか一人でテンション高くしちまって」

「そんなこと、気にしなくていいのに。
変に格好つけて冷めた反応する人よりは、ずっといいもの」

「そうか？」

「ええ。
それに、やっぱり透矢くんは、デュエル・モンスターズが好きなのね」

「当たり前だろ？
かい・・・いや、せつ、なもそうだろ？」

「もちろん」

「ま、でも最近はあまり入れ込み過ぎるなーっとか、真希とかに言われちまうんだけどな。
俺自身もまずいのかな、ってさ」

「そうかな？」

そこまで話して、ふと透矢の前に出た刹那が二人で向き合う。

「私はデュエル・モンスターズにじゃなくても、何か１つの事に一生懸命好きになったり、熱中することは凄く素敵な事だと思うな」

「そ、そうか？」

「うん。
少なくとも、私はそういう人を好きになりたいかなって」

やや中腰の姿勢で、口元の前で人指し指を立てながら片目でウインクして見せた刹那。
その仕草が妙に可愛く映り、透矢は意識もせず目を反らした。

「ふふ、さて、と・・・これからどうしよっか？
少し早いけどお昼にする？」

「あ、ああ・・・」

「水花もお腹空いた？」

「・・・うん」

「うん！
じゃ行きましょ、透矢くん、水花！
行きつけのお店に招待するから」

「うえ？
で、でも俺、あまり高いところはちょっとーー」

「あはは、大丈夫よ、透矢くん！
今日は私が誘ったんだから、そんなことなーんにも心配する必要ないの」

「いや、でもさ・・・」

「いいから、ね？」

また透矢の手を強く引く刹那。

予想してなかった事ではないが、すっかり刹那のペースで進む今日この日に、透矢は情けないような気持ちを抱きつつも、
普段とは違って自然な笑顔を見せてくれる刹那に、少しずつ固まった気持ちが解れつつもあった。



「ーーふむ、なんかいい感じだね、ありゃあ」

「あんなにはしゃぐ刹那さん、見た事ないです」

遠くで見守る炎魅子と地影。
当人たちの声は聞こえてはいないが、刹那の態度を見れば彼女が楽しそうにしているのが分かる。
そして彼女たちもまた、普段とは違う、長く付き合っている自分達にでさえ見せた事のない刹那の姿に少し驚いていた。
そしてそれは真希も同様。
透矢に積極的ともとれる刹那の姿に、戸惑いすらふくれていた。

「うーん・・・最後まで付き合う、とは言ったけど、
これ以上は野暮ってもんじゃないか？真希」

「千歳さんーー」

どうしたものか、と真希に声を掛けてみる炎魅子と地影。
楽しそうにしている刹那の邪魔をしたくない、という気持ちと、
『真希の気持ち』と二つが揺れていて、二人ははっきりと口に出来ない。

「・・・あたしは、行くよ」

「お、お姉ちゃんーー」

真希も分かっている。
自分が今、どんな最低な事をしているのか。
透矢に、そして刹那に対する裏切りと知りながら。

しかしそれでも彼女を突き動かすもの。
それは彼女の一途な心に外ならない。

真希を心配する千鶴はその後を追う。
そして一度は最後まで付き合う、と口にした手前、炎魅子と地影も顔を見合せ、
最後はやはり親友をこのまま放ってはおけない、とやはり真希の後を追うのだった。