運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑱　作：はにわ

　
（ーーラスト、ターン？！
このターンで、終わるっていうの？）

透矢の自信に満ちたその宣言に、真希は一瞬緊張を覚えたが、すぐに冷静な思考が働く。

（あたしの場には守備力２４００の『ゼルフィム・ハザード』ーー。
これを越えて、あたしのライフ２１００を削るなんてーー）

真希の場には『リューゼリッド』によって守備表示にさせられた、守備力２４００のゼルフィム・ハザードがいる。
これを越えて真希を倒すにはゼルフィム・ハザードを倒すカードを１枚、更に真希のライフを削るカードが１枚ずつ必要なはずである。

透矢の場にはカードはなく、手札は二枚。
まさかその二枚が真希の死命を制する二枚だというのか。

（そんな・・・まさかーー）

真希はそんな都合のいい引きがあるものか、通常ならば思うだろう。
だがもしかして透矢ならばーー。
これまでの透矢のデュエルを見てきて、また彼をよく知る真希だからこそ、そう思えてならなかった。

「ふふ・・・面白いわ、透矢！
その手札二枚でどんな最後を見せるのか、この目で見届けてやるわよ！」

真希は構える。
自分に抵抗する手段はない。
透矢があの二枚で織り成すカードの繋がりをただ見るだけ。

元より兼ねてから望んでいたこのデュエル。
全力を尽くした今ならば、例え負けても悔いはない。
結果などにもはや意味はないーーそんな風にすら真希は捉えていた。

「ーー手札から魔法カード、発動！
『戦士の生還』！」

「戦士の生還・・・墓地から戦士族モンスターを１枚、手札に加えるカードーー」

まず発動されたのは『戦士の生還』。
墓地から特定のカードを加える、俗に言うサルベージ・カード。
墓地から戦士を加えるわけだが、果たしてどのカードか。

「俺が加えるのは『女帝の聖杖』！」

「ーー『女帝の聖杖』を？！」

選ばれたのは女帝。
だが真希には意外に映った。
てっきりこの状況ならば、リリースなしで召喚できる上級モンスターの、『影縫いの微刃』が選ばれるのでは、と予想したのだ。
女帝の聖杖もリリースを軽減する効果があるが、それには場にＴ・Ｆモンスターが必要なはずである。

（あのもう１枚がーー）

１枚は女帝に切り替わった透矢の手札二枚。
そのもう１枚に女帝を加えた答えが隠されている。

「ーーなぁ、真希。
１つ、聞いてもいいか？」

「な、何よ」

「どうしてこの場所を選んだんだ？」

「え？」

「何でここでデュエルしようと思ったんだ？」

突然の透矢の質問。
不意をつかれたか、真希はすぐには答えられない。

「べ、別に・・・ただ、近くて広い場所がここだった、ってだけよ」

咄嗟に思い付いた、当たり障りのない解答。
実際、そうだったのだろう。
透矢は更に続けた。

「ここさ、懐かしいよな」

「懐かしい・・・？」

「俺がこっちに戻ってきてさ、
朝とか帰りとか、ここの近くを通っても何にも感じなかったけどーー。
俺たち三人、ここでよく遊んで、デュエルとかしたんだよな」

「透矢・・・覚えてたんだ」

「うん・・・懐かしいね」

真希に、そして千鶴の方を見遣りながら話す透矢に、二人は穏やかに笑う。

「真希、俺も同じだぜ」

「同じ？」

「引っ越して離ればなれになってたけどーーお前たちと仲良く遊んだあの時の事は俺にとっても大事な思い出だ」

「な、何よ・・・突然そんな話しだしてーー」

「いや、だからさ。
俺も思ったんだよ。
これからも３人で仲良くいられたら、いいよなってーー」

最後に照れたように鼻を掻いた透矢。
だが、真希の真っ直ぐな気持ちを受け止めての紛れもない本心である。

「わ、私も！
お姉ちゃんと、お兄ちゃんとーーずっと一緒にいたい！」

「ち、千鶴ちゃんーー」

千鶴もまた、己の気持ちをありのままの言葉にして真希に伝えた。
許される限り３人でこれからも共に歩んでいきたいーーそれは、３人同じ気持ちだったのである。

「だからよ、真希。
もう、デュエル・キラーなんて止めろよ。
さっきも言ったけど、お前には似合わないからな」

「で、でもーーあたしは・・・」

「もうお前一人で抱え込む必要なんてない。
俺だっているんだ。
これからは俺が千鶴も、そしてお前を守る」

「とう・・・や」

「だから心配すんな。
俺たちの輪は崩れたりなんかしねぇよ」

歯に衣を着せぬ、透矢の言葉。
だがずっと心に闇を抱えていた真希にとって、それはこれ以上ない心強いものとなった。

「真希、デュエル・キラーとのデュエルもこれで終いだ！
手札から魔法カード、『女帝の進撃』を発動！」

「女帝の・・・進撃？」

「自分の場にモンスターが存在しない時に発動出来る！
手札の女帝を特殊召喚する！」

真希からデュエル・キラーという仮面を剥ぐ。
そのために透矢はいよいよ、決着をつけにきた。
発動された『女帝の進撃』により、さっき手札に戻されたばかりの女帝を特殊召喚するーー。

「来い、女帝の聖杖！」

手札からモンスターカードゾーンに力強くセットした透矢。
セットした場所は、ゼルフィム・ハザードの正面。
召喚してから移動は出来ないが、どのモンスターカードゾーンに置くかは自由である。

そうして姿を現した女帝。
１度は『ミサギ』によって倒されながらも、復活を遂げた三騎士を統べる者。
鋭く光る視線に、主の意志を貫き通すべく、今までにない力が篭る。

「ーー頼むぜ、ラグナシア！」

（ーーお前の意志、確かに受け取った。
今こそお前が姉さんと呼ぶ『あの人』の思いと共に、我が力を存分に行使せよ）

「ーーああ！
『女帝の進撃』の効果！
この効果で特殊召喚した女帝が、相手モンスターを戦闘で破壊した時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える！」

女帝の進撃はただ女帝を特殊召喚するだけでなく、更なる能力を与えていた。
そして女帝の攻撃力は２５００。
ゼルフィム・ハザードの守備力を上回り、
そして戦闘で破壊すればその元々の攻撃力３２００が真希へのダメージとなる。

「ーー女帝で、ゼルフィム・ハザードを攻撃！
『貫く聖杖の意志（ペネトレイト・アークブラスト）』！！」

女帝が手に持つ月を象った杖を振りかざし、その中心に力宿る光を集め、巨大な１つのエネルギーの塊を形成する。
そして女帝の咆哮と共に放たれたそれが、ゼルフィム・ハザードに触れると同時に弾けた。
弾け、そして巨大な龍の身体を包み込んだ光は、龍の身体を焼き焦がし、程なく断末魔の声と共に消滅する。

最後の四龍を透矢が打ち破った瞬間であった。
同時に女帝の進撃による追加効果により、ゼルフィム・ハザードの元々の攻撃力３２００が真希へのダメージとなる。

「あたしの負け・・・だね、透矢」

ーー真希の敗北。
だが真希の表情は憑き物が取れたかのように晴れやかであった。

決着は付いた。
透矢が最後の四天王である真希を、いやデュエル・キラーを倒したのである。
それは彼の意地を貫き、そして大事な幼馴染みを呪縛から解放させた瞬間でもあったのだ。