熱血女！炎魅子の爆炎デッキ！⑫　作：はにわ

ーー引き抜かれた透矢だけにそう見える『光るカード』。
手に持ったそのカードの正体を、透矢自身が確かめるべく凝視する。

「ーーあっ！」

光るカードの正体。
それは紛れもなく透矢が宣言したカード。
お姉さんから新たに託された『三騎士』。

『三騎士 女帝の聖杖（じょていのせいじょう）』に間違いはなかった。

「こ、こんなことが・・・」

『声』の言われるがままに、半信半疑でそのカードを宣言し、引き抜いたカード。
だが現実に今、そのカードを手にしている。
『トライ・エモーション』同様、『夢』の中の出来事、と思っていたカードが自分のデッキに組み込まれていたのだ。

（すげぇ・・・これって、どんな奇跡なんだ？）

『女帝の聖杖』のカードを眺めながら手が震える。
あるいは奇跡か、超常現象か、そのいずれでもないか。
それは透矢の知る由もないが、このカードは彼にとって憧れのカード。

「よし・・・このカードさえあれば！」

このカードは実は使いこなすのがかなり難しいのだが、逆に使いこなせれば場を一変させる能力を持つ。
そして運用の仕方は昨日の『夢』のお姉さんとのデュエルで、自らその威力を味わい、知っている。

今度は透矢がその力を存分に奮う番だ。

「ーー俺は『煉華トークン』２体をリリース！
モンスターをアドバンス召喚！」

（ーー来るね！）

「出でよ！
『三騎士 女帝の聖杖』！」

クリムレイズ・シードによって生み出されたトークンを逆用し、アドバンス召喚のためのリリースに活用。

そしてそのカードはフィールドにその姿を現した。

「『女帝』・・・か」

炎魅子がその姿を見て声を漏らした。
観客席もどよめく。

太陽の盾と、三日月の杖。
それぞれがこの世の光と闇の象徴を示し、更にそこにはうっすらと笑みを浮かべる顔が描かれている。

肩当てから地へと落ちるマントは、白き羽衣を纏った全身を覆い隠す。

そして白と黒とが交互に合わさって模様を作るかのような不思議な髪。

舞い降りた天女のようなその美しく、そして力強さを感じさせるつぶらで切れ長の瞳。
その胸元には『Ⅵ』の文字が刻まれていた。

レベルは７。
攻撃力は２５００である。

「やべぇ、初めて召喚できた！
感動！」

「初めて・・・って？」

「このカード、使うの初めてなんっすよ！」

「なるほど・・・道理で今まで見せた事がないわけだ」

思わず歓喜する透矢に、炎魅子が頷く。
炎魅子は既に感じ取っていた。
このカードがただの最上級モンスターでないことを。

「わざわざアドバンス召喚したのは、トークンを消すためかい？」

「それもありますけど、このカードはデッキと墓地からは特殊召喚が出来ないんです」

「なるほど、ね。
こりゃ知らず知らずの内にポカをやってたかもねぇ」

「ポカ？」

「ふふん、なんでもないよ」

炎魅子が笑う。
もしこのカードの力が、これから自らに敗北をもたらすのだとしたら、
ある意味トークンを特殊召喚したクリムレイズ・シードの使用が敗因になる可能性がある、と。

もっともこのカードの存在を知らずして、それを敗因というのはあまりに厳しい論理ではあるが。

『ーー全く、随分手間取ったものね、透矢』

「うおっ？！
しゃ、喋った？！」

『失礼ね。
喋ったら悪いとでも言うの？』

透矢を睨みながら、突然話し出した『女帝の聖杖』。
仰天する透矢の声に、不機嫌そうにそう続ける。

「そういえばその声はさっき、俺に話しかけていたーー？」

『そうだ』

「か、カードが意志をもって話してる、ってのか？」

『意志を持つのは私だけではない。
ここにいるアリアスもいつもお前に呼び掛けているのだぞ？』

「アリアスがーー？」

そう言われてアリアスを見ると、小さく微笑んでくれる。

『他の騎士たちも、皆だ。
あなたが彼女たちの声を聞こうと意識を傾けていないから、聞こえないだけのこと』

「そりゃ俺から声を掛けたりしたことはあったけどーー。
意識を傾ければ・・・聞こえるのか？」

『あなた次第よ。
我々のマスターとなる人間ならば・・・それに相応しくなるのだな。
さっきのような醜態は今後一切許すことはない。肝に命じておけ』

「たはは・・・こりゃ手厳しいな」

厳しい表情と声に、愛想笑いしながら頭をかく透矢。
そんな様子を炎魅子はやはり不思議そうに眺めていた。

（独り言・・・？
いやでも・・・本当に話しているみたいだ・・・）

端から見れば透矢が一人で話しているようにしか見えない。
しかしそのあまりの自然さは、所謂独り言のそれではない。
少なくとも炎魅子にはそう見えた。

『ーーさぁ、透矢。
せっかくこの私が出張ったのだ。
我が力を存分に使い、そしてーー』

女帝の聖杖がそこまで言うと、持っていた杖を鋭く振りかざしながら炎魅子へと向ける。
すると炎魅子も言葉は聞こえずとも、その『気迫』を感じ取ったのか、一歩後ずさる。

『あの強き者を見事打ち倒して見せよ！
我らがマスターとして、その力を示すのだ！』

「へへへ・・・何だか、妙な話になっちまったけど、分かったぜ！」

それが彼女にとっての、一種の声援なのだろうか。
このデュエルの勝利のため、マスターである透矢に助力は惜しまないと宣言したのだ。

透矢は透矢で、もはやこの不可思議な状況について深く考えようとはせず、
ただ今、自分が感じる事の出来るこの状況にその身を任せる、開き直りの決心をしていたのだった。