熱血女！炎魅子の爆炎デッキ！⑩　作：はにわ

　
「ーーお兄ちゃん、凄い・・・本当に凄いな・・・」

ーー席を埋め尽くす観客。
その中にはもちろん、千鶴、真希、そして凌斗の姿もある。
これから透矢の３ターン目を迎えるが、それまでの攻防を目にして、千鶴がただそう繰り返すように呟いた。

「・・・うん。
炎魅子先輩に互角、とまではいかないけど、充分に戦えてる」

「まさかあの攻撃を防ぐとはな・・・本当に大したもんだよ、遊戦名先輩は」

千鶴に応えるように、真希と凌斗がそう口ずさむ。
四天王・炎魅子に『四龍』カードを出させながら、なお立って自分のターンを迎えた透矢。
これだけでもある意味快挙なのである。

「あいつ・・・最初から手札に『影縫いの微刃』を抱えながら、『白銀の盾』でサーチしたのね」

真希が更にそう続けると、凌斗が同意する。

「『トライ・エモーション』のコストを念頭に、防御策を敷いといた、って事っすね」

「お兄ちゃんはこうなることを予測していた・・・ってこと、なのかな？」

「ああ。
蒼井乃との戦いで、『四龍』カードのパワーを思い知ったんだろう。
だからいつ出されても良いように、最初のターンから対策してたのさ」

凌斗の話を千鶴は真剣に聞き、しきりに頷く。
確かにあの防御はまさに狙い済ましたかのようだった。
更に付け加えて『アリアス』で影縫いの微刃を直接サーチしたりせず、最初から手札に抱え、その存在を巧みに隠していたのも上手い、と語る。

「・・・透矢はピンチを凌いだ。
炎魅子先輩に『四龍』カードを出させて、
このターンはその『四龍』カードを倒す絶好のチャンス！」

「ピンチの後に巡ってくるチャンス、ってやつっすか」

「お兄ちゃん・・・頑張って・・・っ！」

巡った透矢のターン。
ここは反撃を決めたいところである。
身を乗り出す真希。
透矢の健闘を期待して止まない凌斗。
両手を合わせて祈る千鶴。

炎魅子乗りの観客たちの中、３人は透矢に心で声援を送っていた。




「ーー俺のターン、ドロー！」

ーー透矢のドロー。
これで手札は３枚。

（ダメ・・・か。
キー・パーツが足らないーー）

ドローしてきたカードを見て歯噛みする透矢。
来てほしいカードとは巡り会えなかったようだ。

「ーースタンバイフェイズ！
『煉華トークン』１体につき、５００ポイントのダメージを与える！」

「く・・・っ、俺の場には煉華トークンが２体！」

「つまり１０００ポイントダメージだよ！」

クリムレイズ・シードが芽吹かせた炎の花が火の粉を散らす。
野球ボール程の大きさのそれが、二つの花から散りばめ、それが透矢へのダメージとなる。

これで残りライフは１３００。

「更に！
『クリムレイト』の効果発動！
フィールド上に存在するモンスター全てにバーニング・カウンターを置くよ！」

フィールド魔法・クリムレイト。
そのスタンバイフェイズ効果が発動する。
現在フィールドには、トークンも含めて彼我合わせて５体のモンスター。
その全てに１個ずつカウンターが乗せられて、『煉獄の巫女』に乗せられていた２つと合わせて７個になる。
もしこのまま炎魅子のターンを迎えれば更に増えて１２個。
クリムレイト、煉華トークン、煉獄の巫女などの存在から、
まず次のターンを越す事は出来ない。

このターンでどれだけの事が出来るか、それが勝負だ。

「ーーメインフェイズ」

透矢は３枚の手札を見る。
内、１枚はアリアスでサーチした『轟炎の剣』。
残り２枚で如何にこの苦境を脱するか。

（やっぱりダメかーー。
アリアスで更にサーチは出来るけど、決定的にキー・カードが足らない・・・）

ドローフェイズに欲しかったキー・カードを引く事は出来なかった。
だがいくら手札を眺めてもそのカードが突然現れたりはしない。

（ーーさすがにこのターンは考える・・・か。
仕方ないね、このターンで答え出さなきゃ敗北は決まりだ）

炎魅子もこのターンが透矢にとって大事なターンであることは分かる。
だからもはや煽ったりはしない。

（これが遊戦名の３ターン目。
つまりそれはデュエル・キラーとの戦いで、持ちうるギリギリのターンだよ、遊戦名！）

炎魅子は悩む透矢を睨み据える。

（これぐらいの壁・・・乗り切らないと話になんないだよ！
根性を見せな、遊戦名！）

炎魅子は心の中である種の激を送っていた。
このデュエルに掛ける炎魅子の思い、透矢はそれに応えられるか。

ーー透矢はその頃、場の状況を改めて整理していた。
まず炎魅子のフィールド。
クリムレイズ・シードに煉獄の巫女、そしてリバース・カード。

（クリムレイズ・シードは倒せる・・・。
倒せるけど、そこまでだ）

クリムレイズ・シードの攻撃力は、影縫いの微刃の効果が未だ生きており、１２００のまま。
アリアスでも充分に倒せる。
残るは煉獄の巫女。
こちらがむしろ問題。
攻撃力１５００と、それなりの高さを有しながら戦闘耐性を持つのが頭を悩ませる。
このカードを残したまま炎魅子のライフ３６００を削るのは難しい。

（やっぱりあのカードを呼べないと話にならないのか・・・でもーー）

透矢の考えが振り出しに戻る。
そもそも手札に『轟炎の剣』を加えたのは、ある狙いを秘めてのこと。
しかしながらキー・カードが引けずその狙いは頓挫した。

（どうしようもない・・・のか）

ーー八方塞がり。
透矢の脳が考えるのを止めてしまう。
何故なら手段がないから。
延命策すら見いだせない。
ポジティブな精神の彼も、この時ばかりは諦めの気持ちが先行した。

ーーそんな時である。

（ーー透矢）

「えっ！？」

突然誰かに呼ばれ、驚く透矢。

そんな様子を見た炎魅子も『ん？』と声を漏らす。

「せ、先輩、呼びました？」

「へ？
別に呼んでないけど？」

「そ、そうですよね」

分かってはいたが一応確かめた透矢。
炎魅子は透矢を名前で呼んだりはしないし、第一、声が違った。
もちろん審判のクロエでもない。

（ーー透矢）

「えっ、えっ？！また？」

再び聞こえてきた自分を呼ぶ『声』。
戸惑う透矢。
その様を見た炎魅子も不思議そうに透矢を見つめる。

（ーー私を呼べ）

「な、だ、誰だ、あんた！
一体、どこから話しかけてきてんだ！」

辺りを忙しなく見渡しながら、声を上げる透矢。

「・・・トーヤ？
ドーシマシタ、デスか？」

「おいおい、遊戦名。
突然なんだい？
誰と話してるのさ？」

クロエと炎魅子が怪訝な面持ちで透矢に聞く。
彼に起きた異変、当然ながらそれが二人にはまるで理解できない。

（先輩たちには聞こえてない・・・？
こんなにはっきり聞こえたのにーー）

その『声』は大声ではない。
だがはっきりと自分の耳が捉えられる声量だった。
ならば割りと近くにいる二人にも 聞こえても良いはず。

そう考えながら頭を混乱させる透矢だったが、次の出来事は更に輪をかけた。

「ーーあっ？！」

ふと見た自分のデッキ。
数十枚の真ん中よりやや上にある１枚ーー。
それが・・・光を発していたのだ。

「な、なんだ、これ！？」

（ーー私の名を呼べ。
アリアスが導いてくれる）

「ま、また、聞こえた！」

ーー透矢に起きた異変に次ぐ異変。
不思議なのは、彼に認識できる全ての異変が、他の者にはまるで認識出来ていないということ。

謎の声。

光を発するカード。

炎魅子やクロエには把握できていないのだ。
ならば透矢の夢か、幻想か。

大事なターンを迎えた彼に、起きた異変の正体とはーー。