ｖｓＤ・Ｋ！ １ターンキルの恐怖！②　作：はにわ

　
ーーついに現れた。
フード付きのマントを羽織った、大柄な体格の仮面を付けた人物。
如何にも怪しい姿であるが、あれが件の生徒会四天王、最後の一人にして風紀委員、通称『デュエル・キラー』に間違いない。

炎魅子が今日ここへ来るように言ったのは、やはりデュエル・キラーが姿を現すからだったのだ。

ーーどうするか？

透矢の中でそんな考えが過ったが、彼の決断は早かった。
いや、身体が勝手に動いた、という方が正しいだろう。

このアカデミアの人間のほとんどがその正体を知らないという、半ば噂だけの存在、デュエル・キラー。
それが実際に現れた事によって、早くその正体を知りたいと、無意識にその眼前に躍り出てしまったのだ。

「ーーやいやい、そこの怪しい仮面野郎っ！」

透矢は無鉄砲で怖いもの知らずなところがあるが、やはり緊張しているのか、
震えを消そうとでもするように妙に演技がかった振る舞いで颯爽と用具室から飛び出し、その者を指差した。

「ーーなっ、とう・・・やっ？！」

仮面の何者かも、突然の透矢の登場には驚いたか、身動ぎながら低い声を響かせた。
しかし透矢もまた、自分の名前を呼ばれて目を見開く。

「ん？
あんた、俺の名前知ってんのか？」

「・・・」

素朴な疑問を投げ掛ける透矢。
だが仮面の者は透矢の登場による動揺が思ったよりも大きいのか、どもるような息を漏らすだけで何も答えない。

「てか、そんなことより、あんたがデュエル・キラーかっ！？」

先の質問には結局何も答えはなかったが、透矢は気にせずに核心を突く。

「・・・お前、こんなところで何をしている」

低い男と思しき声が、透矢の質問を続けて無視し、逆に質問を投げ掛けてくる。
ただ男の声ではあるのだが、違和感を感じる響きが透矢には気になってもいた。

「あんたを待ってんだよ！」

「俺、を・・・？」

「あんた、デュエル・キラーなんだろ！」

透矢がまず仮面の『男』に応えた。
そして指差しながら、再び同じ質問をぶつける。

「・・・だとしたら、何だ」

「あんた、このアカデミアの生徒をデュエルで負かして、強制的に退学に追い込んでるそうじゃねぇか！」

「・・・」

「あんた、何の権限があってそんなことしてんだよっ？！」

透矢はどんどん仮面の『男』に疑問を投げつけていく。
ただこの事は噂とはいえ、透矢は聞いていることなのだが。

「・・・俺は生徒会・風紀委員。
このアカデミアの風紀を乱す者を葬るのが、俺の仕事だ」

「葬る、だと！」

「風紀を乱す者がいれば、このアカデミアの生徒たちのデュエルへの学びの精神、そして向上心を阻害することにもなる」

「だからって、何も退学にすることはねぇだろ！」

「退学にすることはない・・・だと？」

「そうだよ！
口で注意するなり、他に色々やりようがあるだろうが！」

透矢の語意が荒くなる。
何故か、それは彼自身にも分からない。
ひいて言うなら彼のある種の『信念』か。

すると仮面の『男』は不気味な笑い声を体育館内に響かせる。

「な、何がおかしいんだよ！」

「ーー甘いな、遊戦名透矢」

「あ、甘い・・・？」

「口で言って聞かせろ、だと？
そんなことで奴らが改心するようなら、確かに俺という存在は必要なかろうな」

「な、なんだよ・・・っ！」

「ーー鳴瀬千鶴」

「あ・・・っ？」

不意に仮面の『男』が口にした千鶴の名前。
透矢は大事な幼馴染みの事を出されて、心が乱れる。

「お前も知っているだろう。
・・・鳴瀬千鶴は流石凌斗をはじめとするグループにずっと嫌がらせを受けていたのだぞ？」

「ぐ・・・っ」

「流石たちには何度も警告した。
だが奴らは次の日になればそんなことは忘れ、再び同じ事を繰り返す。
だから葬ってやったんだ。
ーーああ、流石はお前が葬ったんだったな」

「お、俺は流石を退学に追い込んだりなんかしてねぇ！」

「くくく・・・。
俺が奴等を葬ったお陰で鳴瀬は安心してこのアカデミアに通えるようになったのだ。
鳴瀬と仲が良いお前には、むしろ俺という存在に感謝してくれても良いはずだがな！」

そこまで畳み掛けるように語った仮面の『男』が再び笑い声を響かせる。
その耳障りな声と相まって、透矢の感情が弾けそうになる。

「ーー違うっ！」

「違う？」

「俺はあんたがそうやって脅すような真似をして・・・デュエルで相手を叩き潰して再起不能にするなんていう、そのやり方が許せねぇんだよ！」

「ほう・・・？
じゃあお前にとってデュエルとは何だ」

「そりゃ、みんなで楽しく、お互いのデッキに懸ける思いを分かち合えるゲームだろ」

「く、くく！
やはり甘いな、遊戦名透矢」

「んだとっ？！」

「デュエルは確かに楽しい・・・それは俺も素直に認めよう。
だが、楽しいだけでは語れない事もある」

「な、なんだよ、その語れない事って！」

自分のデュエルに対する思いを正直にまっすぐぶつけた透矢。
だが仮面の『男』は甘い、と一笑。
では何だ、と問いかけた透矢に仮面の『男』は左腕に装着したデュエル・ディスクを構えた。

「・・・デュエルだ、遊戦名透矢」

「デュエル・・・」

「このまま押し問答したところで埒が明かないだろう。
だからデュエルで白黒を着けようといってるんだ」

「・・・」

「俺が負けたら、デュエル・キラーなんていう真似事は金輪際しない、と誓ってやる」

「・・・本当だな？」

「ああ、勝てればな」

突然のデュエルの申込み。

透矢が勝てば、同じことは二度と起こさない、という仮面の『男』。
確かにデュエルの勝敗がそのまま二人の意見を分かつなら、分かりやすいと言えるかもしれない。

「いいぜ、そのデュエル、受けるぜ！」

「くく、そうこなくてはな」

透矢にはもちろん依存はない。
むしろ願ってもない、という程である。
気合いよくデュエル・ディスクを構えて応じる態度を示すと、仮面の『男』は不敵な笑い声を上げた。

ーーそして、彼我、共にデュエル・リングの上に立つ。
在るのは戦う者二人のみ。
人知れず、透矢の意地を賭けたデュエルが始まろうとしていた。

『ーーデュエル！』

開始の合図が轟く。
生徒会四天王・風紀委員にして、『風』とも呼ばれる仮面の『男』。

その疾風のごとく相手を一瞬にして葬り去るデュエルが、透矢に襲いかかろうとしていた。