ある日の休日　作：はにわ

ーー透矢と水花の戦いの翌々日の日曜日。
透矢は真希と千鶴を連れ立って、午後から外へ出掛けたのだった。
特に目的はない。
折角の休日、たまには外で楽しく過ごしたい、という真希の言葉が発端である。

始めは洋服や小物をウインドウショッピング。
年頃の女子でもある真希と千鶴はここでは二人で大はしゃぎ。
透矢は退屈そうにしながらも、二人に話を合わせていた。

次にやはり、というべきかカード・ショップ。
カードパックを少しずつ買っては、当たったカードに一喜一憂する。
店内のデュエルスペースを見つければ、当然のようにそこでカードを広げ、
またそこにいた同年代の人間から子供まで巻き込んでデュエルを楽しむ。
透矢はただそのデュエルを楽しむという事が嬉しそうだった。

ーーそんなこんなで時はあっという間に過ぎ去り、夕方。
最後の締め、とばかりに真希おすすめのスイーツ・ショップに寄った一行。
そこで３人は、思いもよらぬ人間と出くわすこととなる。

女性客、もしくは若い男女のカップルが多い店内。
人気があるのだろうか、テーブル席は満員であり、
３人はカウンター席へと着く。
脇に備え付けられていたメニュー表とにらめっこする透矢。
こういう店に来慣れてない彼は何を頼もうか悩んでいたわけだが、そんな彼に声がかかる。

「ーーオススメは、この『ヒータの極盛り激辛スイーツ』だよ」

「へーっ、そうなんすか・・・って、あれ？」

カウンターを挟んで、『店員』が腕を伸ばし、メニューのその一項目を指差してくる。
だがふと聞き覚えあるその声に、透矢は思わず顔を上げ、その店員を見る。
癖のある所々跳ねた長い髪を掻き上げて、髪どめで無理矢理束ねたような髪形。
その顔立ちをまじまじと見てようやく気付かされる。

「あれ？紅月先輩！」

「あっはっはっ！
やっと気付いたのかい」

「ど、どうしたんですか？
こんなところでーー」

「見りゃ分かんだろ？
あたしはここでバイトしてんのさ」

髪形を変えて、店指定の制服を着ていたその女性店員の正体は、透矢たちの先輩であり、生徒会メンバーでもある、紅月炎魅子だった。
透矢の声に、千鶴が気付いて驚きの声を上げたが、
真希は知っていたのか、普通に挨拶をしている。

「遊戦名も隅に置けないねぇ？
両手に花抱えて、休日のお出掛けかい？」

「ははは、ただの暇潰しっすよ」

「この店はね、男女のカップルで入店すると一割安くなるんだよ？
だから店出るまでは、そういうことにしときな」

「か、かかか、カップルって、そ、そんな・・・」

カウンターに身を乗り出して、けたけたと笑いながら話しかけてくる炎魅子。
千鶴はその言葉に妙な反応をして、恥ずかしそうに俯いてしまう。

「でも何て言うか・・・」

「なんだい、人の事、さっきからジロジロ見ちゃってさ」

「いや、先輩のその姿が新鮮で・・・」

「似合わない・・・ってか？」

「ぷくくく・・・はい」

「こいつ！
はっきり言ってくれるじゃないか！」

透矢の頭を軽く小突く炎魅子。
透矢と炎魅子、今まで積極的に接する機会はなかったものの、
元から馬が合う性格なのか、透矢も普段よりくだけた態度で話しやすそうだ。

「まぁいいや。
ーーで、ご注文は？」

「んじゃ、紅月先輩がさっき言ってたやつで」

「あいよ！
ちなみにこのメニュー４つは、あたしの創作メニューだかんね」

炎魅子が『ヒータの激辛極盛りスイーツ』を含め、以下３つの項目を指差しながら、自信ありげに語る。

「さすが！
ねぇ、透矢！
紅月先輩って、料理が上手で、特にスイーツ系は絶品なのよ？」

「ほーっ、益々イメージと違・・・」

「それ以上言ったら蹴っ飛ばすよ」

炎魅子に睨まれて口を塞ぐ透矢。
アカデミアでは豪放磊落な副会長として名高い炎魅子だが、家庭的な一面も併せ持つようだ。

「それじゃあたしは・・・この『ウィンのそよ風が送るほろ苦スイーツ』で」

「あいよ」

「どんなスイーツなのか気になるぜ」

真希も炎魅子の創作スイーツを選ぶ。
しかし名前からではどんなものが出てくるか想像がつかず、透矢は楽しみにしつつも、一抹の不安を抱える。

「ご注文は？
決まったかい？」

「あ、あの・・・えっと～、ちょ、ちょっと待ってください・・・」

残ったのは千鶴。
どこか緊張している雰囲気だ。

元来、人見知りする千鶴。
トーン高めに男勝りな口調で話してくる炎魅子が、苦手な部類に入るのかもしれない。
現に、メニューで顔を隠すようにして、炎魅子の顔を見れていない。

すると炎魅子はそんなメニューと千鶴の顔の間に指を挟み込むようにして、ある項目を指差した。
驚いたのか、背を跳ねさせる千鶴。

「お客さんが好きそうなメニューは、これかな」

「え、えっと・・・」

炎魅子は千鶴の性格を知り、気を遣ったのだろう。
トーンを下げ、ゆっくりとした話し方で、千鶴が好きそうなメニューを示したのだ。

『エリアの濁流のように降り注ぐクリーム＆極甘スイーツ』

「あの・・・じゃ、それで」

「あいよ、ちょっと待ってな」

言われるがままに注文した千鶴。
炎魅子は穏やかに笑いながら、店内の奥へと姿を消す。
千鶴はしばらく炎魅子がいた方角をぼんやりと眺めていた。

ーーそれからしばしの待ち時間を経て、３人に注文のスイーツが炎魅子自身の手によって運ばれてきた。
どうやら彼女自らが調理、盛り付けをしたようである。
三者三様、奇抜な味の中に後を引く美味しさが含まれており、
炎魅子が料理を得意としていることを、その舌で堪能したのだった。