天才少女・水花の極寒デュエル！⑭　作：はにわ

　
ーー体力を振り絞り、手札を全て使い切った水花の集大成、
攻撃力５２００の『ゼロ・プリズナー』の攻撃。

これが通れば透矢は敗北する。
透矢の場には『影縫いの微刃』、及び装備している『三剣の誓い』のみ。
通常ならば防ぎようのないこの状況で、透矢は冴えた反撃を用意していた。

「ーー手札の『影縫いの微塵』の効果、発動！」

「ーー手札、誘発・・・？」

「墓地に別の影縫いの微刃が存在するとき、手札のこのカードを墓地へ送って発動！
攻撃モンスターの攻撃力を２３００ポイントダウンさせる！」

「ーーあ・・・っ」

天才、水花はその時、己の敗北を察した。
そして透矢の前のターンから計算し尽くされたその反撃に、今まで感じたことのない気持ちを抱く。

言葉少なに語ればそれは『感動』。

今まで自分が『あの時』の事を忘れ去るために、好きなはずのデュエルを淡々とこなし、喜びもなく得てきた勝利。

そんな自分に、透矢は思い出させてくれたのだ。

カードとカードの繋がり。
そこから生まれる奇跡。
そして感動を。

「影縫いの微刃、効果発動！
『影蜘蛛之巣結界之陣（スパイダー・ウェブ）』！」

透矢が先のターン、『トライ・リィンフォース』の効果で手札に戻していた影縫いの微刃を墓地に送り、既に墓地にあったもう１枚の影縫いの微刃と合わせて効果が発動される。

するとゼロ・プリズナーの真下の影から、無数の黒い糸がその巨体に絡み付くように包み込んでしまう。
それによってゼロ・プリズナーの攻撃力ダウン、５２００あった攻撃力が２９００まで落ち込む。

そして攻撃を受けるはずだったフィールド上の影縫いの微刃は、降り注ぐ氷柱から身をかわすように影の中へ溶け込んで消えてしまう。

ーーもちろん、ただ逃げたわけではない。
影を伝って一瞬の内に、ゼロ・プリズナーの影まで『移動』した彼女は、
勢いよく影から飛び出しながら、身動きの取れないゼロ・プリズナーの身体をナイフで切り刻む。

影縫いの微刃の攻撃力は、三剣の誓いの装備効果で３１００。
その差わずか２００だが、その分だけ上回った彼女がバトルでの勝利者となる。

ゼロ・プリズナーは断末魔の雄叫びを上げながら倒れ付し、そしてフィールドから消え去ったのだ。

水花のライフは２０００。
だがゼロ・プリズナーが倒された今、手札にもフィールドにもカードの無い彼女に成す術はない。

ーー事実上の決着である。

まさかの結果に、観客も思わず声を失う。

「水花の・・・負け、だよ」

水花は影縫いの微刃の優雅な攻撃に、笑顔を見せていた。
だがそれも一瞬。
水花は己の敗けを宣言したあと、そのまま意識を失うように目を閉じ、膝を付く。

「み、水花！」

透矢の反射神経が、己の意思を待たずして身体を動かせた。
前のめりに倒れそうになった水花の正面に飛び込み、寸前のところでその身体を支えた。

「ーー水花！」

直ぐに刹那も駆けつける。
だがそんな刹那を待たずに、透矢は小さなその身体を掬い上げるようにして、自分の背中におぶらせる。

「会長さん、俺が保健室に連れていきます！」

「ーーわかったわ。
私は先に行って、先生に話をしてくる。
透矢くん、水花をお願いね」

「任せてください」

透矢はデュエルが終わった直後、刹那は妹のように可愛がる水花が倒れたというのに、
そんな二人の意思疎通は迅速なものだった。

刹那はクロエに、そして観客席に残る炎魅子・地影に何かを話したあとで、直ぐ様先に保健室へと向かう。
透矢はそんな刹那を追いかけるように、また背中の水花にあまり衝撃を与えないよう注意しながら、足を駆けさせる。

観客の生徒たちはあまりに続きすぎた異変に戸惑い、また水花を背負って出ていった透矢を追おうとする者もいたが、
そこは混乱を予測していた刹那の的確な指示により、炎魅子・地影、そしてクロエを始めとした先生たちが押さえ込む。
もっとも全校生徒全てでないとはいえ、かなりの大人数を押さえ込むのには、さすがに手を焼いているようだ。

観客の中に紛れる真希、千鶴、凌斗らも、混乱が落ち着くまでその場に留まる事を余儀なくされた。
一足先に消えた透矢、そして水花の容態を気遣いながらーー。