刹那の権力②　作：はにわ

　
「なぁ流石。
『デュエル・キラー』って何のことなんだ？」

何も知らない透矢が凌斗に聞く。
聞かれた凌斗はどこか答えにくそうにしていたが、やがて言葉を選ぶようにしながら語りだした。

「『デュエル・キラー』はこのアカデミアの風紀委員の２つ名っすよ」

「風紀・・・委員？」

「生徒会四天王の一人さ」

「四天王・・・ひょっとして俺がまだ会ってない奴か？」

聞き慣れない単語に、自分が知っている生徒会のメンバーを思い浮かべる。
会長・『刹那』。
副会長・『炎魅子』。
書記・『地影』。
マスコット・『水花』。
風紀委員・『？』。

やはり覚えがない。
ということは未だ会っていない四天王の最後の一人に違いない。

「流石。
風紀委員って一体誰なんだ？」

となれば素朴な疑問。
風紀委員とは何者なのか。
聞かれた凌斗は首を横に振った。

「自分は知らないっす。
会った事もないし・・・な」

「そうか・・・。
そうだ、真希！
お前は知らないか？」

凌斗は知らなかった。
ならば真希ならどうか、と透矢が聞くが。

「あたしも・・・知らない。
というより、風紀委員は誰かなんてみんな知らないんじゃないかな」

「誰も？
どういうことだよ、それ」

「いることはいるらしいんだけど、半分噂だけの存在、って感じで。
もし正体を知ってる人がいるとしたらーー」

「生徒会のメンバーだけ、か？」

「うん・・・」

真希もいつもとは違い、歯切れの悪い話し方をする。
噂だけの存在だという風紀委員。
だが『デュエル・キラー』とも呼ばれているその者に、デュエルを挑まれたという人間がこの場にいる以上、その人間は確かに存在するはずなのだ。

「ーーなぁ、君たちは『デュエル・キラー』ってのとデュエルしたんだろ？
だったら姿は見てるんだよな？」

透矢が今度は退学になったという者たちに聞く。
すると彼らはその特徴を透矢に教えた。
黒いマントに身を隠し、仮面を付けて素顔を隠しているというその人物。
話し方からどうやら『男』であるらしいとのことだ。

「男か・・・何か他に手がかりがあればな」

「噂によるとな。
普通の生徒に混じって、アカデミアの風紀を監視してる、って話だ。
それで、風紀を乱してる奴を見つけてはーー」

「見つけては・・・？」

「生徒会の名の元に、闇討ちに近い形でその生徒を潰してる、って話らしい。
ま、あくまで噂だがな」

「闇討ち・・・か」

凌斗の噂話、と銘打ったその話を聞いて透矢は難しい顔で考える。
今回も彼らは放課後の体育館に呼び出され、閉じ込めた上で退学を賭けたデュエルを強要したという。

デュエルの内容を聞くと、『化け物』の一言に尽きた。
エリートのブルー生徒の彼ら５人全員が１ターンキルで沈められたという。

ーーだがここで手がかりが１つ。
デュエル・キラーは風属性のデッキらしいとのこと。
男で風属性のデッキを操る者ーー。
だが全部で数百人にもなるこのアカデミア全生徒の中から、その条件だけで探すのは恐らく無理だろう。

「ーーでもさ。
その『闇討ち』に生徒会が加わってるならさ。
それは会長さんも認めてる、ってことか？」

透矢のその言葉に誰も答えない。
だが少し間を置いてから真希が口を開いた。

「ーーそうなるわね。
このアカデミアじゃ、生徒会長のーーいや、刹那の権力は絶対なのよ」

「先生たちも・・・何も言わないのか？」

「言わない・・・んじゃなくて、言えないのよ。
透矢、あんたも聞いたことあるでしょ？
刹那の家の事ーー」

「いいとこのお嬢さんなんだってな」

「刹那の家、神楽坂家はこのアカデミアにも支援してるって話だからね。
だから刹那にはなんにも言えないのよ」

「会長さん、それを知っててこんな事をするってのか？」

「多分・・・ね」

刹那と親交のある真希が、言いにくい事を語ってくれた。
だが透矢はあの刹那がそんなことをする人だろうか、と疑問に思う。
確かに厳しい雰囲気は感じるが、優しい一面も垣間見る女の子だがーー。

「遊戦名先輩ー、助けてくださいよー。
確かに俺たちも悪いことしたかもしんないけど、退学はあんまりですよ～」

「・・・」

「遊戦名先輩、流石さんを助けるために、生徒会大戦に参加してるんですよね？
そのついででいいですから、自分たちも助けてください！
お願いします、お願いします！」

プライドなどお構いなしに懇願してくる生徒たち。
確かにこの生徒会大戦は、凌斗を助けるために参加している。

だが透矢はその場では答えなかった。
いくら生徒会長とはいえ、そんなみだりに生徒を退学させたり復学させるのは、本当にいいのか、ということ。

そもそも現会長の刹那が、権力をかさにやり過ぎているのではないか、と透矢は思い始めていた。

ーー生徒会の『闇』。
会長・刹那の人間性がいまいち掴めないでいる透矢は、気持ちに迷いを抱くのだった。