デュエル・キラー現る③　作：はにわ

　
「ーー俺のターン、ドロー！」

デュエル・キラーのターン。
ドローして手札は５枚。
その５枚を改めてざっと見たデュエル・キラーは何かを確認したように頷き、そしてすぐに動いた。

「手札からモンスターを通常召喚！
『疾風の乙女（ハイソニック・レディ）』！」

先ず召喚されたモンスターは、白いフードつきのマントを羽織り、手に錫杖を握った小柄の緑色の髪の少女。
大人しそうな無害な人間の少女に見えるが、彼女が現れた瞬間にそこから流れる、身を切り裂くような風。
そして上に向かって尖った耳が、人間であることを否定している。

レベルは４、攻撃力は１１００だ。

（あ、あのモンスターは・・・！）

向かい合うブルー生徒はそのモンスターを見て、緊張の糸を身体に張り巡らせる。
『疾風の乙女』は別のモンスターを呼ぶ能力を持つ。
先の四人も、このモンスターを起点としたコンボで倒されている。

（だが、俺のリバース・カードは『激流葬』！
二体目が出てきたら一掃してやるぜ・・・）

ブルー生徒が不敵に笑みを浮かべる。

『激流葬』はモンスターが召喚された時に発動でき、フィールド上のモンスターを全て破壊する強力な罠カード。
もちろん今の疾風の乙女の召喚に対しても発動できるが、敢えてそれを見送る。

自分のモンスターが破壊されてしまうのも理由の１つだが、疾風の乙女のモンスターを呼ぶ効果にはコストが必要。
どうせならばそれを待ち、コストを無駄遣いさせてやろうとの腹積もりだ。

「・・・罠は発動しないのだな？」

デュエル・キラーが確かめた。
疾風の乙女が召喚されてから、すでに何拍かの間は置かれている。
それで動いてこないのだから、発動する罠は無し、と暗黙の了解で判断し、デュエルを進めるのが普通だ。

それを知りながら敢えて確かめたデュエル・キラーに対し、ブルー生徒は頷いて応える。

するとそうかーーと、デュエル・キラーの低い声。

「ーーならばお前の負けだ」

「なんだと？！」

「手札から速攻魔法！
『荒ぶる竜巻（マイティ・サイクロン）』を発動！」

挑発的な言葉と共に発動された『荒ぶる竜巻』ーー。
ブルー生徒の上空に、激しい雷を伴った黒雲が姿を現す。

「『荒ぶる竜巻』はフィールド上に鳥獣族モンスターが存在する場合に発動出来る速攻魔法。
フィールド上に存在する魔法・罠カード１枚を破壊する」

「ぐぁ？！し、しまった・・・！」

「お前のその最後のリバース・カードを破壊！」

デュエル・キラーがブルー生徒のリバース罠カードを指差すと、
黒雲が激しい動きを見せ始めるや、すぐにそれは大きくうねる風に、雷を帯びた渦となる。
回転するドライバーのように降り注いだそれは、そのリバース罠カードを粉々に砕いた。

「げ、激流葬が！」

「更に相手プレイヤーに８００ポイントのダメージを与える」

「ひぃっ！」

黒雲から一条の雷が降り注ぎ、ブルー生徒に直撃する。
それによってブルー生徒のライフは３２００まで削られた。

「激流葬か・・・ふ、欲を掻くからこういうことになる」

「く、くそ・・・！」

「では遠慮なくいかせてもらう！
疾風の乙女の効果！
手札の速攻魔法カードをコストに、デッキからレベル４以下の鳥獣族モンスター１体を特殊召喚する！」

こんなことならば『激流葬』を発動させておけばよかったーーと考えても後の祭り。
もはやデュエル・キラーの生み出す流れを止める事は出来ない。

疾風の乙女が手に持つ錫杖を掲げて、軽く振るうと、杖の先の３つの輪が触れあって音を鳴らす。
するとそこから風の流れが産み出され、やがてそれは渦となり、疾風の乙女の左横で意思を持つように回り出す。

「出でよ、『隼の乙女（レディ・オブ・ファング）』！」

手札の速攻魔法カードを犠牲に、デッキから新たに呼び出されたモンスター。
産み出された渦を鋭く切り裂くように現れた。
手足はまさに鳥のそれであり、腕からは大鷲のような翼が生えている。
特に両手の指が異常に大きく発達していて、指先の爪は鋭い鋼の刃物のように研ぎ澄まされている。
顔は黒く長い髪で顔を覆い隠すようにした美女であり、
その姿はあの有名なモンスターカード・『ハーピィ・レディ』に近いものがある。

レベルは４、攻撃力は１４００である。

「更に疾風の乙女が自身の効果でモンスターを特殊召喚した時、エンドフェイズまでそのモンスターの半分の攻撃力を加える！」

疾風の乙女の効果の続き。
特殊召喚したモンスターの攻撃力の半分を、自らの攻撃力に加える。
隼の乙女の攻撃力は１４００であり、その半分７００が加わって、疾風の乙女の攻撃力は１８００となった。

「そして『隼の乙女』の効果だ。
自分のレベルが４以下の鳥獣族モンスターを指定し、そのモンスターに『直接攻撃』の効果を与える！」

「ちょ、直接攻撃・・・？！」

「俺は疾風の乙女を指定！
これで疾風の乙女はこのターン、お前のモンスターを無視して直接攻撃出来る」

淀みない流れ。
ブルー生徒に妨害の手段がないため、言わば面白いようにコンボが決まる状態。
よって、直接攻撃の能力を得た疾風の乙女の攻撃を止めることも出来ない。

「バトル！
『疾風の乙女』でダイレクトアタック！
ーー『真空烈波斬』！」

バトルフェイズ。
デュエル・キラーの宣言に合わせて、疾風の乙女が錫杖をブルーの生徒に向けて突き出す。
すると今度は杖の先から、鋭い刃を為した力ある風が吹き荒れ、ブルー生徒を切り裂く。

「うぁあああぁ！」

疾風の乙女の攻撃力１８００がそのままライフを直撃。
３２００あったライフが一気に１４００まで減らされる。

「うぅ・・・っ、だ、だが直接攻撃は今ので終わりだよな？」

ブルー生徒が自らに仇なす風に耐えながら顔を上げる。
直接攻撃能力を得たのはあくまで疾風の乙女のみ。
隼の乙女にはその能力はない。
ならば戦闘破壊耐性を持つ『マシュマロン』で耐えれるはずだーー。

「・・・直接攻撃なら出来る。
お前のそのモンスターを退ければいいだけの話だ」

「そ、そんな・・・ま、まさかーー」

「手札から速攻魔法発動！
『双翼の爆風（ダブル・ウイング・エクスプロージョン）』！」

速攻魔法ーー。
伏せれば罠カードのように相手ターンでも発動でき、自分のターンならばバトルフェイズ中でも手札から発動できる、文字通り速攻能力を持つ魔法群。

バトルフェイズの最中、新たに発動されたのは『双翼の爆風』。

「自分フィールド上に鳥獣族モンスターが２体の時に発動可能！
その内のモンスター１体と、相手モンスター１体を破壊する！」

「や、やめてくれ・・・やめてくーー」

「疾風の乙女とその壁モンスターを破壊する！」

ブルー生徒の制止は届かない。

『双翼の爆風』が光を放つと、疾風の乙女は再び杖を構え、隼の乙女は両腕の翼で空中へと飛び上がる。
そして錫杖が光を放つと、裏側のモンスターを白く濁った空気の流れが包み込む。
そこへ隼の乙女が両手を大きく振るうと、細い渦を巻く風がまるで鞭のように壁モンスターへと襲いかかる。
すると渦が白く濁った空気に触れるや、大爆発を起こした。
爆発の元は分からないが、これが彼女たちの能力の１つか。

壁モンスター・『マシュマロン』はその姿をみせることなくフィールドから退き、同時に疾風の乙女も光となって場から消え去った。

「まだだ。
『双翼の爆風』によって破壊した相手モンスターの攻撃力か守備力、高い方の数値分のダメージを与える！」

「ま、マシュマロンの高い方の数値は守備力の５００・・・」

「その数値分のダメージを受けろ」

爆発の余波がプレイヤーにまでダメージを与える。
これで更にライフはマイナス５００、残りは９００。

そして忘れないでもらいたい。
まだバトルフェイズである。
加えて、隼の乙女はまだ攻撃をしていない。
更に決定的な事実として、今の壁モンスター撃退により、ブルー生徒の場はがら空きである。

「終わりだ。
隼の乙女でダイレクトアタック！
『鋭爪・無尽惨（えいそう・むじんざん）』！」

最後の攻撃命令が下された。
空中に留まっていた隼の乙女が、獣の鳴き声を上げながら、獲物に向かって急降下する。

「い、いやだぁああああ！！」

最後の叫びも空しく、隼の乙女の鋭い爪は容赦なくプレイヤーを切り裂いた。
隼の乙女の攻撃力は１４００。
残りライフ９００を過分に切り取っての終幕。

そしてこれはデュエル・キラーの後攻１ターン目。
すなわち『１ターンキル』である。
ブルー生徒は放心したように、その場で膝を折る。
１ターンキルされたのは彼だけではない。
先の四人も全員そうなった。

痩せても腐っても彼らはエリートのブルー生徒。
その５人全員をあっさり沈めたのは、恐るべきデュエル・キラーの実力ーー。

「ーー分かっただろう。
お前たちはこのアカデミアの風紀的にも・・・そして、実力的にも相応しくない」

「あ、あ・・・」

「ーー全員退学だ。
明日中に荷物を片付けてこのアカデミアから消え失せろ！」

その言葉が止めとなった。

もはや彼らは立ち上がれない。
デュエリストとして。

１ターンキルによる精神的ダメージは大きく、彼らはカードを見る度に今日のことを思い出す。

再起不能。
彼らはデュエル・キラーによって、文字通り『殺されたのだ』。

ーー地べたにひれ伏したままの５人を置いて、出口へと向かうデュエル・キラー。
そこで扉をある法則で叩いて合図を送ると、すぐに扉は開かれた。
そしてそこにいたのは会長・神楽坂刹那ーー。
出てきたデュエル・キラーを見るなり、小さく笑った。

「ーーお疲れ様。
『仕事』が早くて助かるわ」

「・・・」

「さすが『１ターンキルの“女王”』。
あなたの鮮やかなデュエルはいつも惚れ惚れさせられて・・・何より清々しい」

刹那が一回り背の高いデュエル・キラーに語りかける。
だがデュエル・キラーは何も話さない。
少しの間を置いた後、デュエル・キラーは刹那の横を通りすぎようとする。

「ーー覚悟は出来てるのかしら」

刹那のその一言に、足を止める。

「覚悟・・・？」

「そう。
もし、『彼』があなたの前に出てきたら・・・戦える？」

刹那の問いかけ。
デュエル・キラーはすぐには答えない。

「俺ーー私はデュエリストよ。
例え、アイツでも私の前に出てきたら・・・闘うわ。
本気で、ね」

デュエル・キラーが語りながら仮面を外した。
すると野太い男の声が変わり、口調と共に女性のそれと変わる。
仮面の下にある素顔、それはーー。

「頼もしいわね。
もっともあなたと闘うには、あと水花、炎魅子を倒さなくちゃならないからそう簡単には実現しないけど・・・」

「・・・刹那。
あんたは実現してほしいんでしょ」

「ふふ。
ごめんなさい。
地影を倒したんですもの。
あなたには悪いけど、嫌でも期待してしまうわ」

「悪い、なんて思わなくていいよ」

「あら？だって・・・」

「あたしだって本音は闘ってみたいのよ。
本気のアイツと・・・本気のあたしのデッキでね」

「ふふ・・・そう」

「デュエリストなら、強いやつと闘いたいと思うのは当然よ」

「同感」

二人は笑い声を重ねた。
アカデミア最強の二人。
神楽坂刹那と、もう一人。

自分たちの高みへと登ろうとする者、その到達を望むようにーー。