３ｒｄデュエル 秀才・地影の堅牢デッキ⑪　作：はにわ

ーー地影がドローしたカード『岩投げアタック』。
残りライフ２００の透矢に止めを刺せるカード。
すなわちこの瞬間、地影の勝利は確定したはずだった。

（このカードをセットして・・・ターンを終了。
次の遊戦名くんのドローと同時に発動すればーーまず、間違いなく私の勝ち）

地影は前に伏せたリバースカードを見る。
そのカードの存在を考えれば、『岩投げアタック』の発動を阻止される可能性は限りなく０に近い。

（ですが、このリバースは・・・そのために伏せたカードではない！
私がこのターン、戦って勝つためにーー）

ーーいや、違う。
このリバース・カードも、今引いた『岩投げアタック』を確実に通すためのもの。
それが地影のデュエルなのだ、とデッキは語りかけている。

地影はデッキを見ながら思いに馳せた。

（『エニグマン』を召喚しながらーーその攻撃を一度も通さぬまま、得られる勝利などーーどんな価値がある？）

地影は顔を横に振った。
デッキの語りかけを拒否するかのように。

（遊戦名くんも・・・私の攻撃を待っている！
私の『エニグマン』を倒そう、と策を張り巡らせーー）

透矢を見る。
自信に満ちた表情。

（これに応えずしてーー勝負を避けるような勝ち方をして、私はこの『エニグマン』の持ち主に相応しいと言えますか？
それに・・・それに、私は！）

地影はこの時決断した。
いや、決意は前のターンからしていた。
『岩投げアタック』の存在がその決意を揺らがせたが、再び地影は自分の正直な気持ちをこのデュエルに注ごうと決意した。

（私は・・・戦って勝つ！
それこそ、このデュエルのフィナーレに相応しくーーそして！）

「ーーバトルフェイズです！」

（『エニグマン』に・・・そして遊戦名くんに、私の全力で応えるためにーーっ！）

地影は宣言した。
戦って勝つ、という己の思いを貫くために。

「よっしゃあ、待ってたぜ！
さぁ、来い！朝霧！」

攻撃を待っているということを、もはや隠そうともしない透矢の声に地影は笑う。
ばか正直と言うべきか、清々しいというべきか。
地影はこのデュエルで初めて楽しそうに笑ったのだ。

「・・・遊戦名くん」

「お？どうした、朝霧」

「勝敗がどちらに転ぶか、その答えはこのバトルフェイズの結果が握っているのでしょう」

「そう、かもな」

「私がこのデッキを組んでから今日までーー。
淡々と同じことを繰り返し、そして勝つだけのデュエルに・・・私は空虚さを感じていたのかもしれません」

「朝霧・・・？」

「勝っても嬉しくない・・・まるでテストの解答欄を埋めていくような作業に、私は満足していなかった」

「う～ん・・・」

「ですが、さっきの久しぶりのバトル・・・。
攻撃は通りませんでしたが、私にとっては気持ちよかったのです。
ずっと縛り付けていたものを、こう・・・解放した気分にーー」

地影の語りに透矢は考え込むような姿勢を見せる。
どうにも反応に困っているような素振りだ。

「ごめんなさい、遊戦名くん。
いきなり自分のことペラペラと話されても困ってしまいますよね」

「いや、何て言うか難しい事はわかんねーけど、朝霧」

「はい」

「要は自分の思うようにデュエル出来ればいいんじゃないか？
自分が満足出来て、楽しめるデュエルってものをやれば、さ！」

透矢のその発言は、頭の中で彼なりに言葉を選んだ内容だった。
だがその言葉が地影の迷いを完全に打ち払った。

「ええ、そうさせていただきます！
この『エニグマン』の攻撃を通し、私がこのデュエルは制して見せますから！」

「へへーー、こちとらずっと待ってんだ！
さ、やれるもんならやってみろよ、っと！」

地影と透矢が笑い合う。
そして地影が勢いよく右手を突きだした。

「『エニグマン』で『ベアトリーチェ』を攻撃！
『終末の黒霧葬（こくむそう）』！」

『エニグマン』に攻撃命令が下され、再び周りを覆う黒い煙がベアトリーチェを襲う。
現状、エニグマンの攻撃力は０だが、その能力によりダメージステップの間は守備力４０００と入れ替わる。
透矢に何らかの策を打たなければ、敗北は必至だ。

「行くぜ！
罠カード発動！
『エフェクト・ブレイク』！」

透矢のリバースが発動する。

「モンスターが戦闘する時に発動！
このバトルフェイズ中、相手モンスターの効果を無効にする！」

（効果・・・無効！
パラメータに関するカードではありませんでしたかーー）

透矢が伏せていたカードは、地影の予想を外していた。
確かにエニグマンの効果を無効にしてしまえば、攻守は入れ替わらず、攻撃力０のままである。
そのまま戦闘になれば、ベアトリーチェの攻撃力２３００が地影の残りライフ１９００を直撃し、ライフを一気に０にする。

もはやバトルは止まらず、これが通れば透矢の勝ちだがーー。

「ーー抜かりなく！
カウンター罠カード！
『魔宮の賄賂』！」

「あぐっ！」

「相手の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊します！」

このデュエル、最初の方でも発動した『魔宮の賄賂』。
これが地影が敢えて前のターン、攻撃を見送らせた理由。
これを切り札に万全な態勢での攻撃を狙ったのだ。

透矢はこのカウンター罠カードを無効にする術はなく、逆に『エフェクト・ブレイク』が無効にされたのだった。

「遊戦名くん、『魔宮の賄賂』の効果でカードを１枚、ドローしてください」

「あ、ああ・・・」

『魔宮の賄賂』発動の代償として、透矢はこのタイミングでドローが許される。
だが透矢は半分観念したようにカードをドローした。
だが半分は諦めてはいない。
この最後のドローが、透矢の運命を分かつ。

ドローしたカードを透矢が見つめるーー。

「ダメージステップ！
エニグマンの攻守が入れ替わります！」

バトルはダメージステップへと入り、エニグマンの攻守は入れ替わった。
攻撃力４０００。
ベアトリーチェの攻撃力２３００を遥かに上回り、超過分が透矢へのダメージとなるのは言うまでもない。

（勝ったーー！）

地影は勝利を確信した。
透矢にもはや抵抗する手段はないはずーー。

ーーしかし、透矢の表情を見て、はっとなる。
彼の表情は負けを前にしたそれではない。
手に握られたドローカード。
この最後のドローカードは地影の想像を遥かに上回る流れを生むのだった。