真希の秘密　作：はにわ

　
ーー夕日の光が差し、電気の消えた教室をオレンジ色に染め上げている。
透矢はそこで真希を見つけた。
真希は窓辺で遠い目をしているが、透矢が来たことには気づいているようだ。
にも関わらず、動かない真希に透矢はゆっくり近づいていく。

「・・・真希」

「ーー透矢。
・・・ごめんね。
大声だしちゃって・・・」

「いや、それは、いいんだけど・・・さ。
その、なんつーか・・・」

透矢はさっきの真希の豹変ぶりが気になり、その理由を聞きたかった。
しかし何故かうまく言葉に出せない。

「ーー昔から・・・そうだったよね？」

「え？」

真希がようやく透矢の方へ振り返る。
穏やかな笑顔を見せつつーー。

「小さい頃・・・まだデュエルアカデミアじゃなくて、普通の小学校に通ってた頃から、透矢はデュエルがモンスターズが大好きで、デュエル仲間を大事にしてた」

「なんだよ、急に・・・」

「あたしもデュエルが大好きで・・・。
でも趣味が合わない他の女の子友達から爪弾きにされて、さ。
寂しくカードを握りしめてるあたしに話しかけてくれたのが・・・透矢だった」

「そんなこともあったっけな。
・・・って、だからどうしたんだよ、急にそんな話しだして」

小さい頃の話をし始めた真希。
透矢もその時の懐かしい思い出がうっすら頭に浮かびつつも、真希の意図が分からず、少し戸惑う。

「その内、千鶴ちゃんも加わって・・・三人でいつもデュエルするようになってさ」

「懐かしいな」

「あたしや千鶴ちゃんが、『女のくせにデュエルかよ』っとか言われて苛められた時も、真っ先に透矢が庇ってくれて・・・」

「真希・・・本当にどうしたんだよ」

目を閉じて、在りし日の思い出に浸るように真希が語り続ける。
しかし何故、今、そんな話が持ち出されるのか透矢には一向に分からずにいた。

「だからさ、つまり透矢にとってデュエルが好きな人はみんな仲間なんだよね！
あの流石みたいな奴でも、さ」

「真希・・・あのさ」

「ーーいいよ、もう止めたりしない。
透矢がどうしても流石を助けてあげたいなら、あたしも何も言わない。

ーーでも、その代わり、あたしは何も助けてあげられないけど」

真希が顎を引いて顔を伏せる。
透矢には分かっていた。
真希は何かやんごとなき事情を抱えていると。
そしてそれは恐らくーー。

「なぁ、真希？
あの会長さんや生徒会と何かあるのか？」

「・・・」

「何か、俺に隠し事してないか？」

「し、してないよ。
するわけないじゃない」

「真希・・・目を反らすなよ。
お前らしくねぇな。
何年も会ってなかったけどさ、お前が嘘ついてるかそうでないかぐらい分かるんだからな」

「そっか・・・分かるか、あはは・・・」

何かを隠しているーー透矢には確信があった。
ゆっくりと距離を詰めながら、そこを問い詰めると真希は乾いた笑いで、あっさり認めたような声を漏らした。

「なぁ・・・真希ーー」

「ーーねぇ透矢」

「え？」

更に距離を縮めながら問い詰めようとしたところ、真希がそれを待たずに語り出す。

「あたしね、透矢が帰ってきてくれて嬉しかった。
また・・・また３人で一緒にデュエル出来るから」

「そ、そりゃ、俺も嬉しいさ。
って何だよ・・・なんか照れるじゃねぇか」

「あたしは守りたいの。
いつまでも３人で一緒にいられるこの時間をーー」

「真希、何・・・言ってるんだ？」

「そのために・・・あたし、負けないから！」

透矢は一瞬、押された気がした。
真希が垣間見せたその『迫力』にーー。
まるで自分に対して、内の気迫をぶつけるようなその本気の眼差し。
それが何を意味するかは、当然透矢に分かるはずもない。

「透矢、今は何も聞かないで。
いつかきっと・・・話すときが来るから」

「いつか・・・って、今じゃ駄目なのか？」

真希が頷く。

「俺にも・・・話せないのか？」

「透矢・・・あんただから、よ」

「え？」

「お願い・・・今は、聞かないで」

泣き出しそうな真希の顔を見て、透矢はそれ以上何も聞けなかった。
一体真希は何を抱えて、何を自分に隠しているのか？

真希と生徒会。
一体、この間にどんな結び付きがあるというのか。

透矢はこの生徒会大戦に挑むと決まったその時から、既にある運命を背負っていた。
すなわちそれはーー幼馴染みの見えざる悲しみと葛藤。

そこにある真実を知るという事をーー。