２ｎｄデュエル流石再び！次元竜の侵攻！⑩　作：はにわ

　
ーー注目のドロー。
手を後ろに向かって大きく振り上げるようにして引いてきたカード。
透矢は緊張の面持ちでそのカードを見た。
その瞬間、透矢の笑顔は歓喜に包まれ、観客席に向かってそのカードを向ける。

「ーーやったぜ、千鶴！
お前がくれたカードが来たぜ！」

遠く観客席に座る千鶴に向かってガッツポーズを決める透矢。
当然、一同の視線が千鶴に向けられる。
ただ千鶴は突然、デュエルの最中の透矢に呼ばれて、困惑しているようだ。

「もらったカード・・・だと？」

「へへ、引けたぜ、流石！
俺の勝利へのキーカードがな」

「勝利・・・だと？
馬鹿め、この状況で貴様がどうやって勝つというんだ？」

「それが出来ちまうんだな。
このカードが、次元に消えた戦士の魂を取り戻してくれる」

「な、何を言ってる・・・」

透矢の自信の深さに、必勝を信じて疑わない凌斗の気持ちが揺れる。
この状況をたったの１枚のカードが逆転へと導くというのか。

「千鶴、お前がくれたカード、使わせてもらうぜ！
速攻魔法、『異次元からの埋葬』発動！」

「異次元からの埋葬、だと？！」

「このカードは除外されているモンスターを３枚まで選び、墓地に戻せるカードだ。
俺はその効果により、『蒼き槍迅』を３枚、墓地へ戻すぜ！」

透矢は千鶴がくれたカードの力を借りて、除外された蒼き槍迅３枚を墓地へ入れる。
今まで墓地にはモンスターカードは１枚も置かれずに除外されてきたが、これによりようやく蒼き槍迅は眠るべき地に戻った、と言える。

そして除外カードが減ったことで次元竜の攻撃力もダウン。
エンパイアは４６００に、レギアは２５００となる。

「そんなモンスターを墓地に戻して、何をするつもりだ！」

「へっへー、ようやく三騎士の魂が墓地に行けたんだよ。
それも同じ戦士が３枚、な？」

「ば、馬鹿な・・・ま、まさか！」

「俺は更に速攻魔法発動！
『トライ・フォーメーション』！」

透矢が更に発動させた魔法カード、『トライ・フォーメーション』。
１ターン前にドローしたこのカードこそが切り札。
Ｔ・Ｆ召喚のサポートをしてくれるカードである。

「このカードは墓地にＴ・Ｆモンスターの素材となるモンスターが、墓地に３枚揃っている時に発動！
その３枚を素材とするＴ・Ｆモンスターを特殊召喚する！」

「なにぃ！？」

「俺の墓地にいるのは『蒼き槍迅』が３枚。
三騎士の魂を束ね、今また、伝説の戦士を呼び出す！」

墓地にいる蒼き槍迅が墓地から姿を現し、それが３本の青い光の柱となって天へ突き抜ける。

「トライ・フォース・ユニオン！
フォーメーション・“フィーア”！」

透矢の声にあわせて、３本の光の柱が中央で重なり、それが弾けるようにして目映い光が放たれる。

「緩やかに、そして力強く波打つ青き水のせせらぎ！
その永久に絶えることない心を切っ先に変え、今こそ目覚めろ！」

目映い光の中から水の滴のようなものが無数に吹き出し、その光の中から現れたのは、蒼き槍迅の真の姿。

「Ｔ・Ｆ召喚！
『蒼迅麗華（そうじんれいか） リューゼリッド』！」

身長の倍近くに伸びた三又の槍を振り払い、その姿を見せた『リューゼリッド』。
青い髪の先が水のように身体を取り巻き、足元からは波しぶきのような波動が絶え間なく吹き上がっている。

つぶらな瞳が冷ややかに敵を捉え、片手に構えた三又の槍を真っ直ぐ敵に向けたその姿は、静かな雰囲気の中に力強さも感じさせる。

攻撃力は１９００。
パラメーターには変動はない。

「リューゼリッドの効果！
リューゼリッドの攻撃力は、相手フィールド上に存在する元々の攻撃力が一番高いモンスターの半分の数値だけアップするぜ！」

「お、俺の場の元々の攻撃力が一番高いモンスターは、エンパイアの２０００・・・」

「そう。
つまり１０００アップだな」

リューゼリッドの攻撃力が一気に２９００に跳ね上がる。
エンパイアの現在の攻撃力は４６００だが、参照にするのは元々の数値なため、上昇値はエンパイアの本来の攻撃力２０００の半分、１０００となった。

「だ、だが、その程度では俺のエンパイアには遠く及ばん！」

攻撃力が上がったとはいえ、エンパイアには遠く及ばない。
レギアは倒せるだろうが、与えるダメージは大したことはなく、
それどころかエンパイアの攻撃力アップの手助けになりかねない。

だがリューゼリッドの力はこれだけではない。

「へへ、悪いな、流石！
次元竜の弱点、突かせてもらうぜ！」

「じゃ、弱点だと？！」

「リューゼリッドのモンスター効果、発動！」

透矢が宣言し、墓地の『蒼き槍迅』１枚をデッキに戻す。
それを受けて、リューゼリッドが動いた。
特に気合いの一喝を上げるわけでもなく、あくまで静かな振る舞いのリューゼリッド。
しかし両手に持った槍を頭上で振り回し始めると、その切っ先から溢れたら大小の水滴がエンパイアに向かう。
その水滴がエンパイアに周りを回り始める。

「な、何の真似だ、これは！」

「リューゼリッドの効果。
墓地の『蒼き槍迅』をデッキに戻すことで、相手モンスター１体を守備表示にするんだ」

「しゅ、守備表示だと！」

まとわりつく水滴が他の水滴同士で結合して大きくなり、やがてそれが１つの巨大な水滴となり、エンパイアを閉じ込めてしまう。
そして不意に弾け、四方から降り注いだ水。
それにはリューゼリッドの力が込められているのか、浴びたエンパイアは苦しむように声を上げながら弱々しい姿勢になる。

「守備・・・表示？
そ、そんな、エンパイアの守備力は・・・０・・・」

「それだけじゃないぜ。
この効果を使ったターン、リューゼリッドは貫通効果を得るんだよな」

「な、なぁあにぃいいいっ？！」

凌斗が思わず轟いた。
無理もない。
この後に待ち受ける結末が見えてしまったのだ。
急転直下、自らの敗北の結末が。

「バトル、フェイズだ！
リューゼリッドでエンパイアを攻撃！
疾槍術、四の型奥義！『龍星衝（りゅうせいしょう）』！」

デュエルの終幕を告げる攻撃宣言ーー。
リューゼリッドは溜めるように少し身体を沈ませると、一気に地を蹴って高く飛び上がった。
巨大なエンパイアをはるか高くから見下ろすと、手に持つ槍を凄まじい勢いで放った。

それが一気にエンパイアの身体に突き刺さると、エンパイアの身体が膨れ上がったと思いきや、瞬時に爆散ーー。
そこから吹き出た水が昇り竜を象り、それがリューゼリッドへと還っていく。
彼女は何気なくそれを掴むようにすると、その手には三又の槍が回帰していた。

断末魔の悲鳴すら許さぬ一瞬の一撃。
最強の次元竜を事も無げに葬ったのだった。

「そ、そんな・・・お、俺のエンパイアが・・・。
こ、こんな・・・こんなことが・・・」

膝を付く凌斗。
攻撃力２９００に貫通効果を持ったリューゼリッド。
対してエンパイアの守備力はーー０。
すなわちその攻撃力がそのままダメージとなり、凌斗のライフは一気に０。

透矢の勝利。
舞い戻ってきたリューゼリッドに、透矢は笑顔を向ける。

「ーー助かったぜ！
また次もよろしくな」

声をかけられたリューゼリッド。
だが特にそれに応える様子もなく、ふん、と一息鳴らしてデュエルディスクへと戻っていった。
素っ気ない態度を取られた透矢だったが、穏やかな笑みを浮かべたままリューゼリッドのカードをそっと撫でる。

「ーーソレマデ、デスわ！
トーヤの勝ち、デスの！」

「いぇえええーーい！」

クロエの正式な決着の声が上がり、透矢は飛び上がるように喜びに震える。
観客たちもまさかの結果に声を響かせ、勝った透矢に称賛の嵐。

そう、レッドの透矢が再びブルーの凌斗を下したのだ。
それも実技試験、という正式な場で。
そしてこの勝者と敗者が、これからまるで対称的な道を辿る事となる。