２ｎｄデュエル流石再び！次元竜の侵攻！③　作：はにわ

　
ーーアカデミア体育館。
場内の四方に設けられている観客席で欠伸をしていた透矢。
その彼の元に、見慣れた二人が駆け寄ってきた。

「ーーよぉ、真希、千鶴、お疲れさま、だな！」

「やっほー、透矢！」

「お兄ちゃん・・・」

「その嬉しそうな顔は・・・二人とも勝ったんだな？」

透矢が聞くと真希がＶサインを繰り出し、それを真似するように千鶴も小さく同じ指の形で応えた。

「千鶴ちゃん、ラー・イエローの生徒に勝ったんでしょ？
凄いじゃない！」

「本当か、やったなー、千鶴！」

「たまたま・・・引きたいカードがいっぱい引けて・・・。
最近、凄く調子がいいの」

兄、姉と慕う二人に誉められて、照れながらも嬉しそうに笑う千鶴。
そんな千鶴を見て、透矢と真希も顔を見合わせて笑い合う。

「真希の方は？」

「あたし？あたしはダメ。
最後に引けたから勝ったようなもので、内容はサイアク」

「ふーん、そうなのか？
そういや、お前のデッキって練習の時と同じ？」

「うん、ライトロードよ」

「うーん・・・」

「何よ、うーんって」

「いや、お前のデッキさ。
確か昔は、ハーピィ使ってなかったっけ？」

「あはは、懐かしい！
覚えててくれたんだ！」

「そりゃあ、よく負かされたからな。
でさ、ずっと気になってたんだけどそのデッキはやめたのか？」

「え・・・ま、まぁ、そうね。
ほ、ほら、やっぱり昔の話だし、時代の流れに合わせた方がいいかな、って」

「なるほどな・・・確かに昔から、対応力の強かったお前らしいっちゃらしいな」

ふと気になっていたことを聞いた透矢だったが、真希のその答えを聞いて納得するように頷く。
しかし普段は何でもはきはきと答える性格の真希が一瞬、狼狽しながら声を詰まらせたのが少し気になったようだ。

「あ、あの、お兄ちゃんの試験は？」

「そ、そうよ、あんたこそどうしたのよ」

千鶴が透矢に訊くと、真希がそれに続く。

「それがさー、クロエ先生に待ってろって言われてさ。
ずっとここで待ってんだけど・・・」

「クロエ先生に？」

「ああ。
お陰で真希や千鶴のデュエルも見に行けなくってさ。
ここでみんなのデュエル眺めてたんだけど・・・」

「でももうそろそろ、みんな、自分の試験終わっちゃいそうね」

「クロエ先生、忘れてんじゃないのか？」

「まさか、そんなことないでしょ」

「ああー、早くデュエルがしたいぜ！」

どうやら待ちぼうけをくらっているらしく、既にデュエル・ディスクも付けて臨戦態勢の彼にはもどかしい気持ちのようだ。
だが真希の言うように他の生徒たちは続々と自身の試験を終えて、デュエル場には空きがちらほら見え始めている。
空いてるならなぜそこを使って始めないのか、透矢が忘れられてるのではないか、と邪推するのも分からなくもない。

「ーー遊戦名くん、こんにちは」

「へ？あ、会長さん！」

「わ、わわ・・・か、神楽坂会長さん！」

「・・・刹那？」

ーーそこへ姿を見せたのはこのアカデミアの有名人、生徒会長・神楽坂刹那である。
わざとらしく柔らかい金髪をなびかせる姿は、そうと知りつつもやはり優雅である。

「ふふ、あなたたち、仲が良いのね。
いつも一緒にいるじゃない」

「ま、幼なじみだからさ」

「そういう関係、うらやましいわ、真希。
とてもあなたたちの輪に入っていくなんて出来ないもの」

「なによ、別に気にしなくていいのよ？
あたしたち、友達なんだから」

真希と刹那が語らう。
何気ない光景ではあるが、刹那とこんな風に話せるのは真希が数少ない一人だ。
真希と刹那、そして透矢は同学年だが、たとえ同学年でもやはり刹那が相手では皆、どこか頭を低くして話す印象である。
千鶴に至ってはもはや緊張で声が出ないようである。

「会長はどうだった？試験」

透矢も真希のように普通に語りかける。
彼の場合、このアカデミアに来て日が浅いということもあるが、どちらかといえば性格だろう。

「うふふ・・・私は試験は受けてないの」

「へ？受けてない、って？」

「あ、そっか。
透矢はまだ知らないんだね。
生徒会長は実技試験免除、という特権があるの」

真希が刹那に代わって教えてくれる。
そう、成績に最も重要な実技試験が生徒会長は免除なのだ。
もちろん、ただ免除というわけでなく、最高の成績をとった扱いである。

「そうなんだ。
でもそれじゃ、この時間、退屈だな？」

「そうなの。
私もたまには思いっきりデュエルがしてみたいのだけど」

「たまには・・・って、普段はしてないのか？」

「ええ・・・会長なんて、忙しいだけでつまらないわ」

「あはは、刹那ったらぶっちゃけすぎ」

透矢の横に座り、話す刹那はいつもの近寄りがたい雰囲気はない。
透矢と刹那は友人と呼ぶにも微妙な関係だが、刹那は透矢を見かけるとこうして積極的に話しかけている。

「なんならさ、今、俺とデュエルしないか？
待ちぼうけをくらって、暇なんだよ」

「あら、待ちぼうけって？」

「クロエ先生がさ、ここで待ってろ、って言うんだけどさ。
それからずっと何のアクションもないんだよ」

「うふふ、それは気の毒ね。
そうね・・・それじゃやりましょうか」

「ちょ、刹那！？」

普通に応じた刹那。
しかしそれに真希がどこか過剰に反応を示した。
まるでデュエルなどとんでもない、とでも言いたげだ。

「ーーWｏw、トーヤ！
オ待タセ、シチャイマシタ、デスの！」

そこへようやく現れた待ち人、クロエ。
相変わらずの片言喋りで、透矢の元へ駆け寄ってくる。

「おそいよ、先生！」

「Ｏh、ソーリー！
色々、調整ニ手間取ッタ、デスわ」

「くすくす・・・ありがとうございます、先生」

思わず声をあげる透矢に、クロエが
そう弁明すると刹那がそんなことを言った。
するとクロエも何かの目配せで刹那に応えている。
それは透矢にも分かったが、何を意味するかまではさすがに分からない。

「Ｈｅｙ、トーヤ。
ヨウヤク、準備ガ出来マシタ、デスの。
でゅえる場にハリー、デスわ！」

「あ、はい、分かりました！」

「ふふ・・・また、お預け、ね。透矢くん」

「ああ、また今度な」

「ええ。頑張ってね。
ここで応援してるわ、透矢くん」

「んじゃ、真希、千鶴！」

「オッケー、頑張りなさいよ！」

「お、お兄ちゃん、ファイト！」

クロエに引っ張られるようにしながら、透矢はまず刹那に言ったあと、その後で二人にも出発を告げると、明るく送り出してくれた。

ーーようやく自分の番が回ってきた。
今日はどんな相手なのか。
透矢はそんなことばかりを考えていて、一緒に向かうクロエには、遅れた理由を一切尋ねたりはしなかった。

そうして観客席からデュエル場へ下りてきた透矢。
するといつの間に変わったのか、広いデュエル場の中央に、大きなリングが準備されていた。
そのリングは普段は使わず、大きなイベントデュエルで使用するものである。

試験のためにデュエルしていた者たちもいなくなっており、デュエル場には透矢とクロエ、そしてーー。

「待ちわびたぞ、遊戦名 透矢！」

「お、流石じゃん！」

デュエルリングの相手側に立つのは流石凌斗。
腕を組み、自信に道溢れた顔で透矢を見下そうとしている。
一方、透矢は駆け足でデュエルリングに昇ると、凌斗に笑顔を向ける。

「ーーよぉ、今日はお前が相手なのか？」

「ああ、見ての通りだ。
今日は俺の本気のデッキで、貴様を叩き潰す！」

「うっひょー、すげぇ！
こんなでっかいデュエルリングで、お前みたいな強い奴とデュエルなんて、ちょー燃えるぜ！」

「はん・・・」

透矢は始めての体験に既にテンションは最高潮。
それを冷ややかに見る相手の凌斗。
だが凌斗の内にも、既に煮えたぎる思いが弾ける寸前である。

「なぁ、先生！
早く始めてくれよ！」

「Ｏh、チョット待ッテ下サーイ、デスの。
トーヤくん、カチカチ、デスわ」

「それを言うなら、せっかち、だろ！
散々待ったんだからな、急いでくれよ！」

どうやらクロエがこのデュエルの成績をつけるようである。
デュエルリングの側で、備え付けのコンピューターや、自前の携帯端末を使って準備しているが、透矢がそれを急かしてくる。

「今回は前のようにはいかんぞ。
俺はお前にリベンジ出来る、この日をずっと待っていたんだ！」

「オッケー、オッケー！
でも、そんな簡単にはリベンジさせねぇぜ？」

「くく・・・今に思い知らせてやる」

透矢と凌斗の互いに異なる意志が交差する。
一方は強い人とデュエル出来る楽しみ、喜び。
一方は格下に負けた悔恨、雪辱を胸に。

「お、オ待タセ、シマシタ、デスわ！
二人トモ、正々堂々、力ヲ出シ切ッテ、頑張ッテ下サーイ、デスの！」

「おっしゃあ、行くぜ！」

「来い！」

『ーーデュエルっ！』

透矢と凌斗の因縁の戦い。
それがいよいよ火蓋が切って落とされたーー。