１sｔデュエル トライ・フォース！①　作：はにわ

　
「ーーここがデュエル・アカデミア帝都校か・・・」

赤い制服・黄色い制服、そして青の制服。
そのいずれかの制服に身を包んだ生徒たちによって、カラフルに彩られるアカデミアの門前。
ここはデュエル・アカデミア帝都校。
日本の各地に点在するアカデミアの中でも、特に優れた実力を持つ者が集う言わばエリート校。

今日から転入という運びとなった彼の者、遊戦名（ゆせな）透矢（とうや）は赤い制服に身を包み、門前からキャンパスを通じてそびえ立つ、アカデミアの姿を眺めていた。

そのいかにもおのぼりさん、という様子から、周囲の視線を集めてしまっている透矢。
当の本人はそんな熱い視線をものともせず、しばらく門前で立ちつくしていた。

「最強クラスのデュエリストが集まるアカデミア。
俺の実力・・・デッキでどこまでやれるか・・・」

透矢はそんな独り言を呟きながら、大切なカードデッキの入った鞄の持ち手を握る指に、徐々に力を込める。

「ーー今から楽しみだぜっっ！！」

気合い一喝。
登校する同じ学舎の生徒たちを思わず飛び退かせた。
そして意気揚々とアカデミアの門を潜る透矢の姿を、周囲の者たちは異端の目で見送るのだった。

ーーそうしてアカデミアのキャンパスにまず足を踏み出した透矢。
大きな道の中央に円形の噴水、その道の脇に植え付けられた緑の木々と庭園。
他の生徒を押し退けて駆け抜けていく透矢だったが、噴水を通りすぎたところで、彼の目に飛び込んできた、その光景。

校門側からは噴水に遮られて分からなかったが、ある一団が道の場所を大きく陣取り、その傍らに一人の女子生徒が尻餅をついている。

透矢がその場所へと近付いていくと、徐々のその喧騒がはっきりとした声となって耳が捉え始める。
もちろん初めて来たばかりの透矢には事情など分かる由もないが、どうやら尻餅を着いた女子生徒が数人のグループに虐げられているようである。

女子生徒は赤い制服。
グループの方は全員が青い制服だ。

「（・・・んだよ、ブルーの生徒がレッドをいじめてる、ってか？
ったく、どこのアカデミアも似たような奴がいるんだな）」

透矢は記憶に重なるその光景に、不快をあらわにする。
アカデミアの三つの制服の色、すなわちオシリスレッド・ラーイエロー・オベリスクブルー。
これらの色分けは成績によって区別され、成績の良い順にブルー、イエロー、レッドとなっている。
ブルーの生徒は言わば優秀組、と言われる者たちだが、中にはそれを嵩にかけて、下位のイエロー、レッドに対して高圧的な態度を取る者がいる。

見て見ぬふりをして通りすぎる者もあれば、面白おかしそうに眺める者もいる。
透矢はそんな有りように更に不快感を増し、一団へと近付いていく。

するとふと、いじめられている女子生徒の顔が透矢の目に入った。

「ん・・・？
あれ、お前ひょっとして・・・」

「え・・・？」

透矢が場の空気に構わず千鶴に駆け寄ると、女子生徒は泣きそうな表情を透矢に向けた。

「やっぱり！
千鶴、千鶴じゃねぇか！」

「え、え？」

「何だよ、忘れちまったのか？
小さい頃、一緒に遊んだだろ？
俺だよ、透矢だよ」

一方的に声をまくし立てる透矢に、状況が状況なだけか混乱するだけの女子生徒。
だがやがて透矢の顔を見続ける中で、ようやく彼女の古い記憶が其を呼び覚ました。

「と、透矢・・・お兄ちゃん？」

「そうそう！
はははっ、懐かしいなぁ！」

思い出した千鶴という名前の女子生徒。
どうやらお互い久しぶりに会ったらしく、透矢は嬉しそうに屈託のない笑顔を見せている。
だが千鶴は置かれている状況故に、透矢のように再会に対する気持ちを何ら表現できない。

すると一団の一人が透矢に向かって荒々しい声を投げつけた。
その声に続いて一人、また一人と透矢を威嚇する。

しかし透矢は怯む様子もなく、千鶴の前に立ち、一団に正面から向かい合った。

「千鶴は俺の小さい頃からの知り合いだ。
事情は分からねぇけど、数人がかりで何かしようっていうなら、俺も黙ってないぜ！」

啖呵を切るように透矢が言うと、一団の生徒たちもいきり立ち、両雄の距離が更に縮まる。

「ーー待て！」

一触即発の状況を制したその声。
一団の中を掻き分けて出てきた一人の男女生徒。
身長は透矢とほぼ同じだが、見下ろそうとするように顎を上げている。

「なんだ、お前は？
見ない顔だな？」

「お前こそ、誰だよ」

「はん、俺様を知らないのか？」

「悪いけど、今日、このアカデミアに転入してきたばかりなんだ」

「なるほど・・・」

前に出ていた者たちがその男子生徒の後ろに控えるように立つ。
一団のリーダー的存在なのだろうか、その生徒が透矢の話を聞くと下を向きつつ小さく笑い声を漏らしながら頷く。

「だったら覚えとけっ！
俺様はこのアカデミア帝都校のオベリスクブルーのトップ、流石凌斗（さすが りょうと）様だ！」

大きく胸を反らすようにして名乗りを上げるその生徒。
すると一団が一斉に歓声を上げる。
どうやらこの一団はこの凌斗なる生徒をリーダーに、他のメンバーが彼の取り巻きの如く付き従っているようだ。

一団の大袈裟な反応もその関係故だが、意外にも透矢まで彼の言葉を聞いて不意に気持ちを舞い上がらせたような表情を向けた。

「オベリスクブルーのトップ・・・ってことはあんた、この学園で一番強い、ってことか！」

「ま、そういうことだな」

「ひゃあっ！
初めてのアカデミア、いきなりトップに会えるなんてな！
あ、俺、遊戦名透矢って言うんだ。よろしくな、流石！」

嬉しそうな笑顔を見せながら肩を叩いてくる透矢の反応が意外だったのか、凌斗は少し気押されたかのように後ずさる。

「え、ええい、気安く触るな、オシリスレッドごときが！」

「何だよ、俺たち同じアカデミアの仲間だろ？」

肩に乗せた手を振り払う凌斗に、屈託のない笑顔を見せる透矢。
すると凌斗はまるで無知な人間を哀れむような視線で笑みを浮かべる。

「はっ。
いくら同じアカデミアの生徒でも俺は由緒正しきブルーの生徒。
お前らは落ちこぼれのレッドだろうが！
少しは分をわきまえるんだな！」

胸を張る凌斗の後ろから取り巻きたちがその声に続く。
透矢は頭を掻きながらつまらなさそうに唇を尖らせた。

「ちぇ、何だよそれ。
ブルーとかレッドとか関係ないじゃん。
お互い、同じゲームを好きな者同士でさ、楽しんだ方がいいと思うぜ」

「ははははっ！
そんな甘ったれたことを言ってるからお前たちはいつまでもレッドのままなんだ！
趣味程度にしか思ってないお前たちにこのアカデミアに居場所なんてねぇんだよ」

「そんなこと、お前に言われる筋合いはないだろ」

「忠告してやってんだ。
そこの女も未だに一勝も出来ない落ちこぼれ中の落ちこぼれだ。
とっととやめちまった方が、惨めな思いしなくて済むぜ？」

凌斗の言葉が突き刺さり、千鶴が顔を伏せる。
一時は友好的になっていた透矢も再び表情を険しくさせる。

「何でそんな酷いことが言えんだよ。
千鶴に謝れ」

「謝れ、だと？
笑わせんな」

「この野郎っ！」

「どうしても謝らせたいなら・・・デュエルで俺に勝ってみろ」

「デュエル・・・？」

「俺に勝てたら土下座でも何でもしてやるよ。
その代わり負けたら、とっととこのアカデミアから出ていくんだな！」

凌斗から不意に切り出されたデュエル。
取り巻きたちが透矢を汚い言葉で煽る。

「ーー分かったよ、デュエル、受けて立つぜ！」

「透矢お兄ちゃん！？」

「決まりだな・・・よし、場所を空けろっ！」

場の勢いに押されたかのように、透矢はデュエルに応じた。
千鶴のまさか、という反応と同時に
凌斗の声かけ１つで取り巻きたちが動いて場所を空けさせる。

やがて充分に広さを確保したキャンパスの道で、透矢と凌斗が向き合った。

「と、透矢お兄ちゃん、駄目！
あの人、凄く強いのにーー」

「大丈夫だよ、俺に任せとけって」

「お兄ちゃん・・・」

千鶴の制止を聞かず、透矢は鞄からデュエルディスクを取りだし、それを左手に装着する。
その頃、凌斗は既に準備を済ませているらしく、腕を組んで既に勝ち誇ったような表情で透矢を見据えている。

その透矢はカードデッキを右手に持ったまま、しばらくそれを見つめていた。

「新しい俺のデッキ・・・初出陣だな。
頼むぜ、俺のデッキ！」

自らに気合いを込めるようにデッキに語りかけたあと、デュエルディスクを勢いよくそれを納める。
そして向き合った両雄は、足を広げて立ち、雄々しい佇まいで互いの視線を合わせた。

『ーーデュエルっ！！』

そして二人、声を合わせて告げられた開始の狼煙。
キャンパスでのデュエル、それも一方はブルートップを名乗る流石凌斗ということで、生徒たちはその一戦を見守るべく足を止める。
更に増え行くギャラリーの中、二人の戦いの火蓋は切られた。

「ーーくす、どんなデュエルになるか、楽しみね」

ーーキャンパスの脇、木陰。
一人、身を隠すようにしてこのデュエルを見守ろうとする者がいた。

学園にこの人ありと言われたその生徒の存在。

神楽坂刹那（かぐらざか せつな）ーー。

笑みを浮かべつつも、その鋭く研ぎ澄まされた視線が、透矢を見据えていた。