OtP03　Dirge　作：Ales

　「つくづく思うけどさ。」

　少しずつ記憶を紐解きながら話していた遊貴に、渡し守が声を掛けた。

　「君は本当に損な役回りばっかり背負ってたんだね。」
　「そう、かな……？そうなんだろうけど、私にはあまり実感がないというか、成るようになってこうなったとしか言い様がないから……」

　遊貴はどこか他人事のように返した。実際彼女は巻き込まれただけであり、そこに感情を挟む余地はないと考えていたのだ。

　「でもさ、こう辛いこととか嫌なことばっかり続くと、悪いことばっかり考えたりしない？」


　―まるで自分が、世界で一番不幸な人間になったみたいに。


　遊貴はその言葉を理解するまでに、暫しの時間を要した。

　「……両親を失うよりも不幸な体験をしたことはないから。その不幸だって、家族まるまるって訳じゃない。辛いことは辛いけれど、世界中どこでだってそんなことは起こってるだろうし、私自身を不幸な人間の枠に当てはめるのは違う気がする。」
　「そっか。」

　渡し守は驚いた様子でそう返した。

　「君は本当に強い子だね。」
　「色々経験しちゃったから、かな……」
　「しちゃった、って辺りが嫌みっぽいけどね。」

　実際に嫌みを言ったつもりであるが、それを指摘するほど遊貴も野暮ではない。そっかそっかと呟きながら頭を撫でてくる彼女の膝の上で、次の記憶を手繰り寄せた。





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　「成程、ベヒーモスのリンク先があったか。だが攻撃力2000では相討ちが関の山だ。ここをどうする？」

　光が竜に収束し終えた頃合いに、覇王が問うた。

　「……ホワイト・ボディの効果発動、このカードのシンクロ召喚に成功した時、デッキから「メタフィジカ」モンスターを特殊召喚できる。《メタフィジカ・ドラゴン―シニス》を特殊召喚、こっちの効果も発動してデッキから《メタフィジカ・ドラゴン―ニクス》を特殊召喚。」

　遊貴は構わずに展開を続けた。警戒だけは怠らず、まるで長い耳をぴんと立てるウサギのようでもある。

　「自身以外の効果で特殊召喚に成功したニクスの効果、デッキから《メタフィジカ・ドラゴン―グラシエス》を手札に加える。そのままグラシエスを通常召喚、ホワイト・ボディの効果で特殊召喚したモンスターはレベル２のチューナーとして扱うことが出来る……レベル４の《メタフィジカ・ドラゴン―ニクス》に、レベル２となった《メタフィジカ・ドラゴン―シニス》をチューニング。‘‘迅雷の竜、彼方より飛び来たりて敵を打ち砕け。’’シンクロ召喚、《メタフィジカ・ドラゴン―トニトルス》！」

　呼び声に呼応するように一条の稲妻が走ると、落ちた先に雷を帯びた竜が現れた。

　「シンクロ召喚に成功したトニトルスの効果を発動、フィールドの魔法・罠カードを２枚まで破壊する。セットカードと《覇王の征地》を選択する……」
　「通そう。」

　竜の息吹から雷撃が走ると、瞬く間に２枚のカードを弾き飛ばした。フィールド魔法を失った戦場はやがて、遊貴の出した満天の星空へと姿を変えた。

　「レベル６の《メタフィジカ・ドラゴン―トニトルス》と《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ホワイト・ボディ》をオーバーレイ、２体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……‘‘世界を創りし漆黒の龍神、我が前に来たりて敵を打ち破れ’’エクシーズ召喚、ランク６《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ》！」

　黒鎧の騎士にも負けぬ黒を纏った巨竜が羽ばたき、遊貴の目の前に舞い降りた。

　「ほう、エクシーズ召喚も用いるか……だがその程度で耐えきれるか？」

　やはり余裕を失わない覇王を無視し、遊貴は次の一手を考えていた。

　（一掃することは出来るけど……そうするとペンデュラム召喚できるようになってしまう。あ、でもリンクマーカーがなくなるから、それ自体に問題がなくなる訳か……）

　エクストラデッキから特殊召喚されるモンスターはエクストラモンスターゾーンまたはリンクモンスターのリンク先にしか置くことが出来ない。これはペンデュラム召喚であっても例外ではなく、これによりペンデュラム召喚自体が相当な弱体化を受けてしまっているのだ。《覇王門零》と《覇王門無限》の２枚がペンデュラムゾーンにあるのは驚異だが、それでもどうにかなる。遊貴はそう考えて次の一手を打った。

　「「メタフィジカ」モンスターの特殊召喚に成功した時にグラシエスの効果を発動、デッキから１枚ドロー。墓地のネブラの効果、自身を除外してフィールド上のモンスター１体を手札に戻す。リヴァイアサンを選択する。」
　「成る程、それでフィールドを開けられた、ということか……だが、そう上手くいくか？」

　遊貴の墓地から発生した巨大な雲に覆われ、海竜が姿を消した。

　「バトルフェイズ、《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ》で《覇王眷獣ベヒーモス》を攻撃。‘‘ディスカバー・フォーチュン’’！」


《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ》　ATK：2500　　ATK：2000　《覇王眷獣ベヒーモス》
　覇王　LP：8000　→　7500


　「ふっ、利かぬな。」

　本当に何でもないように嘲る覇王を前に、遊貴は迷わず次の一手に移る。

　「《メタフィジカ・ドラゴン―グラシエス》でダイレクトアタック。‘‘アイシクルレイ’’！」
　「おっと、まだベヒーモスの効果処理が終わっていないぞ……」
　「え……？」

　覇王の言葉に、遊貴は奇妙なデジャヴを感じて硬直した。

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《覇王眷獣ベヒーモス》
リンク・効果モンスター
リンク２/闇属性/獣族/攻2400
【リンクマーカー：上/下】
「覇王」モンスター２体
このカード名のモンスターはフィールド上に１体しか存在できない。また、このカードはカードの効果によって破壊されない。
(１)：このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。エクストラデッキから「覇王眷獣リヴァイアサン」１体をリンク召喚扱いで特殊召喚する。
‘‘(２)：このカードが戦闘によって破壊された場合、デッキまたはエクストラデッキから《覇王眷獣ベヒーモス×ジエンド》１体を特殊召喚する。’’
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　（カードの効果確認を忘れて……いや、意図的に隠されていた？どちらにせよ、これを無効化する手段がない……）

　「顕れよ、《覇王眷獣ベヒーモス×ジエンド》！」

　闇の渦から、猛獣が放たれた。先の巨躯からは似付かぬ小さい体躯であるが、小さいからこそ余計に闇色に光る眼が恐怖を煽る。

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《覇王眷獣ベヒーモス×ジエンド》
ペンデュラム・効果モンスター
星８/闇属性/獣族/攻３０００/守２８００
【Ｐスケール：青２/赤２】
このカード名の（１）（２）の効果はそれぞれ、１ターンに１度しか使用できない。
（１）：手札を１枚捨てて発動できる。デッキから「覇王」カード１枚を手札に加える。
（２）：「覇王」モンスターを融合・S・X・リンク召喚する場合、ペンデュラムゾーンのこのカードを素材とすることが出来る。
【モンスター効果】
このカード名のモンスターはフィールド上に１体しか存在できない。
（１）：「覇王眷獣ベヒーモス」の効果によりこのカードの特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「覇王眷獣ベヒーモス」以外の「覇王」モンスターを可能な限り特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
（２）：フィールド上のこのカードが破壊された場合に発動できる。自分のＰゾーンのカードを全て破壊し、このカードをＰゾーンにセットする。その後、手札・デッキ・墓地から「覇王眷獣リヴァイアサン×ジエンド」をＰゾーンにセットする。
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　「特殊召喚に成功したベヒーモス×ジエンドの効果を発動、墓地の「覇王」モンスターを可能な限り特殊召喚する！」
　「……その効果にチェーンしてブラック・ボディの効果を発動、オーバーレイ・ユニットを１つ取り除いてエンドフェイズまで全てのカードの効果を無効にする。‘‘ブラックアウト’’！」

　まるで地底から響くような咆哮は、黒竜の放つ闇の渦に吸い込まれてかき消えた。

　「ほう、ここは防ぐか。だが次の手は耐えられるかな……？」
　「むぅ……」

　口では厄介そうにしているが、いつもの癖が出たことに妙に安心していた。見知らぬデッキを相手取るにあたり警戒するのは最重要であるが、さりとて平常心を失えばそれもまた敗北へ繋がる。癖すら出ないほどに動揺している訳ではないらしい。

　（問題は、この攻撃力をどう超えるか……ここで止まるのは勿体ない気もするけど、次に繋げられるだけの手はある……大丈夫。）
　「攻撃を中止してメインフェイズ２に移行。カードを２枚セットしてターンエンド。」


3rd Turn
TP：覇王

覇王　LP：7500　D：27　H：3　G：8　Ex：12(+2)　V：0
Ⅰ：覇王門零
Ⅱ：覇王門無限
Ⅲ：覇王眷獣ベヒーモス×ジエンド

　Ⅰ□□□Ⅱ
□□Ⅲ□□□
　　□　Ａ　
　□□Ｂ□ＣＤ
　□ＥＦＧ□

Ａ：メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ（ORU：1）
Ｂ：メタフィジカ・ドラゴン―ラピス
Ｃ：メタフィジカ・ドラゴン―グラシエス
Ｄ：幻栄の光
Ｅ：幻界突入
Ｆ,Ｇ：セットカード
遊貴　LP：8000　D：26　H：0　G：6　Ex：5　V：1


　「我のターン、ドロー！メインフェイズ、手札より《覇王眷虫アニサキス》の効果を発動！ペンデュラムゾーンのカード２枚を破壊し、このカードを《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ》に装備する！」

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《覇王眷虫アニサキス》
ペンデュラム・効果モンスター
星１/闇属性/昆虫族/攻０/守０
【Ｐスケール：青１/赤１】
【モンスター効果】
このカード名の（１）（２）の効果は１ターンに１度しか使用できない。
（１）：メインフェイズ１に発動できる。自分のＰゾーンのカード２枚を破壊し、手札またはフィールド上のこのカードを相手フィールド上の攻撃表示モンスターに装備する。この効果で装備されたこのカードは、以下の効果を得る。
●装備モンスターの攻撃力は０になり、効果は無効化される。
●装備モンスターが戦闘で破壊された事によってこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「覇王」モンスター１体を特殊召喚する。
（２）：このカードが墓地に送られた場合に発動する。自分フィールド上の「覇王」モンスター１体の攻撃力を倍にする。

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メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ
　ATK：2500　→　0

　「っ……！」

　巨大な半透明の線虫が這い回り、黒竜を拘束した。竜の苦悶に満ちた唸りと同じくして、遊貴も苦渋を浮かべる。

　「まだだ、魔法カード《死霊の双振》を発動、互いのＰゾーンにカードが存在しない場合、墓地の「覇王」Ｐモンスターを２体までＰゾーンにセットできる。その後、相手はデッキからモンスター１体を特殊召喚できる。我は墓地より《覇王眷士パラノイア》と《覇王眷虫アノフェレス》を選択。」

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《死霊の双振》
魔法カード
このカード名の効果は１ターンに１度しか使用できない。
（１）：お互いのＰゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。墓地から「覇王」Ｐモンスターを２体までＰゾーンにセットする。その後、相手はデッキからモンスター１体を特殊召喚できる。

《覇王眷虫アノフェレス》
ペンデュラム・効果モンスター
【Ｐスケール：青１/赤１】
【モンスター効果】
このカード名の（１）（２）の効果は１ターンに１度しか使用できない。
（１）：メインフェイズ１に発動できる。自分のＰゾーンのカード２枚を破壊し、手札またはフィールド上のこのカードを相手フィールド上の攻撃表示モンスターに装備する。この効果で装備されたこのカードは、以下の効果を得る。
●装備モンスターの攻撃力は０になり、効果は無効化される。
●装備モンスターは戦闘で破壊されず、表示形式の変更も出来ない。
（２）：戦闘ダメージを受けた場合に発動する。相手はフィールド上のモンスター１体を選択し、そのモンスターの攻撃力分ＬＰを回復できる。

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　「……デッキから《メタフィジカ・ドラゴン―プロセラ》を特殊召喚、効果を発動。フィールド上のカード１枚を破壊できる。アニサキスを破壊！」

　暴風と共に飛来した竜が、勢いのままに線虫を弾き飛ばした。

メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン―ブラック・ボディ　
　ATK：0　→　2500

　拘束を解かれた黒竜が再びふわりと舞い上がり、覇王を威圧するように遊貴の前に羽ばたいた。

　「ふん、だが墓地に送られたアニサキスの効果発動、自分フィールド上の「覇王」モンスターの攻撃力を倍にする！選択するのは無論ベヒーモス×ジエンド！」

覇王眷獣ベヒーモス×ジエンド
　ATK：3000　→　6000

　「ステータスの暴力……？」

　遊貴がむっとした様子で呟く。だが、真に厄介なのはまだペンデュラム召喚はおろか通常召喚すらしていないことである。それを知って尚、遊貴には選択肢はほとんどなかった。すなわち、ブラック・ボディの効果を有効にし、相手の展開を少しでも止めることである。

　「ふん、この程度で驚いていてはこの先、このデュエルに耐えることは出来んぞ……もっとも、このデュエルはじきに終わるだろうがな。」
　「…………随分馬鹿にされるね。」

　嘲笑う覇王に対し、遊貴は少々苛立った様子で返した。




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悪いのは安定しないWi-Fiです（責任転嫁）