03　星の欠片を探しに…　作：Ales

１章：不条理は基本的概念で最初の真実 -アルベール・カミュ

　「ありがとうございました……」

　使用したカードを全て元の位置に戻した後、『Snow』が呟くように言った。

　「いや、こっちこそありがとう……初陣は飾れなかったか。」

　同じく、カードを整理し終えた『NSaver』が返答した。

　「ところでさ、そのデッキで今度の交流会に出るのか？負けといて難だけど、なんていうかその……回しづらくないか？」
　「ん……回しづらい。初手でオライオンと簡易融合来てれば2枚でドラゴサックまで持っていけるし、その後に置換融合でワイアーム出して墓地効果使えば手札の補充も出来るし、パンツァードラゴンの使い回しも出来る……でも、同じ簡易融合でちょっと頑張れば最終的にインフィニティ出せるし…どっちが取り回しがいいか、今考えてるところ。今回も結局、2回妨害を受けた訳だし、逆にこっちはフリーパスだったことを考えると、ワイアームかインフィニティのどっちかを抜いてその枠に妨害用のカード入れるかな……」
　「出されて不快なのはそりゃインフィニティだけどな…でもそこまで持って行くのに必要なリソースがちょっと手に余るか。しかし2回ともうまくリカバリーも用意できてたじゃないか。」
　「んー、でも両方予想外だった。ガーンデーヴァはともかく、エクシーズ・ユニバースは…もしかして最初からエクシーズ軸で、真シエン入っていなかったりとか？」
　「いや、影武者も真シエンも入れてる。影武者引かなかったけどな。ご想像通り、メタビートっぽくしてみたんだが、やっぱ徹底的にやらないと駄目かな…」
　「いっそ影武者も真シエンも抜いて、将軍紫炎軸のメタビートにするとか？たいていの場合キザンいる状態でターン渡せるデッキだし、六武衆がいれば私みたいに勾玉警戒して迂闊に破壊効果使えないし…」
　「あ、勾玉入れてない。あれこれ入れてたら枠無くなったし、六武がいる時でしかも破壊効果しか無効に出来ないって、取り回し悪いし。」

　遊貴にしてみれば想定外であったが、余り驚いた様子はなかった。そもそも彼女自身が表情をほとんど表に出さない性質であるのだが。

　「そうだったんだ…まあ、入れなくても相手が勝手に破壊を遠慮してくれるならそれでいいのかも……」
　「そんなもんか…やっぱいっそのこと真シエンも抜いて、攻撃力3700のカゲキを活かして戦うデッキにするか…ってあれ？さっきお前のデッキのこと話してたよな？交流会でどうするかって…」
　「別にいいんじゃないかな…お互い改善の余地あり、課題も展望も見つかった。って事で……征も交流会の候補なんだしさ。」
　「何綺麗にまとめてんだよ、ったく…」

　呆れ口調の『NSaver』と、微笑を浮かべながらも真面目さを残した声の『Snow』。暫し互いにデッキを寸評し合い、また笑い合ってた。



　「って感じで、今日はフリーで1勝。琉枝は？」

　夕食の席で、今日の戦績報告となった。

　「私の方は…もう大変だったわよ。上位ランカーが蹴落とそうとしてレートで挑んできて。一応勝ち越したし、連敗しない限りは2800維持できそうだけど…高いレートって、正直プレッシャーね。ってそれは遊貴も感じてるか…」
　「琉枝ほどじゃない…でも、デッキの試行のために利用するのが難しくなった気はする。」

　そうねぇ、と琉枝も苦笑しつつ、箸を進める。

　「でも現行のシステムだとまだマシじゃないかしら？フリーデュエル優先だし、デッキ調整するならその時に言えばいいし。」

　軽く頷いて、遊貴はスープをすすった。

　「それで、彼の方はどうだった？何か不都合があった、とかは言ってた？」
　「いや、特には…余り戸惑うこともなくデュエルしてたから、多分大丈夫なんじゃないかな。」
　「そう、ならよかった。ところで遊貴……」
　「ん、なに？」
　「貴女、『宝塚』に出るの？」

　『宝塚』と言われて思い浮かべるのは当然の如く歌劇団だ。しかしその意味を数秒考え、ようやくそれが夏の交流会であることに気が付いた。

　「学年代表で出ることになるんじゃないかな……VDCのレートは考慮されないみたいだけど、成績の方で多分…」
　「何度も言っていることだけど、あまり無理はしなくていいからね？成績も良いに越したことはないけれど、学費で首が回らなくなることは無いし、それにもう少し遊んでも良いと思うのだけれど。」

　この会話は事ある毎にしているし、遊貴も決まって、このときだけは相手の眼を見て同じ返事をする。

　「大丈夫、楽しんでいるから……」

　それなら良いのだけれど、という琉枝の返答までがお決まりの流れだ。
　実際、何の不自由もなく暮らしている。その事で感謝こそすれど、批難することは無い。琉枝にしても、何度も言わずとも意は伝わっていると知りながらも、人より少し不幸な境遇を我慢させたくないとの思いがどうしても強くなってしまうのだ。それを知っているからこそ、遊貴も同じ発言を、正対して繰り返すのだ。お互い、それを面倒だと思ったことも不快に感じたこともない。

　「えーと……で、交流会の話なんだけど、場合によってはプロ級の高校生と戦うこともあるのよね。どうなの？勝算は？」

　成績に関してはうるさく言わない琉枝であるが、ことデュエルに関しては少々煩い。自分が教えたからには一定以上の戦果がないと気が済まない、と語っていた。

　「んー、現状だと無理かな。デッキに色々詰め込みすぎてる。もっと余計なものを除いていかないと……」
　「ん、まあ悩みなさいな。それがまた次の悩みを生み出すから。」

　だが、大抵は意地の悪い人間である。





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あとがき
今回初投稿ということになります。3話分投稿させて頂きました。
読みづらいところ、間違い等ありましたらご指摘をお願いします。