11　口笛合わせて　作：Ales

　ドラムセットを模した筐体の前まで引きずられた遊貴は、ようやく抵抗を諦めた。

　「わかった、わかったから……」
　「ん？ああ、選曲は任せるよ。ってか最初ドラムでいい？」
　「ん……」
　「ほいじゃ、スティック。これ以上ギャラリーが増える前に、さっさとやっちゃいましょ。」

　既に店の八割方が注目しているのだが、美夏は気付いていないふりをしているのか、こちらはギターを模したコントローラーを手に取った。

　「んー……」

　遊貴は、美夏から受け取ったスティックを持ち、大きく伸びをした。肩の筋肉が伸びて気持ちいい。

　「ん……よし。選ぶよー……」
　「おーう。ってうおぃ！おま、いきなり殺す気か！」

　遊貴が迷わず選曲した楽曲のタイトルを見て、美夏が思わず声を上げた。

　「はあ……でも、ここまでやらせるにはちゃんと付けて貰うよ。」
　「ん……」

　意を決した遊貴が、ヘアバンドを装着する。
　そのヘアバンドには、耳が付いていた。所謂、ネコミミという代物である。遊貴は極力ギャラリーを見ないように、画面に向き直った。しかしどうしても観客の声は聞こえてしまう。

　「最後で落ちても文句言うなよー。」

　観客を全く気にしていない様子の美夏から声がかかった。

　「ん……」

　短い返事をし、準備に入る。ロック調の曲と共に、ゲームが始まった。頭にネコミミを乗っけたふたりが、凄い勢いで流れるノーツを消化していく。最初その容姿に注目していた観衆だったが、やがてその技術にざわめき始める。曲が終わる頃には、拍手がわき起こった。

　「いや、さっすが遊貴。相変わらず上手いわー。」

　軽くハイタッチを交わす。

　「じゃあ、もう外してもいいかな……」
　「ダメ☆ほれ次、いくぞ。」
　「むぅ……」

　押してダメなら押し倒せがモットーの美夏には、勝てた例がない遊貴であった。





　ゲームが終わり、投げるようにしてネコミミを返却した遊貴は、顔を赤らめて美夏に文句を言っていた。

　「もー、ウケてたからいいじゃん。ほら、トマトジュースあげるから機嫌直して。」
　「いや、いらない……」

　黒と言うには茶色すぎる髪といい、普段の態度といいどこかチャラチャラした印象を見せる美夏だが、意外な事に好物は野菜だ。しかも、甘くないトマトジュースを買ってはしきりに遊貴に勧めるのだ。遊貴は決して野菜が嫌いな訳ではない。が、わざわざ甘くないジュースを飲みたくないし、好物は魚だ。その辺りも「猫っぽい」と美夏にからかわれた。それが歪みに歪んで、最終的にふたりでお揃いのネコミミを付けてパフォーマンスするという、とんでもない発想に至ったのだ。『SummerSnow』と勝手に銘打ったグループの活動は、概ねネコミミと共あり、そしてそれはゲームセンターの名物にもなっていた。

　「でさでさ、遊貴の学校ってやっぱデュエルばっかりやってるの？」
　「いや、まだ義務教育だし……基礎教養が多い。週に１回実技があるぐらい。美夏の方は…学校、楽しい？」

　溜息と共にトマトジュースを一気飲みした美夏が、渋面を向けてきた。

　「いや、つまらん。部活もやりたいと思わないしさ。友達はいるし、遊んでる時は楽しいけど、みんな部活やってるから暇な時はホント暇でさ、運動がてら二条の方のゲーセンまで行ったりして時間潰してたよ。」

　美夏の家は九条の辺りなので、歩けば大体片道30分前後だろうか。

　「遊貴と同じ学校だったら良かったって、ホント思うよ。なんてーの？遊貴みたいに変なセンスの子がいなくてさ。話も合わせないといけないし。」
　「変って……まあ、否定はしないけど。」
　「ま、今でもこうやって会えるだけましかな！だからもうちょっとメール寄越せ。」
　「あ、そこに行き着くんだ…」

　親友の意外な面を見た気がしたが、やはり美夏は美夏だ、と遊貴は思った。



　京町を色々と散策し、しきりに笑い合った後の帰り道。

　「いやー、今日はありがとね！ってか、遊貴の方の用事は良かったの？なんか一日連れ回しちゃったけど…」
　「ん……まあ、大した事はないから。私も、会えて嬉しかった…」
　「そーゆー事真顔で言われると照れるわね……まあ、あたしも嬉しいけどさ。」
　「ふふ……」

　遊んだ時とは違う、静かな笑顔は、横から駆けられた声によってかき消された。

　「なあ、そこのふたり。今から俺たちと遊ばねぇ？」

　間抜けそうな茶髪の、高校生ぐらいの２人組が声をかけたらしい。美夏は遊貴を後ろに隠し、言い放った。

　「ごめんなさい。あたしら、これ以上遊んでると条例ひっかかんのよ。」

　美夏はとにかく、規則や規律にうるさい。どんなに小さな事でも、まずは守る。おかしいと思って抗議するのはその後なのだ。しかし男は、なおもしぶとく食らいつく。

　「そんなの気にせずにさ、ゲーセンとかどう？自慢じゃいないけど俺ら、結構音ゲ上手いぜ？」
　「いや悪いけど、校則厳しくて…停学くらって責任とれるってんなら考えるけど、無理でしょ？」
　「大丈夫だって！そんなにバレるもんじゃねぇからさ。俺たちも中学の頃、深夜までゲーセン居たしなぁ？」
　「いや話聞けよ。」

　頭ひとつ半は大きい男達に対し、美夏は一歩も引かずに自分の主張をする。だが相手の頭が残念なのか、その主張は受け入れられていない。自分の論理を曲げず、しきりに大丈夫を言い続ける相手に対し、美夏は軽く苛立っていた。

　「なんなのこいつ……お？」

　面倒くさそうな表情をしていた美夏が、彼の手にあるデュエルディスクを発見した。

　「あんた、デュエリスト？」
　「え？ああ、これでも結構……」

　強いんだぜ、という言葉をあっさりスルーした美夏が、鞄からデュエルディスクを取り出して、腕に装着した。

　「じゃあ、デュエルで決めるってのはどうだ？あんたが勝ったら、今日は付き合ってやるよ。」

　美夏の思いがけない提案に一瞬驚いた表情を見せた男だったが、次の瞬間にはにやけた笑顔を見せた。

　「おお、いいぜ。俺が負けたら何すりゃいいんだ？」
　「二度とあたしのこの子に声をかけない、ってことで。」
　「ああわかった。」

　近くの公園に場所を移す美夏の後を追いながら、遊貴は声をかけた。

　「美夏……？」
　「ん？ああ、大丈夫だって。出来るから。」
　「いつの間に……？」
　「あんたが進路決めたぐらいだから……四ヶ月ぐらい前？もうちょっと強くなってからお披露目したかったんだけど、まあいい機会でしょ。」
　「デュエル、変わろうか？」
　「んあ？いいよ。あたしが蒔いた種だし、ピンチになったらあたし置いて逃げていいよ。」
　「そういうところ、かっこいいね……」

　美夏とは小学生の頃からの付き合いだが、彼女がカードを触っている姿はおろか、関心を見せる様子すら見ていなかった。４ヶ月前という事は、どう考えても初心者・初級者の域を出ないはずだというのに、虚勢に見えない。



　「１７時３５分……１５分前後で終わらせれば帰れるな。さっさと始めようか。」
　「ああいいぜ。始めようか。」

　充分な距離を取ったふたりが、向き合ってデュエルディスクを構える。


　「「デュエル！！」」





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《？次回予告？》

美夏　「うわ、やばっ……」
男　「おらぁ、覚悟しろ！」

遊貴　「えぇ……」

琉枝　「いくよ、ロロナ！」
ロロナ　「ええ、参りましょう！」


次回、「Hope is never bend.」
双璧、出陣。