98　Drawback　作：Ales

---《前書》---

　何もかにもすっぽかしてる？ははは、そろそろ完結に向かうのもファンサービスですよ、ははは……
　あ、そうそう、この回だけ下書きなしの一発書きなんだって。大丈夫かなぁ？





---《本編》---



雪と光竜と無限世界　第3部　序章
　‘‘Daydream at Night.’’







　『機は熟した……往け、彼の者の元へ……』

　荘厳な神殿を思わせるようなその広間に、相応しい荘厳な声が響いた。

　「ようやくかぁ。じゃあ、わたしはあっち。あなたはこっちね。」
　「はいはい……それでは、仰せのままに。」

　こちらは少女と少年。少女が指示語で配置を指すと、少年はあきれたような声で承した後、声を向いて一礼した。


　『急げ……覇王が真に目覚めれば、盤面が傾くやも知れぬ。その前に、彼の者を見付け出し、此処へ……』


　次の声には、二人は無言であった。





　『早く……Sophiaを、此処に……』





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　宮戸遊貴には、どういう訳か2人の人物に一方的にライバル視されている。

　「くっ……！次は、次こそは！」

　睨み付ける眼は黒く、髪も同様に黒い。黙っていれば大和撫子になりそうな成長期の少女は言わずもがな、浜辺花鈴である。夏季交流戦の予選で遊貴に惨敗して以来、何かとデュエルを挑んでくるのでとりあえず適当に相手している遊貴であるが、現状勝率は10割。つまり、一度も負けないのである。

　「ん……休み時間も終わるし、また……」

　ここで「面倒だから」とか「まあぶぶ漬けでも」と言わない辺り、はっきりと迷惑と言えない遊貴の欠点である。尚花鈴の実家は愛知県春日井市とのことであり、ぶぶ漬けは恐らく利かない。





　「だーもー！何で勝てないのよ！」

　放課後、今度は製品版として正式にリリースされた「ヴァーチャル・デュエル・シティ」、通称VDCである。β版最終期に問題が露点したものの、販売元である海馬コーポレーションの総力を結集してのバグ修正の結果、さして大きな問題にならずに製品版のリリースとなったのである。
　とはいえ世界は架空世界であっても狭いもの、同じ穴の狢ともいえるメンバーは大抵、同じ場所に居るものである。

　「ありがとうございました……」

　常日頃からそうしているように、宮戸遊貴－いや、Snowはデュエル終了後、ぴょこりお辞儀をした。

　「あーうん……じゃなくて、今日はちょっといいところまでいけたかなー、って思っても負けるのはやっぱ腹立つわよ、ほんっとに。」

　口の悪さ皆伝、態度の大きさ十段、デュエルの腕は多分八段ぐらい。遊貴がそう評するのは加賀見嶺ことMelkaである。製品版リリースに際して名前を変えた二人であるが、互いに記念すべき初対戦の相手としてデュエルを行った縁であり、それ以前にバグの渦中にあった仲でもある。

　「うーん……あの二人は相変わらず互角なんだけれどね。お姉さんは……そういえば、La+さんはあまり見なくなったね。」

　傍らの少年から声がかかる。彼は加賀見海ことMarCos.である。嶺の双子の弟であり、基本的にVDC内では彼女と共にいる。が、稀にひとりで野良デュエルに出向いているらしい。


　「はっはっは、今回は僕の勝ちだな！」
　「あー負けた負けた、これで貯金が1つか……」

　フランツ・ヴィクトルことKardと新田征ことPiszであるが、β時代からライバル関係であり、また実際の邂逅を経てその熱は更に盛り上がっている。

　「やっぱあそこでシャドウブレイカーはミスだったか。やっぱ一瞬の油断が命取りだなー。」
　「それなりに除外にも適正があるからな……戦術は相手によって柔軟に変えねば、戦術にならんよ。」

　だよなぁ、と言って笑うPiszの顔には負けた悔しさはない。彼は元々こういう性格であり、良くも悪くも少々楽観的なのである。なおフランツがKardとなったのはハンガリー語で「剣」だからであり、対抗心を燃やした征は「銃」と名乗っているのである。

　「にしても最近、琉枝さん見ねぇな……」



　La+こと宮戸琉枝。彼女はβ時代最強の称号を持ちながら、製品版にはあまり熱を注いでいないのであった。




　「それで、冬も来るのかしら？構わないわよ。」

　さて件の琉枝であるが、VDCに顔を出していないことに別段意味があるわけではない。遊貴が抱いた先と同様の疑問に答えて曰く、「デュエルをするのが面倒になった」とのことである。気分屋姉妹の事である、普段通りの彼女であった。

　『ええ、ご迷惑でなければ……』

　そんな琉枝は、スマートフォンでさる人物と会話していた。樋屋螢花。夏のひとときを宮戸家で過ごした人物であり、新学期が始まって数週間が経過した現在、既に冬休みの算段を立てる人物なのである。

　「構わない、って言っているでしょ？遊貴には……黙っておこうかしらね？もしかしたら感づいているかも知れないけれど。」
　『はい、よろしくお願いします！』

　切るわよ、と一言呟いた琉枝は、終話ボタンを押したスマートフォンを机に放り出して軽く息を吐いた。

　「で、株価操作はまだ続いているの？」

　虚空に向かって唐突に呟かれた一言には、何もない空間から返答がやってきた。

　『ええ、日によって横ばいになったりもしていますが、トータルでは上昇しています。』

　声の主であるロロナは、VDCβのバグから生じた電子の精霊である。細かく電子情報にアクセスできることをいいことに、琉枝は違法まがいの情報入手まで彼女を通じてやってのけている。

　「ふーん……内部はどう？そろそろ気付いているのかしら？」
　『そうですね……ただ、動いていない株の大半が社長親族の非公開株です。この行為、意味があるのでしょうか……』

　琉枝はそれに答えず、椅子の上で伸びをした。





　「無理。マジ無理もう無理。絶対無理。」

　同じように椅子に座って伸びをする少女から、苦悶の声が漏れた。

　「はぁ……たかが有機化学のひとやふたつで……」

　隣であきれたように、もうひとりの少女が溜息混じりに声を出した。

　「たかがって！そりゃ、あんたにとっちゃたかがかも知れないけど！」

　伸びから腹筋だけで向き直った少女ー滝沢和那は、勢いのままに声を上げた。既に音は上げていたが。

　「はいはい、吠えても宿題は終わらないわよ。口より先に手を動かしなさい。」

　答える彼女ー籐篠朱理は、如何にも優等生な言葉とは裏腹に北極のシロクマのごとく蓙に寝転がっていた。彼女は北海道出身であり、夏場は相応に堪える。かくて残暑の京都では、このように伸びてだらけきっているのもデュエルアカデミアジャパン・ウエスト校の寮内の風物詩なのである。

　「うー……勉強できるやつはいいよなぁ。」

　はじめからできる人なんていません、という如何にもな返答を右から左、和那は残務の処理に当たるのだった。





---《あとがきのようなもの》---

　お久しぶりです。Alesです。生きています。
　いろいろすっぽかして第3部を開始しましたが、いろいろの中身は覚えています。感想とか謝辞とか書くべきなのでしょうが、今忙しすぎてゆっくり振り返る暇がないのです。これらについては改めて、ゆっくりと振り返りますので何卒ご容赦願います。
　とりあえず一万記念感謝祭開催中の看板は下ろしますが、まだやっていないだらだら日常編については本編の合間に挿入する方向で検討しております。シリアス半開の内容になりそうですが、どうぞ最後までお付き合いの程よろしくお願いします。