15　Flee at once.　作：Ales

　月曜日。
　弱点補間小同盟の面々（二人）は、揃って教員室に呼び出されていた。当初は交流会の事かと思っていたのだが、それは３日後に行われる実技の審査を経ての事だと聞いている。行き道の廊下で、二人が呼ばれる理由について論じていた。

　「共通点かー。成績優秀者に表彰状が送られるとか？」
　「それだったら、他の学年からも呼ばれてるはず……」
　「じゃあ、素行不良？何かしたか、遊貴？」
　「日曜日にゲームセンターに行った……でも、校則違反じゃない……」

　要するに、二人とも覚えがない。三人寄れば文殊の知恵と言うが、２人で文殊の2/3の力を得る事は不可能らしい。

　「失礼します。」
　「失礼しまーす。」

　教員室の扉を開け、来意を告げた。まもなく担任の机の前に案内されたが、どうやら用があるのは担任ではなく、教頭と校長らしい。いよいよもって心当たりがない。校長室には既に教頭と校長がいた。

　「おお、良く来た。活躍は聞いているよ。」

　遊貴と征の二人を見るなりそう言った校長が、昔を懐かしむように続けた。

　「伝説のデュエリスト、新田慧の一人息子。そしてトッププロをも凌ぐと言われながら、結局挑戦は一切なかった宮都琉枝の妹……間違いなく遺伝なのだろうなぁ。」

　穏やかな表情から見て取るに、どうやら悪い話ではなさそうである。

　「それで、話って言うのは……？」

　征が切り出した。

　「ふむ、それなんだがね。君たちは、VDCβを利用しているね？」

　「はい。でも、校則に反していませんよね？」
　「いや、今回は君たちを責めるために呼んだのではない。ただ、いくつか確認しておきたい事があったのでね。」

　校長が慌てた様子でそう付け加えた。

　「確認したい事……ですか？」

　遊貴たちの他にも、VDCβを利用している学生は多くいる。その中でふたり、しかもこの学校に来てもっとも日の浅い中学１年生を呼び出して確認する事は一体、何なのだろうか。

　「君たちは、『カードの精霊』に出会ったね？」

　校長の一言に、ようやく合点がいった。つまり、ロロナの事だろう。

　「俺……私は、直接見た訳ではないので何とも言えません。」
　「そうか。宮戸君は？」
　「会いました。少しお話しして、今は姉が所持しています……」

　その一言を聞いた校長は、脇に控えていた教頭と話し始めた。小声なので断片すらも聞こえない。

　「琉枝君が……まあ、彼女なら特に問題はなかろう。それに、我々が言っても聞かんだろうしな。」

　ややあって、校長が苦笑混じりに呟いた。

　「今朝のニュースで、海馬コーポレーションがVDC製品版のリリースを発表したのは知っているかね？いや、知らなくてもいい。私はVDCの製品版を、カリキュラムに取り入れる事を検討しているんだよ。」
　「つまり、VDC内のレートとかも評価する、ってことですか？」

　征の問いかけに、校長は頷いた。

　「多くのデュエリストやデッキに触れるのは、将来良い経験になるだろうからね。勿論、やり過ぎは良くない。下手に推進しすぎると学習時間外に勉強を強要する事になるのだから、細部を詰める必要はある。」
　「精霊との関係は……？」
　「おお、その話なんだが……本来設定されていないはずのものが存在するという事は、つまり開発者側で管理が出来ていない、という事だ。精霊程度で済めばいいが、もし正式に導入して、何か事件が起っては困る。」

　遊貴は、ロロナとの邂逅直後のデュエルを思い出した。仮想空間に取り込まれた事、実際にダメージが痛みとなって現れた事。そして何より、デッキが変わっている事。

　「そこで、君たちに調査を依頼したいのだよ。」

　遊貴と征は、互いに顔を見合わせた。

　「私たちに……」
　「調査、ですか？」

　校長は、またも首を縦に振った。

　「VDC内で起った奇妙な事を、私に報告してほしいのだよ。私でなくても、教頭先生でも、担任の先生でもいい。但し、危険が伴うような真似は、決してしないように。これは引き受けるにしろ、そうでないにしろ言っておかねばならん事だがね。」
　「いつも通り利用して、気になった事を報告するだけなら……」
　「俺……私も、それでいいのなら構いません。ただ、ひとついいですか？」
　「何だね、新田君。」
　「この話、なぜ先輩方ではなく我々に来たのかが疑問なんです。」

　ああ、そのことか、と校長は呟いた。

　「カードの精霊の話は、実は琉枝君から聞いてね。彼女も協力してくれると言うから、彼女の妹と、友人の君に頼んだのだよ。迷惑だったかな？」

　二人して首を振った。

　「では、気になった事があったら報告してくれたまえ。ただし、それが原因で成績を落とすような事は避けなさいよ。お話は以上だ。お昼の貴重な時間に悪かったね。」

　背を向けた遊貴に、校長の声がかかった。

　「遊貴君……お姉さんは元気にしているかね？」

　遊貴は再び向き直り、返答した。

　「いつも通りです。」

　そうか、と微笑んだ校長を確認し、遊貴は彼の前を辞した。





　放課後、遊貴は征と分かれて中級者部屋をふらついていた。意識して探せば、気になる事は多々ある。しかしどれも本当に些細な事で、危険につながるような事とは思えない。

　「んー……」

　メールを受信したスマホを確認すると、征からだった。異常なし、との事だ。同じく、と返して再び街をふらつく。50以上も違うレートの『Snow』に向けられる視線は多いが、デュエルの申し込みはない。何かを探すようにぶらぶら歩く少女より、目の前に臨戦態勢の相手がいるのだからそちらを選ぶ方が遙かに効率がよい。

　「あの……」

　だが、そんな彼女に声をかける物好きも、中にはいる。

　「なに……？」
　「デュエル、しませんか？」

　相手は15歳ぐらいだろうか。変声期は終えているようだが、幼さの残る顔つきをしている。

　「いいけど……」

　元々、ここへはデュエルをしにやってきたのだ。

　「あっ、僕は『SeaMirror』です。よろしくお願いします。」
　「私は……『Snowispell』……『Snow』でいい。」

　お互いに自己紹介を済ませると、充分な距離を取って対峙した。


「「デュエル！！」」



1st.turn
　TP：Snow
Snow　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None
SeaMirror　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None


　「私のターン、《幻界突入》を発動。効果で《メタフィジカ・ドラゴン－ニクス》を捨てて、デッキから《メタフィジカ・ジェネシス･ドラゴン－グラシエス》を手札に加える。そのままグラシエスを召喚、効果でニクスをレベル２のチューナー扱いで特殊召喚。自分フィールド上のモンスターが「メタフィジカ」のみなので、速攻魔法《幻竜顕現》を発動。デッキから《メタフィジカ・ジェネシス･ドラゴン－イエロー・ボディ》を特殊召喚。レベル６の《メタフィジカ・ジェネシス･ドラゴン－イエロー・ボディ》に、レベル２となった《メタフィジカ・ドラゴン－ニクス》をチューニング。
　新たな星屑、三千世界を光へ誘う。夢幻の扉を開き、現れよ。シンクロ召喚、《ステラパルヴィス・ドラゴン》。」


　『Snow』は相手の顔を窺いながら淡々とデッキを回しているが、相手は特に何もないという風にうんうんと軽く頷きながらソリティアを眺めている。


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《メタフィジカ・ドラゴン－グラシエス/Metaphysica Dragon -Glacies》
星４/水属性/幻竜族/攻１９００/守１００
「メタフィジカ・ドラゴン－グラシエス」の特殊召喚は１ターンに１度しかできない。
（１）：自分フィールド上に幻竜族モンスターが召喚された場合に発動できる。墓地のこのカードをレベル２のチューナーとして特殊召喚できる。この効果を使用したターン、自分は「メタフィジカ」モンスター以外召喚・特殊召喚できない。
（２）：１ターンに１度、「メタフィジカ」モンスターの特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから１枚ドローする。


《幻竜顕現（げんりゅうけんげん）/Metaphysica Dragon Visible》
速攻魔法
（１）：自分フィールド上のモンスターが「メタフィジカ」のみの場合に発動できる。デッキから「メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－イエロー・ボディ」１体を特殊召喚する。
（２）：（１）の効果で特殊召喚したモンスターがフィールドを離れた時、墓地のこのカードを除外して発動する。デッキ・墓地から「メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン」モンスター１体を特殊召喚する。

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　「《幻竜顕現》の効果で特殊召喚したイエロー・ボディがフィールドを離れたので除外して効果発動。デッキから２体目のイエロー・ボディを特殊召喚。「メタフィジカ」の特殊召喚に成功したので、グラシエスの効果で１枚ドロー。カードを１枚セットしてターンエンド。」

　『Snow』がモンスターをくるくる回している最中、『SeaMirror』は静かに立っていた。無口では一家言持ちの遊貴だが、相手取るのは馴れていないためやりづらい事この上ない。



2st.turn
　TP：SeaMirror

SeaMirror　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None

Snow　LP：8000　D：31　H：2　G：2
　F：《メタフィジカ・ドラゴン－グラシエス》《ステラパルヴィス・ドラゴン》《メタフィジカ・ジェネシス･ドラゴン－イエロー・ボディ》
　　《幻界突入》《セットカード》


　「僕のターン、ドロー。まずは《大戦遺物　ソートン》の効果を発動するよ。このカードを手札から墓地に送って、デッキから「内部装着」魔法カードを手札に加える。《内部装着　ジュニパー》を手札に加えるよ。」
　「ん……」

　遊貴にとって見慣れないカードが登場した。どうやら「大戦遺物」というテーマらしいが、記憶にない。


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《大戦遺物（ウォーパーツ）　ソートン/Warparts Thorton》
効果モンスター/星３/風属性/機械族/攻０/守０
（１）：このカードの攻撃力・守備力は、「大戦遺物　ソートン」以外のフィールド・墓地の「大戦遺物」「大戦場」「内部装着」カードの数×３００ポイントになる。
（２）：手札のこのカードを捨てて発動する。デッキから「内部装着」カード１枚を手札に加える。


《内部装着（ブーストパーツ）　ジュニパー/Boostparts Juniper》
装備魔法
「大戦遺物」モンスターにのみ装備可能。
（１）：このカードの発動処理として、デッキから「内部装着」カード１枚を墓地に送る。
（２）：このカードを装備したモンスターは、カードの効果で破壊されない。
（３）：このカードがカードの効果で墓地に送られる、またはフィールドのこのカードが墓地に送られた場合に発動する。デッキ・墓地の「内部装着　ジュニパー」以外の「内部装着」装備魔法１枚を自分フィールド上の正しい対象に装備する。

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　「手札の《大戦遺物　グリフィン》の効果を発動。このカードを墓地に送って、墓地のソートンを特殊召喚する。そして《大戦遺物　ゾスマ》は、自分フィールド上に「大戦遺物」が存在する場合に、手札から特殊召喚できる。」
　「チューナ……？」


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《大戦遺物　グリフィン/Warparts Griffin》
効果モンスター/星３/風属性/機械族/攻０/守０
（１）：このカードの攻撃力・守備力は、「大戦遺物　グリフィン」以外のフィールド・墓地の「大戦遺物」「大戦場」「内部装着」カードの数×３００ポイントになる。
（２）：手札のこのカードを捨てて発動する。墓地の「大戦遺物」モンスター１体を特殊召喚する。


《大戦遺物　ゾスマ/Warparts Zosma》
チューナー・効果モンスター/星４/風属性/機械族/攻０/守０
（１）：墓地のこのカードをデッキに戻して発動する。フィールド上のカード１枚の効果を、ターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも使用できる。
（２）：自分フィールド上に「大戦遺物」モンスター存在する場合、このモンスターは手札から特殊召喚出来る。「大戦遺物　ゾスマ」のこの効果は１ターンに１度しか使用できない。

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　「そうだね。でも、今シンクロ召喚しても壁は越えられそうにないから、別の手段でいくよ。」





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《？次回予告？》


SeaMirror　「さあ、これをどうする？」
Snow　「むぅ……」


Ka.Ta.　「どういう……事だ？」
NSaver　「いや、俺にもわかんねぇ。」


次回、「Blackship, be the Flagship.」
光は、進化する。