77　Full Boost！　作：Ales

　滝沢和那は迷いを抱えたままであっても、それなりに安定した強さで２位通過を決めてしまった。つまるところ、ワイルドカード枠争いの１人として、２日目への進出が決まったのだ。

　「…………はぁ。」

　そんな溜息を、周囲は幾度聞いただろうか。





　さてここに、ひとつの熱戦の火蓋が切って落とされようとしていた。



　「これで何度目だ？戦うのは。」
　「さあな。実際にあって対戦するのは初めてだな。」

　新田征と、フランツ・ヴィクトルである。VDCβで幾度となく鉾を交えた二人だが、フランツの言葉通り、実際に同じ舞台に立つのはこれが初めてである。

　「勝敗は……互角といったところだったな。だが、申し訳ないが勝たせてもらう！」

　熱を入れるフランツに呼応するように、征もまた気合いの声を上げた。

　「ああ、そりゃこっちのセリフだ！」



　「「デュエル！」」



1st.turn
　TP：征

征　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15
　　F：None
フランツ　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15
　　F：None


　ランダムに行われる先攻・後攻の決定権は、征が得た。本来であれば後攻の方が機能する【XD】であるが、今回彼は先攻を選択した。

　（先攻で《スチーム・ストリーム・ドラゴン》が出てきたら厄介だしな……）

　それぞれ異なる耐性を持つ「史士」シンクロモンスターは後出し有利だが、逆に《スチーム・ストリーム・ドラゴン》は先出しが非常に有利であり、高攻撃力の上場持ちも良い、面倒な存在となりうる。また、征の持つ《スタークエイク・ドラゴン》も、先出しした方が強力なのだ。一度相手の展開を受けてから行動する方が強力な【XD】の特徴とは異なるが、相手があまりにも先出し有利となるとどうしても先に行動せざるを得ない。

　「悪いけど、最初から全開で行かせてもらうぜ！俺のターン、まずはフィールド魔法、《戦闘領域：司令基地》を発動。効果でデッキから《戦闘領域：草原》を手札に加える。」

　前回の攻撃力総計12000の原動力となった《戦闘領域：草原》は、初期手札5枚の中にはなかった。しかし「戦闘領域」フィールド魔法は互いにサーチ・サルベージ出来ることが特徴なので、そこは大した問題ではない。問題があるとすれば、「戦闘領域」フィールド魔法は１ターンに１度しか発動できないことである。


　しかしながら、攻撃力総計12000に加えてフィールド上のカード2枚を破壊する事が出来るコンボというのは、相手からしたら相当に嫌なものである。

　「また草原か……」
　「まあ、便利なコンボだから仕方ないって。お次はっと……速攻魔法《衛生兵出動》を発動、デッキから《ＸＤ－諜報部隊》を特殊召喚、効果を発動だ。デッキから《ＸＤ－旋空のラノ》と《ＸＤ－狙墜のザクト》を特殊召喚するぜ。」
　「チューナーと非チューナー……そしてレベル8か。厄介だな。」

　フランツは彼の手を熟知している。先攻を取れば大体《スタークエイク・ドラゴン》のシンクロ召喚を狙うし、不可能な場合は《ＸＤ－自律戦車イスク》で粘り、返しのターンでお得意の大量展開に破壊を絡めてくる。今回は先攻であり、当然《スタークエイク・ドラゴン》は予想していた。

　（しかし、ドロー次第ではないか……）

　自分の手札を見返してみると、残念ながらスタークエイクを突破できそうにはない。最初から運任せというのも辛いものである。

　「いや、このタイミングでシンクロ召喚してもうまみがねえ。だから、こうさせてもらうぜ。」

　そういうと征は、手札からオレンジの枠のカードを抜き、デュエルディスクに置いた。





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　「和那さん、まだちょっと大丈夫じゃなさそうですね……」

　自分の二次予選が終わるなり会場から姿を消した滝沢和那に対し、遠山利香はそのような感想を抱いた。

　「そうですね。まるで、どこかに魂を置いて来たみたいな……」

　そんな彼女の脇から声を掛けたのは、白い肌と黒髪のコントラストの美しい昨冬の覇者であった。

　「うわっと！……ああ、樋屋さんでしたか。そうですね、多分寮の自室に忘れていったんじゃないですか？」

　同じ部屋の親友がいないという事に掛けた冗談であるが、そもそも同じ学校ですらない螢華がわかるはずもない。

　「自分のお部屋、ですか？ああ、お布団が恋しい季節ってありますよね。」
　「ああ、そうじゃないです。彼女、同室の女の子にフられちゃいまして。」

　更に冗談を交ぜると、意外にもノリのいい返事が返ってきた。

　「あらら。じゃあ、あなたが奪っちゃうの？」
　「いえいえ。私はあと半年しか一緒にいられませんからねぇ。」
　「そうね。もうそんな時期だものね……」

　そこで暗くなるのか、と思う利香であるが、確かに暗くなりたい気持ちもわかる。

　「私も……優秀な右腕がいなくなるのは辛いですね。」
　「あら、大学でも新聞屋？」
　「流石にそこまでは。そもそも記者になりたいと思ったことはありませんし、優秀な部下がいないと動けない人間になるつもりもありませんよ。」

　芹野舞は優秀すぎて頼りがちになってしまうが、そもそも彼女の入部前は自分ひとりでも何でもできていたのだから別に問題はない。

　「連絡先の交換もしてますし、会いたくなったら素直にメールすればいいんですよ。『終末身体空けとけ、飲むぞ』って。」
　「ふふふ…………去年の冬から思っていましたけれど、あなた本当に面白い方ね。」
　「いえいえどーも。あなたこそ取っても魅力的な女性ですよ。」


　ふたりしてもとは何の話をしていたのか忘れた。まあこういう日もあっていいだろう。





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　「《ＸＤ－旋空のラノ》をリリースして、《ＸＤ－諜報部隊》をアドバンス召喚、効果を発動するぜ。」
　「何？もう1体持っていたのか……」

　征が出したのは、2体目の諜報部隊であった。リリースすることで「ＸＤ」ペンデュラムモンスター２体を展開できるこのカードを、彼は【XD】における展開補助として重用している。

　「来い、《ＸＤ－突撃のアリブ》、《ＸＤ－機巧のネリー》！んでもって、レベル５の《ＸＤ－機巧のネリー》に、レベル３となった《ＸＤ－狙墜のザクト》をチューニング、シンクロ召喚！《スタークエイク・ドラゴン》！」
　「相変わらずデタラメな展開力だな……少しは自重したらどうだ？」

　フランツは軽口を叩くが、本心では全くそう思っていない事を征も承知している。

　「あんたこそ、簡単に負けないでくれよ？俺はこれでターンエンドだ。」



2nd.turn
　TP：フランツ

フランツ　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15
　　F：None
征　LP：8000　D：31　H：2　G：1　Ex：14(+3)
　　F：《スタークエイク・ドラゴン》《ＸＤ－突撃のアリブ》《ＸＤ－機巧のネリー》
　　　《戦闘領域：司令基地》



　「僕のターン、ドロー！このままメインフェイズ。まずは《史跡の交易船》を発動、手札の《史士戦士　ファランクス》を除外して１枚ドロー。ドローしたカードは《史士転生》！よって追加で２枚ドロー！」

　フランツの方も負けじと強運を発揮する。【史士】は手札増強に長けている。手札・墓地・そして除外ゾーン。これらを最大限に使用してアドバンテージを得ていくのが【史士】デッキの戦い方である。

　「それにしても、相変わらずの引きの良さだよな。それ、外したことないんじゃねーの？」

　事実、征はフランツのとの対戦で幾度となくこのカードを見ているが、必ず３枚のドローをしていた。

　「いや、そうでもない。１度だけ外したことがある。まあ、数十回使ったうちの一度きりだがな。さて、魔法カード《史跡の開拓者》を発動だ。デッキから《史士戦士　レギオン》を手札に加え、そのまま自身の効果で特殊召喚。「史士」モンスターの特殊召喚に成功したので、手札の《史士戦士　ランツクネヒト》の効果を発動。このカードをリリースすることで、デッキから「史士」モンスター１体を特殊召喚できる。《史士戦士　ランツクネヒト》を特殊召喚、効果を使用する。除外された《史士戦士　ファランクス》を墓地に戻し、攻撃力をそのモンスターのレベル×200……つまり、800アップする。」


《史士戦士　ランツクネヒト》　ATK：1300　→　2100


　「そういうおっさんもしれっとチューナーと非チューナー揃えてんじゃねぇか。で、何を出すんだ？」
　「ふむ、確かにシンクロ召喚しても問題はないのだが……【史士】モンスターの真の強さは、シンクロ召喚ではないからな。何はともあれ、レベル４の《史士戦士　レギオン》に、レベル２の《史士戦士　ランツクネヒト》をチューニング。シンクロ召喚、《史士騎兵　コンキスタドール》！自身の効果で特殊召喚した《史士戦士　レギオン》の効果でデッキから２体目の《史士戦士　ファランクス》を手札に加え、こいつの効果も発動。デッキ・手札・墓地のファランクスを除外し、《史士勇将　アレクサンドロス》を融合召喚する！」


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《史士勇将（エンシェントブレイブ）　アレクサンドロス/Brave Alexandros, the Ancient Warrior》
融合・効果モンスター
星９/地属性/戦士族/攻３３００/守８００
「史士戦士　ファランクス」＋「史士」Ｓモンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。また、「史士勇将　アレクサンドロス」は自分フィールド上に１体しか存在できない。
（１）：１ターンに１度、お互いのターンのメインフェイズ２に発動できる。デッキから１枚ドローし、お互いに確認する。そのカードが魔法カードだった場合、そのカードを除外することでその効果を使用できる。
（２）：このカードがカードの効果を受ける場合、代わりに手札の「史士」モンスター１体を除外する。
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　「攻撃力3300……やっぱそいつは厄介だな……」

　征のデッキにあるカードの中で、効果なしでもっとも攻撃力が高いのは《スタークエイク・ドラゴン》の3000である。しかし、フランツの方にはこの《史士勇将　アレクサンドロス》がいる。

　「さてと、君は全開でいくと言ったな……なら僕も、全開でいこう！手札から速攻魔法、《史跡の財宝》を発動！自分フィールド上のモンスター１体をこのターン終了時まで除外し、手札から「史士」モンスター１体を特殊召喚する。《史士騎兵　コンキスタドール》を除外し、来い、《史士弓騎　ケシク》！コンキスタドールがフィールドを離れたので、その効果を発動。除外された「史士」モンスター２体を特殊召喚する。来い、コンキスタドール、ファランクス！そして魔法カード《史士転生》を発動、フィールドのコンキスタドールと墓地のレギオンを除外して、《史士勇将　スキピオ》を融合召喚！」

　瞬く間に２体のモンスターと、２体の融合モンスターが揃った。





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　「征君、これはかなり苦戦しそうですね。」

　例によって控え室で遊貴と共に試合を観ていた舞の呟きに対し、同伴者の遊貴はそうでもない、と言った様子で呟き返した。

　「いや、【XD】は元々カウンターで攻めるから……このターンを凌げば多分、征が勝てる……」

　そんなものですかね、と首を傾げる舞に対し、遊貴はある種の確信めいた考えを巡らせていた。

　（スタークエイクは実質上戦闘破壊耐性、そして効果破壊を抑止できる……それだけで《史士勇将　チンギス》は出せないし、それ以外にも破壊効果を持っていたら全部デッキバウンスに換えられる……そう考えると、次の征のターンに回るのは必定だし、どうなるかな…………）





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《？次回予告？》

フランツ　「この勝負、もらった！」


征　「いや、これで、終わりだ！」


次回、「死闘」
　Stand up! to the Victory.