22　I got ’pig iron’♪　作：Ales

　「なあ……あたしらもさ、そこそこいけるだろうとは思ってたけどさ……」

　昼休み、先輩ふたりにお礼をしようと思い再び立ち寄った部活棟で、戦果報告になった。先輩ふたりは当然のように全勝。不安要素の固まりであった遊貴の報告に、和那は少なからず驚きを見せていた。

　「後攻１キルが２回、３ターン目のワンショットが１回……あなたの引きが良かったのか、相手が弱かったのか。」
　朱理も同様に驚いている。午前中３戦のうち、全てを攻撃可能な最初のターンで仕留めるという豪運とも付かぬパワーは、当初彼女らが想定していたものを遙かに上回っている。

　「自分でもびっくり……このデッキ、面白い……」
　「びっくりってレベルじゃねーぞこれ。どう回したらそうなるんだ？」
　「可能はあるけれど……妨害を上手くかいくぐった宮戸さんがすごいのかしら。」

　お弁当を食べながら、高等部の先輩との会話。普段口数の少ない遊貴の、珍しい体験である。
　この学校の代表選考会は、ひとり当たり１日に合計１０戦行われる。午前中が４戦、午後に６戦だ。尚遊貴は成績優秀者なので、午前中の第１戦が免除されていた。
　デッキはカスタマイズ自由だが、デュエル直前に教員が確認し、リミットレギュレーション違反がないかなどを確認する。それが済んだら所定の位置で所定の対戦者とデュエル。明日の１０戦を含めた計２０戦のうち、学年中の勝率が高い２名が学年代表となる。シングルデュエルとはいえ２日で計２０戦は長丁場だが、それに耐えるスタミナや集中力も、選考基準のうちらしい。
　遊貴にしてみれば、普段勉強した後にVDCβでデュエルしている分１日に１０戦程度何ともない。問題があるとすれば、急造のデッキがいつまで保つかといったところだ。汎用性の高いカードがほとんどない分、午前中の戦績は奇跡と言える。

　「もういっそそのデッキで交流会出ろや。そしたら１勝ぐらい出来るんじゃねーの？」

　新しく買い付けたメロンパンを豪快に囓り、嚥下した後に和那が言った。

　「本格的に組むならもっと調整は必要だろうけれど……もしそれで出たいのなら持って行ってもいいわよ。どうせ余ったカードだし。」
　「２日目は……忘れてきませんから……」

　VDCβ専用のデュエルディスクに、本来のデッキがセットされているはず。帰ったら真っ先にアカデミアのディスクにセットしようと考える遊貴であった。今日はVDCβはお休みする。

　「負けていたら何も言わなかったでしょうけれど、ここまで勝っているのなら徹底的に強化しましょうか。宮戸さん、他に欲しいカードとかはあったかしら？私たちが余っているもので必要なのがあればお貸しするわ。」
　「まーたあたしを巻き込む……まあ、あたしも同意見だ。即席のデッキでここまでのパフォーマンスを見せるヤツが弱い訳ないしな。」

　個人成績のみを追求するなら交流会に誰が出ようと関係ないのだが、そこは人情というもの。和那にしてみれば、見知った人が勝つ方が嬉しいし、母校側が勝っている方が満足できるものである。

　「これはこれで問題ないんですけど……強いて言えば、《フレシアの蟲惑魔》がいれば、面倒な初手が来た時に困らなくて済むぐらい……です。」
　「フレシア……ねぇ。確かこっちにあったな。」

　段ボールの中の一角をがばっと掴み取ると、和那がその中から１枚を差し出す。

　「ほいよ。もったいねーことするよな、ここの生徒は。」
　「カードの価値がわかっていない人というのはどこにでもいるけれど……私も、このデッキにそんなにパワーがあるとは思えなかったもの。人の事をどうこう言えないわ。」
　「ああ、全くだ。遊貴、こうなったら午後も全勝して来いよ。」
　「もちろん、それは目標……」


　普段顔を合わせない高等部の先輩との、奇妙な絆。拉致されたかと思いきやデッキ編制をサポートしてくれ、果てはカスタマイズまで手を伸ばしてくれる。サイドデッキのようなカスタマイズパーツを得て、長丁場に臨む昼過ぎ。初夏の日差しは、相変わらず暑くて好きになれない。





　午後の６戦も圧勝に次ぐ圧勝だった。中でも痛快だったのが、全体としての９戦目、つまり遊貴にとっての８戦目である。


　「宮戸遊貴……あなたが今までで一番大きな壁ね。乗り越えて代表を取らせてもらうわ！」

　浜部花鈴（はまべ　かりん）と名乗った少女は、のっけから敵意むき出しである。といっても、全勝すれば代表内定は手中と言っても過言でないこの予選、大抵の人が好戦的になるのだが、全体９戦目という長い時間が経過している割には、この少女のテンションは高い方であろう。

　「よろしく……」

　こちらは常と変わらぬ様子の遊貴。ここまで７度戦い抜いたデッキに対する不安は微塵もない。


　「「デュエル！」」



1st.Turn
　TP：花鈴

花鈴　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None
遊貴　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None



　「私のターン、手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚して効果を発動します。デッキから《トリシューラの影霊衣》を手札に加えます。カードを２枚セットしてターンエンド。」
　「影霊衣……」

　儀式召喚モンスターを軸とする【影霊衣（ネクロス）】は、一度型に嵌ればとんでもないパフォーマンスを発揮する。そのパワーは強力で、一時期圧倒的な制圧力で環境を席巻していた事もある。規制の煽りで弱体化は免れなかったものの、依然として使用者は多い。

　（攻撃力1400……それじゃ、ダメ……）

　しかし、その始動の遅さでは、遊貴のデッキに対する相性は最悪である。



2st.Turn
　TP：遊貴

遊貴　LP：8000　D：35　H：5　G：0　F：None
花鈴　LP：8000　D：34　H：3　G：0
　F：《マンジュ・ゴッド》
　　《セットカード》×２



　「私のターン、ドロー。ドローフェイズの終わりに、《ツインツイスター》を発動。手札１枚を捨てて、セットカード２枚を破壊。」
　「っ！そんな……」

　セットカードは《神の通告》２枚。モンスターに対して最高の対策となるカウンター罠はしかし、破壊されてしまえば意味を成さない。

　「メインフェイズ、まずは手札から《Ｕ.Ａ.フラッグシップ・ディール》を発動。デッキから《Ｕ.Ａ.コリバルリバウンダー》を特殊召喚。コリバルバウンダーを手札に戻して、手札の《Ｕ.Ａ.ファンタジスタ》を特殊召喚。
　フィールド魔法《Ｕ.Ａ.スタジアム》を発動。ファンタジスタをリリースして《Ｕ.Ａ.コリバルリバウンダー》を通常召喚、コリバルリバウンダーの効果にスタジアムの効果をチェーン。
　チェーン解決、スタジアムの効果で《Ｕ.Ａ.マイティースラッガー》をサーチ、コリバルリバウンダーの効果でそのまま特殊召喚。「Ｕ.Ａ.」モンスターが特殊召喚されたのでスタジアムの効果発動、モンスターの攻撃力を５００アップ。
　後は……装備魔法《Ｕ.Ａ.パワードギプス》をスラッガーに装備、バトルフェイズに移ります。」
　「え、ええ……」

　遊貴が淡々と展開するモンスターたちに、花鈴は少なからず驚きを見せていた。【影霊衣】使いであればこの程度の展開は当たり前だが、驚いているのはモンスター群である。
　【Ｕ.Ａ.】は「ウルトラアスリート」と読み、スポーツ選手を模している。共通効果としてフィールドの「Ｕ.Ａ.」モンスターを手札に戻して特殊召喚できる効果を持っているこのカテゴリは、攻撃性能の高いモンスターと防御に長けたモンスターに分かれているのも大きな特徴だ。つまり、攻守に専門のモンスターを使い分けてフィールドを制する。アメリカンフットボールのようなメンバー交代は、動かしてみると意外と楽しいものである。
　登場したパックの目玉、【彼岸】が注目を集めた所為もあって、このテーマに対する評価は低い。しかし【彼岸】が延々と後続をサーチ・展開できるマラソンランナーなら、こちらは一瞬に込めるパワーが高いスプリンターである。だがその欠点はリリースなしで召喚可能な１体の下級モンスターへの依存度が高い事で、それが致命傷となっている。
　もっとも花鈴の驚きはその不安定なマイナーカテゴリより、背が小さく線も細い遊貴には、筋骨隆々といった風体のスポーツマンは全く似合っていないどころか違和感の塊でしかない、という事だが。

　「《Ｕ.Ａ.マイティースラッガー》で《マンジュ・ゴッド》を攻撃。『グランドスラム』！」


《Ｕ.Ａ.マイティースラッガー》　ATK：3800　　ATK：1400　《センジュ・ゴッド》
　花鈴　LP：8000　→　3200


　「えっ！？ちょっと、計算がおかしいわよ！」
　「パワードギプスを装備したモンスターは、モンスターとの戦闘で与えるダメージが倍になり、更にモンスターを破壊した場合、もう一度攻撃できる……」
　「なっ、なんですって！？それでは……」
　「《Ｕ.Ａ.マイティースラッガー》でもう一度攻撃。『グランドスラム・アゲイン』！」
　「っ！そんな、何も出来ずに……」


《Ｕ.Ａ.マイティースラッガー》　ATK：3800
　花鈴　LP：3200　→　0


Win：遊貴




　「ありがとうございました。」

　VDCβでの常であるように、ぴょこりと頭を下げる遊貴に対し、花鈴はカードをデッキに戻す事も忘れて放心していた。弱体化したとはいえ充分な戦力を有しているはずの【影霊衣】を使って、見た事もないようなデッキに文字通り瞬殺される。１年とはいえ展開難易度の高い【影霊衣】を使いこなす実力を自負していただけあって、花鈴の傷心は大きかった。

　「宮戸……遊貴……」

　ぽてぽてと歩く背中に声がかかった。

　「何？」
　「次は……絶対に勝ちます！」
　「そう……」

　去っていく背中を睨み、花鈴はリベンジの炎を燃やすのであった。




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《？次回予告？》

朱理　「そう。じゃあ、これ。気が向いたらね。」


琉枝　「いいんじゃないかしら？」


次回、「’’Stay Gold’’」
短いようで長い旅路の果ては。