DRAW:１９２ 今できること　作：人喰い

(192)








『………お前たちなら……ッ……絶対にできる……ッ……』




『ーーーーー……『ホムラ』と『ホノカ』なら、絶対にーーーーー』







＊＊＊






〜市瀬家・火群の部屋〜



【Side 火群】



火群「ーーーーーッッ……！！！」


目を開けると、久々に見る自宅の天井。


火群「………ハァ……ハァ……ッ……そっかーーーーー」



帰って……来たんだーーーーー


火群「……っ…」

身体を起こした瞬間、昨日の出来事が思い出される。


マインは、神託の間にて邪悪の樹[クリフォト]の扉を開き、精霊界へと向かった。
けど、八神社長の仕掛けていた“細工”によって、マインは明日の朝までは攻撃を仕掛けて来れないーーーーー

しかし俺にはその事よりも……


火群「……目の前で、人が、死んだ……」


そんな光景を目にするのは勿論初めてのハズなのに。

火群「……ッ…ゥ……っ………」

どうしてか初めて見たような気がしない。
それがどうしようもなく気色悪かった。

そしてもう一つ。


火群「……『ホノカ』ーーーーー」


八神社長が最後に俺に伝えたその名前を、俺はよく知っている。

知っていると言っても、名前を知っているというだけで。

それ以上の事は何も知らないし、知ろうともしなかった。

けど、このままでいる訳にもいかなくなった。
俺には知っておく必要があるみたいだ。



ニクス「ーーーー目覚めたか、火群」


火群「………ああ。
早速だけど、出かけるぞーーーーーニクス！」




ーーーーーその日は早急に家を出て、とある場所へと向かった。


そこは家から歩いて１５分程、２階建の木造建築ーーーーー『アトリエ・イチセ』。


俺の父、『市瀬 久義』の職場だ。
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１９２ーーー
《今できること》















火群「ーーーーー空いて……無い…」


入口の扉は固く閉ざされ、明かりも付いていないようだったので、中に人が居る気配もなかった。

ニクス「…ふむ…父上殿は昨日も帰ってなかったから、私も職場に居るのではないかと思っていたがーーーー」

火群「……居ないんじゃ仕方ないか…」

諦めて、踵を返したその時だった。



？？「…おや……？ 君はーーーーー火群くん？」

俺の名を呼びながら歩いてくる、線の細い、なんだか冴えない男性。


火群「…あなたは……？」

反射的な問いかけに、男はやや困り顔で笑いながら、

優「…あはは、覚えてないのも無理は無いよね…。
ーーーー僕は『日向 優(ひなた まさる)』。
君の父さんとは古い付き合いでね。
ついこの間までは黒髭町からは離れた『桜花市』ってとこにいたんだけどーーーー」


火群「……あ」

思い、出した。

確か、俺が小学2年生くらいの時に、会議に呼ばれた父さんと一緒に桜花市に行ったんだ。
そしてその時に日向さんに会っている。
日向さんには俺と同世代の、とっても元気な娘さんがいて、父さんと日向さんが会議に出ている間、俺はその子と、それからもう一人ーーーーー

火群「……ッ…！」

唐突な頭痛。
なんでだ……これ以上…、思い出せないーーーー


優「…大丈夫かい…？ 火群くん」

火群「…あ、はい。大丈夫です。
……思い出しました。あの時は色々とありがとうございます」

優「！ いやいやこちらこそ。娘も喜んでいたよ。
…それより、今日はお父さんに用事かな？」

火群「…はい！
……けど、今は家にも職場にもいないみたいで」

優「実はね、君のお父さんは僕と入れ替わりで桜花市まで出張に行ってるんだ。お父さんから直接聞いてなかったのかい？」

火群「…そうだったんですか……最近ちょっと友達と旅行に行ってて、昨日帰って来たばっかりだったんです」

優「…なるほど。
今日の夕方には帰ってくるはずだけど……急ぎの用事だったのかな」

火群「……いえ、今日中に会えるんだったら大丈夫です！
じゃあ、俺はこの辺で失礼します！ まだやらなくちゃいけない事がありますんで！」


最後にそう言って頭を下げ、走り出した。






優「………行っちゃった…か」



優「…………ああゆう、目的の為にまっすぐ突っ走って行くところーーーーーーうちの娘になんだか似てるなぁ」








＊＊＊





ニクス「……火群。次はどこから向かう？」


火群「…黒髭病院が近い。次はそこだ！」





昨日の別れ際ーーーーー



〜〜〜〜〜



火群「……シルバさん…。
俺は明日……、何をしていればいいですか…？」


シルバ「……そんな事は俺が指示するまでもない事だろう」


火群「……っ…？」


シルバ「……ただ俺から言える事が一つあるとすればーーーーー『お前はお前の役目を果たせ』。以上だ」




〜〜〜〜〜




ーーーーーシルバさんは俺にそう言った。


火群「……今のこの限られた時間ーーーーー俺にできる事を…全力でやるしかない……！！」






＊＊＊






〜黒髭病院〜



火群「……スッキー先生っ！！」


病室の扉を開けて開口一番、ベッドに横たわる先生を呼ぶ。


好「…！！！
……金髪ポニーの嬢ちゃんに…、市瀬。病院では静かにしろって教えられなかったかい…？」

俺の顔を見るや否や、先生は呆れ顔で嘆息。

火群「……あ…すみません……つい…」

しかしすぐに普段の挑発的な笑みを浮かべ、

好「わかったから、いつまでもそんなとこに突っ立ってないで、さっさとこっちに来なよ」

ちょいちょいと手招きしながらそう言った。

火群「…は、はい！」

そして促されるままにベッド脇の丸椅子に腰掛ける俺に、

好「……悪いナ。学校……守れなかった」

一言、謝った。

火群「……謝らないでくださいよ。
先生は、こんなにボロボロになってまで、クラースと栗須を助けてくれた。
ーーーー誰にだって誇れる最高の先生です」


好「……っ…」

先生は一瞬目を丸くし、

好「………ったく…いつの間にそんなデカい態度取るようになったんだか…」

再び、呆れ顔でこっちを見やる。
それを受けて俺は、

火群「先生の影響…かもしれないですね」

少し冗談交じりにそう返すと、先生は俺の脇腹を思いっきり叩き、静かに笑った。





＊＊＊




痛む脇腹をおさえながら、俺は病院を後にした。


火群「……いつつ……俺だって一応怪我人だってのに、容赦ねぇな……スッキー先生は…」

ニクス「……フッ…。しかしそれだけ元気だという事だ。よかったじゃないか」

火群「…ああ。よかった……本当に」


俺の通う黒髭中学校が、終焉の焔であり…黒髭中学校の数学教師だった『宮本 真和』先生による襲撃を受け、倒壊したという情報を明石さんから聞いた時はかなりの衝撃を受けた。
その戦いでクラースや栗須、新田に剛田……、そしてスッキー先生までもが大きなダメージを負ってしまったんだ…。

火群「………」

俺の怪我がもっと早く治っていればーーーーー


ニクス「……そう気負うな、火群。
我々がこちらの戦闘に参加していたら、決闘機兵工場の鈴華や雫………それに和泉だって助からなかったかもしれないんだぞ」


火群「…………わかってる」


ニクス「……ならいい。
…お前は精一杯の事をやった。その結果たくさんのものを護れた」

確かに、俺がこんな事で悩んでたら、俺とニクスが護った人達に失礼…だよな。

火群「……ああ」

俺は小声で答えるが、ニクスはそれを咎めたりしない。

ニクス「…偉いぞ火群。
ーーーー撫でてやろうか」

からかってるのがすぐわかった。

そして直後。


いつもの様に断ろうとしたその時、異変は起こる。



火群「ーーーーッ……！！？」



ふと、脳裏をよぎるーーーーー黒髪ポニーテールの、少女の姿ーーーーー


〜〜〜



『ーーーーー偉いね、ホ ム ラ！
お 姉 ち ゃ ん が 撫 で て あ げ よ っ かーーーーー』



〜〜〜


火群「ーーーーッッ！！！」


ニクス「……火群…っ……？」




俺の頰を涙がつたい、一粒、こぼれ落ちて空中で弾けた。

そして震える口が無意識に開かれる。






火群「ーーーーお姉……ちゃん……？」





目の前の金髪ポニーテールは静かに揺れ、記憶の片隅で何かが震えた。







To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１９３ 今できること②






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙