DRAW:１２４ 神鳥に迫る影　作：人喰い

(124)



〜精霊界・精霊王の間〜


ルナ「………っ…」


ティア「…ルナ様……。やっぱり無理をしすぎでは…」

ルナ「……いえ、世界の均衡を保つためには、私が無理をしなくては…」

ティア「ルナ様……。
…けどマインが、ルナ様がこれほど疲弊している事をまだ知らないのは幸いですね…」

ルナ「……それが、そうとも言えません」

ティア「…え…っ？」

ルナ「………マインは恐らく、ランプの炎を通して、私の力がだんだん弱まって来ていることに気づき始めているはずです…」

ティア「そんな…っ！」

ルナ「……私が弱っている確証が持てれば、向こうが約束を守る意義も薄いでしょうから、…約束の日より前に攻撃を仕掛けてくる可能性は高いでしょうね」

ティア「…で、でもっ、ルナ様。約束の日より前に決闘を行おうとすれば、決闘盤にエラーが発生するようになっているのでは…？」

ルナ「…それに関しては、私の力で人間界に影響を与えられる分には限界があります…。あまり過信はできないでしょう」

ティア「…それじゃぁ…っ！ どうすれば良いのでしょう…！」

ルナ「………」

ティア「……ルナ様…？」

ルナ「……少しでも、マインがこちらの様子に気づくまでの時間を稼ぐのです。そのための……“無理”ですよ。ティア」

ティア「………わかり…ました。私も全力でサポートします。ルナ様…っ」















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１２４ーーー
《神鳥に迫る影》















〜積木町・海岸〜


栗須「ーーーぎゃあああぁぁあっっっす！！」【LP 1800→0】


◉Winner◉
-アーミーくん零式-


栗須「くそっっ！！ また…負けた…ッ！！」

戒「……話にならない。俺は弱い奴と一緒に戦うなど御免だ」

火群「…戒……っっ！」

栗須「……戒…ッてめぇ……っっ！！」

ｶﾞｯ

栗須は戒の元まで近づき、戒の胸ぐらを掴んだ。

戒「……何のつもりだ？」

栗須「…お前を……ぶっ飛ばす…ッ！！」

栗須が拳を思いっきり振りかぶった刹那ーーー

ﾋｭﾝｯ!

栗須「ーーー！？」

ﾄﾞｻｯ!

栗須の視界は空を映し、その身体は砂浜の上で仰向けになっていた。

栗須「…が……は…っ…！？」

戒「………頭に血が上っているから足元をすくわれるんだ。よく覚えておけ」

栗須「……く……っそ…ッ…！！」

そして栗須はゆっくり立ち上がると、

栗須「……ッ…」

ﾀﾞｯｯ!

山の方へ向かって走って行ってしまった。




メアリー「……シルバさんー、途中で止めなくてよかったんすかー」

シルバ「あいつらぐらいの年頃にはこういう小さい衝突も必要だろう。俺もガキの頃は、ああだった」

メアリー「シルバさんにもピュアッピュアな時期があったとは…」


シルバ「……お前たち、俺は一旦席を外す。訓練メニューは一旦中断するが、決闘騎兵は自由に使ってくれて構わない。各自自主トレでもしているといい。1時間くらいで戻る」

メアリー「…大変ご多忙でございますねぇ」

シルバ「…では、行ってくる」




………





明日人「……栗須…、戻ってこないな」

火群「…戒もどっか行っちまったし…」

雫「古宮さん…1人で山奥まで行っちゃったら、間違いなく迷って帰ってこれなくなっちゃいますよ…！？」

ニクス「…栗須には精霊もついていない。危険だな」

結維「……答えは出てるわね。火群」


火群「…ああ、栗須を探しに行こう…！」


メアリー「……若いっていいね！」

………。

メアリー「…あ、ただし、行くのは不死鳥くんと倉川くんだけね！ こーいうのってやっぱ、男同士で解決するものだと思うし、ネ」

火群「わかりました！」

明日人「了解っす」

鈴華（男同士の友情……）ｺﾞｸﾘ

雫（鈴華サンがなんか怖いです…）









＊＊＊





〜積木町・山奥〜



栗須「ーーーくそっ！」

栗須は山奥で１人、木に拳を打ち付ける。

栗須「…俺は最強の決闘者になるんだ……ッ！！ あいつらに馬鹿にされてるままで終わるかよ…ッッ！」

ｻﾞｯｻﾞｯ

栗須「…ぜってぇにあいつらより強くなって……見返してやる…ッッ！！」


突如。




？？「……力がーーー欲しいかい？」


栗須「！？」

栗須に声をかけた人物は、背後の木の太い枝に腰をかけ、含み笑いで見下ろしていた。


栗須「…誰だ！？」

一瞬の間を置いて、振り返らないまま栗須は問うが、その男は問いには答えず続ける。

？？「先に質問したのは僕だよ？ まずは僕の質問に答えてよ。それがマナーってものじゃない？」

栗須「…何……っ？」

栗須はまたも振り返らないまま。
否、振り向けないのだ。

栗須（…なんだよこれ…！？ 身体が見えない何かで縛られて…ッ！？ 全く身動きできねぇ！）

？？「…もう一度聞くよ。
……力が、欲しいかい？」

栗須（…なんなんだよこいつ…っ！！ 訳わかんねぇ…！
でも、このまま黙ってても………殺される……っっ…！！）

栗須「……ああ、欲しいよ……欲しいさ！！
だったらなんだ！？ お前が力をくれるっつーのかよ！？」

？？「……♪」

栗須「最強になれる……力をーーー！！」




？？「ーーーもちろん、あげるよ。
“欲”に正直な人間が、“僕ら”は大好きだ」


栗須「ーーー！！」

？？「へー…♪ 随分古臭いカード使ってるんだね。『神鳥 シムルグ』かぁ」

栗須「…！！（いつの間に真後ろに…！？ しかも…俺のカードを……！！）」

？？「……けど、可能性に満ちた……いいカードだ…♪」

栗須「…どういう……ことだ…？」

？？「…そのまんまの意味だよ。君にも、このカードにも、強くなれる可能性があるって事さ」

栗須「……ッ…！」

？？「…さぁ、それじゃあ力を授けようか」

栗須「！」

？？「……といっても…、強くなれるかは君の“影”次第なんだけどね…♪」

ｽﾞｫｵｫｵｵｵｫ…

栗須（…なんだよこれーーー！？ 急に視界まで暗くなって…！？ ）

？？「…それじゃあ、君の“成果”を、楽しみにしているよーーー」


栗須（これは……俺の……、影……っ…！？）


その時、栗須の視界に最後に映ったのは、自らの影が悪魔の様な姿に変わり、自分を嘲笑うかのように揺れる光景だった。










＊＊＊





火群「ーーー栗須のやつ、一体どこまで行ったんだよ…」

明日人「…早いとこ見つけねーとな。大先輩様、どうっすか？ 森の様子は」

アルセイ『……良くない“揺らぎ”だ。用心しろ、明日人。この山にはおそらく栗須以外にも人間がいる。それもーー邪悪な……ッ』

明日人「…何……！？」

火群「…！」

ニクス『……私にも感じた。嫌な予感がする。急ぐぞ、火群！』

火群「…ああ！」

火群（……少しだけ、疑問に思ってた。
巨大イカの出現に、熊の暴走。その普通ではありえない２つの現象がほぼ同じタイミングで起こった事に）

火群（あの２人の研究員が両方の原因だと思っていたけど、今日戒に聞いた話だと、あの２人はイカの件には関与していなかった。つまり巨大イカの出現に関与していた人物はまだこの周辺に潜んでいてもおかしくない…っ…！）

ニクス『…風が……強いな…っ』

ﾋﾟｯ!

明日人「！」

突如、つむじ風が通り過ぎたと同時に、明日人の頰の皮膚が僅かに裂け、程なくして血液が垂れる。

明日人「…おいおい…。風がつえぇってレベルじゃねーぞ……これ…っ！！」


アルセイ『………来る…ッッ…！！』


ニクス『ーーー伏せろッッ！！！』


ニクスの声を聞くと同時に火群と明日人は体勢を低くする。

火群「ーーー！」

直後に揺れた髪の毛先に何かが触れ、はらりと舞い散る。

明日人「…今のは…ッッ」

火群「……火舞太刀……！？」

ニクス『…違う、鎌壱太刀だ…！！』

明日人「鎌鼬だろ！！
…って、コントやってる場合か！！ 大先輩様！！」

アルセイ『…方角は分かった。ワタシが盾になる。お前たちはワタシの後ろにいるんだ』

明日人「…頼みます…っ！」


そして吹き荒ぶ第二刃。

ﾋﾞｭｫｫｵｫｫｵｫｫｵ…

ﾋｭﾝｯ

目に見えぬ真空波をアルセイは受け続ける。

アルセイ『…グ……ッッ…！！ 何だこのチカラは……ッ…！！』

ニクス『このままでは格好の的だ…！！ 一旦引くぞ…ッ！ 見晴らしのいいところまで逃げるんだ！』

火群「…この鎌鼬の嵐の中逃げんのか！？」

ニクス『……無理などでは無い。その為の私だ』

火群「……っ！」

火群がニクスの手を取り、精霊の力を受け取ろうとしたその時ーーー


ﾄﾞｺﾞｫｫｫｯｯ‼︎


目の前の大地が割れた。

火群「…！！」

自分たちのしゃがんでいた方の地面が大きく傾き火群達はバランスを崩す。

明日人「…おわっ！ 何だよ！ あれ…！」

斜めになった地面は更に傾き続け、二人は精霊と共に高さ5メートルほどの崖の下まで足を滑らせながら落ちていった。

ｻﾞｻﾞｻﾞｯ…ｻﾞｻﾞｯ‼︎


火群「く…ッッ…！！ クラース！ 無事か！？」

明日人「…ああ、なんとかな。
……けど、さっき落ちる時に、決闘盤を岩にぶつけちまった…っ！ 多分この様子だと修理しないと動かねぇ…！」

火群「…！」

ニクス『……まだ風は止んでいない…！ 来るぞ…ッ！』


ｻﾞｯ

崖の上から見下ろすは、１人の人影ーーー



？？「…逃さねぇぜ…ッ！
お前らは俺が倒す…ッ！！ 完膚なきまでになァ！！」


火群と明日人、２人にとってはとても聞き覚えのある声。見覚えのある、トゲトゲとした短めの茶髪に、黒縁の眼鏡。


ニクス『……あれは……！！』



火群・明日人「ーーー栗須！！！」



崖の上から栗須は２人を、そして２人の精霊を順番に睨み、そして笑う。

栗須「ハァァーッハッハァッ！！ いい気味だぜお前ら！！ これはなァ！散々俺をバカにしてきた……お前らへの罰なんだよォ！！」

火群「…何…！？」

ニクス『……様子がおかしい。栗須の周りを…邪悪な瘴気が取り巻いている…！！』

栗須「…いいかお前ら…！！ この俺、古宮栗須はなァ、最強の力を手にして生まれ変わったんだ…！！ お前らなんか敵じゃねぇ！！」

火群「……だったら試してみるか？」

火群は立ち上がり構える。

火群「…ぐ……ッ！！」

ニクス「…無茶だ火群！！ まだ背中の傷が癒えていないはず…っ！！」

火群「……っ…！ でも…ッ！ 俺ががんばらねぇと……栗須が……！！」

火群はよろめきかけた身体をなんとか起こそうとするが、そこで崖の上から一声。
その声は栗須のいる位置より更に遠くから発せられた。






戒「ーーーその必要はない」



栗須「！？」


明日人「！！」

アルセイ『……っ！』

ニクス『……フッ…』


火群「……戒…ッ！！」



戒「…ケガ人は大人しくしていろ」

戒は白髪を揺らし、静かに決闘盤を構える。

栗須「……斬波戒…！！ そうだ…！ お前だよ…！！ まずはお前から叩き潰さねーと……チカラを手にした意味がねぇ…！！！」

栗須も戒に視線を移し、勢いよく決闘盤を構えた。

戒「……古宮栗須…。今のお前からは……“奴”と同じ空気を感じる。
ーーー容赦はしない。斬り伏せる」








To Be Continued…






《次回予告》


瑞希「ーーー最近1キロ太りました！！ 柏木瑞希でーっすっ！！」

和泉「なんで太ったのにそんな自信満々なんですかっ！ 先輩！」

瑞希「身長も伸びてるからね！ それに心なしか胸も重くなった気がするし！」

和泉「ちくしょう！ 聞かなきゃよかった！！」


瑞希「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１２５《死の風吹き荒ぶ》！！」


瑞希「次回もお楽しみに〜っ！
……って、いずみん？ そんなに牛乳飲んでどうしたの？」

和泉「ヤケ飲みです…。気にしないでください…」




＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙