DRAW２１GIRL NEXT DOOR　作：人喰い

火群と栗須のデュエルが開始した頃、そうとも知らないニクス（炎王神獣ガルドニクス）と千愛（ダーク・フェアリー・チア・ガール）は、精霊体のまま学校の外を散歩していた。


『あの子たち、うまくやってるかしらね…』

千愛は少し暗い表情で呟いた。
それを受け、私ーーガルドニクスは応じる。

ニクス『どうだろうな。どうせ火群の事だから、和泉と二人きりって状況でテンパってまともに案内もできないのではないか…』

『…リン♪ それはあるかもね』

『それよりいいのか？ 千愛』

『……？ なによ』

『和泉の事だ。火群が和泉を案内すると言った時に、お前はやけにあっさり引いたからな。あんなにも和泉の事を想っていたお前が、だ』

『はぁ…そんなこと』

千愛はため息混じりに答えた。

『想っているからこそ、よ。私は和泉ちゃんを信じているからこそ、市瀬火群の元へ行かせたの。それに市瀬火群の事も、全く信用していないわけじゃあないんだから』

『なるほど、な』

流れで納得してしまってはいたが、千愛が火群の事を全く信用していないわけじゃない、というのは少し、いやかなり以外だった。
闇落ちから覚めたとはいえ、千愛の火群に対する時の冷たい視線や言動から、千愛は火群の事をあまり快く思っていなかったように見えたのだが……言葉の、行動の裏返し、というやつだろうか。
そんなことを考えながら、私は言った。


『ツンデレだからな。千愛は』


『…あんたも人の事言えないでしょう……』


千愛は半分呆れ顔でそう答えた。






遊戯王 Ph.X DRAW:２１
《GIRL NEXT DOOR》






「ふ〜ん。なかなかいい味ね」


約６００年ぶりの他愛のない会話を繰り広げるうちに、『立ち話も難だな』ということで(『実際は浮いてるんだけどね』と千愛に突っ込まれたが)、私たちが行き着いた『サンバックスコーヒー』というコーヒー店のカウンター席で、ブラックコーヒーをすすりながら千愛は言った。
それを聞いて、私もブラックコーヒーの入ったカップに口をつける。
刹那。
私の舌先から徐々に、徐々に、深みのある苦味が口内一杯に広がっていく。

「〜〜〜っ！！！」

私はコーヒーカップに口をつけたまま、声にならぬ叫びを上げる。
なんだこれは！？ こんな苦いもの、生まれてからも死んでからも一度も口にしたことはなかったぞ！？

「…あらニクス、もしかしてブラックはお口に合わなかったのかしら？ それともまだ熱かったの？ …どちらにしてもお子ちゃまね」

千愛はくすくすと笑いながら私をからかい、コーヒーを飲みながらそっと角砂糖の入った容器を私の側に寄せる。

「ば、馬鹿者…！ 誰がお子ちゃまだ」

私は寄せられた角砂糖入りの容器を手の甲で千愛の方に寄せ返す。
自分でいうのもなんだが、意地っ張りにも程があると思った。
そして自然な動作でコーヒーをまた一口。

「〜〜〜っ！！！」

やはり苦かったが、声に出さないように必死に堪える。

「…可愛いわね。あんたも」

ブラックコーヒーと格闘する私を見て、千愛は苦笑いでそう言った。

「…と、ところで千愛」

苦味を少しでも紛らわす為に、私は千愛に話しかける。

「なんでちゅか〜ニクスちゃん？」

千愛は笑顔でそう応じた。もっとも、瞳だけはどうみても笑っていない。
私は至極腹が立ってしょうがなかったが、とりあえずは無視して話を続けることにした。

「……私たちがこうして人の身体に戻れているという事は、向こうで何かあったと見た方がよさそうだな」

今の私たちはコーヒー店でコーヒーを飲んでいる時点で、当然精霊体ではなく人の身体に戻っていた。私は和服姿、千愛はファー付きのフォーマルドレスという格好なもので、途轍もなく奇妙な２人組として今も嫌な注目を浴びているだろう。
少しの間を置いて、千愛はゆっくりと口を開く。

「そうね……貴方は確か、市瀬火群の血液エネルギーの集中に応じて、カードの中から出てこられるんだったっけ」

「ああ、そうなのだが…」

それが、日を重ねる毎に力が強くなっていくのである。
私が火群の中に発現した当初は、カードの外に出て精霊体になることすら難しかったのに、今となってはほぼ自分の意思でいつでも精霊体になることができるし、現実に存在できる時間も段々と伸びてきている気がする。
短い期間で、私と火群の中で確実に何かが変わってきつつあった。
そんなことを考えながら、私は続ける。

「もし火群がデュエルを申し込まれてたりしたら、私たちがわざわざ気を利かせて外に出てきた意味がないな」

「あらそれは困るわね。あの子たちには早く進展して欲しいし、邪魔が入るのは面倒ね。でも考えすぎじゃないかしら。きっと市瀬火群の事だから、和泉ちゃんと二人きりって状況で興奮して汚らしいモノにでも血液エネルギーを集中させているに違いないわ」

「……確かにそんな気はするな。否定できん」

「それにまぁ、たとえデュエルを申し込まれてたりしても、今の市瀬火群なら大丈夫な気はするけどね」

「…どういう意味だ？ 千愛」

千愛は残り僅かだったコーヒーを飲み干し、それから言った。



「護るべきものがある男は強いのよ」



そして少し間をおいて、「あんたも早くそのコーヒー飲んじゃいなさいよ」という千愛の言葉を受けた私は、ブラックコーヒーのように苦い表情をしていたという。




ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continued…ー〜ー〜ー〜ー



《次回予告》

ニクス『時は少し遡り、火群と戒の決着後ーーー負けを知り引き分けを知った戒の心には、かつてない感情が生まれつつあったーーー』



次回、遊戯王Ph.X
DRAW:２２ 戒めの斬波（前編）
＊６／２３（日）更新予定。