DRAW:１０２ 数字に魂を奪われた男　作：人喰い

(102)



【火群side】

〜市瀬家〜


ーーー夏休み真っ只中。辺りを蝉の鳴き声が乱反射する今日は７月２６日。
４日後から始まる対終焉の焔のための強化合宿に備え、自室でゆっくりしながらデッキ構築を練っていたのだがーーー


ニクス「ーーーおい、火群」


ニクスの一言によって、その束の間の幸せすら吹き飛ぶ事となる。


ニクス「……お前の鞄の中から、こんなプリントが出てきたんだがーーー」

ﾊﾟﾗﾘ…

火群「ーーー！！！」




ーーー俺は今まで逃げてきた。

その通達を受け、俺は……己の不甲斐なさを悔やみながらも、現実からただ目を背けていたんだ。
今もそうだ。行かなきゃと頭ではわかっていても、身体が、脳が、その場所に行く事を頑なに拒否している。
俺にはもう何も見えない。
何も聞こえない。
何も、いらない。
だからその地に行ったところで、何も変わらない。今俺がいるべき場所は、護りたいものがあるこの場所だけなんだーーー



ニクス「拗らせてるところ悪いが、さっさと読め！」

ニクスは手にしているプリントを俺の顔面に突きつける。

火群「…ぶフッッ！！」

嫌でも忌々しい文が目に入る。
そのプリントのタイトルには、こう書かれていた。






『補習を受ける生徒へ』






『補習』ーーーそれは絶望の宣告。
そして決して逃れることはできぬーーー暗黒の呪縛。
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１０２ーーー
《数字に魂を奪われた男》
















火群「ーーー嫌だッッ！！！ 学校になんて行きたくないぃいい！！！」


ニクス「……と、こんな感じで、さっきから標準的な引きニート発言をぶちまけながら布団を何重にもかぶって出てこなくてな…。そこで火群に内緒でお前を呼んだわけだ。和泉」

和泉「……え、えっとぉ…？ にくすさん。これ、私なんかにどうにかできる問題じゃない気がするよ…？」

火群「夏休みなのに学校行くとかありえねーから！！ 絶対に行かねーからな！！」

ニクス「…私も色々試したんだ。殴り、蹴り、服を剥ぎ、炙り……そしたらそのまま布団の中に身を隠してしまってな…」

和泉「ありえないくらいバイオレンスだよっ！！
それが原因で出てこなくなったまであるよっ！！」

ニクス「ーーー頼む和泉！ 私は全力を尽くしたが無理だった！ お前が最後の希望なんだ…！！」

和泉「…うわ…、普通に無視したよこの人…。
……まぁでも、このまま放置っていうのもマズイからね…、私が一肌脱いでやりますかっ」

ニクス「…おっ、火群の前で脱ぐなんて大胆だな、和泉」

和泉「違いますっっっ！！！」


火群「……？ その声は………和泉…！？ 和泉が来てるのか…！？」

和泉「…あー、うん。にくすさんに呼ばれて。お邪魔してるね、火群くん」

火群「！！（い、いいい和泉が俺の部屋に…！？ マジか！？マジか！！ うおぉおおおぉおっっ）」

和泉「…って事で早速、出て来てもらうよ？ サボりはよくない！」ｸﾞｲｯ

火群の潜む布団を左手で引っ張る和泉。

火群「いやっ！ まって…！ 今はまだ…！！」

だが火群も内側から引っ張り抵抗する。

和泉「“今はまだ本気出す時じゃない”とか言うつもり？ そんな甘い考えはもう通じないんだからね！」ｸﾞｸﾞｲｯ

更に引っ張る和泉。

火群「待って！ 違っっ！ 嫌だあぁぁあ」

ニクス「…あ、和泉、それ以上はやめておいた方が…」

和泉「…ここまで来て引きさがれるわけないでしょ！ ここでちゃんと更正させなきゃ火群くん、どんどん堕落しちゃうよ」ｸﾞｲｸﾞｲｯ

ニクス「……あー、いや……」

火群「…お願いだぁぁぁあっやめっっやめてくれぇぇえ！（ダメだ…！ さっきからずっと布団に潜ってたせいで……力が…！！）」

和泉「問答無用っ！ てーーいっっ！」


ﾊﾞｻｧｯ‼︎


そして火群の必死の抵抗も虚しく、かぶっていた布団全てが引き剥がされる。

だが、奇しくもこの瞬間において、和泉の頭から抜けていたニクスの言葉が蘇った。


ーーー
ニクス「…私も色々試したんだ。殴り、蹴り、服を剥ぎ、炙り……そしたらそのまま布団の中に身を隠してしまってな…」
ーーー


服を剥ぎ………そのまま布団の中にーーー






ニクス「……あ…」


和泉「……ふぇ…？」


火群「」






未知の生物を初めて目の当たりにした和泉の、理不尽な平手打ちが火群の右頬に炸裂したのは、間も無くの事だった。







＊




【火群side】


そして翌日、補習当日。


火群「ーーー行って来ます」

ニクス「…ちゃんと行く気になったみたいで私は嬉しいぞ。火群」

火群「…へいへい。俺はついに和泉にも嫌われ、結局補習にも行くハメになって最悪だよ」

ニクス「気にするな。おそらくだが、いくらお前のが小さくても、和泉はそんな小さいこときっと気にしないはずだぞ。多分」

火群「嫌味と不確定要素でのみ構成された言葉を聞かされても嬉しくもなんともねーよ！」

ニクス「…まぁそう言うな」

火群「…しかも補習は補習で、別のクラスの知らない奴とも一緒に授業受けるって話だし……せめて話せる奴がいればまだ良かったんだけどなぁ……」




〜黒髭中学・教室〜



火群「……」


明日人「…よ、よう…」

栗須「…おっす…」

火群「なんでお前らが居んだよ！！」

明日人「馬鹿だからだろ。あ、俺は違うけどな？ この横の馬鹿の事を馬鹿って言ったんだからな？」

栗須「うるせぇ！！」

火群「……いや、栗須が馬鹿なのは知ってるけど、お前ら入院してたんじゃなかったのかよ！」

栗須「おい火群てめぇまで！」

明日人「…あー、俺たち余裕で昨日のうちに退院したんだわ」

火群「…そうだったんかい……。で、クラース、お前は勉強はそこそこできるはずだろ。なんでここにいるんだ」

明日人「…夏休み前はWDCSの事で忙しかったからな、おかげでこのザマだ」

栗須「…へっ！ お前もやっぱり馬鹿なんじゃねーか！」

明日人「…あ？ やるか？ クソザコ栗須くん」

早速バトル勃発寸前といったところで、教室のドアが開く。


教師「ーーーみなさん席に着いて下さい」


火群「！」

明日人「……っ…」

栗須「…ゲッ…！ よりによって数学の『宮本』かよ…！」


宮本「それでは、今日の補習を担当させてもらう、『宮本 真和(みやもと まさかず)』だ。といっても、皆知っているでしょうがね」


宮本「ーーーさぁ、授業を始めようか」


明日人「……！！！」ｶﾞﾀｯ

火群「…！？」

突然、俺の隣に座る明日人が何かに驚いたかのように机を揺らし、顔を青くしていた。


宮本「…どうしたんだ？ 倉川。体調が悪いのか？」

明日人「……いえ、なんでも…ありません…」

宮本「…そうか。病院から退院したばかりだというからな。あまり無理はするなよ」

明日人「…はい」

明日人（……今……一瞬…、あの時のーーー終焉の焔との決闘の恐怖が蘇って……！ なんでだよ…！！ 今はいつもと変わりない、平々凡々な黒髭中学じゃねぇか…！！）





＊




キーンコーンカーンコーン…



宮本「…今日はここまでだ。今日やったところは各自復習しておくように。
明後日にはテストもするからな。このテストで９０点を超えなかった者は登校日が増えるから必死で勉強する事だ」

火群「…ぁああぁあ…！ もう数字なんか見たくないぃぃいいぃい…！」

栗須「…全くだぜ……」

宮本「…ふむ…？ 君達は否が応でも決闘において数字を見ることになるんじゃないか？」

火群「…！ いや…、それは別といいますか…。ってか、先生も決闘するんすか…！？」

宮本「ああ、多少はな」

栗須「……でも、決闘に数学は必要ねーよー…」

宮本「それはどうかな。
決闘とは、突き詰めれば数字と数字のぶつかり合いだ。数字を制したものが勝負を制するといっても過言ではない。
完全なる勝利とは、計算に計算を重ねた先にあるものなのさ」

火群「………それは、違う！」

宮本「……ほう…？」

火群「…決闘は熱い魂のぶつかり合いだ！ 勝つために計算するとか、計算した結果勝つとか、そういうんじゃない…！
なんなら試してみますか…？ 先生！！」

明日人「…火群！！ やめとけ…！ 先生に喧嘩ふっかける意味ねえだろ！」

宮本「……いや、構いませんよ。僕も君の“魂の決闘”というものを数字で解析してみたくなった」

明日人「……っ…！」

火群「…よし！ じゃあ早速、場所移動しましょう！」

宮本「…ここでいい」

火群「！」

宮本「……教室の方が雰囲気出るんでね。それじゃあよろしく頼むよ」

先生は教壇の裏から三角定規型の決闘盤を取り出すと、それを左腕に装着する。

栗須「…すげぇ個性的な決闘盤だ……」

明日人「……（…なんだよこの不安感は…！ 火群……頼むから負けんじゃねぇぞ…！）

俺もすかさずカバンの中から決闘盤を取り出し、装着する。

火群「…決闘盤、セット！！」


火群【LP 8000】

宮本【LP 8000】



「「ーーー決闘！！！」」









To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１０３ 計算し尽くされた決闘




＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙








To Be Continued…






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次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１０３ 計算し尽くされた決闘




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