DRAW:１８５ -Qliphort-　作：人喰い

(185)



〜YAGAMI本社ビル〜



【Side 火群】


火群「………これは……っ…！！」


シルバ「……」

メアリー「………っひゃ〜…っ」



八神社長についていった先は、YAGAMI本社ビルの45階ーーーー最上階だった。

社長室の最奥にある扉を開けたその奥には、周りの床や壁が捻じ曲がった異質な空間が広がっていて、俺はこのファンタジー空間に気持ちが高揚した。

メアリー「…話には聞いてたけど、すっごいデスネ…これ。
シルバさんは何度も来たことあるんですよね？
ーーーーこの『神託の間』に」

火群「……神託の、間…？」


シルバ「…ああ、この場所こそがーーーー」


八神「ーーーーーおっと、そこからはワタシに説明に説明させてくれ」

シルバさんはそれに無言で頷き、社長は奥へと歩み進みながら続けた。



八神「ーーーーー市瀬火群くん。
君が今立っているこの空間、『神託の間』こそが！！ーーー
ーーーー人間界と精霊界を繋ぐ“門”なのだッッ！！！」



火群「……！！！」

ニクス『ーーーっ！』



この先に、精霊界が………っ…！

ニクスの居た、精霊界がーーーーーー



八神「ーーーー正確に言えば、“門”としての役割を担うのは、あの“邪悪の樹”なのだがな」

社長はそう言って、神託の間の最奥を指差す。


火群「！！」



ーーーー邪悪な、霊気。


“それ”は、歪んだ空間の中で唯一、形を保ってその場に存在していた。


火群「…“樹”……っ…？」


社長が“樹”と言ったそれは、いくつかの円形を線で結んだ石版…に見えた。
円形の数は全部で１０……。それぞれ、わずかに色を放っているみたいだけど、何か意味があるのだろうかーーーー


八神「“樹”という呼称に違和感を覚えるのも無理は無い。
この“邪悪な樹”は、精霊界・精霊王の間に存在する『神星樹-ﾅﾁｭﾗ・ﾕｸﾞﾄﾞﾗｼﾙ-』の根の下に突き出る形で、人間界側に存在しているのだ」

火群「…！！
それじゃあ…、精霊界はこの上に…！？」


八神「ーーーーそういうことになるな。
ただし、この場所の時空の歪みから分かるように、外観からは精霊界を視認する事は不可能だ」

火群「…なるほど…」


八神「……さてと、少し話が逸れたが、ここからが本題だ」

火群「……！
煉獄の悪魔ーーーーーマインの話ですか…？」


八神「…ああ。
ヤツは……マインは……、ワタシの最高傑作だった」

火群「……ッ…それってどういうーーーー」


八神「………今から２６年前、マインは精霊界に産まれたーーーーー当時精霊界にて精霊の研究をしていた、ワタシの両腕を代償にな」


火群「っ！？」

つまりーーーー八神社長はマインの父親……ってことか…っ…！！？

って事はーーーーー


八神社長が………全ての、元凶ーーーー？



八神「…当時、無から精霊を生み出す事は禁忌とされていたが、研究に魂を奪われていたワタシは、両腕を犠牲にその禁忌を犯してしまったのだ……」

火群「……腕を…犠牲に……っ…」

腕の話になると、どうしても和泉の姿が頭をよぎり、いたたまれない気持ちでいっぱいになる。


八神「ワタシの両腕を代償に誕生した悪魔はとても純粋な少年で、人間のように日が経つ毎に体格も大きくなり、成長していった」


八神「特に決闘センスはズバ抜けて高く、彼に敵う者はほとんどいなかったーーーーー」


八神「ーーーーーしかし、強くなる度に更なる強さを求め、その欲求は邪悪なものへと変わっていったーーーーー」


火群「…！ その辺りの話は、その頃“精霊会”に居たダーク・フェアリー・チア・ガールっていう精霊にも聞きました。
その後、マインは内乱を起こし、精霊王に敗れた、と…」

八神「すでに知っていたか。
ならば話は早い」

ニクス『…そしてマインは精霊の力をランプの中に封印され、人間に近い状態で人間界に放り込まれたのだったな………人間から暖かな感情を得て新たな人として生まれ変わるために」

八神「…しかし、マインは復讐を諦めてなどいなかった。マインの内に秘めた怨念の魂は、人間会に送られた際にこの部屋の“邪悪の樹”から煉獄のエネルギーを吸収したのだーーーー」


火群「…！！ まさかそれがーーーー」


八神「ーーーーそう。その煉獄のエネルギーが精霊と化した存在がーーーーー『インフェルノイド』」


火群「…ッ…！！」

八神「…本来なら『インフェルノイド』はこの“邪悪の樹”に眠る『クリフォート』の中から出てこれないハズだったのだが、精霊王の力の弱体化によって、クリフォート内の制御プログラムが異質なものに書き換えられてしまったのだ…」

火群「……そんな…っ…。精霊王が命を削ってマインの力を封印したっていうのに…、それが裏目に出たってわけか…！」


八神「……あの内乱の直後、ようやくワタシは後悔した。なんという悪魔を産み出してしまったのだろう、と」

火群「……」

八神「………それから自責の念にかられたワタシは精霊王の指示で、この人間界にて企業を立ち上げた。
権力者になる事で、この世界にいるマインを監視するためだ」

火群「……-YAGAMI-の人達が精霊を集めていたのは、なんでなんですか…？」

八神「…情けない話だが、インフェルノイドという強大な力を手に入れたマイン、そして“終焉の焔”に対抗するためだ」

火群「…対…抗……？」

ニクス「火群……っ…？」


火群「…マインをずっと監視していたんだったら…！ 終焉の焔が組織化することを事前に防ぐ事はできなかったんですか…！？」

ここで怒りをぶつけてもしょうがない事なんて、本当はわかっている。

けどーーーーー


火群「それだけじゃない…！！奴らの焔に焼かれた村、町だって沢山ある！！ 傷ついた人だって沢山いる！！ みんなみんなみんなみんなみんなみんな！！！
ーーーーー護れたはずじゃないんですかっっ！！！」


気がつけば力強く、叫んでいた。



八神「……そうだ…。護れたはずだったんだ……。
しかしワタシの中の僅かな迷いが、息子を殺したくないという甘さが、このような結果を招いてしまったーーーーー本当にすまないと思っている……ッ…」


シルバ「………」

メアリー「……っ…」


火群「…っ……WDCSだって…！！ 俺たちの精霊を餌に…ッ終焉の焔をおびき出す為の手段だったんだろ……ッッ…！！？」


八神「…その…通りだ」


火群「…その結果…ッ…何も知らない人が大勢傷ついて……ッ…！！
ーーーーふざッけんなよッッ…！！！
全部……！！ 全部…ッ……！！
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ッッ！！！！！
ーーーーーあんたの所為じゃないかッッ！！！」



八神「ーーーーっ…！」


火群「……はぁ…っ…はぁ…！」

ニクス『…落ち着け…っ…火群！』


火群「……ッ……、悪い、ニクス…。
冷静じゃ…なかった」

でも、許せない…。
許しちゃ、いけない…！



ニクス『…。
……もう一つ、肝心な事がまだわからない。
なぜ我々をこの場所に呼んだんだ？』


シルバ「…それに関してだが、昨晩メアリーから、市瀬火群の怪我が一瞬のうちに治ったこと、そして白紙のカードからシンクロモンスターが覚醒した事を聞いて、俺から社長に声をかけたんだ」

火群「…！」

八神「……始めは耳を疑ったが、君が久義くんの息子で、不死鳥のカードの持ち主だと聞いて、ワタシは納得した」

火群「！？」

なんでここで、父さんの名前が出てくるんだよ……！？


八神「…市瀬火群くん、そして、ガルドニクス。
君たちを呼んだ理由はただ一つーーーーー」





ーーーーー君たちが、マインを倒すことのできる最後の希望だからだ。















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１８５ーーー
《-Qliphort-》














火群「ーーーーー俺たちが……希望…！？」


八神「…だから、君たちにはワタシとマインの関係を知って貰いたかった。
そして今日この日、この場所に居てもらわなければならなかった…」

火群「……！？ それってどういうーーーー」


意味深なセリフに、俺が問いかけたその時。


シルバ「ーーーーー社長、そろそろ時間です」


シルバさんが口を開く。

そして“時間”だと告げた。


メアリー「……不死鳥くん、来るよ……ッ…！
構えて……！！」


メアリーさんは“来る”と言った。

何が……！？ 一体何が来るっていうんだよ…っ…！？



突如、背後に違和感。

邪悪なーーーー殺気。


火群「…ッ！！」


恐怖を感じ振り返ると、入ってきた扉の手前の空間に、亀裂が入っていた。

火群「……そん…な……ッッ…！」

亀裂は徐々に広がっていき、その中からは漆黒の闇が覗かせる。

火群「…なん…で…ここに…ッ！！」


やがて漆黒の闇より、１人の男が姿を現すーーーー


八神「……“視えていた”通りだなーーーー」


男は黒き長髪を獣のように逆立て、殺意に満ちた眼をこちらに向ける。



そしてゆっくりと、口を開いた。








マイン「全てを奪いに来たぞーーーーー父上」





男の名は、マイン。

終焉の焔の首領にしてーーーーこの世の全てを焼き尽くす、煉獄の悪魔ーーーー



火群「……っ…！！！」



八神「…お前がここに来る事は、ワタシが自身の臓器を代償に手に入れた“未来視”によってすでに分かっていた…」


火群「…っ…！ 未来視だって……っ…！？」

つまり、未来が見えるってことか……！？

驚くも束の間、八神社長の背後にクリフォートが姿を現し、ガキンガキンと機械音を鳴らしながらパーツを展開する。

そして社長の機械の腕が決闘盤に変形してゆくーーーーー


八神「ーーーーワタシが相手だ。マイン」


火群「…！！ 待ってください…！！ 俺だって戦える…！！ ここは俺がーーーー」


前に出ようとする俺を社長は片手で制止する。

火群「…！」

八神「……今更信用などできないだろうが、この場はワタシに戦わせてくれ。
君たちは絶対に、ワタシが護る」

火群「…！！！」


なんでーーーーー



マイン「……未来が視える…か…。クククク…ッ…！ 面白い…ッ…！
ならば望み通り…！！ 貴様が見ているであろう敗北の未来に向けた道筋を…ッ…俺が送ってくれる…ッッ…！！！」



マインも決闘盤を構え、猟奇的な笑みを浮かべるーーーーー



マイン【LP 8000】


八神コウ【LP 8000】



マイン「クククク…ッッ…！！ クファフハハァッッ！！ 」



吐き気のするような笑い声は部屋中に響き渡り、決闘の火蓋は切って落とされた。




「「ーーーーー決闘ッッ！！！」」







火群「……ッ……！」


未来が視えるなら……ッッ…！

なんで“絶対に勝つ”って言ってくれないんだよーーーーー









To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１８６ -Infernoid-






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙