DRAW２２４ Hand to Hand　作：人喰い

(224)


【Side 結維】


〜『王冠の間』←→『美の間』〜



痛い。

苦しい。

辛い。

寒い。

冷たい。


結維「……どれもこれも、全部私の感情じゃない」

全て半身である、和泉の感情だ。

元は一人の人間であったが、今は『桜庭 和泉』と、『桜庭 結維』の二人に分かれ、それぞれ自立している。それ故に互いが互いの感覚を少しだけ共有できるのだ。
楽しいことから、辛いことまで、全部。

結維「……和泉が……辛い思いをしている……」

結維は脚を引きずりながら、

結維「私が…っ……私が行かなきゃ……っ…！

和泉の“声”が聞こえる方へ歩を進めて行く。

結維「…和泉を護るのが…、“右側”としての……っ！ 私の…ッ……役目だから…っ…！！」

和泉とお揃いの桜の髪飾りに手を当て、眼鏡の奥の瞳はしっかりと前を見据えて。
重い一歩を踏み出していく。


結維「……！」


しかし直後。ガシャン、ガシャン、と、物音。前後からだんだんと近付いてくる。
それが、決闘機兵の足音である事が結維にはすぐわかった。
蔦に覆われた一室から抜け出しここまで向かう道中で、既に幾度もその機械音を聞いてきたからだ。


機兵「……目標確認。『桜庭 結維』…。処理を開始スル」

機兵「…ギギギ……ッ！ 決闘…！ 決闘…！！」

機兵「マイン様の“意思”の元ーーーー」

機兵「…キサマをハカイすル…！！！」



結維「…本っ当に……っ…しつこいわね…ッ……！！」


決闘モードを起動させ、周囲に視線を回す。
姿を見せた機兵は、4体。周囲を取り囲み、立ち塞がる。

結維「…ハッ！ たったそれだけ…？ …もう在庫切れみたいね…！！」

強気に言ってみせるが、体力はもう限界に近い。今は虚勢を張るので精一杯だ。

だが。

しかし。

何があっても、行かなくてはならない。


あの時届かなかった“手”を掴む、ただその為にーーーー





………

…………




結維「……はァ…はァ……ッ……！」


数分後、残骸と成り果てた4機の決闘機兵を背に結維は再び歩き出す。

体力の消耗は最低限に抑えたものの、左腕の義手は闘いの中で吹き飛ばされ、精霊であるヒュペリオンも相当なダメージを負ってしまっていた。

結維「……諦めて…たまるもんですか…っ…！」

それでも、結維は進む。

歯を食いしばり、拳を握り、前を向いて。


結維「……っ…」


少ししてまた、機械音。

ガシャン、ガシャン、と、近づいてくる。

結維「……ッッ……！」

しかも数はさっきの比ではない。


機兵「ーーーーー破壊」


機兵「「「「破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊」」」」



気がつくと、ざっと30体程の機兵が結維の周りを取り囲んでいた。
どうやらさっきの4機は、ただの時間稼ぎだったらしい。


結維「……追加オーダーを頼んだつもりはないんだけど」

皮肉げに言う結維。
機兵は問答無用で決闘盤を構え目を光らせる。


結維「…っ…！」


まだ、倒れる訳にはいかない。


結維「ーーーーアァァァァアアァアァァッッ！！」

叫び、左肩を高く掲げる結維。
すると結維の左肩から、まるで炎で焼かれたかのような痣だらけの腕が決闘盤と一体となって生え出で、橙色の光を纏う。


結維「……ハァ…っ…ハァ…ッッ…！」

あと少し。

あと少しなんだ。



結維「ーーーーー邪魔を……ッッ…するなァァァあぁあァァッッッ！！！！」












◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:２２４ーーー
《Hand to Hand》















【Side 鈴華】


〜『王冠の間』←→『美の間』〜



和泉が居る美の間に向かう鈴華、戒、栗須の３人。
近くに強力な精霊反応を探知し警戒しながら進む道中、３人の視界には機兵の残骸と、細くて白い何かが映る。

否ーーーーー


腕。


腕だ。


腕が、落ちている。


鈴華「……っ…！！！」

一番に鈴華が駆け寄り膝をつくと、その“腕”を拾い上げる。
腕は肘より下で切断されており、断面から弾ける火花が、その腕が義手である事を知らせていた。

鈴華「…これ…っ…“左”…ッ…！！」

和泉と結維、二人はそれぞれ片方ずつ腕を欠損しており、普段は義手に頼り生活している。
和泉が右腕を、そして結維が左腕を。

鈴華「…周囲の機兵の残骸……っ…きっと結維さんがここで闘っていたんですわ…っ…！」

今ここにある腕は、左腕だ。
ということは結維のもので間違いない。
そう確信した鈴華は、すぐさま立ち上がり走り出した。

戒「…！」

栗須「っうぉい西蓮寺さん！！ 待てってーーー」


二人も続いて駆け出し、鈴華を追いかける。

辺りの血痕が不安感を煽る中、やがて奥の方からだんだんと戦闘音が聞こえてくる。


鈴華「ーーーーーっっっ！」


およそ50メートル先。
そこでは一人の少女が、10機に及ぶほどの機兵と決闘を行なっていた。

爆風とともに爆音が反響し、鈴華たち3人の肌をビリビリと揺らすそんな中、辺りには既に20機を超える機兵の残骸。
長い時間闘っていたのだろう、少女はボロボロになりながらも叫び、戦い続けている。
直後また1機、ライフが0になった機兵が崩れ落ち、爆散。そしてーーーーー

鈴華「…！！」

爆風の合間に鈴華が見たのは、とても小さく儚げな、見覚えのある少女の背中。
けどその背中は何よりも強くて、何よりも頼れる背中だった。

鈴華「っっ！！」

少女までの距離あと30メートルといったところで、こちらの存在に気づいた機兵が4体、鈴華に襲いかかる。が、しかしーーーー

栗須「ーーーーさせ…ッるかよッ！！」

ｶﾞｷｨﾝｯ!!

戒と栗須がそれぞれ2体ずつ両壁に抑え込む形で道は開けた。


戒「……もうお前はただ護られているだけの存在じゃない。
ーーーー行け、西蓮寺。
お前が、行ってやれ」


戒の言葉に鈴華は無言で頷くと、走る速度を上げる。

残り15メートル。爆風が晴れ、少女の後ろ姿が鈴華の目により鮮明に映った。

鈴華「……っ……！」

少し外に跳ねた茶髪のショートカット
フードにウサギ耳の付いた可愛らしいパーカーにデニムショートパンツ。
そして何よりも目を引くのは、異形とも呼べる、火傷痕の目立つ決闘盤と一体化した左腕ーーーーー

鈴華「ッ…」

鈴華がその“左”を見るのは、三度目だ。

一度目は、反帝アリーナの洞窟から出た直後。待ち伏せしていた終焉の焔から自分を護り、逃がしてくれた時、

二度目は、マインに捕まってしまった自分を救い、抱き抱えた時。

どちらも自分を助ける為に、彼女はその“左腕”を使ったのだ。


醜く異形な、左腕を。


鈴華「ーーー初めて見たあの時は……怖くて逃げてしまいましたわ」

けどーーーー

今ならわかる。

その“左”から溢れる、“優しさ”が。

今なら見える。

その“左”を纏う、太陽の様な暖かい“光”が。

今なら掴んであげられる。


その“優しい光”をーーーーーー



鈴華「遅れてごめんなさい。
ーーーーー結維さん」






＊＊＊






鈴華は機兵と戦う少女ーーーー結維の左腕にそっと手を絡ませ、優しく引き寄せる。


結維「……！ 鈴……っ…華…？」


我に返った様子の結維に鈴華は笑いかける。

鈴華「…よかった…！ 間に合って」

結維は鈴華の顔を直視できず顔を伏せる。
それは安心か、それともーーー

結維「……どうして…っ…！ ここに……っ…？」

鈴華「…どうしてって……あなたがそれを聞くの？
ーーーーあなたっていう“友達”を助けるため…ですわ」

結維「ーーーーっ」

それはいつか、結維が鈴華に言ったセリフだ。
それをそっくりそのまま、結維に返す。

結維「…………バカ」


小さく呟き、目元で光る涙を拭い去ると結維は顔を上げる。


結維「……！！」

直後、迫り来る機兵から二人は息の揃ったバックステップで距離を取り、

結維「…お喋りしてる暇は……っ…無さそうね」

鈴華「…残る機兵は2体…！ 避けられるようなら避けろってママは言ってたけど……流石にこう道の真ん中で通せんぼされちゃあ………よしっ！」

結維「……？」

鈴華「ここは私に任せてちょうだい」

やる気満々な鈴華を横目に結維は、

結維「ーーーー嫌よ」

呆気なく一蹴。

鈴華「んなっっ！？ 人がせっかく助けに来てあげたっていいますのにぃっ！」

結維「……それに関してはありがと」

柄になく素直な結維。「けど…」と震えがちな声で続ける。

結維「…あんただってもう既にボロボロじゃない。
頭のチョココロネだってとてもマズそうよ」

「消費期限切れてるんじゃないの？」などと付け足す様に悪態を吐きつつ、体制を直して鈴華の横に並び立つ。

結維「…一緒に……戦うわよ」

そして一言そう言うと、そこでようやく鈴華の方を見て強気な笑みを浮かべてみせた。

鈴華「…！
全く…それじゃ私の格好がつかないじゃないの…」

久々の悪態に口をへの字に曲げていた鈴華は半分呆れ気味に応じる。

結維「…鈴華、力を貸して」

しかし吹っ切れたように助けを求める結維の真剣な表情に、鈴華は思わずたじろいだ。

素直に人に助けを求めるなんて、普段の結維からしたら想像もできない言動。

その一言を聞いて、何故だか心が、小さく震えた。

鈴華「…わかり、ましたわ。
二人でさっさとやっつけて、和泉さんの元へ向かいましょう！！」





機兵「…『サイレンジ・スズカ』……『サクラバ・ユイ』……共にダメージ甚大…」

機兵「破壊……！ 破壊……スル…！！」


鈴華「…腕に刃を付けた機兵と、銃器を付けた機兵……他の雑兵とは明らかに違う…！
まさかこいつらが残り二体の『ナンバーズ』…？」

だとしたら、鈴華としては戦闘は避けたいところだった。
玲子の話が本当なら、No01〜05までの型番の機兵全てを破壊してしまうと、“何か”が起こるらしい。
情報も断片的で不確かだが、それでもやはり最悪の事態を考えると躊躇ってしまう。

結維「…どう、したの？ 鈴華」

問われた鈴華が答えるより前に、繋いでいた通信機から音声が入る。


シルバ『ーーーー解析が出た。
『美の間』付近で感じていた強力な精霊反応は桜庭結維の持つ『マスター・ヒュペリオン』のモノだ』


結維「……！ その声ーーー…《次元の旅人》…！」

鈴音『ーーー良かった…！ 結維ちゃん、無事だったのね…！！』

結維「鈴華のお母さんまで…！」

鈴音『…それでね、二人とも！
その2体の決闘機兵からは強い精霊反応を感じない…！ 気にせずやっちゃって良いわ！！』


鈴華「…！
そういうことならーーーー」

結維「ーーーータッグデュエルでさっさと片付けるわよ！！ 鈴華！！」




鈴華＆結維【LP 8000】

刃機兵＆銃機兵【LP 8000】




「「ーーーーー決闘！！！！」」











To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２２５ 銃撃、狂騒






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙