DRAW:５３ 左支右吾　作：人喰い

『見つけたよーーー私の居場所』















遊戯王 Ph.X DRAW:５３
《左支右吾》















火群【LP 5000】


結維【LP 8000】




火群「…いけぇーっ！ ニクス！」


ニクス『はぁぁぁああっ！！』[ATK 2700]




結維「ーーーさせないっ！ 伏せカードオープン！ 『リビングデッドの呼び声』！！』




火群「…！」


結維「…この効果で、墓地の『マスター・ヒュペリオン』を復活させます！ 私たちは絶対に屈さない！来て！ マスター・ヒュペリオン！」


ニクス『……っ！』[ATK 2700]

ヒュペリオン『………悪く思うなよ、不死鳥。
これも結維の為なのだ』[ATK 2700]

紅蓮の翼を持つ2体、共に視線を合わせる。

火群「…互いの攻撃力は同じ……！ バトル続行だ！ ガルドニクスでマスター・ヒュペリオンを攻撃！
ーﾊﾞ-ﾆﾝｸﾞ・ｲﾚｲｻﾞ-ー
《業火炎の抹焼熱線》！！」


結維「……！迎え撃って！
〝サンバースト・ディザスター〟！！」

ヒュペリオン『…御意のままに』

ニクス『…はぁぁああぁああっ！！』


ニクスの放った熱線とヒュペリオンの放った太陽球が激しくぶつかり合い、辺りを熱気が包むーーー！

火群「…くっ…！ 結維…さん！ もう憎しみを持つ必要なんて無い！罪は俺が償うから…ッ！ 」

結維「…そんな簡単に言わないで！！ あなたに何ができるの！？ あなたに私達の何がわかるの！？」

言葉が刺さる。
一つ一つ、重くのしかかる。

俺だって、取り返しのつかない事をしてしまった事くらいわかってる。
でもだからこそ、俺がなんとかしなきゃって使命感のままに俺は戦ってきた。



火群（それなのにーーー）




『……少し、怖かっ…た』




和泉にそんなことまで言わせて、やつ当たりまでして。




火群「…わから、ないさ」



けど。



火群「…簡単に言うなって思うだろうけど…、自分の行った過ちは、正せるはずだ…！！」


結維「………」


火群「…俺はWDCSで優勝する。そして和泉に右腕を戻してやるんだ…ッ…！
それが俺にできるーーーせめてもの償いだ」





ーーー直後、鈴の音のような声が後方から響いた。










和泉「ーーー火群くん…？」




俺が振り返った瞬間、結維が叫ぶ。


結維「ーーーッ和泉……！！」


和泉「！！ 私と同じ……顔…？」


戒「…！（…彼女が市瀬の話していた『和泉』という少女か…）」


火群「…どうして和泉がここに！？」

和泉「…わからない。私、警察の人に追われてて、逃げてたら、自然と足がここへ向かって…っ」


和泉は息を切らしながら言う。


結維「………」


和泉「…あの人は…っ？」


火群「…詳しい話は後だ！ 和泉は隠れてろ！」




結維「二・ガ・サ・ナ・イ」


火群「…え…っ？」


結維「…大会で優勝して和泉の腕を元に戻すって言いましたよね……でも、その必要はありません」


火群「……どういう意味だ…！？」


結維「簡単ですーーー桜庭和泉を私の中に吸収する…！ 私にはそれを実現する為の“能力”がある…っ！」


ニクス『……ッ！！』[ATK 2700]


ヒュペリオン『………』[ATK 2700]


戒「…まだバトルは続いているぞ…！ 市瀬ッ！」





結維「…私はこのダメージステップ時、手札から2枚の『オネスト』を墓地へ送り効果発動！！」



火群「…待てっ！ 和泉を吸収する…っ！？」



結維「その効果により、ガルドニクスの攻撃力を吸収せよ！！」



ヒュペリオン『…こぉぉおおおぉおおおッッ！！』[ATK 2700→8100]



火群「…攻撃力……8100…！！」



結維「…不死鳥を焼き払えっっ！！ 〝アポロバースト・ディザスター〟！！」



火群「……ッ！！！」



和泉「…火群くん！！！」


和泉ーーー！？


……そっか、そうだよな。



火群「…和泉が呼んでくれてんのに、負けられる訳ねぇよなぁっ！」



火群「…手札から速攻魔法『禁じられた聖槍』を発動！！！」




ヒュペリオンの放った小太陽がニクスに届く直前に聖なる槍が小太陽の端をかすめた。


ヒュペリオン[ATK 8100→7400]


だがその攻撃は勢いをほとんど殺さずに俺達に降り注ぐ。


ニクス『ぐぅぅぁああああぁああっっ！！』


火群「…ッッがぁあああぁあああっっ！！！」【LP 5000→400】




結維「…あなたがやろうとしていることと同じです。元は1人だった私たちは、こうやって２つに分かれそれぞれが自我を持っている……」



和泉（…『私たち』…？ どういうこと…？)



結維「市瀬火群。あなたが精霊王と“対話”して、『和泉』に右腕を授けて貰えば、和泉の“右翼”である私は和泉に吸収され、和泉は元の姿に戻れるでしょう」


和泉「………っ(そっか……あの子は、私のーーー)」



結維「…しかし、私が……『結維』が、精霊王と“対話”し左腕を求めたらーーーどうなると思いますか？」


火群「………」


俺は朦朧とする意識で結維を見据え黙り込む。


結維「…私はその真実を知るためにも、WDCSに参加し、頂点を目指します」




足が動かない。
腕も上がらない。

俺の名を呼ぶ和泉の声と、近づいてくる結維の足音しか聞こえない。


和泉「火群くん！！ 火群くん！！！」



結維「…デュエル続行できないようならさっさとそこをどきなさい。和泉は私の元で預かります」



火群「……い、やだ…」


結維「…なら力づくで…ッ！」



結維が右腕を振りかぶったーーー刹那。


俺の眼の前に、両手を広げ震える足で立ち塞がるーーー和泉の姿があった。




和泉「…やめ、て……くだ、さい…っ」



結維「………」


結維の手が止まる。


火群「…い、ずみ……！ に……げろ…ッ」


かすれる声で俺は叫ぶが、和泉はその場から動かない。


和泉「…やだ！ やだやだやだ！ 私のためにこんなにボロボロになって戦う火群くんを見捨てて逃げられる訳ないよっ！！」


火群「……逃げ、ろ…って、言ってん…だろ…！」


結維「………」



火群「……どうし…たんだ…？」




結維「…和泉。あなたはこの男の事を憎んでいないの…？」



和泉「……っ憎んでる訳、ないよ…。あの事件だって、火群くんやニクスさんが望んで起こしたことじゃないしーーーー」

火群「……っ…」

和泉「ーーーーあの事件の後も私の事ずっと気にかけてくれてて、再開した後も本気で守ってくれている人を、憎める訳ないよっ！」


火群「…いず…み……っ！」



和泉「私はあの事件のこと、あまり思い出せないけど、火群くんは変わったの。火群くんとデュエルしてたならわかるでしょ…？
今の火群くんの炎は、とっても暖かかったはずだよ」



火群「………っ…！」


結維「………意味が、わからない」


和泉「……っ…？」


結維「…私たち、あんな目にあったんだよ…？ それなのにどうして許せるの？ どうしてそんな風に前向きに思えるの？」



和泉「ーーーそれが私にできる、精一杯の事だから」



そう言うと、和泉の先ほどまでの身体の震えは止まり、和泉は結維を優しく抱きしめた。




和泉「ーーー後ろばっかり見てても、その眼鏡は曇って何も見えなくなってしまうだけだよ」


結維「……っ！」


和泉「そんなの勿体ないよね。せっかくいい眼鏡掛けてるんだから♪」



結維「……うぅぅ…っ！ ぁあぁあああ…っ！！ 意味……わかんない…ってのぉ…っ！」




和泉の胸の中でその眼鏡の奥に大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくる結維の姿を見て、俺はこの時初めて、“優しさ”が“力”を圧倒する光景を目の当たりにした。



火群(………和泉…)



俺にできないことを平然とやってのける。それがこの少女ーーー桜庭和泉なんだ。

あの事件からどこかで孤独を求めるようになっていた俺に、人と人との繋がり、その意味と大切さ、そして暖かさをーーー彼女は教えてくれた。

彼女が俺に『怖い』と言った理由が、今やっとわかった気がした。
彼女の為に前に進みたい一心で、俺は“優しさ”や“暖かさ”ってやつを完全に見失っていたんだーーー




ポリス「ーーー見つけたぞ…！桜庭結維！」


火群「…！ デュエルポリスか…！ こんな時に…！」


和泉「…大丈夫みたいだよ、火群くん♪」


火群「……！」


和泉が振り向くと、背後のデュエルポリスの背後から漆黒の影が現れる。


バキッ！



千愛『…リン♪ お待たせ、和泉ちゃん。無事みたいで良かったわ」


火群「…千愛！」


千愛『…ってあんた大丈夫！？ すっごいボロボロじゃないの』


結維「………チア・ガール…」

千愛『…ってきゃぁあ！ 和泉ちゃんが2人！？ なんて幸せな幻覚なの！？』

和泉「いや、違うの千愛ちゃん！ これはね……」


千愛『…わかってるわよ…。あなたが和泉ちゃんの右っ側ね…』


結維「………」




千愛『…ごめんなさい！！』



結維「…っ！？」



千愛『…私、あなたのこと知らないで、あなたと和泉を分断してしまった…っ。あとになって遠くでもう1人の和泉ちゃんの鼓動を感じるようになって、私は後悔したわ』



結維「……っ」



千愛『…許されることではないと思うけど、本当にごめんなさい』



火群「………」


このダーク・フェアリー・チア・ガールもとい闇口千愛もまた、“優しさ”を持つ者の1人なんだ。

俺だけだ。何もできてないのは。



千愛「…もしあなたが許してくれるなら、私たち、3人で暮らさないかしら？ いいわよね、和泉ちゃん」


和泉「うん！ 勿論だよ！ あなたは火群くんやニクスさんに酷いことをしたけれど、掛け替えのないーーー私自身でもあるんだから！」



結維「………絶対に許さない…っ、けど……」


結維は顔を赤らめながら、


結維「…しばらくは……お世話に、なります」


そう答えた。
そしてそれを受け和泉は、


和泉「…改めてよろしくね。結維ちゃん♪」


と、満面の笑みで応えた。











ーーー結局のところ、この戦いはこのような形で収束した。
力ある者は、無垢な優しさには勝てず。
少年は己の無力さを痛感し。
そして不死鳥はーーー










ニクス『……やはり、火群には話すべきか…』







それぞれがそれぞれの想いを内に秘め、闘いの舞台はWDCSへーーー





















火群「和泉、今回の事、その……本当にごめん！言いすぎた」


和泉「べつにいいって！ 私の方こそごめん、火群くんが…私の腕の為に戦ってくれてたなんて知らずに酷いこと言っちゃったよね…」


火群「…いや、そんな…」


和泉「…あとさ、火群くんだけ何もできてないなんて事、無いよ」


火群「………えっ？」


和泉「火群くんは、私が教室でクラスメイトに言い寄られてた時、外に連れ出してくれたし、さっきも火群くんがいなかったら、泣き出したいくらい怖かったんだよ？」


鈴の音のように澄んだ声で、薄紅色の縁の眼鏡の奥で優しく笑う和泉。


火群「…そっか、ありがとう」


やっと、わかった。

今までなんとなくで、ただ平然と過ごしてきたけど。




俺はこの少女に惹かれている。


端的に言うとーーー好きだ。














＊



戒「…ゆっくりと、ゆっくりとだが、歯車は確実に回り始めてる。
桜庭結維の件は俺がポリスに上手く交渉しておいてやる。
“相応しき舞台”で、待ってるぜーーー市瀬」








To Be Continued…
















〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y


◉このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！
質問が無い場合は、キャラ紹介や自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)
＊質問をいただいた時点で、本SSに載せる事を承諾したものと見做します。あらかじめご了承ください。
匿名希望の場合は言ってくださいね！



質問待ってるぜ！！(切実)





『桜庭結維(さくらば ゆい)』
・年齢:13歳
・誕生日:12/21
・身長:151cm/体重:36kg/B:76/W:52/H:77
・外見:肩に届くぐらいの黒髪ショート。前髪は長いのでピンで止めている。赤縁の眼鏡。
・使用デッキ
《代行天使》
・主な使用カード
『マスター・ヒュペリオン』
『ダイガスタ・フェニクス』
『オネスト』
『天空の聖域』
・桜庭和泉の中のもう1人の人格。和泉の“右っ側”を司っていた意思。
だが千愛が和泉の右腕を切断したことによってその意識を和泉の中に留めておくことができなくなり、もう1人の人格である結維だけが外にはじき出されてしまった。
戒の話では、人間離れした腕力とデュエルセンスによりデュエルポリスに危険人物と判断され、事件の後の約2年間ずっと隣町の病院の一室で隔離されていたという。
和泉の右腕が切断されるまでは、和泉が“優しさ”、結維が“力”を受け持つ事によってその２つのバランスを保ってきていたが、２人に分かれてしまってからは片方に全て偏ってしまった為、お互いに両極端な生き方しかできないでいた。
今ではその２人は再会し、いざこざもあったが、和泉と千愛の“優しさ”を前にして、千愛・和泉と共に暮らす道を選んだ。









《次回予告》





「みんながみんな、色んな目標、夢、願いの為に戦ってる。俺はその中で、お前の為に頂点を目指せることが、何より嬉しいんだ」





次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:５４ それぞれの想い





いざ、闘いの舞台へーーー