DRAW:１１４ 町長、現る　作：人喰い

(114)



火群「ーーーふーっ…、これでなんとか壁の修理は完了か…」

ニクス「…もう二度と覗きなど試みるなよ」

火群「…ぅ…！ わかったって…」

火群（…結維さんあたりはガチで殺しにきそうだしな……）

ニクス「…まぁいい。さっさと戻るぞ火群。
何やら客人が来てるみたいだ」

火群「客人……？」


裏から戻る途中、木の柵の後ろに隠れている西蓮寺さんを見つける。
何やら入り口付近で遊ぶ小さい子供達の様子を伺っているようだが……。

火群「……何してんすか？ 西蓮寺さん」

鈴華「ひゃっ！！？」

急に後ろから声をかけたためか、西蓮寺さんは驚いて肩をびくんと跳ね上げる。

ﾊﾞｷｯ

鈴華「……ふぇ？」

すると、その拍子に柵の脆くなっていた部分が折れ、西蓮寺さんはバランスを崩し前のめりになってしまう。

鈴華「…ひゃうぁ！？ ちょっと市瀬さん！！ いきなり後ろから話しかけないで下さいます！？」

火群「…あー、ごめんなさい…」

鈴華「…ハッ！」

西蓮寺さんはふと目線を子供達の方に戻す。
俺もそれに遅れて子供達の方を見てみると、子供達もまた、こちらを凝視している。
1人、2人、3人。女の子が1人に男の子が2人だ。見た所小学生、兄妹だろうか。
そんなことを考えていると、子供達の甲高い声が辺りに響き渡る。



子供達「「あーーーっっっ！！！」」



3人揃い指差して放たれた声に思わず耳を塞ぎたくなる。

鈴華「…え…あ…っ、ちょ…！」

何故かテンパる西蓮寺さんをよそに、今の声を聞いてか別荘の中から誰か出てくる。これまた初めて見る男の人だ。


男性「おいおいお前らどうしたんだぁ？ そんなデケェ声だしてーーーって……」

ドリルのようにくるくると巻かれた髭が特徴的なその男性はこちらに気づくと、血相を変えて怒鳴る。


男性「ーーー鈴華ッッ！！！
おめぇこんなとこで何してやがる！！？」


鈴華「…げっ……！！ パパ……っっ…！！」


火群「……え？」



これは何やら、闇が深そうだぞ……。
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１１４ーーー
《町長、現る》















〜ベイクウェル邸・リビング〜

メアリー「ーーーえっと……改めまして、この町の町長の……」

進「…『西蓮寺 進(さいれんじ すすむ)』だ！ よろしく頼む！ …そんでこっちが……」

進太郎「長男の『進太郎(しんたろう)』12歳！」

進助「次男の『進助(しんすけ)』です。10さいです」

美鈴「次女の『美鈴(みすず)』ですっ！ えっと…、6、7……8さい！」

火群「…あ、どうも、市瀬 火群です」

鈴華「……」

進「……さてと、挨拶も終わったことだし、何故家を出ていったのか説明してもらおうか？ 鈴華ァ！」

鈴華「ヒィぃっ！」

メアリー「ま、まぁまぁ落ち着いて町長！
ゴs……鈴華ちゃん、色々事情があったんだとは思うけど、私たちにも最初から話してもらえる？」

鈴華「…は、はいぃ……」

進「…ムゥ……」

鈴華「……この町で行われた決闘の大会で優勝して天狗になっていた私は、ある日WDCSの噂を聞いたのですわ…」

鈴華「その時母が病気で入院していたのもあって…家の経済状況は厳しかった」

結維「……っ…」

鈴華「だから優勝したら何でも願いが叶うという権利を、家族の為に使いたかった…っ！ なのにパパは…っっ！！」

進「……」

鈴華「『そんなの絶対無理だ』『決闘なんてやめろ』って言ってばっかりで…っ！！
そのくらいの勝手、許してくれたっていいじゃない！！」

進「…」

鈴華「……だから私は家を出て、WDCSにも勝ち抜いて、見返してやろうって思った…っ…」

進「…今まで帰ってこなかった理由は何だ」

鈴華「…まだ…、やるべき事が終わってないから…っ…、今ここにいるのも本当にたまたま偶然で………」

進「……馬鹿野朗ッッ！ 戻ってきてんなら一声かけやがれッ！ どれだけ心配したと思ってんだ！！」

鈴華「…！」

メアリー「…そうよ。鈴華ちゃん。それに、私たちにも秘密にしておく必要はなかったんじゃないかな？」

鈴華「…ぅぅ…！ だって……っ、だって……っっ！」


ﾀﾞｯｯ!!


メアリー「…あっ！！ ちょっと鈴華ちゃん！？ どこ行くのーっ！？」

和泉「……私、行きます…！」

火群「…え…っ？ 和泉…！？」


ﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯ


結維「………本当に…、お節介なんだから…」




進「………」

進「……またそうやって逃げるのか……鈴華」





＊＊＊





〜積木町・海岸〜



鈴華「ハァ…！ はぁ…っ…！」

鈴華「ーーーママ……。ごめんね。
私、ママみたいに強くはなれないや……」


ｻﾞｯ!


和泉「鈴華ちゃんっ！！」

鈴華「！！」

和泉「…ぜぇーっっ…！ はぁーっっ…！ ひぃー…っ…ふぅー…っっ……！！」

鈴華「…だ、大丈夫…？？」


………


鈴華「……みっともない姿見せちゃいましたわね…和泉さん」

和泉「…ううん、みっともなくなんてないよ。言いたい事ちゃんと言えるのは、強い証拠だよ」

鈴華「…やめてよ。それに私はあなた方を騙していたのですわよ？ 聞いての通り、私はお嬢様なんかじゃない…。
お嬢様だったママみたいになりたかっただけなんですわ」

和泉「…お母さん…？」

鈴華「…そう。私のママは西蓮寺財閥の令嬢だったんだけど、堅苦しい生活が嫌になってパパのいるこのこじんまりした積木町まで家出して来たの」

和泉「…へー…パワフルだね…、鈴華ちゃんのお母さん…」

鈴華「当然そのあと西蓮寺家とも一悶着あったらしいんだけど、その時ママは『この人とこの場所で生きる』って思いをちゃんと口にしたんだって」

和泉「わぁ〜っ……格好いい！」

鈴華「でしょ！ 私の自慢のママなんだ〜…。
……でも、機械を扱う仕事中、原因不明の病気にかかっちゃって……まだ病気が治らないの。それはきっと私が弱い所為…」

和泉「…鈴華ちゃん…」

鈴華「……この場所ね。ママがまだ病気になる前、よく私を連れて来てくれた場所なんだ」

和泉「……！」

鈴華「ここから見える水平線が一番綺麗。って、ママは言うの。
…正直私には……、まだどっから見ても同じようにしか見えないんだけどね…っ」

和泉「…あははは…。
でも、確かに……綺麗だね…」

鈴華「……それにしても…、なんであんなに走って来たのよ…。私の家族の事なんだし……放っておけばいいのに…」

和泉「…放ってなんておけないよ。だって、素敵な家族なんだもん。大切にしてもらいたい」

鈴華「……っ」

和泉「……ちゃんと心配してくれる親がいるって、とっても幸せな事なんだよ？」

鈴華「ーーー！」



ｻﾞｯ‼︎


進「……やっぱりここにいたか。鈴華」

鈴華「…っ…！ パパ…っ！」

和泉「……！」

進「大会が始まってから、お前が向こうでどんな事件に巻き込まれたかは大体聞いたぜ。
…だがそれは今まで連絡の無かった理由にはならねぇ…」

鈴華「……っ…！！」

進「……どうしても言葉で言えねぇって事なら……、鈴華！ お前が今まで信じて来たーーーお前のデッキに聞くしかねぇようだな…ッ！」

鈴華「…！！ 私が……パパと決闘を…！？」

進「……なんだ…？ 怖えのか？
世界一を目指した俺の娘は、こんな簡単にビビっちまうような弱い決闘者だったのかぁ！？」

鈴華「……わかり…ましたわ…！」

和泉「……鈴華ちゃん…っ…！」

進「…言っとくが、俺に負けてるようじゃ…、終焉の焔ってぇ連中と危ねぇ戦いをしに行くのは絶対に許さねぇ…、家にも帰って来てもらう。いいか？

鈴華「……ええ…、いいですわ…。その代わり私が勝ったら…、私に決闘を続けさせてっ！！」

進「……好きにしろ。ただし……そんな簡単に勝てると思うなよ……ッ！！」


和泉「…え、今ここでやるの…っ！？
でゅ……デュエルスタンバイっっ！！」




西蓮寺 鈴華【LP 8000】[手札 5]

西蓮寺 進【LP 8000】[手札 5]




「「決闘！！！」」






To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１１５ 意地の衝突




＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙