DRAW:１６１ 苦しき決着　作：人喰い

(161)





〜黒髭中学・理科室〜



好「ーーー待ってな……、倉川……古宮…っ…！ 今助けるからーーー」


好は鮮血が伝う白い腕で瓦礫を持ち上げる。

好「…ゥグァ……ッ…！」

闇のゲームによるダメージは相当なもので、本来なら立つこともままならないはずの身体だが、それでも生徒たちを救うため、気力だけで無理やり動かしている状態だ。


好「…ハァ……ハァ…ッッ…ッ…！！」

瓦礫を一個、二個とどけていき、明日人と栗須の姿が現れる。

栗須「……ぅ……ぅ……っ…！」

明日人「……スッキー……先生……っ……？」


好は二人の意識がある事を確認すると、


好「………アンタらが無事で本当に良かったよ」


安心した表情でそう言った。
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１６１ーーー
《苦しき決着》













ーーー数分前。

〜黒髭中学校・校長室〜





真和「ーーーーッッがっッッふ…ァ…ッッ！！！」【LP 4200→0】


好のモンスターである中華料理人達の総攻撃を受け、真和の身体は壁に強く打ち付けられる。

真和「……ごふッ…は…ッッ……！！」

同時に辺りの瘴気も晴れていくーーーー


好「……アタシとの決闘で、アンタの中の“何か”が変わっている事を願うよーーー」

好はそれだけ言い残して、足早に校長室を後にした。理科室にいち早く向かわねばならなかったからだ。


真和「……ッ……」

真和（…僕の処分よりも、精霊のカードの保護よりも、
……何よりも生徒の救出を優先したというのか…。あの人は…）


真和「……それが僕の計算ミス……か…」


真和「………だがここでその選択をした事を……後悔する事になる……」




真和「…いずれ………近いうちにーーーーー」







＊＊＊





〜黒髭中学校・校門〜

【side 明日人】

栗須「……」

明日人「………」


あの後、スッキー先生から全てを聞いた。

宮本先生が終焉の焔の上層部の一人だったという事。

その宮本先生が学校の壁内・床内に大量の爆弾を仕掛けていた事。

スッキー先生は生き埋めになっていた俺たちを助ける為に、宮本先生との決闘に勝利してすぐに、ボロボロの身体で理科室まで来てくれた事。

…そして、俺たちの救出を最優先にした事で、校長室にあったという精霊のカードも奪われ、宮本先生の行方も分からなくなってしまった事。


栗須「……結局、足手まといだったじゃねぇかよ………クソッ…！！」

明日人「……」

栗須「…おい明日人…ッ…！ お前は悔しく……ねぇのかよ…っ…！？」

明日人「……今は悔やむより、明石さん達に状況を報告しよう。…病院に運ばれたスッキー先生に代わって、俺たちが報告しなきゃならないんだ」

栗須「……ああ…、そうだな…」

明日人「……っ…」


悔しいに……決まってんじゃねーか…っ…！






POINT:黒髪中学校

校長室の精霊→宮本真和によって奪われる

校舎→倒壊


-人間界の決闘者-

『倉川 明日人』
精霊:『アルセイ』
残体力:50%

『古宮 栗須』
精霊:なし
残体力:40%

『美 好』
精霊:『神龍包』
残体力:10%

『新田 和也』
精霊:なし
残体力:5%

『剛田 武』
精霊:なし
残体力:5%


-終焉の焔-

『宮本 真和』
精霊:校長室の精霊
残体力:10%

『人体模型』
精霊:なし
残体力:0%(大破)




………


…………



〜積木町・ネットカフェ〜

【side 和泉】

爽香「ーーー……っ…！！」

和泉「……黒髭中学校が……倒壊…っ…！？」

増援部隊が黒髭中学に到着した時にはもう遅く、黒髭中学校はその原型を留めていなかったという。

和泉「……それに…、宮本先生が…終焉の焔の一員だったなんてーーー」

爽香「……私達が思ってるよりも、ずっと近くに敵は居たんだね……」

和泉「…倉川君達は無事みたいだけど…、派手な戦闘の後で、向こうは騒ぎになってないのかな……っ…？」

爽香「……そこに関しては、YAGAMIの非戦闘部隊が立体映像で元の学校を映し出してるから、大ごとにはなってないみたいだね」

和泉「…そうなんですか…」

爽香「ええ。最近の技術ってホントすごいのよ〜…。爽香ちゃんビックリしちゃった」

和泉「…あはは…」

爽香「それにしても……、敵が単体であそこまで強力となると…、他のみんなも心配だよね…。こんな時間だから、増援もすぐに送れるわけじゃない…っ」

和泉「…はい…。一人で竜霊山に向かった結維ちゃんとも連絡取れなくなっちゃうし……」

爽香「…双子の妹さん、なんだよね」

和泉「……え、あ…、はい。そうです」

爽香「…和泉ちゃんと結維ちゃんってさ、顔は見分けがつかないくらいそっくりだけど、雰囲気は全然違うよねー」

和泉「…あははは…。よく言われます…」

爽香「やっぱり？
双子って趣味趣向も似るってよく言うけど、和泉ちゃん達に関してはまるで真逆っていうか、そんな感じするよね。勝手な憶測だけど〜」

和泉「…そう…ですね。真逆……真逆です。
結維ちゃんは私に足りないものを全部持ってる…。
そして私も、結維ちゃんに足りない部分を補ってあげたいっていつも思ってるんです」

爽香「…そうなんだっ」

和泉「……けど全然うまくいかなくて…。結維ちゃんにはいつも助けて貰ってばかりなんです。私、お姉ちゃんなのにーーー」

爽香「……それは考えすぎじゃない？」

和泉「………え…っ？」

爽香「和泉ちゃんの思いは、絶っ対っっ、結維ちゃんに伝わってるはずだよっ！ だから自信持って！」


和泉「……はい…っ！
ありがとうございますっ…！
明石さん…！」


結維ちゃん……絶対に、無事に帰ってきてねーーーー。








＊＊＊



ーーー３時間前。


〜竜霊山・頂上付近〜



結維「ーーーー確か頂上の小屋で『跡部』って人と合流する事になってたはずだけど……」


時間は午後10時を回り、雲の隙間から僅かに照らす月明かりを頼りに、結維は激しい山道を登って行く。

結維「…なんか明らかに道のりが険しすぎるし、もしかしてこっち……正規ルートじゃないとか…？」

進行ルートに疑問を覚えながらも、「それでも進むしかないか」と、右手で眼鏡の位置を直してから、急な斜面も軽々しく登る結維。


結維「……ここを登りきれば頂上のはず………。
ーーーんしょ…っ…と…っ」

そして10メートル近くある崖をようやく登りきった、その時だった。




？？？「ーーーー何奴…ッッ！！！」



ーーー殺気と共に、一声。


結維「……ッ…！」


そして瞬く間に刃が抜かれるーーー


結維「ーーーーっっ！！」

すんでのところで身を引き、結維の目前で切っ先が弧を描いた。


？？？（……躱された……ッ…？）

結維「…っ！」

結維は一瞬で体勢を立て直すと、剣撃の飛んで来た方向ーーー斜め下に位置する、岩に覆われた池の様な場所へと急降下していく。

？？？「ーーーっ！」

結維「ーーーッッ」


しかしその時、雲の隙間から満月が完全に顔を出し、辺りが月光によって僅かに光を取り戻す。


結維「…！！」

明るさが増した事で結維の視界には、一糸纏わぬ姿で日本刀を中段に構える、腰まで届く黒髪の人物が映り込んできた。

胸は微量ながらも膨らんでおり、下半身の構造から女性である事を認識する。
更には崖から下に降りた事で、下から上がる湯気が結維の身体を包み、池だと思っていたものが温泉である事も理解した。

しかし、あまりにも多くの情報量が一斉に入り込んで来たため、互いに攻撃の判断が遅れ、結維は刀を避けながらその女性を押し倒す形で温泉に飛び込んだ。


結維「……っっっんっ！！！」

？？？「…ンンンーーーーーッ！！？」


ドポンッ、と水しぶきを高く上げ二人は沈み込むが、数秒して同時に顔を出す。

結維「……ぷはっ…！」

？？？「……っはぁ…っ！
……ッ…！」


顔を出してすぐに攻撃態勢に入ろうとする黒髪の女性だったが、結維は冷静に会話を試みる。

結維「…ま、まって。あなたもしかして……『跡部』さん…？」

？？？「……ッ…！ なぜ先生の名を…っ…！？
やはり君は『終焉の焔』の人間か……ッ！」


結維（…“先生”か、なるほど。一応ここで合ってたみたいね）

結維「ーーー違う。私はあなたの敵じゃない。味方」

？？？「…っっ…！？」

結維「……あなたたちと協力して終焉の焔を迎え撃つためにここへ呼ばれたの。
あなたの先生にね」

？？？「……え…？」

結維「…私は『桜庭 結維(さくらば ゆい)』。
ーーーあなたは？」


？？？「……えと…、わ、わた…、いや、“僕”はーーー」

女性は顔を赤らめながら言い直し、




小次郎「ーーー『時枝 小次郎(ときえだ こじろう)』、“侍”だ」




『侍』、そう名乗った。







To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１６２ 山頂に墜つる火柱






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙