DRAW:１１８ WILD FANG　作：人喰い

(118)



【和泉side】

〜積木町外れの山〜


和泉「ーーー熊が出る！！？」

メアリー「…ええ、しかも凶暴な。今日山に来ることになったのは、その熊を鎮めて山奥に返すって目的でーーー」

一同「どうしてそれを先に言わないんですかぁ！！」

メアリー「…えっと、ホラ。サプライズ〜……的な？ その方が盛り上がるかな〜……とか？」

結維「…確かにとんでもないサプライズね」

鈴華「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ！ 結維さん！」

明日人「…とっとにかく、早く行かねーとマズくないっすか？」

和泉「…そうだね…！ 早く行こう！」

火群くん…！ 頼むから、お願いだから、『戦おう』とか思わないでぇぇぇーっ！
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１１８ーーー
《WILD FANG》















【火群side】


ｸﾞﾙｧｱｧｱｧｱｧｧｧ‼︎


火群「…でけぇ…！！」

木々の間から現れたのは、茶色の体毛に覆われた……全長2.5メートル程の熊だった。

火群「……！」

熊は突進し、左腕を振りかぶる。

火群「…やる気満々かよ！ けどーーー」

規則性のある動きなら、恐れるものは無い。

火群「…はぁっ！」

左に避ける。
振り下ろされた熊の左腕は固い土を容赦なく抉った。

火群「そして次はーーー」

その振り下ろした左腕を軸に右腕で来るはず…！

熊「グルルル……ルァァァアッッ！」

読み通り、左を軸にぐるりと反転し、右での薙ぎ払い。
熊の腕が側方に見えた瞬間にバックステップで回避してひとまず距離をおく。
その距離ざっと5メートル。

火群「……随分興奮してんな…！ それにあの左腕…！」

最初の一撃目から目に入っていた。
熊は左腕に、決闘盤を付けている。

火群「…なんとなくわかったぜ……またメアリーさんの陰謀か…！ ってかそれにしても……」

熊「グルルル……」

熊はゆっくりと四足歩行でこちらへと歩み寄る。

火群「……決闘してくれる気配が全くしないんですけどーーっ！！」

叫ぶも、返事は返ってこない。
目の前の熊は瞳を揺らし、ただ目の前の獲物を狩るように。
ーーーその牙を向けるだけだった。




………




【和泉side】


和泉「…見て！ この木……」

ニクス「…爪で抉られたような痕があるな…」

雫「…火群さんも、この木みたいになってないといいのですが…っ」

鈴華「縁起悪いこと言わないの！！」

栗須「…でもマジで早く追いつかねぇとマズそうだぜ？」

明日人「爪の痕だけじゃなく、足跡もあるな…」

メアリー「けどどの方向に向かえばいいかわっかんないなー…っ」

明日人「……よし、ちょっくら大先輩に訊いてみるか…！」

結維「…大先輩…？」

倉川くんは1枚のカードを取り出すと、そのカードをかざしてみせた。

明日人「……『森羅の守神 アルセイ』！！ 力を貸してくれ！」


ｶｯ!


カードは光を放ち、半透明な精霊をその場に生み出す。
その精霊は、身体中に多くの植物を宿した、とても大きな獣だった。
その体躯に思わず私は圧倒される。


和泉「…わっ…っ…！」

ニクス「…！」

千愛「貴方は…！」

何やらにくすさんと千愛ちゃんは、この精霊さんの事を知っているみたい。

アルセイ『……久々に目覚めてみれば、何やら見慣れた気配が多い…な』

結維（…この精霊……只者じゃないわね…っ）

明日人「…早速で悪いが、森が激しくざわつく方へ案内してくれないか？ その原因を抑えたいんだ」

アルセイ『……なるほどな。わかった、ついて来るが良い』

明日人「…助かる！」


アルセイさんの進むままに私達はついていく。そして1分としないうちに、熊と対峙する火群くんに追いついたのだ。


和泉（やっぱり熊と闘ってるーーー！！？）

アルセイ『…彼奴がこの森のざわつく原因か…』


火群「……っ…」

熊「グルルル…ッッ！！」

和泉（えっと…、確か熊の習性については前に本で読んだことがある…。まだこっちには気づいていないみたいだから……とりあえず大きな音を立てないように…）

鈴華「」ﾊﾟﾀﾘ

雫（ぎゃぁぁ鈴華さん！！ 死んだフリは効果ありませんよーっっ！！）

結維（…違うわ…。鈴華ったらガチで気絶してる…）

和泉（…見つかってしまってからだと、目を見て背を向けずにゆっくりと後退するのがセオリーだけど、それを火群くんにどうやって伝えようか…）


熊「グルァァッ！」

そこで、ついに熊が火群くんの方へ大きく動いた。

和泉（…考える暇くらい頂戴よーっ！！）

火群「…来たか…ッ…！ またバックステップで回避してーーーがっ！？」

熊の飛びかかりを後退して避けた火群くんだったが、後退の際に木の幹に足を取られ、仰向けに転倒してしまう。

火群（ーーーやっべ…ッッ！！）


和泉（…火群くん…っっ！！）

雫「……っ！」

熊は赤き瞳を光らせ、追撃の動作に入るがーーー


ﾁﾘﾝ…!


突如、鈴の音が響いた。


火群「……！？」

熊「グルァ…？」

熊が一瞬にして、鈴の音がした方を振り向く。
私達も慌てて視線を向けると、そこには鈴のついたヘアゴムを掲げ、熊と対峙する雫ちゃんの姿があった。

雫「……そ、そそそれ以上はダメですよ…っっ！」

和泉「……雫ちゃん！！」

火群くんはなんとか体制を立て直して助かったみたいだけど、この状況は…、最悪だ…！
興奮状態の熊に鈴を鳴らしたところで…、獲物である自分の居場所を知らせるだけでしかない…！！

熊「グルァァ……ァァアアッ！」

熊は反転し、雫ちゃんの方へ歩み始めーーー駆け出した。

雫「……っっ！！」

火群「……柏木さんッ！！」

結維「……ッ！（雫と随分距離が離れてる…！！ 間に合うか……ッ！！？）」

結維ちゃんは咄嗟に駆け出すが、熊の走行スピードは約時速50km…！！ いくら結維ちゃんでも…！

火群（……くっそ…ッッ！！ 間に……合えぇぇええぇええっっ！！）


火群「ーーーニクス！！！」


ニクス「……任せろ、お前もうまくやれよ……ッ！！ 火群！！」

和泉「…何……あれ……！？」

にくすさんが火群くんの声に呼応するように光り輝き、にくすさんが消えると同時に火群くんの足元が激しい炎に包まれた。

和泉「…燃えてる…！ けど、周りの自然には全く影響してない…！」

明日人「……それでこそーーー火群だ…！！」


火群「…うぉぉぉおおぉぉぉらぁぁああぁぁっっ！！！」

炎が弾け、火群くんは物凄い速さで雫ちゃんの元へ駆け寄る。
その脚部は、不死鳥の羽根のような装飾で彩られたブーツのような形態へと変化していたーーー。


アルセイ（……む…、あれはもしや…っ…！）

和泉「…火群くんの足に……にくすさんが宿っているの…！？」

しかし安心も束の間。
火群くんはが雫ちゃんの元へたどり着いた瞬間、タッチの差で距離を詰めて来た熊の爪が火群くんを襲う。

熊「グルァァッ！！」

その研ぎ澄まされし爪は火群くんの肩をかすめ、振り下ろされた。

火群「……がぁぁああ！！」

雫「……っっ！！ 火群さんっっ！！」

和泉「火群くんっっ！！！」

熊「グルォォッ！！」

熊はすかさず二撃目を放とうとする。
が、

結維「……流石に調子乗ってんじゃーーーないわよっっ！！」

丁度駆け寄った結維ちゃんが飛びかかりながら、２人を抱えて転がり込むことで回避する。

雫「…結維…さん…！」

火群「…結維さんナイスぅ…」


和泉「…よかった…っ」

けどまだ油断はできない。
熊は私達にもすでに気づいているし、背中を向ければ即狩られる…！


熊「……グルルル…」ｽｯ…


しかしそんな心配も他所に、熊は意外な行動に出る。
決闘盤を構えたのだ。

火群「……！！ そいつは随分とわかりやすくて助かるが……そこに至るまでが遅ぇぞ！！」

結維「恐らく、戦うに値する連中なのか試していたのですかねぇ…」

火群「…ま、何にせよ決闘なら負けないさーーーっっつ…っ！！」

雫「…！ 火群さん…っ！！ さっき、肩を……っっ！！」

火群「…このくらい平気……っつぁーっ！！」

雫「…ごめんなさい…っ！ ごめんなさい……っ…！！ 私のせいで、2人に迷惑かけて…！！」

火群「…気にすることないさ、それにさっき柏木さんが鈴を鳴らしてくれなきゃ、俺は今頃ミンチになってただろうしな！」

雫「……火群…さん…っ…」

結維「…って訳でミンチ野郎は大人しく見学してなさい。私が軽く終わらせてくるわ」

火群「誰がミンチじゃ！
痛ーーっ！！」

雫「ミn……火群さんっ！ ここは結維さんの言う通りにしておいた方がいいと思います！」

火群「…今絶対ミンチって言いかけたよねこの娘。前髪の裏にどんな本性を隠してんだ」


熊「グルルァァァアッッ！」


結維「随分とやる気満々みたいね…。それじゃあ私が相手になろうかな。
って言おうかと思ってたけど、今回はやる気満々すぎる“彼”に譲ってあげましょうか」

火群「……？」


アルセイ『……だと。どうする？ 明日人』

明日人「…聞かれるまでもないっすよ！ 感謝します、桜庭妹さん！」

熊「グルルァァッッ！」

熊は戦意のある人間を見つけるや否や、ゆっくりと距離を詰めてくる。

明日人「……勝負だ熊公。お前に抉られた木々、踏みにじられた草木の分まで、俺はお前をぶっ飛ばすつもりだから。よろしく頼むな」



倉川 明日人【LP 8000】[手札 5]

熊【LP 8000】[手札 5]



「決闘！！！」







和泉（…それにしてもあの熊………あの手でどうやって決闘するつもりなの……！？）





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１１９ 森の怒り




＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙