DRAW:１５９ 炎の料理人・美 好　作：人喰い

(159)



ーーー３年前、僕は教師になった。

真和「ーーー今日からこの学校で数学を教えることになった『宮本 真和』です。よろしく」

教師を目指すきっかけというきっかけは特に無く、幼いころから得意だった計算を生かせる場を探したところ、たまたま家庭教師の募集を見つたのだ。
そしてその時の生徒の一人に、「宮本先生みたいな先生が学校にいたらいいのに」などと調子の良い言葉でおだてられ、特に将来を考えてもいなかった僕は気がつけば、特に思い入れのあるわけでもない学校の教師になっていたのだ。

そんな結果を特に計算していたわけでも無い。
思えばそれが、最初で最期の「方程式に背いた行動」だったーーー

今でも不思議でならない。
あの頃の僕は何を期待していた？
全て計算通りに行動してきた僕が、たかが生徒一人の言動に一体何を期待していたんだ？

ーーー答えは未だに出ないままだ。

だが結果論で言えば、その時まで自分の為にしかならなかった計算能力が、自分以外の誰かの役に立っている。そしてそれをすぐ近くで実感できる。
その頃の僕には、それが少し嬉しくも感じた。

しかしその安寧も、教師になった翌年の春に崩れ去ることとなる。


ーーーー煉獄の悪魔との、邂逅によって。
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１５９ーーー
《炎の料理人・美 好》















好【LP 8000】
(モンスター)
『神秘の中華料理人ー蘭蘭』[ATK 1700]
『神秘の中華料理人ー来来』[DEF 1000]
『神秘の中華食材ー鶏蛋』[DEF 1700]
伏せ:1
手札:3

真和【LP 6000】
(モンスター)
『ブンボーグ009』[ATK 10000]
『ブンボーグ002』[ATK 4500]
『ブンボーグ・ジェット』[ATK 4000]
(魔法)
『ブンボーグ・ベース』(フィールド)
『ブンボーグ006』♦︎1
伏せ:0
手札:0


◉TURN ０２◉


真和「ーーーーブンボーグ009が戦闘を行う時、ダメージステップ終了時まで相手はカードの効果を発動できない…！！」

好「ーーーッ…！」


真和「これで貴女も終わりです……ッッ！
『ブンボーグ009』で、『神秘の中華料理人ー蘭蘭』を攻撃…ッ！！！」


『ブンボーグ009』
[ATK 10000]
ーーーVSーーー
[ATK 1700]
『神秘の中華料理人ー蘭蘭』



好「ーーーッッ！！！」



009の掲げた、ハサミを模した巨大な剣が好めがけて振り下ろされるーーー


ﾄﾞｺﾞｫｵｫｵｵｫｵｫｵｵｫｵｵｯｯ‼︎


激しい轟音と共に煙が立ち込める。
家具類は吹き飛び、床も大きくヒビ割れ、かつての校長室としての原型はそこにはなかった。


真和「ーーー少し派手にやりすぎましたかね。
……では、椅子の中に眠る精霊を回収させてもらいましょうか」


真和は煙の奥に手を伸ばす。
そしてこの校長室の中で唯一、元の形を保っている校長の椅子に手をかけたその時ーーー


真和「……ッ……」


真和の伸ばした腕を下から掴む、もう一つの腕。

真和「ーーーッ…！」



好「………なるほど、アンタの狙いはこれかい…」


好は真和の腕を掴んだまま煙の中から顔を出す。

好「……まさかこの中に精霊のカードがあったなんてね…。
……なら尚更、ここを退くわけにはいかないねぇ…っ！」

真和「……ッ…、なぜまだ動けるのですか…ッ…！ ライフはもう尽きたはずーーーー」



好「……それは、どうかな…？」【LP 1400】



真和「…何……っ…！？」


好「…バトルフェイズ開始時、アタシはこのカードを発動していたのさ……速攻魔法『神秘の中華なべ』！！」


《神秘
しんぴ
の中華
ちゅうか
なべ/Mystik Wok》 †
速攻魔法
自分フィールド上のモンスター１体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
その数値だけ自分のライフポイントを回復する。


好「これにより場の鶏蛋をリリースしアタシは1700のライフを回復し、アンタの攻撃を受け切る事ができたーーー」

真和「ーーー僕の計算が……狂ったのか……？」

真和は表情を曇らせ、好の腕を振り払う。

好「…！」

真和「……」

好「……さ、決闘の続きだよ。
ーーーアタシのターンッ！！」

◉TURN ０３◉

好「……ドローッ！！」[手札 4]

力強くカードを引く好だが、先程の攻撃によるダメージは決して浅くはなく、ドローの勢いで床に跳ねた血液が傷の深さを物語っている。
心なしか顔色も悪く、平静を保っているのがやっとだろう。

好「……ハァ……ハァ……ッ…！」

それでも好は敵をしっかりと見据え、心に炎を灯しカードを切り続ける。

目の前の勝利と、苦しむ生徒たちを助ける為に。


好「ーーー手札からフィールド魔法、『神秘の中華ー庖厨』を発動…！！」

真和「…前のターンに手札に戻したカードか……っ…！」

好「…庖厨の発動時、デッキから『神秘の中華ー三味一体』を手札に！」[手札 4]

好「続いて手札の『神秘の中華料理ー炒男』を捨て、効果発動…ッ！」

①このカードを手札から捨てて発動できる。自分の墓地の「神秘の中華」魔法カードの種類の数まで、自分の墓地からレベル３以下の「神秘の中華」モンスターを選んで手札に加える。

好「…アタシの墓地には、『神秘の中華包丁』『神秘の中華なべ』『神秘の中華釜』の3種類…！ よって墓地から３体の食材を回収するッ」

墓地→手札
『神秘の中華食材ー鶏』
『神秘の中華食材ー鶏蛋』
『神秘の中華食材ー飯』

好「…これで材料は揃った…ッ！
アタシの場のモンスターがレベル4の『神秘の中華』のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる…！ 『神秘の中華食材ー鶏蛋』を特殊召喚！」[DEF 1700]


好「そして儀式魔法、『神秘の中華ー三味一体』を発動ッ！」

真和「……ッ…！！」

好「…アタシは手札の『神秘の中華食材ー鶏』『神秘の中華食材ー菜』『神秘の中華食材ー飯』をリリースし、儀式召喚ッ！！」


好は残る力を振り絞り、拳を突き上げる。

好「…現れ出でよ…ッッ！ レベル９ーーー
『神秘の中華料理ー棒棒鶏』ッッ！！」[ATK 3200]


《神秘の中華料理ー棒棒鶏》
儀式・効果モンスター
星９/地属性/鳥獣族/攻 3200/守 1700
「神秘の中華ー三味一体」により降臨。
このカード名の①の効果は１ターンに１度しか使用できず、このカードの①の効果を発動するターン、自分は「神秘の中華」モンスターしか特殊召喚できない。
①このカードを手札から捨てて発動できる。自分フィールドに表側表示で存在する「神秘の中華」モンスターの種類の数まで、自分のデッキからレベル３以下の「神秘の中華」モンスターを選んで墓地へ送る。
②手札を２枚捨て、１０００ライフを払い発動できる。フィールドのこのカードをリリースする。
③儀式召喚したこのカードは、このカードの儀式召喚のためにリリースしたモンスターの種族によって以下の効果を得る。
●植物族：モンスターゾーンに存在するこのカードは自分及び相手の効果の対象にならない。
●鳥獣族：１ターンに１度、１０００ライフを払い発動できる。フィールドの「神秘の中華」モンスター以外の特殊召喚されたモンスター全てを破壊する。この効果を発動するターン、このカード以外のモンスターは攻撃できない。


好の呼び出したモンスターは、淡いピンク色の翼に、色とりどりの野菜の装飾を施した、とても巨大な怪鳥だった。

真和「……新たな儀式モンスターだと…ッ…」

好「……この子は未だ公の場で出したことのなかったアタシのとっておきさ…！
…アタシのモンスターがリリースされた事で、庖厨の効果発動！ デッキから『神秘の中華ー轉盤』を墓地へ送り、墓地の『神秘の中華釜』を手札に加える！」[手札 2]


好「…さぁ見せてやるよ…っ！ アタシの切り札、その破壊力をーーーー」

真和「……っ！」

好「…ライフを1000払い、棒棒鶏の効果発動ッ！
フィールドの『神秘の中華』以外のモンスターを全て破壊するーーーッッ」


真和「……何……ッッ…！」

硬化した胡瓜が矢のごとく降り注ぎ、真和の場のモンスターを破壊していくーーー

真和「ーーーッ…！ ブンボーグ009が戦闘・効果で破壊される場合…ッ…代わりに他のブンボーグを破壊することができる…っ！ 009の代わりにPゾーンの006を破壊…！」

好「…！」

真和「…更に、Pゾーンの006が破壊された事で、墓地の003を手札に加えるーーー」[手札 1]

好「…けどこれでジェットも002も破壊した…！ 009はフルパワーを発揮できない…！」

真和「……ッ…」


好「ーーーアタシは来来の効果で、場の来来と墓地の轉盤を手札に加える…っ！
そしてカードを２枚伏せ、ターンエンド…っ！」[手札 0]


◉TURN０４◉


真和「…僕の…、ターン…ッッ！ ドローッ！」[手札 2]


真和（…なぜだ…ッ、なぜ美先生はあんなになってまで戦うんだ…ッッ）

真和（……本来なら敗北しているはずの8000以上ものダメージを食らったのだ……とっくに身体の限界は超えているはず…。なのにーーーッッ）


好「………アタシが立っていられるのが不思議って顔をしているね」

真和「……っ…」

好「…アンタの疑問に解答を出すなら、それは簡単なことさ」


好「ーーーアタシはこの学校が、そしてこの学校の生徒たちが大好きだ」


真和「ーーーッ」

好「…生徒たちに『スッキー先生』って呼ばれる度に、アタシの『好き』があの子達にも伝わってるんだ、って思えてきて……それがアタシにとっての大きな力になる」

真和「……」

好「だからどれだけボロボロになろうと…っ、あの子達の為に…ッ、アタシは止まらない……ッ…！」


真和「……下らない。
…実に、下らないな」

好「……下らない…か。
ーーーアタシだって最初はそう思ってたさ」

真和「……」

好「……けど色んな挑戦、色んな失敗、色んな人の暖かさに触れて、アタシはこの仕事が好きになった」

真和「…」

好「ーーーねぇ、アンタは今……どんな気分？」


真和「……黙れ」

好「……」

真和「………全て、計算通りに終わらせる。
余計なおしゃべりなどしている暇は……無い」

好「……。
……そうかい」


真和（……何も迷う必要など無いはずだ…。
計算が少し狂ったからといって、勝負に負けたわけでは無い…ッ…！）


真和「……この頭脳の全てーーーマイン様の為に……ッッ！！」






To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１６０ 誰が為に






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙