DRAW:７４ 灯る魔光焔　作：人喰い

(74)



◉結維side◉
〜山岳エリア・洞窟内部〜



結維「……随分奥まで来たわね…」

鈴華「…ぜぇ…はぁ…っ」

結維「…この程度で息上げてちゃ話にならないわよ。鈴華」

鈴華「あなたが事あるごとに私の身体を締め付けるからでしょうが！！」

結維「…そっ、それ含めて“この程度で”って言ったのよ」

鈴華「…結維さん、あなたねぇ……」

結維「…あっ！ 奥の方に何か光ってる…？」

鈴華「…話を逸らさないでよ…。でも、気になりますわね。行ってみましょう」


ぼんやりと光る何かを目指して私たちは歩いて行った。

結維「あ……これ…」

ぼんやりと光っていたものの正体は、洞窟の壁に埋め込まれた、どこか古めかしい二つのランプだった。

鈴華「……！」

そして何より私たちの目を引いたのは、その二つのランプが挟み込むようにして存在感を放つ、機械仕掛けの扉ーーー


結維「…一体どこに続いているの……？」

鈴華「でもこうゆうの、ワクワクしてこない！？ 秘密のダンジョン的な！」

結維「しないわよ…。鈴華、浮かれすぎ。
……んっ、と…！」

子供みたいにきゃっきゃとテンションを上げて喜ぶ鈴華をよそに、私は扉を開けようと試みる。
でも確かに、こんな壮絶なダンジョンの奥地というくらいだから、レアカードの山とか、何かしらのご褒美は期待しちゃう。
が、扉は開かない。

結維「…くぅ…開かない…」

鈴華「…あの、結維さん…？ すぐ右手にキーレス錠が…」

結維「…あ」

どうやら浮かれているのは私の方だったようだ。
そこでようやくレアカードの山とかいう雑念を振り払い、私は我に帰る。

鈴華「…あらあらwwどうやら浮かれているのはあなたの方じゃ無くて？ww」

いやそれ私が今言ったし(言ってないけど)。
というか草生やすな。

結維「…ど、どの道暗証番号もわかんないわよ」

鈴華「…それもそうですけど」

結維「……」

うん、こうしてる間にも和泉達がきっと危険な目に遭ってるかもしれないのに…、やっぱりこんなところで足踏みしてる場合じゃないわ。
かといってこのまま引き返すわけにも行かない。この奥に行くことで、奴らに少し追いつける気がするからーーー


結維「ーーー鈴華。ちょっと下がってて」

鈴華「………は？」


マインにやられた時の外傷は、幸い“左腕”だけ……。
私は私自身の“強さ”の全てである“右腕”に全身全霊を込めーーー

結維「せー……のっっ！！」

鈴華「…え…ちょ…っ、結維さん…っ！？」


それを目の前の扉にーーー否。
目の前に立ち塞がる、ただ一つの“壁”に。


結維「ーーーりゃぁぁああぁあああっっっ！！」



思いっきり、ブチ込んだ。



















遊戯王 Ph.X DRAW:７４
《灯る魔光焔》

















◉火群side◉
〜セントラルホール前〜


火群【LP 8000】
場:『炎王神獣 ガルドニクス』[ATK 2700]
魔:『炎王の孤島』(フィールド)
『補給部隊』(永続)x2
伏せ:1
手札:2
墓地:『ヴォルカニック・カウンター』x2


マイン【LP 3300】
場:0
魔:『未来融合ーフューチャーフュージョン』(永続)
伏せ:0
手札:5



◉TURN０３◉


マイン「ーーー俺のスタンバイフェイズ、未来融合の効果により、デッキよりティエラの半身……１０体の悪魔を生贄とする…！！」

千愛「…！ ティエラの…半身……！？」

火群「………ッッ！！」


マイン「…１０体の悪魔よ……ティエラ降臨の為にその身を捧げよッッ！！」

ニクス「…10体ものモンスターを融合素材に使うだと……ッ！！」


マイン「ーーー第１のクリファ
『無神論(バチカル)』の悪魔『シャイターン』！！」

その宣言と同時に、マインの背後に白色の真空管状の発光体が出現する。

火群「……っ？」


マイン「ーーー第２のクリファ
『愚鈍(エーイーリー)』なる悪魔『ベルゼブル』！！」

今度は灰色の発光体が、またマインの背後に現れた。

雫「……うぅ…！ 急に、頭が……重く……！？」

火群「…柏木さん…っ…！？」


マイン「ーーー第３のクリファ
『拒絶(シェリダー)』せし悪魔『ルキフグス』！！」

次に現れたのは黒色の発光体…。

千愛「……！！ なに…これ…！？ 急にみんなが遠くへ…！
……いや、違う…！ 私が、遠ざけてるの……！？」

火群「…チアガールまで…！ 一体どうしたんだよ…！？」


マイン「ーーー第４のクリファ
『無感動(アディシェス)』の悪魔『アスタロス』！！」

次は青色の発光体がマインの背後に灯った。

和泉「……っ、なんなの…？ 突然心にポッカリ穴が空いたみたいな…。
悲しいハズなのに…っ、全く悲しいって思わないこの感情は……っ！？」

火群「…和泉ッ！！？」


マイン「ーーー第５のクリファ
『残酷(アクゼリュス)』なる悪魔『アシュメダイ』！！」

現れたのは赤き発光体。

ニクス「………グッッ…！！ なんだ…ッ！？ 私の奥底から溢れる、この邪悪な力は……！！？」

火群「…ニクスまで…！！
ーーーマイン！！ みんなに何をしたッッ！！」

マイン「…ククク…ッ！ まだ“半分”だというのに何を驚く…？
それに俺は何もしていない。
この発光体が照らす空間では人間の本性が暴かれる。
これこそが人間の、そして精霊の奥底にも眠る、“本質”なのだ…ッ！」

火群「…人間の……本質…！！」

ニクス「……これが、私の本性だというのか……ッ？」


マイン「ーーー第６のクリファ
『醜悪(カイツール)』な悪魔『ベルフェゴル』！！」

今度は黄色の発光体だ…！

千愛「…ッ！！ ァァアアっっ！！ 嫌ぁ！！ 違う！！ 私の心は…ッ、醜くなんか無いっっ！！」

ニクス「…ッ、千愛…！」


マイン「ーーー第７のクリファ
『色欲(ツァーカブ)』の悪魔『ヴァエル』！！」

緑の発光体が闇の中に灯る。

ニクス「……グッッ！！ 誰が……こんなとこで、こんな幻覚で屈するか…ッ！！」


マイン「ーーー第８のクリファ
『貪欲(ケムダー)』なる悪魔『アドラメレク』！！」

橙の発光体が煌々と光る。

雫「…何…！？ 何なんですか…！？ この湧き上がる感情は……！！」


マイン「ーーー第９のクリファ
『不安定(アィーアツブス)』なる悪魔『リリス』！！」

9個目は紫色の発光体。

和泉「…いやぁぁあぁあ！！ 私が……私じゃなくなる……っっ…、うぅう…っっ！！」

火群「………ッ！！
なんで、みんながこんな苦しい目に合わなきゃいけない…！！ 戦ってる相手は俺だろうが！！」


マイン「…これで最後だ。
ーーー第１０のクリファ
『物質主義(キムラヌート)』の悪魔『ネヘモス』！！！」

10個目に現れた発光体は、どの色にも染まらず、虹色の輝きを放っていた。

マイン「…先ほども言ったが、これらの虚無の光は、心の奥底の“本性”を映す鏡だ。
貴様のお仲間は醜き人の、精霊の本性を勝手に晒しているだけ。やがてそれも異常ではなく正常になる」

火群「………ッ」

マイン「ーーーなにも隠さず、なにも取り繕わない。生物とは本来そういうものであるべきだとは思わないか？」

それがお前の望む“世界”だって言うのかよ…！！
マイン…ッ！ 俺にはわからねぇよ…！！ 一体何がお前をそこまで突き動かすのかが…！！
精霊王に対する恨みで組織を立てたんだったら……人間界まで巻きこむ必要はねぇだろ…！


火群「………俺は、そうは思わない」


マイン「……」

火群「うまくは言えないけど、あんなに理不尽に苦しんでたどり着いた場所に、正しい未来なんて、無いと思う」

マイン「…正しい、未来だと…？」

火群「見栄っ張りでも、意地っ張りでも、強がりでも。人を傷つけない嘘なら、たまには吐いていいんじゃねぇか？」

マイン「それが貴様の……人間の答えか」

火群「……ああ。
………けどお前だって、今は人間の身体を与えられているんじゃないのか」

マイン「………ククク……ッ。全く……おしゃべりな堕天使だ。
だが今の俺はあくまで精霊の力を抑えられ、生命として人間に近くなっているだけに過ぎない。それにーーー」

マインはおもむろにマントの内側から古いデザインのランプを取り出す。
そのガラス張りのランプの内側には溢れんばかりの炎が燃えているのがわかる。

マイン「ーーーこのランプは俺が人間界に追放される時に死にものぐるいで精霊王から奪ってきたものだ…。ランプの中には、俺の精霊の力が炎となって封印されている」

千愛「…なん…ですって…！！」

マイン「この炎は、怒り、憎しみ、恐れ……そういった人間の“負の感情”に反応し、勢いを増して燃え上がる。
そしてこのランプは外からの衝撃は一切受け付けないが……この炎がランプを内側から突き破って破壊した時こそ、俺は真の力を取り戻す事が出来るという訳だ」

ニクス「……その為に人間界で組織を立て、人々を恐怖へ陥れたのか……！！」

マイン「……最初は苦労したが、ランプを持っていれば、その炎が強くなる程俺の精霊の力も少しずつ回復していくのがわかった。
更に力を少し魅せれば、俺の手足となる部下も勝手に付いてくる」

ニクス「……それで今はもうワープも出来るくらい力を取り戻したって事か…っ」

火群「…だけどその分…、それだけの犠牲が……ッ！！」


マイン「ここまで回復するのに10年以上もかかってしまったが、俺の力を取り戻すために生贄となった人々には感謝してもらいたいものだ……。やがてこの世界を支配し、精霊界をも手中に納める者の供物となれたのだからな…ッ！！」

火群「…！！ ふざーーー」

雫「ーーーふざけないでください！！！」

マイン「…ほぅ…？」

火群「…柏木さん……っ！」

雫「…あなた達の所為で……どれだけの人が苦しんで……！！ …今も！ どれだけの人が苦しみ続けてると思ってるんですかっ！！！」

マイン「……」

雫「…あなたの私利私欲の為に……っ、私の家族は……っ！ 村は……ッッ！！」

マイン「…村……、クク……ッそうか…、貴様はあの村の生き残りか…！！」

雫「…村のみんなの為にも、私はあなた達“終焉の焔”を絶対に許しません…っっ！！」

火群「……柏木さんもこう言ってる。お前の言ってる事、お前達のやってる事は間違ってるんだよ」

マイン「……やはり貴様等と俺は相容れぬ存在らしいな………」

火群「……！」


マイン「ーーーならば圧倒的な力を以って証明するしかあるまい…！！
聴かせてやる……終焉を告げる焔の叫びを…！
永続魔法『煉獄の虚無』を発動！！」


《煉獄
れんごく
の虚夢
きょむ
/Void Imagination》 †
永続魔法
(1)：自分フィールドの元々のレベルが２以上の「インフェルノイド」モンスターは、
レベルが１になり、相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
(2)：表側表示のこのカードを墓地へ送って発動できる。
自分の手札・フィールドから、
「インフェルノイド」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター１体をエクストラデッキから融合召喚する。
エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドにのみ存在する場合、
自分のデッキのモンスターも６体まで融合素材とする事ができる。


マイン「…更に、ティエラの血肉となった強大な悪魔は死してもなお、別の悪魔の肉を糧とする事で現世にその身体を蘇らせる…ッ！」

千愛「……そんな…っ！」

和泉「…それじゃあまるで……！」

ニクス「ーーー不死…！！！」

マイン「…そうだ。貴様と同じだ、不死鳥…！！
墓地の『シャイターン』、『ベルゼブル』『ルキフグス』の3体をゲームから除外し、墓地より現れろ！！『インフェルノイド・ネヘモス』！！」


ネヘモス『グギガァァァアァアアァアァァアッッ！！！」[ATK 3000]☆10→1


《インフェルノイド・ネヘモス/Infernoid Onuncu》 †
特殊召喚・効果モンスター
星１０/炎属性/悪魔族/攻3000/守3000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールドの全ての効果モンスターのレベル・ランクの合計が８以下の時、
自分の手札・墓地から「インフェルノイド」モンスター３体を
除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる。
(1)：このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。
このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊する。
(2)：１ターンに１度、魔法・罠カードの効果が発動した時、
自分フィールドのモンスター１体をリリースして発動できる。
その発動を無効にし除外する。



マイン「ネヘモスの効果発動！！ このモンスターが場に出現した時、ネヘモス以外のモンスター全てを破壊するッ！！」

火群「……！！」

マイン「ーーー墓地より蘇り、我以外の全てを焼き払う終焉の焔ーーー」

雫「……あのモンスターは…！！ 間違いありません！！ 私の故郷を襲ったモンスター…っ！！」

マイン「不死鳥を……焼き払えッッ！！
〝デモン・インフェルノ〟！！」

ネヘモスの身体に埋め込まれた虹色の発光体の輝きとともに、フィールド全体を黒き炎が襲う。


ニクス「……！！ ぐぁぁあああっっぁああッッ！！」

火群「……ニクスッッ！！
くっ……！ 俺の場のモンスターが破壊された事で、2枚の補給部隊の効果で2枚ドロー！！」[手札 4]

火群「更に、俺の場の炎王が効果で破壊された場合、このカードは手札から特殊召喚できる！ 現れろ！『炎王獣 バロン』！！」[DEF 200]

マイン「……足掻くな、どうせ何もかも虚無と爆ぜる」


火群「…悪いな。
何度倒れても立ち上がる、それが俺たち“不死鳥”だからよ……。
諦めるわけにはいかねぇんだ」








To Be Continued…




《次回予告》


ーーー完全なる“悪魔”を前に、不完全な“人間”は何を想い、何の為に闘うのか。


次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:７５ Perfect Tierra