DRAW０８ 二年越しのデュエル、決着！　作：人喰い

ーーーいつからだろうか。
俺はずっと、〝主人公〟という、圧倒的で絶対的な主役に憧れていた。
世界を護るとか、大切な人の為に悪と戦うとか、そんな大それたことをしてみたかった。





ー黒髭中学校・屋上ー

斬波 戒【LP 3800】
市瀬 火群【LP 100】


火群「俺のターン！ ドロー！！」

ゴォオォオッ！！

火群【手札 ３枚】

俺の右手が真っ赤に燃える。
戒は俺の過去の事や俺の力の事を少なからず知っていた。
このデュエルに勝てば、何かがわかるかもしれない。
だから俺は……この決闘に勝つ！

火群「ーーー来てくれたか……相棒！」

俺の引いたカードは『ダンディライオン』……だがまだ、これだけじゃ足りない。これだけじゃまだ勝てない。

火群「俺は手札から、『炎王の宝札』を発動！」

『炎王の宝札』通常魔法
自分フィールド上の「炎王」と名のついたモンスター１体を選択して発動する。
選択したモンスターを破壊し、デッキからカードを２枚ドローする。
その後、自分の手札のカードを１枚破壊する。

火群「…すまねぇ…、ガルドニクス…！」

ニクス（…負けたら承知しないぞ。火群)

火群「……場のガルドニクスを破壊してデッキからカードを２枚ドロー！ そして手札の『炎王獣 クベーラ』を破壊する！」

戒「………」

火群「破壊されたクベーラの効果でもう一枚カードをドローする！」

火群【手札 ４枚】

火群（よしっ……この手札なら…！！ やっぱりデッキは、俺の事を見捨てたりなんかしてねぇ！）

俺はこの時、笑みをこぼさずにはいられなかった。
こいつとのーーー戒とのデュエルが、最高に楽しくて。
忘れていた記憶すら、簡単に思い出させるほど楽しくて。

戒「何が可笑しい……！？」

火群「楽しいんだよ。お前とのデュエルが」

戒「楽しい……だと？ …フン、また生ぬるい事を……！」

火群「ーーーそういえば、二年前の決勝戦。あの時にも、お前は似たような事を言ってたよな」

戒「……ようやく思い出したか…」

火群「……ああ、お前とのデュエルが楽しすぎるおかげでな。何もかも、思い出したぜーーー」


〜回想〜

今から約二年前、黒髭町市民ホールにて行われた、黒髭町デュエル大会。
高校生以上の部、中学生の部、小学生の部に別れ、予選を勝ち抜いた本戦参加者総数は、120人。内、小学生の部の参加者は、32人だった。
試合形式はトーナメント。一度でも負けは許されないわけだ。
そして小学生の部の決勝戦は、『市瀬 火群』VS『斬波 戒』となっていた。


司会「さァーやって参りましたァ！ 黒髭町デュエル大会！ 小学生の部！ 司会は、いつも元気に殺劇スマイル！『サガノ』がお送りするぜェ！！」

司会「黒髭町の決闘者全員が参加したこの大会もついに残すは決勝戦のみだァ！」

火群「………（よし、なんとか決勝まで来たな。相手は……知らないヤツだけど、全力で戦うぜ）」

戒「……（父様、俺は勝ちます。絶対に）」

司会「これまでにも最高の盛り上がりを見せたこの大会のラストを飾る二人の若き決闘者は彼らだァ！」

カッ
スポットライトの光が二人に直撃する。

火群「………！」

戒「………！」

司会「市瀬 火群と、斬波 戒だァァ！！」

ワァアアァアァーーー！！
会場が盛り上がりをみせる。

司会「それではァ！ 二人とも最ッ高のデュエルを魅せてくれよォ！ スリー！ トゥー！ ワン！ デュエルスタートォ！！」



☆６ターン目☆

市瀬 火群【LP 800】

斬波 戒【LP 1000】

火群「…ガルドニクスは効果で蘇生…！ そしてモンスターを全て破壊だ！」

戒「このトラップで防御する！」

火群「くっ……面白いじゃん！」

戒「 面白い…？ 生ぬるい事を……！ そんな感情、俺はとうの昔に捨て去ったぜ。
（……そんな表情を………するな…ッ！！）」

サガノ「…両者一歩も譲らず、まさに一進一退の攻防だァアッ！ このデュエルを制し、黒髭町一のジュニア決闘者に輝くのは一体ーーーッ！？」

火群・戒『俺だッ！！』


ーーそしてその後、決着がついたのは１０ターン目の事だった。

☆１０ターン目☆

市瀬 火群【LP 400】

斬波 戒【LP 1000】

火群「ガルドニクスでダイレクトアタック！」

戒「な…に……！？」【LP 1000→0】

火群「かっ……た…？ やった……」

この時の俺の喜びは、どこかぎこちなかった。というより、脱力感に満ちていた。ここまで全力で臨んだデュエルは、この時までなかったから。

サガノ「ーーッ！ 決まったァァアァ！！ 激闘を制し、黒髭町一のジュニア決闘者に輝いたのは………市瀬 火群だァアァーーッ！！」

ワァアアァアァーーーッ！！
会場が盛り上がりをみせる。

戒「……バ、バカな…！？ この…俺が……？」

火群「戒……っていったっけ、楽しいデュエルだったよ」

戒「……そんな表情で、俺を見るなぁあッ！！」

バチィィイィッ！！

火群「……電気…ッ！？」

その時俺には確かに見えた。
戒が振り払った掌から、膨大な量の電気が溢れ出しているのを。
司会や観客には見えていないのか…？ それどころか、俺たちの発する言葉さえ聞こえていないようだった。

フッ…。

その瞬間、俺が電気を視認した瞬間だ。停電が起こった。

サガノ「おっとぉー、いいところなのに停電かぁあぁぁ？」

停電が起こってしまってはマイクも 意味を成さないので、司会の声からさっきまでの迫力が消えてしまっている。

戒「…く……ぐあああッ！！」

戒は、その〝電気〟をコントロールできていないようだった。

火群「な、何が起こってんだよ…！ おい！ 戒！ 大丈夫か！？」

俺が戒に触れた瞬間、俺の全身を激しい電流が巡る。
およそ経験したことのない痛みに、俺は悶える。

火群「…ッ！！ ああぁあぁああッ！！ ああ…が、ぐぎ………はぁ…はぁ……っ」

なんだ……ってんだよ…。
霞みゆく意識の中で、俺は考えていた。

火群（……俺がデュエルで勝っちゃったから、今、こんな事になってんのか……？ ………わっかんねぇよ……！）

俺の所為で誰かが傷ついている。
怖い。怖い。恐い。恐い。恐怖。
でも、助けないと。

助けなきゃ！

俺は立ち上がった。
俺の所為で誰かが傷つくのをただ見ている訳にはいかねぇ！

火群「うおぉおおぉおおッ！！」

バチィィイィッ！！

俺は戒の肩を両手でしっかりと支える。
再び俺を襲う激しい痛みに、必死で耐えながら。

火群「…ぐぅうぁあ…ッ！！」

戒「……グ…、お前、何を………！？」

火群「…戒……！ 俺達は…はぁ……最高のデュエルをした……！ 凄く、楽しかったんだよッ！ お前とのデュエルが！」

戒「……ッ、勝者が…何を言っている……これ以上、哀れむなっ！！」

戒から発せられる電撃が一層強くなる。

火群「がぁああぁ……あぁああ！！！」

俺は痛みで頭がおかしくなりそうだったが、それでも俺は、こいつをーーー戒を見捨てる事なんてできなかった。
何故、これほどまでの電気が戒から放出されているのかは俺にはわからなかったが、このままだと、放出している本人が無事では済まない事ぐらいは、俺にもわかっていた。

火群「……俺の所為で起きたことなら、それで傷ついた人の痛みは全て、俺が受けてやる……！！！」

ゴオォオオォッ！！

戒「………真っ赤な……炎……？」


それから５分くらいの記憶は真っ白だ。
多分、気を失っていたんだと思う。
俺は気がついたら決勝会場の椅子に座ってて、戒は姿を消していた。
俺が目を覚ました直後に停電が収まって、何事もなかったように表彰式が行われた。
だが俺は、受けた電撃のショックがよっぽど酷かったのか、決勝戦以降の記憶が全くなかった。
俺は、気がついたら優勝していたという事実に戸惑った。
『斬波 戒』という準優勝者の名前を聞いても、この時の俺にはわからなかった。


〜〜〜〜



戒「……クッ…！ 思い出したから何だ…！」

火群「…またそうやってツンツンしちゃってよ。俺たち、せっかく再開できたんだぜ？ あの時みたいに、楽しくデュエルしようぜ」

戒「……デュエルは俺が生きている証…！ 楽しいなどと甘ったれた事をぬかすなッ！！」

火群「…何があったか知らねぇが、まだ決闘の途中だ…！
行くぜ！」

戒「……来いッ！！」

頼むぜ相棒！

火群「俺は、ダンディライオンを守備表示で召喚する！」

ダンディ「がる…」[守 300]

戒「……！ 拍子抜けだな、市瀬。この後に及んで壁モンスターか」

火群「だがな、戒。……こいつは、次のターンお前を倒すための布石だぜ…！」

戒「何……だと…？
（だが不思議だ。心の奥で笑みが止まない。俺自身、市瀬がこの状況をどうやって覆してくれるのかを楽しみにしている……？ このワクワクが……『楽しいデュエル』…なのか…！？）」

火群「俺はカードを２枚伏せ、ターンエンドだ！！」

市瀬 火群【LP 100】
場:『ダンディライオン』[守 300]
伏せ:２枚/手札:１枚

斬波 戒【LP 3800】
場:『雷神騎-韋堕天』[攻 2800]
『雷神騎-フリード@ライジング・ブレード』[攻 2100]
伏せ:なし/手札:３枚

戒「俺のターン、 ドローッ！！」

バチィィイィッ！！

戒【手札:４枚】

戒「次のターン俺を倒すと言ったな。だが、お前に次のターンは訪れない！」

火群「………」

戒「俺は手札から『雷神融合』を発動！」

『雷神融合』通常魔法
1000ライフポイントを払って発動する。
自分の手札・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、雷族の融合モンスター１体を融合召喚扱いとして、エクストラデッキから特殊召喚する。

戒「ぐぅう…！」【LP 3800→2800】

戒「俺は、手札と墓地のサンダードラゴン３体を融合させる！」

火群「サンダードラゴン３体融合だと…！？」

戒「…束ねられし雷龍の鼓動が、俺を更なる高みへと導く！
現れろ！！ 気高き誇りの白き翼『サンダー・ギドラ・ドラゴン』！！』

S・G・D「グギャオオォオォオオッ！！！」[攻 3000]

空を裂き現れたのは、三つ首の、白き翼を羽ばたかせる雷の龍だった。
あまりの神々しさに、俺は思わず魅入ってしまう。

火群「す…すげぇ……！」

遠くでデュエルを見ていた明日人も、それをみて驚いていた。

明日人「…ソリッドヴィジョンって、ここまでできんのかよ………ん？」

ポツ……ポツ…。

気がつくと、少しだが雨が降っていた。
風も凄い勢いで吹きつける。

ビュオオォー！

明日人「くそ…扉の前なら雨あたんないし、移動するか」

ザーーーッ！！

雨が突然強く降り始める。

戒「フッ…雨か、この程度……！」

火群「くッ」

戒「サンダー・ギドラ・ドラゴンの融合召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスター１体につき５００ポイント、このカードの攻撃力はアップする！ 更に、この効果で破壊された相手モンスターの効果は無効になる！」

火群「何……！？」

戒「…紫電眼光の稲妻よ、生きとし生ける全てのものを貫けッ！〝ライトニング・アブソーバー〟！！！」

火群「くッ……させねぇ！ チェーン発動だ！ 速攻魔法『昇火する綿毛』！！」

戒「昇火する綿毛……だと！？」

火群「自分フィールド上のダンディライオンを生贄に捧げ、手札の炎属性モンスターを１体を破壊することで発動！ 手札またはデッキから、『ダンディライオン Lv１０』を特殊召喚する！！」

ダンディ「うおぉおおぉおッ！」[攻 3000]

綿毛が燃え散り辺りが炎で包まれる。そして炎の中からゆらゆらと現れたのは、真赤に燃える鬣を煌びやかに靡かせた、二本足で立つダンディなライオンだった。

戒「何…！！ だが今更何を召喚したところで……」

火群「ダンディライオン Lv１０は、カードの効果では破壊されない！ だが、召喚したターンの終了時に墓地へ送られる…！」

戒「くッ！」

バリィイィーン！！

サンダーギドラドラゴンの雷が、フリードと韋堕天を貫く。

サンダー・ギドラ・ドラゴン【攻 3000→4000】

そしてその直後に、綿毛トークンが２体、俺のフィールドに現れる。

『綿毛トークン』[守 0]

火群「…やっぱり面白ぇよ。お前とのデュエル」

市瀬 火群【LP 100】
場『ダンディライオン Lv１０』[攻 3000]
伏せ:なし/手札:なし

斬波 戒【LP 2800】
場:『サンダー・ギドラ・ドラゴン』[攻 4000]
伏せ:なし/手札:１枚

戒「…この状況でもまだそんな事が言えるか。やはりお前は、面白い」

火群「……！」

戒「…フン。だがこのデュエルもこのターンで終わる……いや、終わらせる！」

火群「俺も負けるつもりはないぜ……ッ…！！」

戒「戯言を…！！ バトルフェイズ！ サンダー・ギドラ・ドラゴンの攻撃！〝ライトニング・シェイバー〟！！」

S・G・D「ガァアアアァアーーッ！！」

サンダーギドラドラゴンの咆哮が、雷を呼び寄せ、集まった電気エネルギーが圧縮され雷の剣になった。

火群「ダンディライオン Lv１０の効果発動！ ダンディライオン Lv１０が戦闘を行う場合、フィールド上のダンディライオンと綿毛トークンを全て破壊し、破壊した数x1000ポイント、ダメージ計算終了時までこのカードの攻撃力をアップさせる！ 全ての綿毛を昇火させ、獅子王よ、真の力を解放しろッ！〝バーニングイグニッション〟！！」

バリィイィーン！！

『ダンディライオン Lv１０』[攻 3000→5000]

『サンダー・ギドラ・ドラゴン』[攻 4000]


火群・戒「「いっけぇええぇええーーッ！！！」」


ダンディライオンの繰り出した拳が、サンダーギドラを貫く。
その瞬間、瞬く閃光と共に、勢いよく降っていた雨が止んだ。

戒「チイィィッ！！」【LP 2800→1800】

戒「甘いぜ、市瀬！！
サンダーギドラが破壊された場合、墓地のレベル５以下の雷族モンスター１体を特殊召喚できる！！
現れろ！！『サンダー・ドラゴン』！！」[ATK 1600]

火群「…何…っ…！」

ニクス（…まずい……ッ…まだバトルフェイズは終了していない……！！）

戒「サンダードラゴン！！ この決闘に……終止符をーーーー！！」

雷撃が襲い来るその瞬間。

火群「ーーーだったら、運試しと行こうぜ……！！」


戒「…！？」

火群「リバースカードオープン！『運命の分かれ道』！！」

戒「…運命の分かれ道…！ お互いにコインを１回投げ、表なら2000回復、裏なら2000ダメージを受ける大博打カード…！」

市瀬 火群【LP 100】
斬波 戒【LP 1800】

火群「裏が出た方が負けだ…っ…！もっとも、両方表ならまだデュエルは続くけどな……。一緒のタイミングで投げようぜ」

戒「……ああ、いいだろう」

火群「…それじゃあ行くぜ！ せーのっ！」

俺と戒は、屋上の中央に位置する場所へ同時にコインを投げた。

その結果はーーー


明日人「ーーーマジかよ…」

戒「ーーー両方……」


火群「ーーー裏だ」


火群・戒「ーーーッッ！！」【LP 0】


互いのライフが0になった事で、ソリッドヴィジョンが消え、決闘は終了した。


戒「……結果は引き分け……か」

火群「……はは、やっぱ強いな……戒。俺も最後は運に頼るしか無くなっちまった」

戒「……チ…ッ…あと一歩というところで……ッ！
……しかし、納得はいかんが、ほんの少しは楽しめた」

火群「……ああ、俺も楽しかった」

ただ、実力じゃあ今の俺は完全に負けていた…。もっと強くなんないとな…。
ニクスと、一緒にーーーー


戒「……フン」

けれど、デュエルするたびに、確実に俺たちの周りの何かが変わってきている。
それは、肌で実感できるほどに。

火群「……そうだ、戒」

そこで俺は思い出して、戒に問う。

戒「…どうした？ 市瀬」

火群「教えてくれないか？ 俺の炎の事や、二年前の事件の詳細を」

戒「……そのことか。
今度会った時、お前がデュエルで俺に勝てたら教えてやる。もうじき、ふさわしき戦いの舞台が訪れるだろうからな…」

戒は静かに笑い、俺は優しく笑った。
また、デュエルしよう。
そう、誓いをたてて。


明日人「火群ぁああぁあーーッ！！」

直後、クラースがタックルをかましてきた。

火群「……！ クラースか……！？ 空気読めよっ」

明日人「いや、このままだと俺が完全に空気だったって！ ロクに解説もできない外野なんてただの背景じゃねぇか！」

戒「……フッ。騒がしいな。俺は帰らせてもらう」

火群「……ははは」

明日人「……ぜぇ…ぜぇ」


その後、戒とは校門前で別れ、俺とクラースは途中まで同じ家路を辿り、家に帰った。
いつものように、他愛のない会話をしながら。




ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continuedー〜ー〜ー


《次回予告》
ニクス「更新が夜中になってしまって申し訳ない。今回から次回予告を担当させてもらう『ガルドニクス』だ(真顔)。
決して、途中で出番が無くなってこれからの出番も少し危ういからここに配属されたという訳ではないぞ(真顔)」

ニクス「尺がないから手短にいくぞ(真顔)。次は、火群と明日人の初デュエルだ(真顔)。ロンファからギガプラ、スーペルヴィス装備で火群が窮地に追い込まれるぞ(真顔)。

次回、遊戯王 Ph.X
DRAW:０９ 夢X夢X夢？

☆２月１０日(日)更新予定☆

ニクス「この次も、サービスサービスゥ(真顔)」


＊今週のおまけはお休みです。