DRAW:１７９ ネロ　作：人喰い

(179)



〜決闘機兵ファクトリー・１F正面ゲート〜



メアリー「ーーーーくっ……！！ 流石に黒焔トークンの数が多すぎて捌き切れないワ…！！」

無限に押し寄せる黒焔トークンとの連戦でメアリーの体力は限界を迎えつつあったーーーー

しかしその時。


？？「ーーーーー随分と苦戦しているようですね、メアリー=ベイクウェル様」


爆発と共に１人のスーツ姿の女性が姿を現した。

メアリー「ーーー！！」

爆発によって黒焔の群勢は一時後退するが、またすぐに２人に向かい襲いかかる。


メアリー「……あなたは……っ…！？」

？？「…話は後です、ベイクウェル様。
先ずはこの黒焔の処理を優先しましょう。
まだ戦えますか？」


スーツの女性は人差し指と中指で眼鏡の位置を直し、メアリーに問いかける。
それを受け、メアリーは帽子のつばを後ろに回すと、

メアリー「ーーーーもちのロン！！ 助太刀センキュー！！
ーーーー弱音なんて吐いてられないワっ！！」


そう言って笑みを浮かべ、再び決闘盤を構えた。















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１７９ーーー
《ネロ》















〜決闘機兵ファクトリー・屋上〜




黒ローブの少女ネロを追って走って来た雫は、屋上まで辿り着いていたーーーー


雫「ーーーーそこまでです…っ…！！」



雫は息を切らしながら、屋上を歩くネロに向かって叫ぶ。


ネロ「ーーーーっ」


ネロは一瞬振り返るが、すぐにまた前を向き歩いて行く。


雫「……はぁ……はぁ…っ…逃げようとしても…、無駄ですよ…っ！」

その言葉を不思議に思ったネロは周囲を見渡すと、ある事に気付く。


ネロ「……防護フィールド……っ…！？」

辺りには、よく目を凝らさないと見えないくらいに薄っすらと、光の壁が張られていた。


雫「……はい。この防護フィールドは工場の屋上全体を覆っています…っ。
そして、私の手にあるこの機械が無ければ解除する事は出来ません…！」

ネロ「……っ…！
…戦うしか、ないってわけね…」


雫「………あなたはここで…っ！ 私が止めます…っ…！！」


雫は恐怖をぐっと抑え、決闘盤を構える。

ネロ「……やるだけ無駄だよ…っ。
それを一瞬でわからせてあげるーーー」

それに合わせて、ネロは不本意そうに決闘盤構えた。



雫【LP 8000】

ネロ【LP 8000】




「「ーーーー決闘っっ！！！」」




◉TURN:０１◉



雫「ーーーーー私のターンっ！」[手札 5]

雫（メアリーさんの話だと、この人は儀式召喚を使用してくるはず…っ…！ 同じ儀式使いとして負けられません…っ！）

雫「…私は、『リチュア・アビス』を通常召喚！！」[ATK 800]


《リチュア・アビス/Gishki Abyss》 †
効果モンスター
星２/水属性/魚族/攻 800/守 500
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「リチュア・アビス」以外の守備力１０００以下の
「リチュア」と名のついたモンスター１体を手札に加える事ができる。


雫「召喚に成功したリチュア・アビスの効果でデッキから『シャドウ・リチュア』を手札に加えます！」[手札 5]

雫はデッキからシャドウ・リチュアを抜き出すと、流れるような動作でそのまま墓地へと捨てーーーーー

雫「シャドウ・リチュアを手札から捨てて効果発動っ！！」


《シャドウ・リチュア/Gishki Shadow》 †
効果モンスター
星４/水属性/海竜族/攻1200/守1000
水属性の儀式モンスターを特殊召喚する場合、
このカード１枚で儀式召喚のためのリリースとして使用できる。
また、手札からこのカードを捨てて発動できる。
デッキから「リチュア」と名のついた儀式魔法カード１枚を手札に加える。


雫「私がデッキから手札に加えるのはーーーー儀式魔法『リチュアの儀水鏡』！！」[手札 5]

ネロ「……っ…！」



雫「ーーーー続いて、私は手札から『リチュアの儀水鏡を公開する事で、手札の『魔神儀ーキャンドール』の効果を発動します！」


《魔神儀
デビリチャル
－キャンドール》 †
効果モンスター
星４/光属性/炎族/攻 0/守 0
このカード名の(1)(2)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できない。
(1)：手札の儀式魔法カード１枚を相手に見せて発動できる。
「魔神儀－キャンドール」以外のデッキの「魔神儀」モンスター１体と手札のこのカードを特殊召喚する。
(2)：このカードがデッキからの特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから儀式魔法カード１枚を手札に加える。
(3)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分はＥＸデッキからモンスターを特殊召喚できない。


雫「…手札のキャンドールと、デッキの『魔神儀ータリスマンドラ』を特殊召喚っ！」

『魔神儀ータリスマンドラ』[DEF 0]

『魔神儀ーキャンドール』[DEF 0]


《魔神儀
デビリチャル
－タリスマンドラ》 †
効果モンスター
星６/闇属性/植物族/攻 0/守 0
このカード名の(1)(2)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できない。
(1)：手札の儀式モンスター１体を相手に見せて発動できる。
「魔神儀－タリスマンドラ」以外のデッキの「魔神儀」モンスター１体と手札のこのカードを特殊召喚する。
(2)：このカードがデッキからの特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから儀式モンスター１体を手札に加える。
(3)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分はＥＸデッキからモンスターを特殊召喚できない。


ネロ「……っ…！」

ネロは見慣れないモンスターに思わず息を飲む。
だが雫は手を休める事なくカードをプレイしていくーーーー

雫「タリスマンドラがデッキから特殊召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターを手札に加える…っ！
私は『イビリチュア・ガストクラーケ』を手札にっ！」[手札 5]

ネロ（…手札を減らさずにモンスターを展開し、同時に手札の純度も高めている。まさかここまでの動きができるなんてねーーーー）



雫「………あの…っ！ ……一つ、聞いていいですか…？」

ネロ「……何かな？」


雫「…ここに来る途中、たくさんの決闘者が倒れてました……精霊の有無に関わらず、あなたの手によって…っ」

ネロ「……」

雫「……なのに私の事は２度も見逃した…っ…！
それはなんでですか…っ！？」

ネロ「……無意味な戦闘はしない主義なんだ、あたし。
なんてゆーか、あたしたちの目的のために狩る必要が無いって判断しただけだよ」

雫（……いや…、１F通路で私の目の前に現れた時の反応は明らかにおかしかった……っ……この人、何か隠してるーーーー？）


雫（ーーーー隠してるなら、探るまでです…っ！！）

雫「ーーー手札から儀式魔法、『リチュアの儀水鏡』を発動っ！！」


《リチュアの儀水鏡/Gishki Aquamirror》
儀式魔法
「リチュア」と名のついた儀式モンスターの降臨に必要。
自分の手札・フィールド上から、儀式召喚するモンスターと
同じレベルになるようにモンスターをリリースしなければならない。
また、自分のメインフェイズ時に墓地のこのカードをデッキに戻す事で、
自分の墓地の「リチュア」と名のついた儀式モンスター１体を選択して手札に戻す。



雫「場のタリスマンドラを素材にーーーー儀式召喚！！」

儀水鏡に６つの星が映し出され、その直後に儀水鏡の内側から巨大な触手が現れる。


雫「ーーー相手の魂をも深海へと誘う暗黒の魔手！ 今降臨せよ…っ！
『イビリチュア・ガストクラーケ』！！」[ATK 2400]


《イビリチュア・ガストクラーケ/Evigishki Gustkraken》 †
儀式・効果モンスター（準制限カード）
星６/水属性/水族/攻2400/守1000
「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手の手札をランダムに２枚まで確認し、
その中から１枚を選んで持ち主のデッキに戻す。


雫「ーーーーガストクラーケの儀式召喚成功時、効果発動っ！ あなたの手の内………暴かせてもらいますっ！！」

ガストクラーケの触手が2本、一瞬でネロに襲いかかる。

ネロ「……ッ！！」

ネロは突発的に身を引くが伸縮自在の触手からは逃れられず、手札２枚を触手に奪われ、それが雫に公開される。


『マンジュ・ゴッド』
『影霊衣の反魂術』


雫「……！」

雫は咄嗟に、自分の手札にある『リチュアの反魂術』に視線が移動してしまう。
そしてネロの手札から公開された『影霊衣の反魂術』と見比べる。

雫（……同じ『反魂術』の名を持つカード……っ…！ 一体どういう事なんですか……！？）

ネロ「…どっちのカードをデッキに戻すのかな？」

ネロは淡々とした口調で雫を催促する。

雫「…っ…！ 『影霊衣の反魂術』をデッキに戻します…っ！」

ネロ「…！」

触手は影霊衣の反魂術をデッキに返し、残りの１枚はそのままネロの手札へと戻った。


雫「……あなたたちの襲撃の目的……それって決闘機兵を奪う事ですよね……？」

ネロ「………。
…そうだけど、そうじゃないとも言えるかな」

雫「……？」

ネロ「この際だから話すけどーーーーあたしたちの決闘機兵工場襲撃の目的は、決闘機兵そのものを奪う事じゃなくて、決闘機兵の製造技術を奪う事だったんだ」

雫「ーーーー！」

ネロ「…あたしの相方、星奈が下で大暴れして注意を引いてる間に、あたしが上で軽ーくデータを手に入れるって作戦だね」

雫「…単純ですが、まんまとしてやられたって訳ですか……」

ネロ「……そ！ 下に戦力が集中してくれたお陰で楽に手に入れられて良かったよ！」

ネロは楽しげにそういうと、懐から１枚のハードディスクを取り出してみせる。

雫「…それは……！？」

ネロ「これは決闘機兵のきちょーな研究データ……その一部だよ」

雫「…！」

ネロ「……本当はもっとたくさん頂いていく予定だったんだけど、あたしが探した限りはこれくらいしかまともなデータは見当たらなかった。
ま、この中のデータだけで充分すぎる収穫なんだけどね…♪」

雫「……そんな…っ……！」

ネロ「…そう、これでーーーー人間界は終焉へと一歩近づくーーー」

雫「…………っ…」

雫（…ここであのデータを奪われてしまったら……！ いずれこの町も…っ…！ この町だけじゃない…っ…世界中が………私の故郷みたいにーーーーっ）


雫の脳裏に焼き付いている、業火に燃える故郷の村、そして家族の姿。
それを思い出し、雫は思わず指先が震える。

ネロ「…それで？ もうターンエンドなのかな？」


雫「……まだ、です…っ…！」

震える指を無理矢理動かし、雫は手札の魔法カードで追撃を仕掛けるーーーー

雫「私は手札から、『儀式の準備』を発動します…っ…！」


《儀式
ぎしき
の準備
じゅんび
/Preparation of Rites》 †
通常魔法
(1)：デッキからレベル７以下の儀式モンスター１体を手札に加える。
その後、自分の墓地の儀式魔法カード１枚を選んで手札に加える事ができる。


雫「…この効果でデッキから２枚目のガストクラーケを手札に加え、墓地の儀水鏡を手札に！！」[手札 4]

そして手札に戻した儀水鏡をノータイムで発動させた。


雫「…『リチュアの儀水鏡』発動っっ！！」

再び儀水鏡が上空に現れ、場のキャンドール、そしてリチュア・アビスが合計６つの星となって儀水鏡に吸収されるーーーー


雫「ーーー私の家族は、私の故郷は、あなたたち“終焉の焔”によって焼かれ、私だけが生き延びてしまった……」

ネロ「……」

雫「…戦うのは怖くて、怖くて……仕方がないけど……っ…！」

溢れる涙を振り切って、

雫「今まで私が決闘を続けてきたのは…っ！ “終焉の焔”を倒すため……っ…！ そして私自身が…、瑞希お姉ちゃんみたいな強い人間になるため……っ！！」

思いの丈をカードに込めーーーーここでぶつける。

雫「私はあなたたちを絶対に許せません…っ…！！
ここであなたの素性を完全に暴いた上で、あなたを倒しますっっ！！！


叫びと共に、儀水鏡が輝きを放つーーーー！


雫「ーーーー今ここに降臨せよっ！『イビリチュア・ガストクラーケ』！！」[ATK 2400]


そして儀水鏡から生え出た触手が再びネロに向かい、うねりながら突き進む。


雫「…やぁぁぁっっ！！！」

身構えるネロだったが、前髪の隙間から覗かせた雫の右目は力強くネロを捉え、一瞬、ネロの判断を遅らせた。

ネロ「……っ…！！」

先程回避した時と同じ様には行かず、手札２枚を奪われ公開情報になると同時に、触手の先端が黒フードを掠めとる。

公開されたのはーーーー２枚の鏡。

『影霊衣の降魔鏡』
『影霊衣の降魔鏡』

雫「ーーーー！！」


そしてフードが脱がされた事で、フードの中に収まっていた、長く、綺麗な黒髪が夜風に揺れる。


ネロ「ーーーーーすごい気迫だね。驚いた」





雫「………え…………え……っ………？」


目の前の状況が理解出来ず、雫はただ目を丸くして立ちすくむ。



ネロ「…正直、キミ……いや、あなたのこと甘く見てた」

ネロはどこか嬉しそうに。

ネロ「弱虫だったあなたが、ここまでやれるなんて……思ってなかったよ」

懐かしむように。

ネロ「あなたの覚悟が相当なものだって事、よくわかった」


淡々と、続ける。


ネロ「…だからちゃんと、名乗っておこうかなーーーーー」



雫「……え……っ……？ 何……言って……っ…？」



そして一呼吸置いて、再び静かに口を開きーーーーー


ネロ「ーーーーあたしは終焉の焔・上層“伍召焔”の儀式担当。
ーーー《明鏡止水-ﾏｽｶﾚｲﾄﾞｽｺ-ﾌﾟ-》ーーー
『ネロ』。
……っていうのは仮の名。
本当の名前はーーーーーー」

















ーーーーー『柏木 瑞希』。あなたの姉だよ。






ソウ、名乗ッタ。







To Be Continued…






《次回予告》






「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１８０《最悪の再開》






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙