DRAW:１６０ 誰が為に　作：人喰い

(160)


2年前の春の事だ。


真和「ーーーーこれは……一体……ッ…？」


通勤中、爆発音が聞こえた路地裏を覗いてみると、そこには一人の男が、１０数人の屍の上に立ち尽くしていた。


？？？「………」


その青年は獣のように跳ねた漆黒の長髪を風になびかせ、真紅の瞳をこちらに向けている。

真和「……ッッ…！！」

恐怖で硬直状態となった僕に対してその男は、言葉の形をした殺意を口から放つ。


？？？「ーーーお前もこうなるか？」


その男の足元の屍に目線を向けると、その全てが焼け焦げている。

真和「……っ…！」

真和（…なんなんだこいつは……ッッ…！！！？
こんな計算外なーーーーッッ）


恐怖で半ばパニックになりながらも、僕はあることに気づく。

真和（…計算…できない……？）

今まで人生のほとんどを完璧な計算式によって歩んできた僕が、計算を完全に放棄したのだ。


？？？「……恐怖で声も出ないか…」


真和「……っ…」

ーーー恐怖。
ーーー圧倒的、恐怖。

その前には僕の培ってきた全てのものが通用しない。
そしてこの男ーーーマイン様こそ、どんな物差しでも測ることができない。
全ての計算式も通用しない。


マイン「………」


ーーー圧倒的で完全な存在だという事に、僕は計算ではなく、直感で気づいたのだ。


少し気になって路地裏を覗いただけだ。
たったそれだけの些細な事で、人生は劇的に変わる。
家庭教師時代の生徒の言葉一つで、僕が教師となったように。



真和「………ぼ、僕はそこの焼けた屍の様にはならない…ッ…！ あなたの為に、この頭脳の全てを捧げると誓おうッ…！！」


マイン「……」


真和「……しかしーーーッ」


マイン「…」


真和「ーーー僕に力が無いと判断したなら、すぐに殺してくれッッ！！！」



マイン「………」



マインはしばらく無言のまま僕の目を見つめたかと思うと、一瞬頰を吊り上げ、嗤う。


マイン「お前は『殺すな』とも、『生きたい』とも言わないんだな……ククク…ッ…！」

マインは猟奇的な笑みを浮かべたまま僕の元へ歩み寄り、僕の右肩を掴む。
そして言った。
今度は『殺意』では無い、彼自身の言葉で。



マイン「ーーーいいだろう。お前の命、俺が預かってやる」


僕は構築してきた未来を全て捨て、道無き未知を歩んでいくこととなった。















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１６０ーーー
《誰が為に》
















好【LP 400】
(モンスター)
『神秘の中華料理ー棒棒鶏』[ATK 3200]
『神秘の中華食材ー鶏蛋』[DEF 1700]
(魔法)
『神秘の中華ー庖厨』(フィールド)
伏せ:2
手札:0

真和【LP 6000】
(モンスター)
『ブンボーグ009』[ATK 1000]
(魔法)
『ブンボーグ・ベース』(フィールド)
伏せ:0
手札:2


◉TURN０４◉


校舎の爆発が勢いを増す中、真和と好の決闘は佳境に差し掛かっていたーーー

真和「ーーーこの校舎ももう長くは保たない…、目的達成の為に貴女には消えてもらう……ッ…！！」

好「……っ…！」

好（……邪悪な気が……増した……ッ…！？）

真和「……」

真和（…美先生の伏せカードは２枚とも見えている……。
１枚は、リリースしたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、その数値+500以下の攻撃力のモンスターを２体まで破壊する『神秘の中華釜』ーーー）

真和（そして２枚目のカードもデータにあるカードだ。
１ターンに１度、モンスターのコントロールを入れ替える効果を持った永続罠『神秘の中華ー轉盤』ーーー）

真和（問題はそのカードをどこで使わせるかだがーーー）


真和「……ブンボーグ003を召喚ッッ！」[ATK 500→1000]

真和「…003の効果…ッ、デッキからブンボーグモンスター１体を特殊召喚する！」


真和（…さてーーー）

好「ーーーっ…！ 伏せカードオープンッ！ 永続罠『神秘の中華ー轉盤』！！」


《神秘の中華ー轉盤(ターンテーブル)》＊Ph.X Original card
永続罠
このカード名の②の効果は１ターンに１度しか使用できず、このカードの②の効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
①このカードが表側表示で存在する限り、お互いに元々の持ち主が自分でないモンスターを素材としてEXデッキからモンスターを特殊召喚する事は出来ない。
②１ターンに１度、相手フィールドのモンスター１体と、自分フィールドの「神秘の中華」モンスター１体を対象として発動する。対象のモンスターのコントロールを入れ替える。
③魔法・罠ゾーンのこのカードが相手の効果によってフィールドを離れた場合に発動できる。自分の墓地から、「神秘の中華ー轉盤」以外の「神秘の中華」カード１枚を手札に加える。



好「…この効果で、アタシの場の棒棒鶏と、アンタの場のブンボーグ003のコントロールを入れ替える…！」

真和（…ここでそっちを使ってきたかーーーだが、このタイミングで003を奪われたとしても、何の問題もない。美先生の場には攻撃力500の格好の的が生まれるだけ…！）

真和（…そしてその的を処理する為には、もう一枚の伏せカード、『神秘の中華釜』で鶏蛋をリリースし、003と僕のモンスターを破壊する、という動きを取るしかなくなる。ならばやることは一つーーー）

真和「…その効果にチェーンして、003の効果を発動…ッ！ 009の攻撃力を、エンドフェイズ時まで僕の場のブンボーグカード１枚につき５００上昇させる…ッ…！」

好「…！」

『ブンボーグ009』[ATK 1000→2500]

009の攻撃力が上がった直後、地面から現れた回転台に乗った棒棒鶏と003は、回転台の半回転によりコントロールが入れ替わる。

真和「…三味一体により特殊召喚された棒棒鶏のコントロールが僕に移ったことで、僕の特殊召喚は封じられる」

好「…！（これで中華釜で相手の盤面を取れなくなったか…。だけど、更なるモンスターの展開を許す訳にはいかない…！）」

真和（……残るは中華釜と、墓地に眠る２体の料理人のみーーー。
中華釜は僕のバトルフェイズ開始のタイミングに合わせてくるはず…。そしてそのリリースをトリガーに二体の壁、か。
データ以上に硬いデッキだ。
しかしそれ故に、序盤で削ったライフ・アドバンテージがとても有利に働いているーーー）


好「……っ…。（このままじゃ防戦一方……。どうする……？ どうするのが最善だーーーー？）」

真和（……もっとも、僕が計算できたのはこの場面までだ。
ここから先はどうやら未知の領域らしい）

真和は残り１枚の手札を見つめ眉を潜める。
そして数秒。

好「……？」


真和「……一度は捨てた未来だ。
これ以上失うものなどーーーー何も無い…ッッ！！」


真和は最後の一枚を高く掲げると、魔法罠ゾーンに勢いよく差し込むーーー

好「ーーーっっ」


真和「ーーー魔法発動……ッッ！！
『強欲で貪欲な壺』ーーーーッッ！！」


発動されたのは、精霊王の鏡に封じ込められていた『禁忌のカード』の内の一枚ーーー


好「……あれは……ッッ…！！ メアリーから話のあった『禁忌のカード』か……！？」

真和「……まさかこの僕が…、ここまできて…！こんな不確定要素に頼るなんて……ね…ッ…！」

真和の周囲の瘴気がより一層濃くなってゆくーーー

好「……くっ…！！」


真和「僕はデッキの上の１０枚ーーーー未来を犠牲に………ッッ！！
ーーーデッキから２枚のカードをドローするッッ！！！」[手札 2]


真和はデッキの上から１０枚のカードを勢いよく引き抜くと同時にばら撒き、２枚のカードをドローするーーー



真和「……ッッ…！！」


真和（……引いたカードは、『ペンデュラム・パラドックス』とーーー『揺れる眼差し』……ッ…！）


真和「ーーー僕の心が……振り子の様に揺れているとでも言いたいのか……ッ…！！」

苛立ちを隠せない様子の真和に好は言う。

好「……アンタ、やっぱり間違ってるよ…。
こんな無意味な破壊が…、アンタが本当にしたかった事なのかいーーー？」

真和「ーーーッ…！」


〜〜〜〜


『ーーー宮本先生みたいな先生が学校にいたらいいのに』


〜〜〜〜


真和「……ゥグ……ッッ！
僕は……ッ…！ 僕は……ッッ！」


〜〜〜〜



『ーーーお前の命、俺が預かってやる』



〜〜〜〜



真和「ーーー…ッッバトルフェイズ！！！」



好「……ッ…！ このバトルフェイズ開始時、速攻魔法『神秘の中華釜』を発動！
アタシの場の鶏蛋をリリースし、アタシの場のブンボーグ003を破壊する…！」

真和「…ッ…！」

好「更に、アタシのモンスターがリリースされた事でそれぞれの効果が発動！」


チェーン①『神秘の中華ー庖厨』
チェーン②『神秘の中華料理人ー蘭蘭』
チェーン③『神秘の中華料理人ー来来』
チェーン④『神秘の中華食材ー鶏蛋』


好「…鶏蛋の効果でデッキから『神秘の中華料理ー神龍包』を墓地へ！
蘭蘭と来来は墓地から特殊召喚！」

『神秘の中華料理人ー来来』[DEF 1000]
『神秘の中華料理人ー蘭蘭』[DEF 1200]

好「そして庖厨の効果でデッキの『神秘の中華ー娘娘』を墓地へ送り、墓地の『神秘の中華なべ』を手札に…！」[手札 1]


好「…蘭蘭が特殊召喚成功時、デッキから『神秘の中華ー炒男』を手札に…！」[手札 2]

真和「……ッ…！！ 棒棒鶏と009で壁モンスターを攻撃ッッ…！」

２体の猛攻によって好のモンスターは全て破壊されてしまう。


好「……ハァ…ッ…！ ハァ…ッ……！！
耐え……切った…ッ…！」


真和「……ターン……エンド…ッ…！」[手札 0]

真和（……どこで、間違えた……？ 一体、どこでーーー）


◉TURN０５◉


好「ーーーアタシのターン…ッ…！ ドローッ…！」[手札 3]

腕を振る度、カードをプレイする度に飛び散る鮮血を気にしている余裕など好には無かった。
ただ前を向き、対戦相手をしっかりと見つめる。


好「…手札の炒男を捨てて効果発動…ッ…！ 墓地の中華食材を手札に…！」


墓地→手札
『神秘の中華食材ー飯』
『神秘の中華食材ー鶏』


好「…『神秘の中華ー鶏』を召喚！」[ATK 1200]

好「続いて手札から速攻魔法『神秘の中華なべ』を発動…ッ！
鶏をリリースし、その守備力1700の値のライフを回復する！」【LP 400→2100】

好の手は止まらない。

好「……それだけじゃない！！
アタシのモンスターがリリースされた事で、計６つの効果が誘発するッ！！」


チェーン①『神秘の中華ー庖厨』
チェーン②『神秘の中華料理人ー来来』
チェーン③『神秘の中華料理人ー蘭蘭』
チェーン④『神秘の中華料理人ー娘娘』
チェーン⑤『神秘の中華食材ー鶏』
チェーン⑥『神秘の中華料理ー神龍包』


好「…来ナ…ッッ！！ アタシのモンスター達…！！」


『神秘の中華料理人ー蘭蘭』[ATK 1700]

『神秘の中華料理人ー娘娘』[ATK 1900]

『神秘の中華料理人ー来来』[ATK 800]

『神秘の中華食材ー鶏蛋』[DEF 1700]

『神秘の中華料理ー神龍包』[ATK 2800]



真和「……なんだ……これは……ッ…？
悪夢でも……、視ているのか……ッ…！？」


好「…庖厨の効果でデッキの『神秘の中華包丁』を墓地へ送り、墓地の『神秘の中華釜』を手札に加える…！」

好「……さぁ行くよ…ッ…！ バトルフェイズ…！！
神龍包でブンボーグ009を攻撃！！」


『神秘の中華料理ー神龍包』
[ATK 2800]
ーーーVSーーー
[ATK 1000]
『ブンボーグ009』


神龍包は口を大きく開き、009の胴体を食い千切った。


真和「ーーーッッ」【LP 6000→4200】

真和（ーーーこの人はなぜ……ッッ……！）


好「…手札から速攻魔法『神秘の中華釜』を発動……！
アタシの神龍包をリリースし、アンタの場の棒棒鶏を選んで破壊する…！！」


ガラ空きとなったフィールドを目の当たりに、真和はただ立ち尽くす。

真和（なぜ…ッ…こんなにもーーーッッ）




好「ーーー護るものがあるから。
目の前の道がはっきり見えてるから」


真和「……ッッ…！！」【LP 4200】


好「だからーーーー」


『神秘の中華料理人ー蘭蘭』[ATK 1700]

『神秘の中華料理人ー娘娘』[ATK 1900]

『神秘の中華料理人ー来来』[ATK 800]






好「ーーーーだからアタシは強いッッ！！！」






全ての攻撃は真和へと撃ち込まれ、血に塗れた決闘に終止符が打たれた。






To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１６１ 苦しき決着






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙