DRAW:３１ 強くなるために　作：人喰い

2007年 4/28(水)

時刻はお昼過ぎ。昼休みなのです。
ぽかぽか陽気で外は絶好のお散歩日和みたいですね。
でも私はそんな中でも、ついつい学校の図書室に足を運んでしまいます。
私はまだこの学校に転校してきたばかりで、つい昨日までは図書室の場所すら知らなかったのですが、優しいお友達に教えてもらって、なんとか１人でもたどり着けるようになったのです。
読書が大好きな私は、昼休みになった途端、真っ先に図書室に向かいました。

ゆっくりと、左手で扉を開けます。

見渡す限り、本、本、本、また本。
なんて素晴らしい空間なのでしょう。

和泉「…ん〜〜〜っ」

はてさて困ったものです。読みたい本に限って高い位置にあるというのは。
何かのイジメなのでしょうか。悲しくなります。
背伸びをして、左手を頑張って伸ばすも、目的の本には届かない。

何か台を探そうかな、などと思ったその時。


「……よっと」


見知らぬ女子生徒さんが高い位置の本を取ってくれたのです。


「…あ、ありが…」

「君が読みたかったのってこれ？《ぼくのあなたの身体の秘密。性教育読本》……まぁ、気になるのはわかるけど…」

「ち、違いますぅっ！！ その３つ隣の心理学の本ですっ！」

…この人絶対わざとやってるな…。
ふと上履きを確認すると、３年生カラーの黄色の上履きを着用しているので、この人は先輩ということになる。
身長は高いし、きょぬーだし、スタイルのいい人だなぁ。
…なぜだか悲しくなります。

「あははは！ごめんごめんっ、…よいしょ…！っと、はい！」

きょぬーの先輩は、軽く謝った後、私が読みたかった本を取って渡してくれた。
悪い人じゃないみたい。

「…あ、ありがとうございます」

「いーっていーって！ それよりも申し遅れたね！」

きょぬーの先輩は長い黒髪をふぁさっとかきあげて、言った。


「あたしの名前は『柏木 瑞希(かしわぎ みずき)』！ 君は？」

きょぬーの先輩ーーもとい柏木先輩に促され、私も自己紹介をする。

「私は『桜庭 和泉(さくらば いずみ)』です」

私の事を《片羽の遠眼鏡(グラスメイト)》と皆は呼びます(自称)。












遊戯王 Ph.X DRAW:３１
《強くなるために。》












【火群SIDE】


☆黒髪中学・２－１教室☆


◉TURN:０８◉

市瀬火群【LP 700】

田中大樹【LP 1300】



火群「ーーこれで終わりだ！ 炎王神獣 ガルドニクスでダイレクトアタック！」

『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]

田中「ぐわぁあああぁあ〜っ」【LP1300→0】


Winner☆市瀬火群☆


田中「くっそ〜、俺の【除外デッキ】でも勝てないのか〜っ」

剛田「やっぱ火群は強えな！」


火群「…ぜぇ…はぁ…流石に焦ったぜ…！」

ニクス（奈落の落とし穴を炎王炎環で回避してくれた事に関しては礼を言おう。…本当にありがとう）

火群（……ニクス、お前相当奈落に嫌な思い出があるんだな…）

ニクス（あと『次元幽閉』。あれも消えた方がいい）


明日人「…これで３人抜きか…！今日はそこらへんにしといたらどうだ？ 火群」

火群「いやいや！ まだ続けるぜ！」

明日人「…先週サボった時の授業のプリント、まだ先生に貰ってないんじゃないか？」

火群「先週……？……あっ！」

『狂気な凶器』ダーク・フェアリー・チア・ガールとの決闘の時か…！ そういやあの日は結局、授業全部サボっちゃったんだよな…。

千愛（なによ、全部あたしが悪いっていうの？）

火群（！ いつから居たんだ…。……そういうわけじゃないですよ）

俺ーーーではなくニクスのお陰で、和泉の中に住み着いていたカードの精霊『ダーク・フェアリー・チア・ガール』は浄化され、今では精霊になる以前の姿『闇口 千愛(やみぐち ちあ)』として、和泉の元に再び住み着いている……のだが、周りを見ても和泉がいないところを見ると、千愛は一人で来たのか…？

千愛（…まぁいいわ。そんなことより、和泉ちゃんを見なかった？ お昼休みになった途端、急に何処かに行っちゃって……）

どうやらはぐれてしまったらしい。

火群（見てないな…。まだこの学校に来て日も浅いから心配だな。探しに行くか）

ニクス（うむ）

千愛（…助かるわ）


明日人「…火群…？」

火群「…！ あー悪い悪い、ついぼーっとしちゃって。じゃあデュエルはこの辺にして、先生にプリント貰ってくるわ！」




明日人「……お、おう。（ここ最近のあいつ……やっぱりおかしいぞ…？）」




☆黒髪中学・１F廊下☆


ニクス『大体の目星はついてるのか？ 火群』

火群「…あぁ、あいつ本を読むのが好きだったから、多分図書室に居るんだと思う」

ニクス『だが、わかっているのだったらそこまでの心配はいらないのではないか…？』

千愛『……和泉ちゃんの右腕の件、忘れたの？』

ニクス『……！ ……すまない。そうであったな』

火群「………」


そうだ。俺の大切な友達、『桜庭 和泉』には、右肩から下の腕が存在しない。
俺はそれを元に戻してあげる為に、優勝すれば願いが一つだけ叶うというデュエルの祭典『WDCS(ワールドデュエルチャンピオンシップス)』に出場して、優勝しなければならない。
そのためには、もっともっと強くならなきゃならない。

火群「…絶対にWDCSで優勝してやる…！！」


ニクス『……その意気だぞ、火群！』


俺たちは図書室へ向けて、職員室の脇を抜けて歩いてゆく。








？？？「………」

そこには一人の女性教師。
火群たちは気づいていない。


？？？（へぇ、WDCSで優勝……ねぇ…。ーーー笑わせるじゃないの）






☆黒髪中学・図書室☆



和泉「あっ、市瀬くん」


俺たちが図書室に入ると、読書スペースの席について本を読んでいる和泉が声をかけてくれた。


和泉（…それに千愛ちゃんににくすちゃんも）


ニクス（……恥ずかしいからちゃん付けはやめてくれ…）


千愛（……和泉ちゃん…良かった）


火群「…や、やあ、桜庭さん。その隣の人は…？」


ふと目を向けると、和泉の隣の席には見知らぬ女子生徒が座っていた。
上履きのカラーを確認し、先輩だということに気づく。


瑞希「…ども！ ３年２組の柏木瑞希だよ！ っとと、図書室では静かにしないと…だよね…！」

火群「ど、どうも、い、『市瀬 火群(いちせ ほむら)」です」

長い黒髪がとても綺麗な人だった。
それだけでなく、プロポーションも抜群で………。

和泉「…い ち せ く ん ？ 一体先輩のどこ見てるのかな？」

火群「…なっ、何でもないです」

瑞希「ははっ。……ふーん…♫」

俺は思わず顔を背ける。
そんな俺たちを見て、柏木先輩は意味ありげに笑ったような気がした。


瑞希「…じゃあ、あたしはそろそろクラスの方に戻ろうかな。 可愛い後輩ともお話できたしね♫」


そう言うと、柏木先輩は何やら和泉に耳打ちした後、早足で図書室から出て行った。


瑞希（…ボーイフレンドとうまくやんなさいよ。いずみん♫）


和泉「………〜っ！」

火群「……なんて言ったんだ？」

和泉「……うるひゃい！」

火群「怒られた！？」


顔を真っ赤にして、頬を膨らませる和泉。

火群「……さ、桜庭さんは、しばらく図書室に居るの？」

和泉「…え、うん。予鈴がなるまでは」

火群「…俺さ、先週サボっちゃった授業の時に配られたプリントを貰ってこなきゃいけないからさ。ちょっと、行ってくるよ」

和泉「…あ、うん…。わかった」

千愛『…ページをめくるの手伝ってあげるわ、和泉ちゃん』

和泉「ありがとう〜」


ニクス『では行くか。…ところで火群、何の教科のプリントを貰いに行くんだ？』



火群「………」


俺は一瞬黙り込んだあと、


火群「家庭科」


そう答えた。





＊





ーーー『美好(メイ・ハオ)』。黒髪中学校の家庭科教師だ。通称スッキー先生。名前を聞いての通り中国人である。日本語はペラペラだが、稀に中国人特有の訛りのようなものが出る時がある。
そして問題はその性格というかキャラ付けなのだが…。




好「ーーー市瀬、アンタ来るのが随分遅かったじゃないか」




耳より後ろに、編み込んだ茶髪の輪が左右２つずつ。前髪は下ろしており、顔はかなりの美形だ。
胸はかなり大きめで、黄緑色がベースのチャイナ服に身を包んでいる。
なんて解説をしている場合ではなく……。



火群「…すみません」


好「す み ま せ ん ？？ アンタ本当にそれで済むと思ってんのかい？」


そう言うと、スッキー先生はおもむろに胸の谷間から大きめの中華包丁を取り出した。


ニクス『！！！？？』


火群「どこにそんなもの隠してたんですか！っていうかちょっと待ってください！」


好「ーーー待たない♫」


スッキー先生がそう言って中華包丁を振りかぶると、中華包丁が何やらガキン、と音を立てて変形し、中華包丁型のデュエルディスクとなり、スッキー先生の左腕に装着される。



火群「うわぁぁあっ！ …って、あえ！？」


俺は思わず呆気にとられたような声をあげてしまう。


好「話は変わるけどさ。アンタ、WDCSで優勝目指してるらしいじゃないか」


火群「え…？ ……はい、俺は本気で優勝を目指してます」


俺は絶対に優勝しなくてはならない。罪滅ぼしのつもりかもしれないが、俺が和泉を傷つけたんだ。俺が絶対に戻してやる。


好「でもね、それは無理だ」


ニクス『……！』


火群「…そんなの、やってみなきゃわかんないでしょう」

好「わかるんだよ、これがね。ざっとアンタを味見してみたけど……アンタには“コク”と“深み”が感じられない」


火群「“コク”？ “深み”…？」


好「ーーー市瀬、アンタは間違いなく弱い。WDCSで勝ち抜く事なんて絶対にできない」


火群「…何…！？」



好「アタシが美味しく、調理してやるよ」



スッキー先生は中華包丁型のデュエルディスクを構えて、言った。

俺は先生としばしの間睨み合う。
先生はシニカルに笑い、俺はどこか不安を抱えた心向きで、沈黙が続く。
そして少しした後、その沈黙を破る一声が放たれる。
だがその声は、俺のものでも先生のものでもなかった。






ニクス「ーーーさっきから黙って聞いていれば、随分と好き放題言ってくれたな」






気が付くと、ニクスはいつもの半透明な精霊体ではなく、真紅の着物に身を包んだ人間の姿だった。
綺麗な金髪ポニーテールを揺らしながら、ニクスは続ける。


ニクス「…それに美好と言ったな。若干、私とキャラが被っている気がするんだ。許せん。デュエルだ…！」

好「…へぇ、驚いた。手品かナニカ？ でも、いい面構えじゃないカ…！ アンタ何者だい…？」

火群「…おい！ ニクス！」

周りにはざわつく生徒たち。

どうすんだ？ これ…。







ーーー-ーーー-ーーー-ーーー-ーーーTo Be Continued…



《次回予告》


「あっははは！ 不味い不味いっ！ アンタの味力(みりょく)はこんなもんかい！？」



次回、遊戯王Ph.X
DRAW:３２美味！神秘の中華料理デッキ



「ーーーいまこそお前の可能性を魅せてやれ！ 火群！」