DRAW:１４２ 這い寄る終焉　作：人喰い

(142)


【SIDE 戒】


〜積木病院〜


戒「……ゥグ……ッ…！」

やはり傷は深い。
闇のゲームによるダメージを甘く見ていたようだ。

戒「……だが…ッ、俺はーーー」

決して立ち止まるわけにはいかない。

戒「……ッ…！」

壁伝いにゆっくりと歩を進めるが、急に視界がぐらつく。

戒「ーーーっ！」

違和感を覚えた頃にはもう膝は床についていた。
そして視界がどんどん床に近づいていったその時だった。


床に迫る視界が、柔らかな感触と共に黒く覆われる。


それと同時に、どこかで聞いたことのあるような女性の声が、頭上から。



爽香「ーーー斬波選手！？」



そうだ。確か彼女の名は『明石 爽香(あかし さやか)』。

ーーー俺の知る限り、とても面倒な女の1人だ。















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１４２ーーー
《這い寄る終焉》













〜積木病院・中庭〜


爽香「ーーーWDCS以来だねぇ！ 斬波選手っ！」

黒髪ショートカットを揺らし、明石は俺に烏龍茶のペットボトルを差し出す。

戒「……」

俺は中庭のベンチに座りながら、無言でペットボトルを受け取る。

爽香「……あー、もしかして…、さっき倒れそうだったところを太ももクッションで支えた事、怒ってる？」

戒「……」

爽香「…じゃあ嬉しくて照れちゃってたり？」

戒「それは無い」

爽香「否定はやっっ」

戒「……助けてもらったことに関しては礼を言っておく。
……だが、これ以上俺に構うな」

そう言って俺はふらつく頭を抑えながら立ち上がる。
が、すかさず明石は俺の肩に手をかけ、再びベンチに座らせる。

戒「……っ…！？」

爽香「…むむむー？ それは無理な相談ですなー。
斬波選手には、私が奢った烏龍茶分は構われる義務があります」

戒「……何…ッ…！？」

やはり不用意に受け取るべきでは無かったか…ッ…！

爽香「…ふっふっふ。まだまだだね、斬波選手」

やはり今は思考がまともでは無い…。
ああも見え見えの罠にかかるとは……。

戒「…好きにしてくれて構わないが、『斬波選手』はやめてくれ」

爽香「じゃあ『戒きゅん』とかどう？」

戒「…それも無しだ」

急に親しげになりすぎだろ。

爽香「…そしたら、『戒くん』」

戒「……それで問題ない」

爽香「やたっ」

明石は子供みたいに無邪気に喜ぶ。

爽香「私のことは是非『爽香ちゃん』て呼んでくれていいからねっ！」

戒「……」

爽香「また黙った！？」

戒「…つまらん用事なら俺はもう行くぞ」

爽香「わわっ、待ってってば！ 私の話を聞いておくことは、絶対戒くんにとっても有益なはずよ？」

戒「……どういうことだ？」

俺が問うと、明石は先程までのふざけた表情とは一変して、真剣な顔つきになる。

爽香「ーーー私ね、あれからWDCS運営の人達と協力して終焉の焔の動向を追ってたんだけど、わかったことがあるの」

戒「……何……！？」

爽香「…それで、終焉の焔の連中は用心深くて、準備や下見を絶対に怠らない…。そして襲撃の前に、必ずその場所になんらかの痕跡を残して行くって事が分かったの」

戒「…！！」

爽香「その痕跡っていうのも様々で、焼けた様な痕があったり、糸が落ちていたり。
それらが見つかった約１日後には、終焉の焔が現れているみたい」

戒「…それが本当だとして…、奴らがそんなに不用心な連中とは思えんが………いや、逆か…！」

爽香「そ。襲撃がバレて問題ないんだよ、あいつらにとっては。求めてる精霊がわざわざ寄って来てくれるに越したことはないからね」

戒「……それで、奴らが次に襲うのは……！」

爽香「…このメモ帳にリストアップしてあるけど……。
…まさか行くつもりじゃないよね？」

戒「………」

爽香「……行くのは、絶対にダメだよ」

戒「……っ……。
……今の俺が行ってできることなどない。そんな事は分かっている」

爽香「…なら良かった。
んじゃ、はい。これが今日に付けられた痕跡のあった場所のリスト」

そう言って明石が渡してきたメモに書かれた地名を見て、俺は眉を潜める。


戒「…この場所は……ッ……！」

今度は、違えたりしない。


戒「ーーー病室に行くぞ、明石。皆と対策を講じる必要がある」


自分だけではどうしようもない時は、人を頼るしか無いんだ。








＊＊＊






〜？？？〜




マイン「ーーー明日の件、成果を期待している」

真和「…承知してます。マイン様。
ーーー計算ミスはありません」

星奈「任せて☆ マインさま！
素敵な世界のために、ねーねと一緒にいっぱいいっぱい壊すから！」

巨乳の女子「星奈、あんた暴れすぎないでよー。私達が行くとこは、壊さず持ち帰んなきゃいけないものが沢山あるんだからね！」

巨乳の女子（…放浪とジャランは今日も来ないか…。ホント自由な奴らね…）




マイン「ーーー精霊王…。
もうじき、貴様の甘さが…！ 貴様の弱さが…！
完全なる“意思”を解き放ち、世界を滅ぼす事になる…。
ククク………ッ…！
……クハァーッハッハァッッ！！！」


闇夜に奇怪な笑い声が響く。
おぞましさの裏側に確固たる決意を秘めた眼光。
その光は暗闇の中で一際輝いていた。





＊＊＊



【SIDE 戒】


〜積木病院・病室〜


なぜか半笑いの看護婦とすれ違いに俺と明石が病室に入ると、放心状態でベッドに仰向けになっている市瀬。
その向かいには、顔を真っ赤にして俯き丸椅子に座っている桜庭和泉。
そして扉脇でバスケットに山程積まれたバナナを抱えたメアリー。
の、３人。


戒「ーーーこれはどう言う状況だ？」


爽香「3行で頼みます！」



和泉「…私は頑張った」

火群「…俺は耐えた」

メアリー「…そんなバナナ…」


戒「まるで意味がわからん」




………




爽香「……もぐもぐ…。
うん！ それでね！ もぐ…っ、和泉ちゃんから、戒くんが入院したって連絡があったからね！ 私は飛んできたってわけよ！
…バナナおーいしー！」

戒「話しながら食うな」

そして馴染むのが早すぎる。

和泉「…反帝アリーナの救護室で連絡先をお聞きしてて良かったです…」

メアリー「…もぐもぐ…っ。ってか、斬波くんってば安静にしてなきゃダメじゃないのーっ。
もぐもぐもぐ」

見舞いの品を病人より食うんじゃない。

メアリー「バナナおいしー！
眼鏡ちゃんもどう？ バナナ」

和泉「わっ私は結構ですっっっ！！」

メアリー「あはは、ごめんごめん♪
あ、そだ。爽香ちゃん、って言ったっけ。斬波くんの件、ありがとうねー」

爽香「！ 今、なんて…！？」

メアリー「え…？ 爽香ちゃん」

爽香「…お姉様、一生ついて行きます」

メアリー「お姉様！？
………気が合いそうね。後で一杯どう？」

爽香「…ごめんなさい、私まだピチピチの未成年なんす…」

メアリー「」【LP 8000→1000】

火群「…年齢の話でメアリーさんのライフが…っ！」

戒「……コントをやってる場合か。すぐに全員を召集してくれ。話すべき事がある」





………



〜１０分後〜

買い出しに出ていた全員も戻りーーー



戒「…状況は説明した通りだ。
そして問題の、奴らが次に襲撃してくるであろう場所は…、3箇所ある」

火群「……っ…！」



戒「…一つは、多くの精霊が眠ると言われている場所、『竜霊山(りゅうれいざん)』」


戒「…二つ目は、『決闘騎兵製造工場』」



戒「そして三つ目はーーー『黒髭中学校』だ」








To Be Continued…






《次回予告》


爽香「…前髪ちゃんもひっさしぶり！」

雫「…お久しぶりです♪ 明石さん」

爽香「相変わらず前髪モッサモサだねー！ 今度切ってあげようか？ 私昔美容師目指してたんだよねー！ １日で諦めたけど！」

雫「その情報を公開して、わざわざお願いすると思います！？」

鈴華「……これまた私達『次回予告勢』の立場が危うくなるような濃いキャラの人が現れましたわね…」

爽香「…お？ そっちの美味しそうな髪型のお嬢様気取ってそうなゴスロリちゃんは誰かな？」

鈴華「急に口悪すぎません！？
私は西蓮寺鈴華ですわっ！
それにこの高貴なツインアップロールはチョココロネではありませんわ！」

結維「…誰もチョココロネなんて言ってないわよ」

鈴華「…ハッ！？」

爽香「…あはは、賑やかだねー！
そこのジト目眼鏡ちゃんは和泉ちゃんの妹さん？
よく似てるのねー！ かわいい…」

結維「…ど、どうも。結維です」

雫「！！（あ、あの結維さんが……！！）」

鈴華「！！（照れてますわ…！！）」


栗須「…あーっっ！！司会のお姉さんじゃないっすか！！
俺、古宮栗須って言います！
結婚してくださいっっ！！」

爽香「あはは、アリガトー。でも結婚は無理かなー」

明日人「ホント見境ねぇな…。
…あ、自分、倉川明日人です」

爽香「君はなんか、とても無難な感じだねーっ」

明日人「……」




爽香「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１４３ 《“毎日”を守るために》！」




爽香「こういう何気ない会話とかって…、やっぱり大事だよね」


爽香「普段何となく過ごしてる何気ない日常が、私達の“今”を、いつだって助けてくれるんだからーーー」






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙