DRAW:７０ 光と影、右と左　作：人喰い

(70)






結維「……ここはーーー？」


？？「…あ、やっと目ぇ覚めました…？」

結維「…あなたは、確かーーー」

洞窟のようなところの入り口付近で仰向けで寝ていた結維を、ムスッとした表情で見下ろす少女に結維は見覚えがあった。
ゴスロリ衣装を身に纏い、切り揃えられた前髪。そして何より目を引くのが、アップで２つに束ねた…くるくるの……。


結維「……クロワッ…サン…？」

鈴華「チョココロネよっっ！！ って違ッ！ 今のなし！！」

結維「…ついに認めましたね、チョココロネ農園さん」

鈴華「だからっ！違うって言ってんでしょーっ！！
私の名前は、『西蓮寺 鈴華(さいれんじ すずか)』よーーっっ！！」

結維（…まぁ、とりあえずは、助かったのよね…私。このチョココロネ農園に助けられたというのは癪ですが）


鈴華「…というか、結維さん。その前に色々とお伺いしたいことがあるのだけどぉ…？」

結維「な、なんでしょう」

鈴華「咄嗟に左腕隠したって無駄よっ！ なんかバチバチ言ってるしバレバレですわ！！」

結維「ゔぇ、別にこれはなんでもありません。黙秘権というものを行使してみます」

鈴華「いいから話しなさい！ そんな簡単に私は騙されませんわよ！」

結維「…実は私、サイボーグだったんです」

鈴華「えっ！？ そうなの！？」

結維（簡単に騙されてるじゃないのっ！！）

鈴華「…えっ、えと、もしかしてビームサーベルとか出せたり…しますの？」

結維（…そんなキラキラした目で見ないで…）

結維「もちろん出せますよ。ただ出すのに少し時間がかかるので、目を瞑って30分くらいここでジッとしていて下さい」

鈴華「わっ、わかりましたわっ！」

結維「…」

鈴華「…いーち、にーい、さーん…」

結維（今のうちにさっさと行こう…）

鈴華「…って、長すぎますわ！！」

結維「…あ、流石にそこまで馬鹿じゃなかったですか」

鈴華「私を騙しましたの！？ まさかサイボーグだというのも…」

結維「嘘に決まってるじゃないですか。これはただの義手です」

鈴華「…きぃーーっ！ 絶対許しませんわっ！」

結維「…騙したのは悪かったですが、今起こっていることは、それだけ話せない理由があるってことです」

鈴華「…だからそうやって隠されると余計に知りたくなるんじゃないの！」

結維「…私から今言えることは、早くこの会場から逃げたほうがいいってことです」

鈴華「…はぁ！？ それじゃあ大会失格になっちゃうじゃない！」

結維「…はぁ……、黙っていた方が危険かもしれないですね…。今から本当の事を話します。先程の話よりも嘘っぽいかもしれませんが、ちゃんと信じて下さいね？」



〜〜〜5分後〜〜〜


鈴華「…結維さん、あなたは悪の組織と戦っていて、無様に敗走してきたということでしたのね…」

結維「信じてくれたっぽいのはいいとして、言葉の節々に棘が感じられるのはなんでですかねぇ…」

鈴華「…それで大会も中止……と」

結維「…ええ、だから早く帰った方が身の為です」

鈴華「……悪の組織……ふふふ…っ」

結維「…どうしたんですか…？」

鈴華「やりますわよ。結維さん」

結維「はい？」

鈴華「…私達でその悪の組織に一矢報いてやるのですわ！！」

結維「はぁ！？」

結維（なんでこのチョココロネこんなにノリノリなのよ！？）

鈴華「結維さん、あなただってやられっぱなしは悔しいですわよね？」

結維「…そりゃそうですけど…、関係ない人間を巻き込むわけには…」

鈴華「関係なくないですわっ！！ 私の億万長者の夢をよくもおおおお……っっ！！」

結維「…あれ、あなたどっかの令嬢なんじゃ…？」

鈴華「はっ！ 何も言ってませんわよ…っ？」

結維「…というか、この戦いは本当に危険なの。足手まといは御免です」

鈴華「…っ！」

結維「…それに、私が勝てなかった相手に、私に勝てなかったあなたが勝てるんですか？」

鈴華「……！ …足手まといになんて、なりませんわっ！ だから私にも協力させて！！」

結維「…っ！？ どうしてそこまで…！」

鈴華「…だって、悔しいじゃない…！！ せっかく夢の為に頑張ってここまで来たのに…！ それを簡単に潰されて…！！」

結維「……」

鈴華「お願いっ！ 結維さん！！ 私にも、戦わせて……っ！！」

結維「…っ！」

結維（…ったく…、 私も“弱く”なったわね…）

結維はくるっと鈴華に背を向けると、ゆっくりと足を動かす。

鈴華「…ちょ、ちょっと！ どこ行くの！？」



結維「何ボサッとしてるの。 “私達の”反撃開始よ。鈴華」















遊戯王 Ph.X DRAW:７０
《光と影、右と左》















ー火群sideー
〜救護室〜



戒「……そろそろデュエルポリスの救援が駆けつける頃だ」

火群「！ もうそんな時間か…！」

戒「会場の入り口にて合流する手筈となっている。ここからは俺たちデュエルポリスに任せるんだ。お前達は一旦俺に精霊のカードを預けて安全な場所に隠れていろ」

火群「…！？ 何言ってんだ…！？」

戒「安心しろ。事が終わればカードは必ずお前達のところに返すと、デュエルポリスの名に約束しよう」

火群「…おい待てよ！ そういう問題じゃねぇ！ 俺も戦うって！」

戒「情報提供と、連絡手段を与えてもらった事には感謝するが、いくら精霊を持った決闘者とはいえ、実戦経験の浅いお前達にはあまり前線に出て貰いたくない」

火群「…！！？」

戒「…わからないのか？
無駄死にされたら困るんだよ」

火群「テメェ…！」

和泉「えっ！？ ちょっと2人とも！ いきなりどしたの！？」

爽香「………むむむ…」

戒「…それに、お前はその少女を護りながら実力の計り知れない強敵を相手にして、無事でいられるとでも思っているのか？」

火群「……ッ！」

戒「最悪、お前のせいで大切なものを失うことになるかもしれないんだぞ。それでもいいというのなら俺は止めない」

火群「………っ」

和泉「…火群……くん…っ」

雫「…はわわ…っ」

戒「さぁ、精霊のカードを俺に預けろ」

火群「……」

ニクスを、一時的に手放せだって…？
そんなこと…！ そんなこと…ッ！

ニクス「…火群…？」


火群「……それは、できない」


戒「…ッ！」

ニクス「火群…！」

火群「…俺とニクスは……家族みたいなもんなんだ…」

戒「家族、だと…ッ？」

火群「だから、絶対に手放したくない！ それは、和泉だっておんなじ事を思ってるはずだ！」

和泉「……」ｺｸﾘ

火群「敵が襲ってくるんなら、絶対に俺自身の手で護ってみせる…！！」

和泉「…火群くん…！」

火群「和泉だって、絶対に護ってみせる！」

戒「…なんの根拠があってそんな事を言える…！！」

火群「…根拠なんて無いけど…、ただ、俺が“そうしなきゃいけない”って思ってるから、そうするんだッ！！」

戒「……ッ！ …後悔しても、知らんぞ」

火群「……戒…」

戒「…ここからは別行動だ。俺はデュエルポリスの援軍と共に終焉の焔の雑魚処理と各地でやられた決闘者の救護、救援に専念する。
お前達に関しては、自分達の身は自分達で守れ。以上だ」


火群「………戒！」

戒「…なんだ？ 市瀬」


火群「……終焉の焔ぶっ飛ばしたら、ちゃんと決着つけようぜ」


戒「…フッ、当然だ」



バタンッ！



雫「…行っちゃいましたね…」

和泉「…斬波くん、火群くんの言った『家族』って単語を聞いて、凄く悲しそうな、でもどこか怒りに満ちたような、そんな表情してた…」

爽香「…うーん、それもそうだと思うよー」

和泉「…？ どういう事ですか？ 明石さん」

爽香「大会参加者の資料を見てる時にチラッと目に入ったんだけど、斬波選手、大手企業の御曹司で、父親である社長が数ヶ月前に事故で入院する程の大怪我をしちゃったみたいなの」

火群「…！？ 社長の息子ってのは知ってたけど……そんな事が…！」

爽香「…それで、その社長さんまだ目覚めてないらしくて……きっと大会に参加したのも、社長……いえ、家族のためだと思うんだよね」

火群「……」

爽香「…あたし、やっぱ斬波選手のところ行ってくるね。なんだか心配だし。邪魔にならないようにはするけど、カード持ってないあたしなら襲われないだろうし？」

火群「…わかりました。気をつけて」

爽香「そっちもねっ！ ファイト！」

明石さんはそう言ってピースを突き出しウィンクすると、扉を開けて出て言った。


バタンッ！


雫「…行かせちゃってよかったんですかね…」

火群「…戒のところに行ったって言うなら、デュエルポリスの人達もいるだろうし、一般の人を護るならそっちに任せた方がいいだろう」

雫「…なるほど…」


和泉「…火群くん、明石さんが言ってた斬波くんの話聞いて、何か思うところでもあった？」

火群「…い、いや、なんて言うか…。ただ、あいつも知らないとこで苦しい思いをしてたんだなって思ってさ」

和泉「…ふーん」

火群「…それより、柏木さん」

雫「…はわっ？」

火群「柏木さんは精霊のカードを持っていないんだし、無理してこの戦いに関わらなくていい……」

雫「…火群さんまでそんなひどい事言うんですか？」

火群「えっ…？」

雫「…私だって戦えますっ！ 足手まといになるつもりもありません！」

火群「……戦うのは、復讐の…為か…？」

雫「ーーーいえ、私自身が過去を乗り越え、強くなるために戦うんです」

火群「……！」

雫「…えへへ…っ、火群さんが教えてくれたんですよっ？」

和泉「……っ（やっぱりこの子…、火群くんの事……）」

火群「…わかったよ柏木さん。ただ、絶対に無茶だけはしないでくれ。危なくなったら絶対に俺が護る」

雫「…火群さん…っ、ありがとうございます！」



和泉「……っ」

千愛「和泉ちゃん…、ちょっとマズイんじゃないの？」

和泉「…なにが？」

千愛「……。いえ、なんでもないわ」

和泉「………」


和泉（別に、なんて事はない。火群くんに女の子の友達ができただけ。ただそれだけのことだよ）




和泉「……それだけの…ことなんだよ…っ」









〜〜〜






ニクス「…それで火群、私たちは一体どこに向かっているんだ？」

火群「セントラルホールだ。
とりあえずは、セントラルホールにいるらしい『YAGAMI』の人間と接触した方がいいと思って」

雫「…はわわ…！ YAGAMIって言えば、WDCSの運営してる会社ですよね！？」

火群「…ああ、俺が権利戦で戦った竜貴ってやつの精霊が言うには、YAGAMIがこの大会を開催したのには真の目的があるらしい」

ニクス「恐らくはカードの精霊が目的ではないかと思っている」

雫「…って事は、目的は終焉の焔と同じ…！？」

千愛「YAGAMIからしてみれば、終焉の焔は完全に予想外の存在って事よね」

火群「でも、自分達と同じ目的を持った集団に、目的を邪魔されてるんだ。YAGAMIも黙ってはいないだろう」

ニクス「そもそもYAGAMIが本当に悪い連中なのかも、憶測でしかないのだがな」

火群「だから今からそれを確かめに行くんだ」

千愛「もし悪い集団だとしても、一時的に終焉の焔を倒すための同盟を組もうってわけね」

火群「その通り！ って事なんだけど……いいか？」

雫「はい！」

ニクス「ああ」

千愛「任せるわ」

和泉「………」

火群「……和泉…？ どうした？」

和泉「……」

千愛「和泉ちゃん」

千愛は一瞬のうちに和泉の背後に回り込むと、和泉の両脇から両腕を突っ込み、その細く白い手は和泉の薄い胸を包み込んだ。

和泉「ひぁああぁあぁぁぁあっっっ！！？
千愛ちゃん！？」

それだけでは飽き足らず、和泉の薄い胸を包み込むには十分すぎる千愛の手が、ただいやらしい手つきで和泉の薄い胸を揉みしだく。

和泉「3回も言う程の薄い胸で悪かったな！！」

火群「いやっ、悪い事なんてない！ 攻撃力0のバストだって、みんな大切な仲間だ！」

和泉「うるさいわ！ ってか千愛ちゃん離してぇ！」

火群「…仕方ないな、俺がその手をどけるのを手伝ってやるか」

和泉「ぎゃぁあぁ寄るな変態っっ！！」

雫「…はわわ…っ、なんだかおかしな方向に…」

ニクス「お前ら漫才やってる場合か…」


和泉「…ぜぇーっ、はぁーっ…。やっと解放された…。いきなりなんなのよぉ…」

千愛「…和泉ちゃんこそどうしたのよ。さっきからずっとボーッとしてて。市瀬火群が話しかけてるのに反応しない和泉ちゃんなんて、和泉ちゃんじゃないわよ？」

和泉「それどう言う意味よぉ！ …ってか火群くん話しかけてくれてたの…っ！？ ごめん…」

火群「…ああ、いや、これからどうするかをみんなと話してたんだ」

和泉「…そうだったんだ…。ごめんボーッとしてて…」

雫「…こんな状況ですし仕方ないですよね…」

火群「じゃあ確認がてらもっかい話しながらセントラルホールに行こう」

和泉「…うん、ありがとう、火群くん」



ニクス（……和泉…っ？）










To Be Continued…




《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:７１ 代償を負う者