DRAW:１９ シムルグの猛攻！　作：人喰い

2007年 4/27(火)

☆黒髭中学☆

火群「お、おはよう、桜庭さん」

和泉「おはよう、市瀬くん」


朝、廊下でたまたま和泉に会った俺は、挙動不審になりながらも挨拶を交わす。
呼称が『桜庭さん』、『市瀬くん』なのにはちゃんと理由があって、他の生徒に俺たちの事を怪しまれないように、学校内では一定の距離を保とう、と俺たちの中で取り決めをしたからである。

火群「この学校にはもう慣れた？」

和泉「う〜ん、まだ３日目だからなんとも言えないなぁ。道にもすぐ迷うし！」

明るくそう言ってみせる和泉。方向音痴は相変わらずか。
とはいっても、俺自身も方向音痴ではないとは言えないので、そこを指摘したりはしないが。

火群「HRまでまだ結構時間があるからさ。俺が学校内を軽く案内してあげるよ。朝早いからまだ人も少ないし、案内するくらいなら平気だろう？」

和泉「…そうだね。じゃあ、お願いしようカナ♬」

和泉は少し照れながら了解してくれた。

ニクス『なんだ火群。朝からデートかよ』

俺の背後から、ニクスが冷やかす。

火群「ば…っ！ そんなんじゃねぇよ」

千愛『リン♬ じゃあ私たちは席を外してましょうかね』

和泉に憑いたカードの精霊ーー闇口千愛は、気を利かせてそう言ってくれた。
だが、和泉の事をあんなにも好いていた千愛が、こうもあっさり引いてくれるとは思わなかったな。

火群「じゃあ二人きりになった事だし、さっそく校内案内ツアーに……」

ニクスたちが姿を消し遠くに行ったのを感覚で確認して、案内ツアーに行こうとした、丁度その時である。



一筋の、“風”が吹いた。



後ろ側から吹き付けたその風はとても微量で、和泉のスカートが少しなびく程度の風だったけれど、ここは校舎内で、廊下の窓も締め切っている。
教室のドアも締め切っているので、微量とはいっても、風が吹くなんておかしい。
そう不信に思った俺は、ふと、風の吹いてきた方向ーー後ろに振り返った。

そこには、黒髭中学の制服に身を包んだ、眼鏡をかけた一人の男子生徒が立っていた。


？？「お前が市瀬火群か！？」


男子生徒はそう言った。

栗須「俺の名前は『古宮 栗須(こみや くりす)』！ 最強のデュエリストだぜ！ お前の噂を聞いてやってきた！」

噛ませ以下の匂いがプンプンするぜぇ。






遊戯王 Ph.X DRAW:１９
《シムルグの猛攻！》






火群「俺の、噂を…？」

和泉「………？」

栗須「…お前、決闘で剛田を改心させたんだってなぁ。その力、少し興味あるんだ…！ …ってわけで今すぐ俺とデュエルだ！」

火群「力…なんて大層なモンじゃあねぇが……ってちょっと待った。今すぐ、だと…？」

いや待て待て待て待て待て待て！
まさしくこれから、小さくとも大事なフラグを立てるためのイベントが始まろうとしているのに、それを投げ捨てて、こんな噛ませみたいな新キャラの相手をするだと…！？
冗談じゃない！


火群「…わ、悪いが今は待ってくれ。今日の放課後にでも、デュエルしよう。約束だ」

栗須「…そうやって、逃げるのか？」


火群「………あん？」

『逃げる』。
俺は、その単語に反射的に反応し顔を引きつらせる。
安い挑発に乗っかってしまったのだ。


和泉「……あっ、ヤバ…っ」

火群「桜庭さん、ちょっと待ってて。すぐ終わらせるから」


そうだ。すぐに終わらせれば問題はない。
ふと左腕につけた腕時計で時刻を確認する。
現在の時刻は、午前７時５８分。
朝のHRは８時２５分からなので、デュエルに削ぐ時間がまるでないわけじゃない。案内には最低でも１５分程度の時間が欲しいところだから、デュエルに使える時間は、多めに見積もっても１０分ってとこだな。


火群「…古宮 栗須って言ったな。……その決闘、望み通り退かずに受けてやらぁ！」


和泉（決闘モード入っちゃったぁーー！）


栗須「デュエルディスクなら二人分用意してある。これを使っていいぜぇ」

ヒュンっ！

デュエルディスクが投げ渡される。
俺はそれを左腕に装着し、腰を少し落として、構える。
向かう対戦相手ーー栗須も、デュエルディスクを左腕に装着する。


火群「準備はいいぜーー」

栗須「同じくなーー」


火群・栗須「「デュエルスタンバイ！」」

俺たちはカードを５枚引き、物静かな廊下によく響き渡る声で、叫ぶ。



火群・栗須「「決闘！！」」



火群【LP 4000】手札:5枚

栗須【LP 4000】手札:5枚


◉TURN:１◉

栗須「俺の先攻！ ドロー！」

栗須【手札:6枚】


栗須「いきなり来たぜぇーっ！ 魔法発動！『スター・ブラスト』！」

和泉「…『スター・ブラスト』。
確か、５００の倍数のライフを払って、自分の場、手札のモンスター１体のレベルを、払ったライフ５００ポイントにつき１下げることのできるカードだったよね…」

栗須「その通り！ 俺は１５００ポイントのライフを払い、手札の『神鳥 シムルグ』のレベルを３下げるぜ！」

栗須【LP 4000→2500】

『神鳥 シムルグ』☆７→☆４

火群「上級モンスターのレベルが、下級モンスター程度に！？」

栗須「吹き荒れろ、嵐！ 手札のレベル４となった神鳥シムルグを、通常召喚！」


シムルグ『キョエェエエエーーー！！！』[攻 2700]


黄緑色の煌びやかな翼に、神々しい風格漂う佇まい。
俺は思わずその姿に見入ってしまった。

ビュォオオ！

突如、突風が吹き荒れる。

和泉「ひゃぁあっ！ ちょっと！ 風！ 強すぎ！」

和泉が左手でスカートを抑えながら叫ぶ。
いいぞもっとやれ。
と、言いたいところだが、流石に可哀想なので、俺は和泉に、教室の中に入っているようにと促す。

火群「桜庭さん、教室の中なら安全だから、窓から見ててくれ」

和泉「ちょっと離れたとこで座ってれば平気だよ市瀬くん！ それに、解説役がいないと色々と不便でしょ！」

火群「そういうメタ発言するなよ…」

呆れた口調で俺は言う。
そしてそんな俺たちを、栗須が睨みつけるように見ている。
目に若干涙が溜まっているようにも見えるが…。

栗須「…くそっ！ 朝から女子とイチャイチャしやがって…！」

火群・和泉「「べ、別にそんなんじゃ……！」」

栗須「うるせぇハモんなっ！ 俺はカードを２枚伏せて、ターンエンドだ！ …そしてこのエンドフェイズ時、シムルグの効果が発動！ お互いのプレイヤーに１０００ポイントのダメージを与える！〝ゴッドトルネード〟！！」

栗須が宣言すると、シムルグが翼を大きく広げ、シムルグを中心に竜巻が起こる。


ヒュゴォオォオオッ！！


火群「ぐぁあぁああっ！」【LP 4000→3000】

栗須「フッ…」【LP 2500】

火群「……！？ どうしてお前のライフは減っていないんだ！ インチキ効果もいい加減にしろ！」

和泉「インチキなんかじゃないよ市瀬くん！ あれだよ！ あの伏せカード！」

火群「…！ 伏せカードが、起き上がって盾になったのか…！？」

栗須「…そうだ！ お互いのエンドフェイズに吹き荒れる、１０００ポイントダメージを与えるシムルグの死の風は、コントロールする魔法・罠カード１枚につき５００ポイント、その効力を減らす事ができる！ よって２枚のカードを伏せていた俺へのダメージは……ゼロってわけだ」

火群「くっ…！ …なるほどな」

和泉「それにあの攻撃力…簡単には突破できないよ…！」


古宮栗須【LP 2500】
場:『神鳥 シムルグ』[攻 2700]
伏せ:２枚/手札:２枚

市瀬火群【LP 3000】
場:なし
伏せ:なし/手札:５枚


◉TURN:２◉


火群「…俺のターンだ！ ドロー！」

火群【手札:6枚】

…この手札じゃぁ、シムルグを突破できそうにねぇな…。
何かいい策はないか…？

火群（なぁ、ニクス）

俺は心の中でそう問うも、返事は帰ってこない。

そうだ。ニクスは今、チアガールと百合百合デートの真っ最中だった。

火群「いけねぇな。最近の俺は、すぐあいつに頼っちまう」

誰かに頼らなくたって、絶対に勝ってみせる！

この状況、まずは守りを整えた方が良さそうだ。

火群「俺は、ダンディライオンを守備表示で召喚！」

ダンディ『ガル…！』[守 300]

俺は少しだけ、ダンディライオンの様子がおかしい事に気付く。
召喚されたダンディライオンが、なにやらシムルグを威嚇している。
こいつは、シムルグに会った事でもあるのか……？
それとも、こいつの“ご主人”が…か？
まあ、そんな事はどうでもいい、か。
…お互いのエンドフェイズに吹き荒れる死の風ーーー受けるダメージをゼロにするためには、最低でも２枚の魔法・罠カードがなくてはならない。

火群「…俺はカードを２枚伏せ、ターンエンドだ！」

栗須「このエンドフェイズ、再び死の風がプレイヤーを襲う！」

火群「だがお互い伏せカードは２枚……ダメージは受けないぜ」

栗須「…それはどうかなぁっ！」

火群「何……っ！？」

和泉「見て！ 市瀬くん！ 向こうの伏せカードが２枚ともオープンしてるよ！」

火群「あれは……２枚とも砂塵の大竜巻！？」

栗須「この効果により、お前を守る２枚の伏せカードを破壊させてもらうぜ！」

バリィィン！

火群「くっ…！ これでお互いの場に、死の風から身を守る盾は無くなったか…」

栗須「それもどうかなぁ！ 砂塵の大竜巻の隠されたもう一つの効果により、手札のカード１枚を魔法・罠ゾーンにセットする！ 発動した砂塵の大竜巻は２枚……俺は２枚のカードをセット！」

火群「そういやあったなそんな効果……」

和泉「これじゃあまた市瀬くんだけダメージを……！」

栗須「…そのとーり！！ お前だけ1000ポイントのダメージをまた受けてもらおうか！」

火群「がぁああぁあっ！」[LP 3000→2000]

和泉「市瀬くんっ！」

火群「…はぁ……はぁ」

栗須「へへっ、見たか！ 最強デュエリスト『古宮栗須』のシムルグコンボ！」

火群「……最強、だあ？」

栗須「……？」

火群「この程度で最強とは、笑わせるぜ！」

栗須「なっ！ なんだとぉ！」

火群「“俺たち”は世界目指してんだ！ そんで、叶えたい夢があるんだ！ 救いたい人がいるんだ！ お前程度で最強をなのられちゃあ、目指す価値がないってもんだぜ」

和泉「火群くん……」

栗須「世界…！ ってことは、目指す先は同じみたいだな…！」

火群「…じゃあお前も、WDCSに出るってことか…！」

栗須「噂が本当かどうかしらねぇが、俺にだって叶えたい願い、得たい名声がある！ お前には負けらんねぇ！ 俺のターンだ！」


市瀬火群【LP 2000】
場:ダンディライオン[守 300]
伏せ:なし/手札:３枚

古宮栗須【LP 2500】
場:神鳥シムルグ[攻 2700]
伏せ:２枚/手札:なし


和泉（火群くん…強がってはいるけど、この状況、結構ヤバいんじゃないかな……）



ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continued…ー〜ー〜ー


《次回予告》

ニクス「嵐は舞い、火は群れを成す」


次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:２０ 炎風のアルカディア
＊５／１９（日）更新予定！


ニクス「次回もまた、見てくれだにゃん♪…ってちょっと待て人喰い！ なんだこの台本は！？」



〜おまけ〜

☆《今日の最強カード》☆

*ﾟ▽ﾟ)/☆《神鳥 シムルグ》☆ヽ(´o｀；

*ﾟ▽ﾟ)「特殊召喚できない上に、生贄には風属性モンスターしか使用できないという重い召喚制限つきだけど、フィールドに居れば、お互いのエンドフェイズ時に１０００ポイントのダメージを与えるバーン兵器だよっ！」

(´o｀;「でもその時コントロールしている魔法・罠カード１枚につき、受けるダメージを５００ポイント減らす事ができるぞ」