DRAW:１６ 二人を繋ぐ《狂気な凶器》　作：人喰い

ーーー私の名前は……桜庭和泉。ねぇ千愛ちゃん。千愛ちゃんはなんでそんなにボロボロなの？

ーーーそれはね。全部、悪い悪い不死鳥の所為よ。

ーーー私の、この腕も……？

ーーーそうよ。それも全部…あの不死鳥が悪いの。

ーーー火群くんは？ 火群くんはどうして私にこんな事をしたの？

ーーーそれはね。厳しい話になるけど、あの少年は貴方の事を憎く思っていたからよ。その憎しみが貴方の腕を焼き尽くしたの。…この包帯を巻きなさい。その剥き出しの腕よりは目立たないと思うわ。

ーーーありがとう。千愛ちゃん。

ーーーいえ。大したことはしてないわ。ただ、貴方の事を放って置けなかったのよ。

ーーーあのね、千愛ちゃん。私、もうわからないんだ。火群くんの事。お父さんも、私に暴力振るうし、お母さんは、私を助けてくれないし、火群くんといる時だけは、本気の本気で楽しく笑えたのに。……もう、わからないや。

ーーー……居場所が無いのなら、私のところへ来なさい。っと、その前に病院ね。学校は転校しなさい。させてあげるわ。

ーーーでも、家には親が……。

ーーーその事に関しても心配ないわ。貴方は何も心配しなくていい。




（その両親なら、もうこの世にはいないだろうしね…♫）



ーーーリン♪ リン♪ リーン♫




二年前の焼け野原と化した黒髭公園。降り注ぐ邪悪な雨に、消えゆく業火。
そんな中、一人の少女だけは、ニタニタと笑い続けていた。






遊戯王 Ph.X DRAW:１６
《二人を繋ぐ《狂気な凶器》》






千愛「……見せてあげるわっ！！《狂気な凶器(クレイジーレイジ)》闇口千愛の真の力にしてーー本当の姿を！」

◉TURN:６◉

闇口千愛【LP 2600】
場:なし
伏せ:なし/手札:６枚

ガルドニクス【LP 2800】
場:『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]
『勇炎星-エンショウ』[守 1000]
伏せ:１枚/手札:１枚


千愛「…『レスキュー・ラビット』を召喚！」

ニクス「レスキュー・ラビット』だと…！？ 貴様はあの忌々しき兎さえもこの時代に持ち込んだというのか…！！」

兎「きゅー」
『レスキュー・ラビット』[攻 300]
・みんな大好き鬼畜兎。


あいつは鬼畜兎。場から除外する事でデッキからレベル４以下で同名の通常モンスター２体を特殊召喚するカードだ。
あのカード１枚で速攻ランク１〜４のエクシーズ召喚に繋げる事ができるわけだ。弱いはずがない。

千愛「効果で場のレスキューラビットをゲームから除外し、現れよ、２体の『デュミナス・ヴァルキュリア』！！

『デュミナス・ヴァルキュリア』[攻 1800]☆４/光属性/天使族

ニクス「くっ……来るか…！？」

千愛「２体のヴァルキュリアでオーバーレイ！ …その笑顔で私を勝利へと導いて……！ エクシーズ召喚！『フェアリー・チア・ガール』！」

『フェアリー・チア・ガール』[攻1900]

ニクス「………っ！」


千愛（……和泉ちゃん…）




ーーー千愛ちゃん。大好き。




千愛「………そうよ、私は！ 絶対に負けるわけにはいかないっっっ！！！」

千愛は叫ぶ。
これはさっきまでの私への怒りの感情ではない。
今の千愛は、もっと大きくて恐ろしい何かの為に戦っているような気がして仕方がない。
千愛ーーーお前はどこに向かう？


千愛「フェアリー・チア・ガールの効果で、オーバーレイユニットを１つ取り除き、１枚ドロー！」

千愛【手札:６枚】

千愛「そして魔法カード『RUM-バリアンズ・フォースを発動ッッ！」

ニクス「ランクアップマジック……！！」

千愛「チア・ガールは進化を遂げる…！ RUMによって闇の衣を纏いて、今ここに舞い降り全てに絶望のエールを！ クロスエクシーズ！『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』！！」

チア・ガールが姿を変える。
先ほどまでの両手にボンボンを持った小さき妖精とは打って変わって、闇の中から現れたのは、暗き漆黒の翼を羽ばたかせた千愛と全く同じ容姿のモンスターだった。


『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』[攻 2500]


千愛「…これで終わらせるわ……装備魔法『堕天の翼』をダーク・フェアリー・チア・ガールに装備！」


千愛が『堕天の翼』の発動を宣言すると、場のダーク・フェアリー・チア・ガールの翼が形を変える。より大きく、強く、黒く、神々しく羽ばたく。


千愛「…はぁぁぁ…ぁああッッ！！」

ニクス「………！！」

千愛は本気だ。
本気で、私ーーーいや、“私たち”に勝とうとしてる。

千愛「これでゲームエンドよっ！！ ダーク・フェアリー・チア・ガールで、ガルドニクスに攻撃！ 〝フェアリー・ターン・パーティクル〟！！」


『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』[攻 2500]
『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]

ニクス「何…！？ ガルドニクスの方が攻撃力は上………ハッ」

と、一瞬考え口にまで出したが、すぐに状況を把握する。

ニクス「……堕天の翼か…！」

千愛「そうよ！ 堕天の翼を装備したモンスターとバトルする相手モンスターの方が攻撃力が高い場合、装備モンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで１５００ポイントアップする！ 」

ニクス「くっ……！！」


千愛「…さらにダーク・フェアリー・チア・ガールの効果は、フェアリー・チア・ガールをエクシーズ素材としている時に戦闘で相手モンスターを破壊したら、素材を一つ取り除き自分の手札の数x４００ポイントのダメージを相手に与える効果……！ この超過ダメージと合わせれば貴方のライフは０よ！！ 私は貴方をーーーガルドニクスを超えるのっっ！！」

千愛【手札:４枚】

ニクス【LP 2800】

千愛「さあ！ 顔を上げて、にくす。そして絶望に歪んだ顔を私に見せなさい…っ！」


ニクス「………」

私は促されるままに、無意識のうちに伏せていた顔を上げ、言った。



ニクス「………私は、火群の為に戦うと決めた。火群の為に勝つと約束した……ッ！」キッ


千愛「何よその顔は……。その一片も曇らない余裕の表情は何よ！ 馬鹿にしないで！ 貴方は負けるのよ！？」


ニクス「千愛…！場をよく見てみろ…」


千愛「あれは……伏せカードがオープンしてる…！？」


ニクス「ーーー『破壊指輪』だ」


千愛「破壊指輪ですって…！？」

ニクス「これが私の勝利への一手……！ この効果は、自分フィールド上のモンスター１体を破壊し、お互いに１０００ポイントのダメージを与える…！ 私の場のガルドニクスを効果によって破壊する！」

バリィィン！

千愛「きゃぁあっ！」【LP 2600→1600」

ニクス「くぅ…ぁあっ！」【LP 2800→1800】


千愛「………私じゃあ、まだにくすには届かないって言うの？ まだ戦うには値しなかったって事なの…？」

ニクス「………」

千愛「…まぁいいわ。攻撃対象をエンショウへと変更…！」

『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』[攻 2500]
『『勇炎星-エンショウ』[守 1000]

バシュゥゥン！

千愛「チアガールのエクシーズ素材を１つ取り除き効果発動！ ……私の手札は４枚、よって１６００ポイントのダメージをにくすに与えるわ…！〝フェアリー・ナイト・ストーム〟！！」

ズシャァアア！！

ニクス「ぐぁあ……あああっっ！！」[LP 1800→200]


千愛「……削りきれなかったわね。いつもいつも、あと一歩のところで届かない……。私のターンはこれで終了よ」


闇口千愛【LP 1600】
場:『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』@堕天の翼[攻 2500]
伏せ:なし/手札:４枚

ガルドニクス【LP 200】
場:なし
伏せ:なし/手札:１枚

◉TURN:７◉


ニクス「……私のターンだ！ ドロー！」

ニクス【手札:２枚】

ニクス「このスタンバイフェイズ、カードの効果によって破壊されたガルドニクスが蘇る！ 不死鳥よ、再び出でて迷える者に希望を示せッ！〝リバイバル・ドライヴ〟！！」


ゴォオオオォオオッッ！！

『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]

ニクス「自身の効果でガルドニクスが特殊召喚に成功した時、フィールド上のガルドニクス以外のモンスターを全て破壊するっ！！〝フェニックス・イレイズ〟！！」


千愛「…っ！ きゃぁあぁあっ！！」


バリィィン！


千愛「……堕天の翼がフィールドから墓地へ送られた時、墓地の闇属性・天使族モンスター１体を特殊召喚する……私が特殊召喚するのは……ダーク・フェアリー・チア・ガール」

『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』[攻 2500]


ニクス「……千愛。さっきお前は、『まだにくすには届かない』『まだ戦うには値しない』といったな………全くそんなことはないぞ？ お前はだんだんと、私の背中に追いついてきてる。お前がどうしてそこまで狂ってしまったのかは私にはわからないが、これからは、きっと変われるハズだ」

千愛「………何よ今更…偉そうな事言って……全部………あんたたちの所為なのに…っ。私が……っ狂ったのも……全部…っ」

ボソボソとそう言う千愛の漆黒の瞳には、薄っすらと、涙が浮かんでいるように見えた。
だがそれよりも、“あんたたちの所為”という言葉だけが、深く、心の奥に突き刺さる。
私はともかくーーー“あんたたち”と言うからには……火群も関わっているのか…？
だとすれば、まさか千愛は、全てを、和泉の為にーーー？
そもそも最初から謎だった。
何故、千愛と和泉が行動を共にしているのか。
和泉と千愛の接点はなんだ？
そして私と千愛の関係。火群と和泉の関係。そこに干渉し合う“二人と二人”ーーーこれはただの偶然なのか……？


ニクス「……千ーーー」

千愛「……モンスターを召喚しなさい。にくす」

私が口を開き、言葉を発しかけると、それをあえて遮るように、千愛が口を挟む。

千愛「貴方は２ターン前に『炎舞-天璣』の効果で『暗炎星-ユウシ』を手札に加えているわ。さあ、それで私にトドメを刺しなさい」

ニクス「……待て…っ！ 千愛っ！」


千愛「……ニクスっ！！！


本気で叫ぶ千愛の漆黒の瞳には、溢れんばかりの大粒の涙が溜まっており、胸が申し訳ない気持ちで一杯になる。心臓を鷲掴みにされるような感覚に若干の恐怖さえ覚え、私は思わず言葉を失う。


ニクス「……くっ…ぅ……っ！ 暗炎星-ユウシを召喚！」

『暗炎星-ユウシ』[攻 1600]

ニクス「ガルドニクスでチアガールを攻撃！〝バーニング・イレイザー〟！！」

『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]
『CX ダーク・フェアリー・チア・ガール』[攻 2500]


ゴォオオオォオオッッ！！

千愛「………燃えてゆく。私が……燃えてゆく」【LP 1600→1400】

ニクス「……ユウシで千愛にファイナルアタック！〝炎陣烈波掌〟！！」

『暗炎星-ユウシ』[攻 1600]
闇口千愛【LP 1400】


千愛「……っ！！ きゃぁあぁぁっ！！」【LP 1400→0】×


勝者【ガルドニクス(市瀬火群)】




千愛「…和泉ちゃん。ごめんね。私……また、負けちゃった」




デュエルが終了し、モンスターのソリッドヴィジョンが消えると同時に千愛はそう言うと、その場に倒れ込んだ。
倒れた衝撃で外れた千愛のデュエルディスクが床を転がる音だけが、狭い踊り場に虚しく響いた。




ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continuedー〜ー〜ー〜ー


《次回予告》



再び巡り会えた奇跡を信じて、俺たちはまた一歩、歩き出すんだ。




次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:１７ 二人で紡ぐ僕らの物語」
☆４／１４(日)更新予定☆




ーーーごめん。和泉。








〜おまけ〜

☆《今日の最強カード》☆

*ﾟ▽ﾟ)/☆《堕天の翼》☆ヽ(´o｀；

*ﾟ▽ﾟ)「闇属性・天使族モンスターにのみ装備できるよ！ 装備モンスターより攻撃力が高いモンスターと戦闘を行う場合、装備モンスターの攻撃力をダメステ終了時まで１５００ポイントアップさせるよ！ さらにこのカードがフィールド上から墓地へ送られた時、墓地の天使族モンスター１体を特殊召喚するよっ！ スペルビアTUEEE！ だねっ！」

(´o｀;「えっ今日の最強カード兎じゃないんかいwww」