第162話　動き出した破滅　作：ター坊

柴田の墓に手を合わせた後、ユイ達はスタート地点で別れた十代達と合流すべく先を急いだ。現在３枚のアクセスカードキーを遊戯、遊矢、ユイの３人がそれぞれ持っている。

１枚目は柚子と権現坂が倒したＭｒハートランドのカード

２枚目はミエルが持っていたカード

そして３枚目は柴田の亡骸である白い粉を集める際に見つけた。

これでマスターDへ続く道は開けたのだ。世界を滅茶苦茶にしようとするマスターDの野望、カオスジェネレーションシステムを何としても止めなければ。その思いが全員の足を早める。



ユイ達はスタート地点のちょうど反対側の地点に辿り着いたが、そこでは激戦が繰り広げられていた。

「くっ！デカブツ共が！！喰らえ、おジャマ･デルタ･ハリケーン！！」
「ちっ！イラッとくるぜ！」
「バトルだ！行け、アーマード･ウィング！！」

万丈目、凌牙、クロウを始め、全員が苦戦する相手。それは巨人のような大柄の覆面デュエリストの集団だった。
（あれは！？）
ユイには見覚えがあった。遊牙の世界に飛ばされた際に戦った、あの巨人のデュエリストだ。あの時は二人掛かりでも苦戦した相手、このような劣勢は至極当然だとユイは納得してしまう。
「十代君達が危ない！」
「俺達も加勢しないと！！」
遊戯と遊矢は迷わず飛び込み、ユイ達もその後に続く。








やはり、強かった。一人一人がエースクラスなのでは？と疑う程の強さで、全員辛うじて勝てたものの、サイコデュエルディスクとの戦いで消耗はかなり激しかった。その波を乗り切ったと思った時だった。


「全員揃ったようだな」


不意に頭上から声がする。全員がその方向を見ると証明ライトの柱の上に憎き姿があった。
「マスターＤ！！」
ユイが憎き敵の名前を叫ぶと、マスターＤは軽々と柱から飛び降りる。
「フッフッフ。とうとうここまで来たか」
あれが地声なのか、出会う度に聴いていたボイスチェンジャーを使った音の高低が滅茶苦茶な声ではなく、中年の男のような感じの声で不敵に語りかけてくる。
「…っ！？その声、まさかお前は！」
冷静な遊星には珍しく、ひどく驚いた様子の声を挙げる。
「どうしたんだ遊星君！アイツの正体を知ってるのか！？」
「はい。だが…ありえない。奴は確かに…」
「いいえ、遊星。私もあの声、聞き忘れはしないわ」
動揺する遊星とは対照的に、アキは誰かが分かってるかのような口振りで話す。
「貴方…、







もしかしてディヴァイン？」

アキが告げた名前。それは遊星の世界において、サイコデュエリストによる世界征服を目論むも散った男の名であった。
「そうさ。私はディヴァインだとも、アキ」
マスターＤ、いや、ディヴァインを名乗る男は己の仮面を外す。
「！？」
「なっ！」
「何…あれ…」
ディヴァインの素顔を見て、ある者は思わず驚愕し、またある者は言葉を失った。

うにょ、ぐにょ

ディヴァインの顔の右半分は巨大な黒い痣に覆われており、その痣はまるで生きてるかのように蠢き形を常に変化させていた。
「ディヴァイン…その顔は…」
「聞きたいか？不動遊星」
ディヴァインは楽しげに語り始めた。
「そう。私は確かにあの時、地縛神に喰われた。しかし貴様らがダークシグナーを討ち果たした際、地縛神達が語りかけてきたのだ…。シグナーを討てと。そのための力を与えると…」
芝居がかった口調で話は進む。
「その後はなかなか長かった。地縛神１体１体の力が肉体に溶けていくのは苦痛と快楽だった…。そして全ての地縛神を吸収した私はこうして蘇ったというわけだ」
ディヴァインの楽しげな語り口に同調するように痣がグネングネンと動く。
「どうして、お前はこんな全ての世界を巻き込むようなことをした！」
ユイが突っ掛かる。
「私とて最初は不動遊星達に復讐出来ればそれで良いと思った。しかし地縛神の力を持ったことで気付いた事があった」
「気付いた事？」
「地縛神の膨大な力によって私は様々な次元があることを知った。貴様らそれぞれが暮らしていた世界がな…。それで私は思ったのだ。この全ての世界の支配者になりたいと…ただ不動遊星達の復讐の為だけに使うのは勿体無いとなぁ！ハァーッハッハッハッハ！！」
突然の狂喜を含む高笑いに一同驚く。
「そして私は実験を重ねてきた。この実験部屋のような世界で過ごしてきた君たちなら分かるだろう。そして私はいよいよ、完成を迎えたのだ！」
ディヴァインはポケットから謎のスイッチを取り出し勢いよく押した。



ウー　ウー　ウー　ウー

カオスジェネレーションシステム、稼働準備開始。稼働準備完了まであと９０分



「何！？」
「フ ハ ハ ハ ハ ハ ！！」
どこからともなく聞こえる無機質なアナウンスが非情な事実を淡々と伝える。
「これを見るがいい」
ディヴァインが手を上に翳すと円形の光が６個浮かび上がる。
「ん？あ！あれは！！」
遊馬が驚いて叫ぶ。遊馬の視線の先には光の中に映し出された彼の世界の情景があった。
「ハートランド…」
その内、他の光の中にも様々な情景が映し出される。
「あっちにはLDSもあるぞ！」
「ダイダロスブリッジ…」
「あれは…アカデミアの火山よ！」
「海馬コーポレーションもあるぜ！」
「…あれは！？」
しかし、遊月が見た映像は少々違った。
「あれは…！ウチの船やないかい！！」
メアリーの言葉通り、それは仲間がいる帰るべき場所であるメアリーの船であった。空から眺めた映像なのか遠いが、船の周りに大量の人影が見えた。
「まさか、みんな戦って…！」
「驚くのは早いぞ」
ディヴァインがそう言うと映し出された景色に奇妙な物が現れる。
海馬コーポレーションの、火山の、ダイダロスブリッジの、ハートランドの、ＬＤＳの、それぞれの上空に謎の黒い球体が現れる。その球体は脈打つ心臓のように微妙に収縮と膨張を繰り返していた。
「あれは一体…」
「あれこそが私の支配の第一歩だ。カオスジェネレーションシステムの起動と同時にあの黒い核は拡大し別の次元にある同様の黒い核と共鳴し、次元を引き付け全ての世界は私の元に１つとなる」
「ちょっと待って！次元を引き付けて…ってそこに住んでる人たちはどうなっちゃうの！？」
柚子がユイ達が知りたいであろう疑問を代弁するかのように言う。
「まぁ生きてはいまいな。だが安心するがいい。カオスジェネレーションシステムは完全に起動すれば次元だけでなく時間も操れる。いくらでも再生は出来る」
「馬鹿野郎！そういう問題じゃないだろう！！」
クロウの怒号が飛ぶ。
「ふんっ。そもそも貴様がそんな殊勝な心掛けをするとは思えんがな」
「いいや。私は寛大さ。私に服従する者にはな」
「…やはり下衆か」
黒咲は静かに呆れる。
「だが、お前達にはチャンスをやろう」
ディヴァインはそう言うとデュエルディスクを展開する。
「私のデュエルディスクはカオスジェネレーションシステムの強制停止のプログラムと直結している。私のライフを０に出来れば強制停止プログラムが作動する仕組みだ」
ディヴァインは余裕綽々といった調子で語る。
「…俺が行こう」
ユイが前に出る。
「ユイ様！」
「ユイ殿！あやつの言葉を鵜呑みにするのはあまりにも！」
「分かっているさ。けど、どのみちマスターＤ…いや、ディヴァインは倒さなければならない相手だ」
ユイはそう答える。
「ユイ…」
「美羽。心配そうな顔をするな」
ユイはおどけた表情をしながら美羽の頭をポンポンと撫で、ディヴァインに近付く。





「ユイ…。お前が相手か」
「変か？」
「いやいや。ただ、そこの侍が忠告したのに私の言葉を信じるのか？」
「いいや。お前の事は全然信じてない」
「ならば何故？」
「本当だろうが嘘だろうが、どのみちお前を倒すことがカオスジェネレーションシステムを止める近道だと思うからだ」
「そうか」
「俺も１つ聞こう。どうしてこんなことをする？黙ってカオスジェネレーションシステムの起動を待てば良かったんじゃないか？」
「フッフッフ…。…座興さ。カオスジェネレーションシステムが起動するまでの間、貴様らが最後まで足掻く姿を楽しむためのな。アクセスカードキーもその一環だったがあまりにも暇だったのでこうして出てきた訳だ」
「そうか…」
ユイのデュエルディスクが展開される。
「なら、お前を倒して全て終わらせる！」


「「デュエル！！」」


こうして全ての次元を賭けた戦いは最終局面を迎えることになった。




カオスジェネレーションシステム
稼働準備完了まであと　８６分